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第二章 王との見合い

27 お見合い六日目1

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 お見合い六日目。

 今日のお見合いは、昨日オスカーと約束した通り、お忍びで街を案内してもらうことだった。昨日のうちに、前回同様レティツィアとマリアのお忍び用の服を用意してもらっていたため、朝から支度をした。

 今日のレティツィアは、淡い黄色と白の街娘風ワンピースとショートブーツ、そして髪は低い位置で二つに結んで可愛く巻いてもらっている。マリアも街娘風ワンピースに着替えて、二人は使用人に案内され、オスカーの元へ向かった。

「オスカー様!」

 オスカーの姿を発見すると、レティツィアは満面の笑みでオスカーに突進した。「おっと……」とレティツィアを受け止めたオスカーは、顔だけ上げて上機嫌な様子のレティツィアを見て、ふっと笑う。

「可愛いが溢れていますね」
「あ、恰好ですか? 今日も服を用意してくださって、ありがとうございます!」
「恰好も文句なしに可愛いですよ。でも、仕草がね、毎日可愛いが増すって、どういうことなんだろうな」

 レティツィアの額にキスを落としたオスカーに、レティツィアは顔を赤くする。レティツィアこそ、オスカーに「毎日甘やかしが増してる」と言いたいが、それは嬉しいことであり、指摘して減ると嫌なので黙っておく。

 今日も前回と同様、レティツィアとオスカー、マリア、護衛のオーガストとブレットのメンツで街へ移動する。

「王都は川が多いこともあり、川では小舟が多く行き来します。今日は小舟を貸し切りにしているので、最初はそれで移動します」
「はい」

 小舟乗り場までオスカーと手を繋いで歩いたレティツィアは、オスカーにエスコートされて小舟に乗り込んだ。マリアと護衛のオーガストとブレットも乗り込み、レティツィアは小舟の真ん中の椅子に座り、オスカーが小舟の端に座った。漕ぎ手が小舟を動かす。

 キョロキョロと顔を動かし、流れる景色を楽しむレティツィアは、見たことのある建物が見えて立ち上がった。

「オスカー様! あれはこの前見た大聖堂ではないですか?」
「レティツィア! 危ないから、急に立ち上がってはダメです」

 レティツィアが立ち上がったせいで、小舟が不安定に揺れている。はしゃぎすぎてしまい、「ごめんなさい……」と、恥ずかしくなりながら座ったレティツィアは、苦笑しながら手を伸ばすオスカーに気づいた。

「こちらに来てください。レティツィアは俺が支えていた方が良さそうです」

 そっとオスカーの手を握り、ゆっくりとオスカーの傍に移動すると、オスカーは座っていた椅子を少し後ろに移動した。どうやらオスカーの太ももの間に座れ、ということらしい。レティツィアは素直にオスカーの太ももに挟まれるように座る。すると、オスカーは後ろから手をレティツィアのお腹あたりに回す。

「座っていても見えますから、立ち上がってはダメですよ」
「はい」

 レティツィアが横を向いて後ろのオスカーを見ると、オスカーは笑みを浮かべた。オスカーの笑顔はなんだか安心する。しかしドキドキもする。そんな気持ちを抱きながら、オスカーが示す建物を見たり、説明を聞く。

 あちこちと説明を聞き、楽しんでいたところへ、通りかかった橋の上から男性の声がした。川を進むレティツィアたちをオスカーと同年代の男性が見ている。

「スカー! なんだ、朝からデートかよ!」

 なんだかオスカーが呼ばれているような気がする、と思っていると、オスカーがその声に返事をした。

「ああ、そうだよ」
「羨ましいなぁ、おい。俺は仕事だぜ? ってか、すっげー可愛い子じゃん!」
「だろ? というか、惚れたら困るから、彼女を見ないで」
「うわ、珍しい、独占欲かよ。彼女さーん、スカーに飽きたら、俺のところにおいで! 俺のほうがいい男だから」

 レティツィアは男性の口調に慣れなさ過ぎて、男性にどう反応すればいいのかよく分からず、とりあえず微笑んで手を振っておく。すると男性が上機嫌で手を振り返している間に、橋の下に小舟が差し掛かって男性が見えなくなってしまった。

「オスカー様は、スカーと呼ばれているのですか?」
「このあたりは中流家庭層が多く住まう地区です。俺は昔から街の住民の暮らしを自分の目で見て回ったりすることが多いので、住民に紛れるよう偽名を使っているのですよ。スカーは偽名の一つです」
「そうなのですね。先ほどの方と、とても仲が良さそうでしたね」
「時々、一緒に飲む、飲み仲間の一人です。ですが、レティツィア、ああいう男に愛想良くしなくていいですよ。調子に乗るので、笑いかけなくていいです」
「あ、申し訳ありません! どう反応してよいか分からず……。対応が間違っていましたか?」
「間違っているわけではないですが、レティツィアは可愛いので危険です。このあたりには軽い男が多いので、レティツィアが笑みを向ければ、本気で口説きにかかるかもしれない。レティツィアは俺のですから、それは困る」

 とうやら、やきもちを焼いてくれているのだろうか、とレティツィアは嬉しくなった。『夫婦ごっこ』の妻に対して言っているだけだとは分かっているが、それでも嬉しく思ってしまう。

 それからも、しばらく小舟で移動し、一行は昼前に小舟から陸へ降りた。
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