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第一章 王女を取り巻く環境
09 誘拐1
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王宮の一角、いくつかある温室の内の一つで、本日王女レティツィアのお茶会が行われようとしていた。
レティツィアは今日のメンバーの令嬢たちを、温室の入り口で出迎えている。
「ようこそ、エミーリアさん。楽しんでいってくださいね」
「レティツィア殿下、ご招待いただき、ありがとうございます」
レベッカと話題にした人物も迎え、最後にレベッカが入室する。
「ようこそ、レベッカ。今日も楽しい話をしましょう」
「レティ、お招きいただき、ありがとうございます」
レベッカに挨拶したので、お茶会の席に着こうとレティツィアは後ろへ向くと、「レティ」とレベッカから呼ばれる。しかし、レベッカはレティツィアの顔を見て、考える素振りをしながら、「ううん、やっぱり大丈夫」と笑みを浮かべ、席へ移動していった。なんだろう、と首を傾げつつも、レティツィアも席に着く。
その日のお茶会は、エミーリアの空気の読めない口出しも少しはあったものの、おおむね穏やかに進んでいった。それでも、ドキドキするからエミーリアを次に招待するのは、また時間を空けようとレティツィアは考えつつ、お茶会が終わって令嬢たちを見送る。レベッカが去り、最後にエミーリアを送ろうとしていると、エミーリアが立ち止まった。
「レティツィア殿下、最近、ロメオ殿下が我が家にいらっしゃって、お姉様も一緒ではありますが、わたくしによく笑いかけてくださるようになったのです。これはきっと、お姉様の呪いがロメオ殿下から解けかかっている証拠ですわ。良い傾向だと思います」
「そ、そうですか」
呪い。いつのまにそんな話になったんだ。そして、きっと『ロメオが笑いかけた』というのも、過大に勘違いしているだけだと思う。レティツィアは引きつりそうな顔に、必死に笑顔を貼り付ける。
「最近、学園で恋の相談をするお友達ができたのです。一緒に幸せになろうってお話して、同じ目標のいる友達ができて、とても嬉しいのです」
「まあ、よかったですね」
「はい! よければ、レティツィア殿下にも、またお話を聞いていただきたいのです」
「……そうですね、また、お茶会ができるかどうか、考えておきますわ」
「ええ! 今日帰れたら、考えてみて下さると嬉しいです!」
なぜか上機嫌のエミーリアを見送り、レティツィアは息を吐いた。とても疲れてしまった。
使用人に温室の片付けなどをお願いし、レティツィアは侍女のマリアと共に馬車に乗り込んだ。太陽が夕焼けの始まりの色をしている。今日の予定はお茶会だけなので、一度部屋で着替えたら、夕食までゆっくりしようと思う。今日は両親と兄三人は夕食を一緒にできるだろうか。みな忙しく、全員が揃うことはあまりないのだ。
「何でしょう?」
侍女のマリアが怪訝な声を出した。レティツィアは欠伸を殺しつつ、マリアを見る。
「どうかした?」
「……馬車のスピードが、おかしい気がします」
そう言われ、馬車の感覚に集中すると、確かに馬車のスピードが速いのが分かる。そして、外で護衛をしている馬に乗った騎士が、何やら喚きだした。
「な、なんなの!?」
夕日がまぶしくて閉めていたカーテンを開けると、三人の護衛騎士たちが必死に馬車を止めようとしている。今日は王宮内の敷地にある温室でのお茶会だったため、馬車はレティツィア専用の紋章のある馬車だ。護衛騎士の顔を見るに、馬車の御者に異変があるのだろうか。御者側に窓がないため、確認のしようがない。
マリアが窓のカーテンを閉めた。そしてドアのカギも閉める。
「レティツィア殿下! 危ないので椅子の下で姿勢を低くしてください!」
マリアに言われるがまま、馬車の椅子から足置き部分にしゃがむと、マリアがレティツィアを抱きしめた。何が起きているのだろう。馬車の外で怒号と剣のぶつかり合う音が聞こえる。また誘拐されようとしているのだろうか。しかし、それだけではなく、殺されるのではないか、そんな考えが過り、レティツィアはガタガタと震えた。
どれくらい経ったのか、馬車が止まり、大きい音がしなくなった。するとガチャガチャと馬車の扉を開けようとする音がする。敵だろうかと、恐怖でビクつくレティツィアの耳に、安心する声が聞こえた。
「レティ! 無事か!?」
その声に、マリアがそろっとカーテンを開けると、そこには声の主の次兄ロメオがいた。マリアが鍵を開けると、ロメオが扉を開けて中に入ってきた。
「レティ! 怪我はないか!?」
レティツィアはふるふると顔を振りながら、ほっとしてじわじわと涙が溢れるのを感じていた。
「お兄様……」
そろっとロメオに手を伸ばすと、ロメオは悲痛な表情でレティツィアを強く抱きしめた。
「怖かったな、もう大丈夫だ。よく頑張った」
プルプル震えて声に出さず泣くレティツィアがマズイと思ったのだろう、ロメオは自身のジャケットを脱ぎ、ジャケットでレティツィアを包むと、人から妹を隠して守るように抱き上げ、馬車から場所を移すのだった。
レティツィアは今日のメンバーの令嬢たちを、温室の入り口で出迎えている。
「ようこそ、エミーリアさん。楽しんでいってくださいね」
「レティツィア殿下、ご招待いただき、ありがとうございます」
レベッカと話題にした人物も迎え、最後にレベッカが入室する。
「ようこそ、レベッカ。今日も楽しい話をしましょう」
「レティ、お招きいただき、ありがとうございます」
レベッカに挨拶したので、お茶会の席に着こうとレティツィアは後ろへ向くと、「レティ」とレベッカから呼ばれる。しかし、レベッカはレティツィアの顔を見て、考える素振りをしながら、「ううん、やっぱり大丈夫」と笑みを浮かべ、席へ移動していった。なんだろう、と首を傾げつつも、レティツィアも席に着く。
その日のお茶会は、エミーリアの空気の読めない口出しも少しはあったものの、おおむね穏やかに進んでいった。それでも、ドキドキするからエミーリアを次に招待するのは、また時間を空けようとレティツィアは考えつつ、お茶会が終わって令嬢たちを見送る。レベッカが去り、最後にエミーリアを送ろうとしていると、エミーリアが立ち止まった。
「レティツィア殿下、最近、ロメオ殿下が我が家にいらっしゃって、お姉様も一緒ではありますが、わたくしによく笑いかけてくださるようになったのです。これはきっと、お姉様の呪いがロメオ殿下から解けかかっている証拠ですわ。良い傾向だと思います」
「そ、そうですか」
呪い。いつのまにそんな話になったんだ。そして、きっと『ロメオが笑いかけた』というのも、過大に勘違いしているだけだと思う。レティツィアは引きつりそうな顔に、必死に笑顔を貼り付ける。
「最近、学園で恋の相談をするお友達ができたのです。一緒に幸せになろうってお話して、同じ目標のいる友達ができて、とても嬉しいのです」
「まあ、よかったですね」
「はい! よければ、レティツィア殿下にも、またお話を聞いていただきたいのです」
「……そうですね、また、お茶会ができるかどうか、考えておきますわ」
「ええ! 今日帰れたら、考えてみて下さると嬉しいです!」
なぜか上機嫌のエミーリアを見送り、レティツィアは息を吐いた。とても疲れてしまった。
使用人に温室の片付けなどをお願いし、レティツィアは侍女のマリアと共に馬車に乗り込んだ。太陽が夕焼けの始まりの色をしている。今日の予定はお茶会だけなので、一度部屋で着替えたら、夕食までゆっくりしようと思う。今日は両親と兄三人は夕食を一緒にできるだろうか。みな忙しく、全員が揃うことはあまりないのだ。
「何でしょう?」
侍女のマリアが怪訝な声を出した。レティツィアは欠伸を殺しつつ、マリアを見る。
「どうかした?」
「……馬車のスピードが、おかしい気がします」
そう言われ、馬車の感覚に集中すると、確かに馬車のスピードが速いのが分かる。そして、外で護衛をしている馬に乗った騎士が、何やら喚きだした。
「な、なんなの!?」
夕日がまぶしくて閉めていたカーテンを開けると、三人の護衛騎士たちが必死に馬車を止めようとしている。今日は王宮内の敷地にある温室でのお茶会だったため、馬車はレティツィア専用の紋章のある馬車だ。護衛騎士の顔を見るに、馬車の御者に異変があるのだろうか。御者側に窓がないため、確認のしようがない。
マリアが窓のカーテンを閉めた。そしてドアのカギも閉める。
「レティツィア殿下! 危ないので椅子の下で姿勢を低くしてください!」
マリアに言われるがまま、馬車の椅子から足置き部分にしゃがむと、マリアがレティツィアを抱きしめた。何が起きているのだろう。馬車の外で怒号と剣のぶつかり合う音が聞こえる。また誘拐されようとしているのだろうか。しかし、それだけではなく、殺されるのではないか、そんな考えが過り、レティツィアはガタガタと震えた。
どれくらい経ったのか、馬車が止まり、大きい音がしなくなった。するとガチャガチャと馬車の扉を開けようとする音がする。敵だろうかと、恐怖でビクつくレティツィアの耳に、安心する声が聞こえた。
「レティ! 無事か!?」
その声に、マリアがそろっとカーテンを開けると、そこには声の主の次兄ロメオがいた。マリアが鍵を開けると、ロメオが扉を開けて中に入ってきた。
「レティ! 怪我はないか!?」
レティツィアはふるふると顔を振りながら、ほっとしてじわじわと涙が溢れるのを感じていた。
「お兄様……」
そろっとロメオに手を伸ばすと、ロメオは悲痛な表情でレティツィアを強く抱きしめた。
「怖かったな、もう大丈夫だ。よく頑張った」
プルプル震えて声に出さず泣くレティツィアがマズイと思ったのだろう、ロメオは自身のジャケットを脱ぎ、ジャケットでレティツィアを包むと、人から妹を隠して守るように抱き上げ、馬車から場所を移すのだった。
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