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第二章 王との見合い
20 お見合い三日目の前座1
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お見合い三日目。
この日のお見合い内容はオスカーとディナーの予定であった。しかし、それより前の時間は自由時間ということで、レティツィアは朝からお忍びで王都の街へ行くことにしている。
昨日の内にレティツィアと侍女マリアの分のお忍び用の服を届けてもらっていたため、レティツィアはマリアに支度を手伝ってもらう。着替えて化粧もして準備が終わり、レティツィアはマリアの前でスカートをつまんで見せた。
「どうかしら? 街娘のように見える?」
「とても似合っています。お忍び用の服とはいえ、なかなかセンスが良いと言わざるを得ないですね。レティツィア殿下はそこにいるだけで上品なので、純粋な街娘に見えませんが、もう少し立ち振る舞いを崩されると、上級市民の令嬢くらいには見えるでしょう」
「分かったわ、少し気を抜く感じで過ごしてみる」
「ただ、立ち振る舞いを崩しても、レティツィア殿下の可愛さは隠しきれないので、困りましたね。フード付きローブを所望すれば良かったのですが……」
マリアは「うちの王女が世界で一番可愛い」と本気で思っているので、真剣に考え込んでいる。
レティツィアの本日の出で立ちは、肩出しのふわっとした緩い白のシャツの上に、肩紐から下に伸びる赤の柄のあるワンピースである。歩きやすいようにショートブーツを履き、ストロベリーブロンドの髪を半分お団子にしたツインテールである。こういう恰好は小さいころ以降することがなかったので、いつもと違う自分にレティツィアはわくわくしていた。
自身もお忍び用の街娘に扮したマリアが、部屋を出る前に口を開いた。
「レティツィア殿下、今日は私と手を繋ぎましょうね」
自国で兄と手を繋ぐことはあっても、マリアとは手を繋いで散歩をする、なんてこともないので、レティツィアは首を傾げた。
「どうして?」
「迷子になると困りますから。ヴォロネル王国の王都ならまだしも、アシュワールドの王都は私も知らない道ばかりです。案内人と護衛は付けてもらえますが、不測の事態は避けたいので」
「あ、そういうことね! 分かったわ、マリアが迷子にならないように、わたくしが手を繋いであげる!」
「………………私が、ではないのですが、もうそれでいいです。手は離さないでくださいね」
「分かったわ! 任せて!」
街に行けるなら、なんでも来い! というように、わくわくすぎて上機嫌で頷くレティツィアに、マリアは「うちの王女は可愛くて仕方ないな」と言いたげに笑った。
それから使用人が迎えに来たため、マリアと共に案内人がいるという場所に案内されて、レティツィアは目を見開いた。
「オスカー様?」
お見合いで会っていたオスカーとは違い、レティツィアのように街にとけ込みそうな恰好をしたオスカーがいた。髪を崩し、帯剣をして雰囲気も違うが、イケメンは何着てもイケメンだ。オスカーはレティツィアを見ると笑みを浮かべた。
「レティツィア、そういう姿も可愛いですね」
そういう姿「も」と言われ、ここ二回のお見合い中の姿も『可愛い』と言われたような気がして、レティツィアは気恥ずかしさと嬉しさが混ざったような感情が沸き、はにかみながら笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。オスカー様もそういう姿も素敵です」
そう言いながらオスカーに近づいたレティツィアは、首を傾げた。
「オスカー様、もしかして一緒に街に行って下さるのでしょうか」
「ええ、妻を一人で街に行かせるわけにはいきませんから」
「……妻?」
「『夫婦ごっこ』をするのですよね?」
そうだった、そういう話だった。レティツィアが自分で提案しているのに、忘れていた。しかし、あくまでも『わがまま』を言ってもよい環境づくりのための『夫婦ごっこ』だったため、まさかオスカーの方からそれに乗って『夫』を積極的にしてくれるとは思っていなかったのだ。
レティツィアは戸惑いつつも、少し想像した。レティツィアにとって、夫婦であれば一緒に街に行ってくれるのは素直に嬉しいことではないかと。
「……ありがとうございます。夫が一緒に街に行ってくれるのは嬉しいです」
「よかった。紹介しておきます。こちらがオーガストとブレット。今日の護衛です。オーガストは女性人気の店なんかも詳しいので、連れてきました」
帯剣はしているが、街の住人に扮した二人の護衛騎士が礼をした。レティツィアは笑みを浮かべる。
「よろしくお願いしますね。侍女のマリアも連れて参りました。マリアの護衛もお願いします」
「お任せください」
護衛が返事をした後、オスカーがレティツィアの手を握った。
「手を繋いで行きましょう」
「……はい」
レティツィアは笑みを浮かべて返事をした後、そういえば、と思い出す。レティツィアは護衛の一人のオーガストを見て言った。
「オーガストでしたね。良ければですが、マリアと手を繋いでいただけませんか?」
「え!?」
「レティツィア殿下!? いりませんけれど!?」
「えぇ? でも、マリア、迷子になるから、わたくしと手を繋ぎたいって……。わたくしはオスカー様と繋ぐことになりましたので、マリアが迷子にならないようにオーガストに――」
「いりません、殿下!」
全力で顔を振るマリアに首を傾げるレティツィアは、横でオスカーが笑っているのに気づく。
「オスカー様?」
「いえ、仲の良い主従だと思いまして。手を繋がなくても、マリアが迷子にならないように、オーガストとブレットが注意してくれます。マリアもそれでいいですね?」
「はい」
「そう?」
マリアがいいならいいけれど、とレティツィアは首を傾げつつ、一行は街へ向かった。
この日のお見合い内容はオスカーとディナーの予定であった。しかし、それより前の時間は自由時間ということで、レティツィアは朝からお忍びで王都の街へ行くことにしている。
昨日の内にレティツィアと侍女マリアの分のお忍び用の服を届けてもらっていたため、レティツィアはマリアに支度を手伝ってもらう。着替えて化粧もして準備が終わり、レティツィアはマリアの前でスカートをつまんで見せた。
「どうかしら? 街娘のように見える?」
「とても似合っています。お忍び用の服とはいえ、なかなかセンスが良いと言わざるを得ないですね。レティツィア殿下はそこにいるだけで上品なので、純粋な街娘に見えませんが、もう少し立ち振る舞いを崩されると、上級市民の令嬢くらいには見えるでしょう」
「分かったわ、少し気を抜く感じで過ごしてみる」
「ただ、立ち振る舞いを崩しても、レティツィア殿下の可愛さは隠しきれないので、困りましたね。フード付きローブを所望すれば良かったのですが……」
マリアは「うちの王女が世界で一番可愛い」と本気で思っているので、真剣に考え込んでいる。
レティツィアの本日の出で立ちは、肩出しのふわっとした緩い白のシャツの上に、肩紐から下に伸びる赤の柄のあるワンピースである。歩きやすいようにショートブーツを履き、ストロベリーブロンドの髪を半分お団子にしたツインテールである。こういう恰好は小さいころ以降することがなかったので、いつもと違う自分にレティツィアはわくわくしていた。
自身もお忍び用の街娘に扮したマリアが、部屋を出る前に口を開いた。
「レティツィア殿下、今日は私と手を繋ぎましょうね」
自国で兄と手を繋ぐことはあっても、マリアとは手を繋いで散歩をする、なんてこともないので、レティツィアは首を傾げた。
「どうして?」
「迷子になると困りますから。ヴォロネル王国の王都ならまだしも、アシュワールドの王都は私も知らない道ばかりです。案内人と護衛は付けてもらえますが、不測の事態は避けたいので」
「あ、そういうことね! 分かったわ、マリアが迷子にならないように、わたくしが手を繋いであげる!」
「………………私が、ではないのですが、もうそれでいいです。手は離さないでくださいね」
「分かったわ! 任せて!」
街に行けるなら、なんでも来い! というように、わくわくすぎて上機嫌で頷くレティツィアに、マリアは「うちの王女は可愛くて仕方ないな」と言いたげに笑った。
それから使用人が迎えに来たため、マリアと共に案内人がいるという場所に案内されて、レティツィアは目を見開いた。
「オスカー様?」
お見合いで会っていたオスカーとは違い、レティツィアのように街にとけ込みそうな恰好をしたオスカーがいた。髪を崩し、帯剣をして雰囲気も違うが、イケメンは何着てもイケメンだ。オスカーはレティツィアを見ると笑みを浮かべた。
「レティツィア、そういう姿も可愛いですね」
そういう姿「も」と言われ、ここ二回のお見合い中の姿も『可愛い』と言われたような気がして、レティツィアは気恥ずかしさと嬉しさが混ざったような感情が沸き、はにかみながら笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。オスカー様もそういう姿も素敵です」
そう言いながらオスカーに近づいたレティツィアは、首を傾げた。
「オスカー様、もしかして一緒に街に行って下さるのでしょうか」
「ええ、妻を一人で街に行かせるわけにはいきませんから」
「……妻?」
「『夫婦ごっこ』をするのですよね?」
そうだった、そういう話だった。レティツィアが自分で提案しているのに、忘れていた。しかし、あくまでも『わがまま』を言ってもよい環境づくりのための『夫婦ごっこ』だったため、まさかオスカーの方からそれに乗って『夫』を積極的にしてくれるとは思っていなかったのだ。
レティツィアは戸惑いつつも、少し想像した。レティツィアにとって、夫婦であれば一緒に街に行ってくれるのは素直に嬉しいことではないかと。
「……ありがとうございます。夫が一緒に街に行ってくれるのは嬉しいです」
「よかった。紹介しておきます。こちらがオーガストとブレット。今日の護衛です。オーガストは女性人気の店なんかも詳しいので、連れてきました」
帯剣はしているが、街の住人に扮した二人の護衛騎士が礼をした。レティツィアは笑みを浮かべる。
「よろしくお願いしますね。侍女のマリアも連れて参りました。マリアの護衛もお願いします」
「お任せください」
護衛が返事をした後、オスカーがレティツィアの手を握った。
「手を繋いで行きましょう」
「……はい」
レティツィアは笑みを浮かべて返事をした後、そういえば、と思い出す。レティツィアは護衛の一人のオーガストを見て言った。
「オーガストでしたね。良ければですが、マリアと手を繋いでいただけませんか?」
「え!?」
「レティツィア殿下!? いりませんけれど!?」
「えぇ? でも、マリア、迷子になるから、わたくしと手を繋ぎたいって……。わたくしはオスカー様と繋ぐことになりましたので、マリアが迷子にならないようにオーガストに――」
「いりません、殿下!」
全力で顔を振るマリアに首を傾げるレティツィアは、横でオスカーが笑っているのに気づく。
「オスカー様?」
「いえ、仲の良い主従だと思いまして。手を繋がなくても、マリアが迷子にならないように、オーガストとブレットが注意してくれます。マリアもそれでいいですね?」
「はい」
「そう?」
マリアがいいならいいけれど、とレティツィアは首を傾げつつ、一行は街へ向かった。
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