27 / 45
第二章 王との見合い
27 お見合い六日目1
しおりを挟む
お見合い六日目。
今日のお見合いは、昨日オスカーと約束した通り、お忍びで街を案内してもらうことだった。昨日のうちに、前回同様レティツィアとマリアのお忍び用の服を用意してもらっていたため、朝から支度をした。
今日のレティツィアは、淡い黄色と白の街娘風ワンピースとショートブーツ、そして髪は低い位置で二つに結んで可愛く巻いてもらっている。マリアも街娘風ワンピースに着替えて、二人は使用人に案内され、オスカーの元へ向かった。
「オスカー様!」
オスカーの姿を発見すると、レティツィアは満面の笑みでオスカーに突進した。「おっと……」とレティツィアを受け止めたオスカーは、顔だけ上げて上機嫌な様子のレティツィアを見て、ふっと笑う。
「可愛いが溢れていますね」
「あ、恰好ですか? 今日も服を用意してくださって、ありがとうございます!」
「恰好も文句なしに可愛いですよ。でも、仕草がね、毎日可愛いが増すって、どういうことなんだろうな」
レティツィアの額にキスを落としたオスカーに、レティツィアは顔を赤くする。レティツィアこそ、オスカーに「毎日甘やかしが増してる」と言いたいが、それは嬉しいことであり、指摘して減ると嫌なので黙っておく。
今日も前回と同様、レティツィアとオスカー、マリア、護衛のオーガストとブレットのメンツで街へ移動する。
「王都は川が多いこともあり、川では小舟が多く行き来します。今日は小舟を貸し切りにしているので、最初はそれで移動します」
「はい」
小舟乗り場までオスカーと手を繋いで歩いたレティツィアは、オスカーにエスコートされて小舟に乗り込んだ。マリアと護衛のオーガストとブレットも乗り込み、レティツィアは小舟の真ん中の椅子に座り、オスカーが小舟の端に座った。漕ぎ手が小舟を動かす。
キョロキョロと顔を動かし、流れる景色を楽しむレティツィアは、見たことのある建物が見えて立ち上がった。
「オスカー様! あれはこの前見た大聖堂ではないですか?」
「レティツィア! 危ないから、急に立ち上がってはダメです」
レティツィアが立ち上がったせいで、小舟が不安定に揺れている。はしゃぎすぎてしまい、「ごめんなさい……」と、恥ずかしくなりながら座ったレティツィアは、苦笑しながら手を伸ばすオスカーに気づいた。
「こちらに来てください。レティツィアは俺が支えていた方が良さそうです」
そっとオスカーの手を握り、ゆっくりとオスカーの傍に移動すると、オスカーは座っていた椅子を少し後ろに移動した。どうやらオスカーの太ももの間に座れ、ということらしい。レティツィアは素直にオスカーの太ももに挟まれるように座る。すると、オスカーは後ろから手をレティツィアのお腹あたりに回す。
「座っていても見えますから、立ち上がってはダメですよ」
「はい」
レティツィアが横を向いて後ろのオスカーを見ると、オスカーは笑みを浮かべた。オスカーの笑顔はなんだか安心する。しかしドキドキもする。そんな気持ちを抱きながら、オスカーが示す建物を見たり、説明を聞く。
あちこちと説明を聞き、楽しんでいたところへ、通りかかった橋の上から男性の声がした。川を進むレティツィアたちをオスカーと同年代の男性が見ている。
「スカー! なんだ、朝からデートかよ!」
なんだかオスカーが呼ばれているような気がする、と思っていると、オスカーがその声に返事をした。
「ああ、そうだよ」
「羨ましいなぁ、おい。俺は仕事だぜ? ってか、すっげー可愛い子じゃん!」
「だろ? というか、惚れたら困るから、彼女を見ないで」
「うわ、珍しい、独占欲かよ。彼女さーん、スカーに飽きたら、俺のところにおいで! 俺のほうがいい男だから」
レティツィアは男性の口調に慣れなさ過ぎて、男性にどう反応すればいいのかよく分からず、とりあえず微笑んで手を振っておく。すると男性が上機嫌で手を振り返している間に、橋の下に小舟が差し掛かって男性が見えなくなってしまった。
「オスカー様は、スカーと呼ばれているのですか?」
「このあたりは中流家庭層が多く住まう地区です。俺は昔から街の住民の暮らしを自分の目で見て回ったりすることが多いので、住民に紛れるよう偽名を使っているのですよ。スカーは偽名の一つです」
「そうなのですね。先ほどの方と、とても仲が良さそうでしたね」
「時々、一緒に飲む、飲み仲間の一人です。ですが、レティツィア、ああいう男に愛想良くしなくていいですよ。調子に乗るので、笑いかけなくていいです」
「あ、申し訳ありません! どう反応してよいか分からず……。対応が間違っていましたか?」
「間違っているわけではないですが、レティツィアは可愛いので危険です。このあたりには軽い男が多いので、レティツィアが笑みを向ければ、本気で口説きにかかるかもしれない。レティツィアは俺のですから、それは困る」
とうやら、やきもちを焼いてくれているのだろうか、とレティツィアは嬉しくなった。『夫婦ごっこ』の妻に対して言っているだけだとは分かっているが、それでも嬉しく思ってしまう。
それからも、しばらく小舟で移動し、一行は昼前に小舟から陸へ降りた。
今日のお見合いは、昨日オスカーと約束した通り、お忍びで街を案内してもらうことだった。昨日のうちに、前回同様レティツィアとマリアのお忍び用の服を用意してもらっていたため、朝から支度をした。
今日のレティツィアは、淡い黄色と白の街娘風ワンピースとショートブーツ、そして髪は低い位置で二つに結んで可愛く巻いてもらっている。マリアも街娘風ワンピースに着替えて、二人は使用人に案内され、オスカーの元へ向かった。
「オスカー様!」
オスカーの姿を発見すると、レティツィアは満面の笑みでオスカーに突進した。「おっと……」とレティツィアを受け止めたオスカーは、顔だけ上げて上機嫌な様子のレティツィアを見て、ふっと笑う。
「可愛いが溢れていますね」
「あ、恰好ですか? 今日も服を用意してくださって、ありがとうございます!」
「恰好も文句なしに可愛いですよ。でも、仕草がね、毎日可愛いが増すって、どういうことなんだろうな」
レティツィアの額にキスを落としたオスカーに、レティツィアは顔を赤くする。レティツィアこそ、オスカーに「毎日甘やかしが増してる」と言いたいが、それは嬉しいことであり、指摘して減ると嫌なので黙っておく。
今日も前回と同様、レティツィアとオスカー、マリア、護衛のオーガストとブレットのメンツで街へ移動する。
「王都は川が多いこともあり、川では小舟が多く行き来します。今日は小舟を貸し切りにしているので、最初はそれで移動します」
「はい」
小舟乗り場までオスカーと手を繋いで歩いたレティツィアは、オスカーにエスコートされて小舟に乗り込んだ。マリアと護衛のオーガストとブレットも乗り込み、レティツィアは小舟の真ん中の椅子に座り、オスカーが小舟の端に座った。漕ぎ手が小舟を動かす。
キョロキョロと顔を動かし、流れる景色を楽しむレティツィアは、見たことのある建物が見えて立ち上がった。
「オスカー様! あれはこの前見た大聖堂ではないですか?」
「レティツィア! 危ないから、急に立ち上がってはダメです」
レティツィアが立ち上がったせいで、小舟が不安定に揺れている。はしゃぎすぎてしまい、「ごめんなさい……」と、恥ずかしくなりながら座ったレティツィアは、苦笑しながら手を伸ばすオスカーに気づいた。
「こちらに来てください。レティツィアは俺が支えていた方が良さそうです」
そっとオスカーの手を握り、ゆっくりとオスカーの傍に移動すると、オスカーは座っていた椅子を少し後ろに移動した。どうやらオスカーの太ももの間に座れ、ということらしい。レティツィアは素直にオスカーの太ももに挟まれるように座る。すると、オスカーは後ろから手をレティツィアのお腹あたりに回す。
「座っていても見えますから、立ち上がってはダメですよ」
「はい」
レティツィアが横を向いて後ろのオスカーを見ると、オスカーは笑みを浮かべた。オスカーの笑顔はなんだか安心する。しかしドキドキもする。そんな気持ちを抱きながら、オスカーが示す建物を見たり、説明を聞く。
あちこちと説明を聞き、楽しんでいたところへ、通りかかった橋の上から男性の声がした。川を進むレティツィアたちをオスカーと同年代の男性が見ている。
「スカー! なんだ、朝からデートかよ!」
なんだかオスカーが呼ばれているような気がする、と思っていると、オスカーがその声に返事をした。
「ああ、そうだよ」
「羨ましいなぁ、おい。俺は仕事だぜ? ってか、すっげー可愛い子じゃん!」
「だろ? というか、惚れたら困るから、彼女を見ないで」
「うわ、珍しい、独占欲かよ。彼女さーん、スカーに飽きたら、俺のところにおいで! 俺のほうがいい男だから」
レティツィアは男性の口調に慣れなさ過ぎて、男性にどう反応すればいいのかよく分からず、とりあえず微笑んで手を振っておく。すると男性が上機嫌で手を振り返している間に、橋の下に小舟が差し掛かって男性が見えなくなってしまった。
「オスカー様は、スカーと呼ばれているのですか?」
「このあたりは中流家庭層が多く住まう地区です。俺は昔から街の住民の暮らしを自分の目で見て回ったりすることが多いので、住民に紛れるよう偽名を使っているのですよ。スカーは偽名の一つです」
「そうなのですね。先ほどの方と、とても仲が良さそうでしたね」
「時々、一緒に飲む、飲み仲間の一人です。ですが、レティツィア、ああいう男に愛想良くしなくていいですよ。調子に乗るので、笑いかけなくていいです」
「あ、申し訳ありません! どう反応してよいか分からず……。対応が間違っていましたか?」
「間違っているわけではないですが、レティツィアは可愛いので危険です。このあたりには軽い男が多いので、レティツィアが笑みを向ければ、本気で口説きにかかるかもしれない。レティツィアは俺のですから、それは困る」
とうやら、やきもちを焼いてくれているのだろうか、とレティツィアは嬉しくなった。『夫婦ごっこ』の妻に対して言っているだけだとは分かっているが、それでも嬉しく思ってしまう。
それからも、しばらく小舟で移動し、一行は昼前に小舟から陸へ降りた。
22
お気に入りに追加
604
あなたにおすすめの小説
ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)
夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。
ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。
って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!
せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。
新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。
なんだかお兄様の様子がおかしい……?
※小説になろうさまでも掲載しています
※以前連載していたやつの長編版です
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
【完結】なんちゃって幼妻は夫の溺愛に気付かない?
佐倉えび
恋愛
夫が同情で結婚してくれたと勘違いしている十六歳のマイナ(中身は前世二十五歳)と、妻を溺愛しているレイ。二人は仲のよい夫婦ではあるが、まだ白い結婚である。
レイはマイナの気持ちが育つのをのんびりと待つつもりでいるが、果たしてレイの溺愛にマイナが気付くときはくるのか?
ほのぼの夫婦と、二人を取り巻く人々の日常。
すれ違ったり巻き込まれたりしながら本物の夫婦になっていくお話。ハッピーエンドです。
※最小限に留めていますが残酷な描写があります。ご注意ください。
※子作りにまつわる話題が多いためR15です。
*ムーンライトノベルズにも別タイトルでR18版を掲載
転生先が羞恥心的な意味で地獄なんだけどっ!!
高福あさひ
恋愛
とある日、自分が乙女ゲームの世界に転生したことを知ってしまったユーフェミア。そこは前世でハマっていたとはいえ、実際に生きるのにはとんでもなく痛々しい設定がモリモリな世界で羞恥心的な意味で地獄だった!!そんな世界で羞恥心さえ我慢すればモブとして平穏無事に生活できると思っていたのだけれど…?※カクヨム様、ムーンライトノベルズ様でも公開しています。不定期更新です。タイトル回収はだいぶ後半になると思います。前半はただのシリアスです。
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?
氷雨そら
恋愛
皆さまの応援のおかげで、書籍化決定しました!
気がつくと怪しげな洋館の前にいた。後ろから私を乱暴に押してくるのは、攻略対象キャラクターの兄だった。そこで私は理解する。ここは乙女ゲームの世界で、私は断罪後の悪役令嬢なのだと、
「お前との婚約は破棄する!」というお約束台詞が聞けなかったのは残念だったけれど、このゲームを私がプレイしていた理由は多彩な悪役令嬢エンディングに惚れ込んだから。
しかも、この洋館はたぶんまだ見ぬプレミアム裏ルートのものだ。
なぜか、新たな婚約相手は現れないが、汚れた洋館をカリスマ家政婦として働いていた経験を生かしてぴかぴかにしていく。
そして、数日後私の目の前に現れたのはモフモフの野獣。そこは「野獣公爵断罪エンド!」だった。理想のモフモフとともに、断罪後の悪役令嬢は幸せになります!
✳︎ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
散財系悪役令嬢に転生したので、パーッとお金を使って断罪されるつもりだったのに、周囲の様子がおかしい
西園寺理央
恋愛
公爵令嬢であるスカーレットは、ある日、前世の記憶を思い出し、散財し過ぎて、ルーカス王子と婚約破棄の上、断罪される悪役令嬢に転生したことに気が付いた。未来を受け入れ、散財を続けるスカーレットだが、『あれ、何だか周囲の様子がおかしい…?』となる話。
◆全三話。全方位から愛情を受ける平和な感じのコメディです!
◆11月半ばに非公開にします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる