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元禄編

9.誘いへのはじまり

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真里谷円四郎、江戸時代中期に実在した千戦不敗の剣士である。
ヘティスと蓮也は、その円四郎の道場で彼と対すことになった。



ヘティス
(あれ真里谷円四郎・・・。AIがレーティングを10000以上つけた・・・。確かに、醸し出す雰囲気は相当なものだわ。素人の私でもわかるくらい)

円四郎が入室しただけで、道場内の空気が一変した。
そのただならぬ圧力が空間を経て伝わり、蓮也やモローも強烈に感じた。



モロー
(昼間に見た時とは別人のようだ。そして、ただ強いだけではない、とてつもなく雄大なオーラも兼ね備えている)
蓮也
(なるほど、あの侍が真里谷円四郎か。あの身のこなし、やはり只者ではなかったか)

すると、円四郎がこちらに目をやる。



円四郎
「無住心剣術流・真里谷円四郎だ」
「俺と戦いたいとは、面白い」
「受けて立つが、まずは、俺の弟子を倒せたら相手をしてやろう」
蓮也
「伊耶那岐神伝流・此花蓮也だ。倒されたい奴からかかってこい」
円四郎
「ほぉ~、大した自信だなぁ」
ヘティス
「ちょっと、蓮也!いきなり喧嘩売るの、やめなさいよ!」
「あの~、この人ちょっとおかしいので、気にしないでください^^;」

ヘティスは苦笑いをしながら、円四郎に向かって、そう言った。
円四郎は遠目からヘティスを眺めた。
ヘティスの懐には花屋で買った赤い薔薇がある。

円四郎
(赤い薔薇・・・?)
ヘティス
(あれ?私を見て、少し表情が変わったよーな。気のせいかな?)
円四郎
「威勢のいいことは大いに結構。強ければ礼も不要。せいぜい、楽しませてくれよぉ!」

炎の火花が弾けるような円四郎の声が道場に響き渡る。高弟の川村秀東(ひではる)の表情が引き締まる。

川村
(・・・いつもの先生とは何かが違う。少し高揚されている気がするが、あの者たちがそうさせているのであろうか?)
円四郎
「川村ぁぁぁぁぁぁ!!」
川村
「はい、先生!」
円四郎
「すぐに戦う順番を決めよ、試合の段取りはお前が取れ!」
川村
「かしこまりました!」

ヘティス
(川村さん、さっきは酔っ払いの円四郎さんを嗜めていたけど、今は逆に円四郎さんが威張っているわね。少しパワハラっぽい感じもするし、川村さん大変そうね~)
(けど、あの円四郎さんの自信過剰で威張ってる感じは少し蓮也に似てるかもw)

川村は急いで試合の段取りにかかる。

蓮也
「俺一人で十分だ。全員撃破する」
モロー
「蓮也様、いつも偵察部隊を務めていますので、まずは私が参りましょう」
蓮也
「いいだろう、そのかわりに相手の大将は俺にやらせろ」
モロー
「わかりました。弟子は全て私が倒します。それまで体力を温存しておいてください」

そう言って、モローが先鋒として前に出る。
円四郎は、それを余裕そうに見ている。

しばらくして準備が整うと試合が開始された。
審判は川村が務める。

川村
「両者準備、それでは・・・はじめ!」

円四郎の弟子は流派名と名前を言い終わると、ゆっくりと眉間に太刀を上げて柔らかく構える。

モロー
「キュリアス・モロー、我流だ」



そう言ってモローは片手剣にて変則下段に構える。

川村
(このような構えは見たことがない。そして、当流と同じ片手剣。しかし、我流が当流にどこまで通じるかな)

モローが踏み込むと太刀はゆっくりと降りてくる。無住心剣独特の柔和拍子である。
それをモローは紙一重で躱す。

川村
(・・・何?躱した!?)

モローは体勢を立て直す。

モロー
(この時代の道場はいくつか回ったが、ここの剣士は強い)
(しかし、既に一雲老人の動きを見ているから、こちらに十分アドバンテージがある)
(この流派独特のペースがあるが、それにハマらないようにし、隙を見て一気にスピード勝負に持ち込む)
「そこだぁぁぁ、もらったぁぁぁ!」
川村
(は、速い・・・!)

一瞬の隙を突き、モローの素早い胴打ちが見事に決まった。
相手はモローのスピードに全く対応できていない。
川村の表情が一瞬曇るが、審判をしているので、公平な態度をとるように務めている。

川村
「・・・勝負あり!」

川村の声が道場内に響く。
道場生からは微かに騒めきの声が聴こえる。
しかし、円四郎は表情を変えずに、余裕そうな表情をしている。



モロー
(何だ?あのヤローの余裕の表情は?気にくわねーな)

すると円四郎が声を上げる。

円四郎
「川村ぁぁぁぁぁ!」
川村
「はい、先生!」

道場は再び静まりかえり、緊張感が走る。
そして、声のトーンを落とし低い声で川村に言う。

円四郎
「次はお前が相手してやれ」
「審判は俺がしてやる」
川村
「かしこまりました」
「モロー殿、なかなかの腕前。最初から私がお相手すべきでした。次は、私が相手になりましょう」
モロー
「わかった、相手にとって不足はねーぜ」
ヘティス
(川村さん、大変そうね~。あれじゃあ、今で言うブラック企業だわ。蓮也もモローさんをパシリみたいに使っているけど、あそこまでヒドくないわ~)
(けど、不思議よね、川村さんの声はイキイキとしてるし、ぜんぜん嫌そうじゃないし。何なのこれ?)

しばらくすると準備を整えた真里谷円四郎の高弟・川村秀東が前に出る。
そして、モローと向き合い一礼した。

円四郎
「はじめぃ!」

円四郎の鋭い声が道場に響き渡る。
モローは片手剣で変則下段に構え、川村は片手で上段眉間に柔らかく構える。

モロー
(なるほど、隙のない構えになかなかの圧力。この道場のナンバー2だけあるな)
川村
(先ほどの動きは見せてもらった。確かに素早いが一本調子だ。そして、一度見た動きは当流では通用しない)

しばらく両者は見合っていた。
しかし、先に動いたのはモローであった。
相手に向かって真一文に切り込み、水平斬りを繰り出そうとする。
その動きと同時に川村が動き出す。

モロー
(身体が勝手に相手の太刀に吸い込まれる・・・)
(マズい・・・!!)
「神速走行、側面噴射!!」

モローの足の側面からオーラが吹き上げ、正面に向かうモローの身体を真横に高速移動させる。
川村の正面斬りを紙一重で躱す。
その様子を円四郎は興味深そうに見ている。
直ぐに両者は体勢を立て直す。

川村
(何・・・?今、一瞬、直角に動いたように見えたが。これは、どのような術を使っているのだ・・・!?)
モロー
(なぜか俺は相手の太刀に向かって行ってしまったが、どういうことだ・・・)

しばらく睨み合いが続く。
再び、モローが動き出す。

モロー
(さっきの弟子とはレベルが違う。神速モードでいかねーとヤバイぜ)
「神速走行!」
川村
(なんだ?この神気は・・・)
(・・・速い!)

お互い超集中フロー状態となり、一瞬が長く感じられる。

川村
「無住心剣奥義・神気感応!」

川村は全身の気を調整し、相手の気と感応させる。
すると、モローはその気に合わせて動き、釣られてしまう。
こうなると、どれほどモローが高速で動いても、操作されているため逃げることができない。

モロー
(またか・・・!)
「神速走行、垂直噴射!」
川村
「何だと!」

モローの足底からオーラが噴射し、モローの身体を垂直に持ち上げる。
モローは天井付近まで跳躍すると、そこから水平斬りを繰り出す。

モロー
「神速空中水平斬り!」

川村はモローの気を感じ、上方へと正面打ちを繰り出す。
竹刀の音が響き渡る。
両者の太刀は十文字に切り結ばれていた。

川村
(上方に向かって切りを出すことになるとは・・・。このようなことは初めてだ。それにしても何という跳躍力。この妙な術・・・この異人は天狗なのだろうか・・・?)

モローが空中で一回転し、後方へと退く。
そして、再び、両者が構え合う。

円四郎
「やめぃ!」

急に円四郎が声を上げた。

円四郎
「異人よ、妙な術を使うなぁ。面白い、俺が戦ってやろう」
川村
「しかし、先生、まだ勝負は・・・」
円四郎
「川村ぁぁぁ!」
川村
「はい、先生!」
円四郎
「退がれぃ!」
川村
「・・・はっ!」

川村はまだ戦いたいという表情をしていたが、気持ちを抑え、一礼してから退いて行った。

円四郎
「どういう仕掛けかは知らんが、動きは見切った」
「十数える間に勝負を終わらそう」
モロー
「なんだと!?」
(・・・ナメやがって)

すると座って見ていた蓮也が立ち上がる。

蓮也
「モロー、俺にやらせろ」
モロー
「・・・・・・」

モローは少し高揚し薄ら笑いを浮かべて蓮也に返答する。

モロー
「・・・蓮也様、俺にやらせてください。こんなにナメられて、男として、ここで退くわけにはいきませんぜ」
蓮也
(このようなモローの表情ははじめてだ。さて、どうするかだ。そして、何がそうさせている・・・?)

この時、蓮也は普段のモローにない異様な雰囲気を感じた。いつも蓮也がアグレッシブに出て、モローが抑えに回るという形をとって来た。そのため、モローがアグレッシブな場合は、自分が抑えに回る必要がある、そう蓮也は感じた。それは、蓮也の先天的なリーダーの気質がそうさせるのであり、単なる戦闘マニアという存在ではない。
またモローは、蓮也の影として働いて来たため、常にアグレッシブなマインドを抑えて来たと思われる。しかし、この円四郎という男の何かが、そのモローの心の扉を開けてしまったのだろう。

蓮也
「・・・いいだろう、ただし、勝てよ」
モロー
「任せてください、最初から全力でいきますので」
ヘティス
(モローさん、何か変よ。いつものモローさんじゃないわ。そして、蓮也もアッサリと引いちゃって、二人とも、どうしちゃったの?)

ヘティスはこの時、人間には色々な面があるのだなと思った。モローが熱くなった時に、蓮也は冷静さを保っている。そこに少し安心感も覚えた。

ゆっくりと円四郎が立ち上がる。
緊迫感のあった空気は、一層引き締まり、いよいよ最強の剣士・真里谷円四郎が動き出す。
モローは円四郎に勝つことができるのであろうか。


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