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29 仲直り?

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 部屋で食事を終えた頃、夫ルークが会って話をしたいと言っていると使用人が伝えに来た。食事の次は、会って話したいなどと、一度会わなければ何度でもルークは誘ってくる気がする。

 仕方ない、一度話すしかなさそうだ。使用人には、私の部屋ではなく、別室でなら、と伝えてもらったところ、部屋を指定された。そこでお仕着せのまま、その部屋を訪ねた。

 そして現在、部屋に入ったばかりの私は、立ったまま深々と頭を下げる夫ルークに驚いていた。

「旦那様?」
「アリス、俺が悪かった! 庭でアリスの服ではない、と言ったことは撤回させてほしい」
「……撤回ですか?」

 ルークは顔を上げると、反省している表情で口を開いた。

「俺の勘違いだった。イーライに確認して、いろいろと誤解していたことを知った。とにかく、アリスの服はアリスのもので、他の誰のものでもない。だから、気兼ねなく着てくれ」
「……」

 その言葉を信用しろと。あとで嘘だったと言ったりしないだろうか。不安になりながら口を開いた。

「わたくしの部屋には、服がたくさんありますが、あれが全てわたくしのものだと?」
「そうだ。全部着てくれて構わない」
「……あとで返せ、と言いませんか?」
「言わない。アリスに用意したものは、全てアリスが好きなようにしていい。もちろん、他にも買い足してもいい」

 買い足しするまでは必要ないが、あの服が全て私の物で、好きにしていいと言質もとった。ということは、離縁後、あの服たちを売って借金に充てられそうだと、少し気分が浮上する。

「ありがとうございます、旦那様」
「俺が悪かったのだから、礼を言われることではない。本当にすまなかった。……許してくれるか?」
「許します。勘違いは誰にでもありますし、旦那様は謝ってくださいましたもの」

 言われたときは悲しかったけれど、謝ってもらったからか、今は私も少し気分が浮上している。

 私の返事に嬉しそうにしたルークは、私に少し近づいて、私の両手を握った。どうした、急に。

「これで仲直りをしたと思っていいか?」
「た、たぶん?」

 別に喧嘩をしていたつもりはない。

「良かった。明日、仕事が終わったら帰って来るから、夕食を一緒にしよう」
「夕食ですか?」
「アリスがドレスを着ているところを見たい」

 今着ているお仕着せで来るな、ということか。なんだか期待の目で見られていて、断りづらい。

「わ、分かりました」

 機嫌が良いルークの後ろに、なぜか尻尾がぶんぶんと振っているような幻想が見えた。

 そして、次の日の夕食。
 昨日着ていたドレスとは違う落ち着いた色のドレスを着て、ルークと夕食の席に着いた。

 昨日もだったが、ルークは騎士服とは違った服で、美形な顔に大変似合う。

「騎士団のような食事と、こっちの食事は、どちらがアリスの好みなんだ?」
「毎日食べる本邸の食事は、とても美味しいです。デザートなんかも、わたくしの好みの味で、いつも食べ過ぎないようにしたいところですが、美味しすぎて無理なので、運動したり足技の訓練をしたりして、たくさん食べられるよう努力しています」
「ははは、たくさん食べられるようにか。まだアリスは痩せているから、たくさん食べても問題なさそうだが」
「食べたら太る、これは道理ですわ。食べたいなら、貴婦人だって、たゆまぬ努力が必要なのです」
「そうか」
「本邸の食事は美味しいですが、騎士団の食事も美味しくって――」

 ルークとの食事は、最初はあたりさわりのない話から入ったのだが、気づいたら私が騎士団で働いていた頃のようにルークと会話をしていた。ルークは聞くのも上手で、話すのも上手だ。

 思っていたより楽しい食事ができて、良い時間が過ごせた。それはいい。それはいいのだが。

「旦那様、お仕事は忙しくないのですか? 毎日、わたくしと夕食を取っても大丈夫なのですか?」

 すでにルークと夕食を共にして、五日目。
 あの日だけ夕食を一緒にするのかと思いきや、なぜか毎日夕食を一緒にすることになってしまっている。ルークは普段、西部騎士団と政務館の行き来だけでも忙しく、本邸でのんびりする時間はなかったはずという認識なのだが。

「問題ない。仕事は終わらせてきた」

 夕食もほとんど終盤、テーブルの角に座るルークは、斜めに座っている私の手を握った。そのまま私の手の甲を指でさする。ここ数日、ルークの距離感がおかしい。慣れなくて恥ずかしい。そっとルークの手から自身の手を抜くと、すぐに再び手を握られてしまった。しつこい。

 しかし、嫌な感じでもなくて困る。なんだか、以前のルークのような、あのキス未遂事件の直前に戻ったような気安さが心地いい。

「せっかくだから、庭を散歩でもするか」
「これからですか? 夜ですし外は寒いと思いますよ。暗いですし」
「外套を着こめばいい。暗さはどうにでもなる」

 ルークは席を立つと、手を差し出した。私は戸惑いながらも、ルークの手に手を乗せた。
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