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第二章 王との見合い

15 闇

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 ヴォロネル王国王宮から、内密にレティツィアはアシュワールドへ出発した。プーマ王国の第二王子に知られぬよう、レティツィアの婚約者候補の話は極秘で一部の人しか知らない。

 レティツィアを乗せた馬車が走り始めて半日以上経ち、空が夕焼けに染まるころ海辺に着いた。そしてレティツィアは船に乗る。この日は走る船の中で一泊するのだ。

 走る船の中から窓を見ても、外は真っ暗闇。「お風邪をひきますので、窓を閉めますね」という侍女のマリアに頷きつつ、レティツィアは思考に耽っていた。

 両親と三人の兄たちが送り出してくれた、お見合いという名の旅行は、レティツィアにとって最後の自由だろうと思っていた。

 お見合いが終わり、アシュワールドから帰国すれば、再びプーマ王国の第二王子から求婚されることになるだろう。それを断っても予想される誘拐という実力行使を避けるために、王宮内に籠ることになるはずだ。しかし、それはいったいいつまでなのだろうか。もう少しでレティツィアは十八歳になる。今以上に第二王子は本格的にレティツィアを獲得しようと動くだろう。誕生日を過ぎても無事でいたとして、永遠に第二王子から逃げ続けるのは現実的ではないと、レティツィアは分かっていた。

 今はまだ第二王子の身分でも、自国では次期国王に一番近い男だという。まだ王太子は決まっているわけではないというが、それも時間の問題だろう。第二王子が王太子となれば、今以上に強引に無理やりレティツィアを獲得しようと動くのではないかと、レティツィアは怖かった。

 両親や兄たちはレティツィアを守ってくれるだろう。しかし、いつまでもこのままでいられないはずだ。このままでは表向き友好国であるプーマ王国と関係が悪化してしまう。

 だから、レティツィアはアシュワールドから帰国したら、第二王子の求婚を受け入れると、両親と兄たちに告げたほうがいいのではと思っていた。今ならまだ、レティツィアの結婚と引き換えに、プーマ王国からヴォロネル王国へ利益ももたらされよう。レティツィアがまだ役に立つ内に、高く買ってもらえるのだと思えば、そしてヴォロネル王国の役に立つのだと思えば、どうにかまだ心を保てる。

 第二王子を受け入れるのが遅くなればなるほど、レティツィアにとっても不利益になる。すでにレティツィアは第二王子に期待などしていない。それでも今ならまだ第二王子もレティツィアを少しは大事にしてくれるのではないか、せめて今のような第二王子に怯えないで済む生活をさせてもらえるなら。

 海上の窓の外のように、レティツィアの未来は真っ暗だろう。第二王子の求婚など受けたくないが、この旅行で気分転換をして、勇気を得るのだ。今はまだ震える手を、恐怖に強張る顔を、何とか平然を装い自ら「第二王子の求婚を受け入れる」と言える勇気が欲しい。

 海上の夜が明け、明るくすがすがしい太陽が昇る。レティツィアはそれを見て泣きたくなった。暗い道を進むことになっても、きっとレティツィアにも、明るい未来があると信じたい。

 昼前にアシュワールドの港に到着する。レティツィアを護衛するための騎士たちも、多く待ち構えていた。その日はアシュワールドのエイベル侯爵邸に滞在することになっていた。レティツィアの滞在は極秘ではあるものの、エイベル侯爵から手厚いもてなしを受け、次の日エイベル侯爵邸を経った。

 そして馬車に揺れること一日、夕方にレティツィアはアシュワールドの王都にある王宮に到着するのだった。
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