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列伝

ベガ伝『魔法防衛戦争』

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これは太古、神代と言われた時代の物語である。
ロータジアという王国があり、そこには三人の優秀な将軍「三将星」がいた。
その中の一人、大魔導師エルフリード・ベガはエルフの血を多く受け継いでおり、幼少時から天才的な魔術の使い手であった。しかし、色白で女性のような容姿であったため、武官からは不評であった。



ロータジアの地には黄金が産出される鉱山があり、敵国アルトドールはそれを狙って戦争を仕掛けて来た。両国の間には川があり、その川が国境であった。

この川を境に白兵戦で防衛したきたのは、元帥職も歴任して来た宿将ナディと宿将アイン・バランであった。

川の中では軽歩兵のナディが活躍し、陸上では重装歩兵・戦車隊のアインが活躍した。しかし、二人とも老将と言われる年齢に達しており、先年、アインが病に倒れた。それに合わしたかのようにアルトドール軍が攻めて来たが、アインの息子のアルベルト・バランがプレアデス重装兵団を継承して、父を凌ぐ活躍を見せた。



今度は、ナディが70歳の時に病に倒れ、元帥職は第一王子の舞也が引き継いだ。そして、再びアルトドール軍は国境へと侵攻を開始した。



舞也
「川での戦いはナディ将軍の軽歩兵部隊のおかげで、我々は敵国から防衛してきた。しかし、ナディ将軍が病に倒れた今、新たな防衛将軍を決めねばならない」
(しかし、なぜ敵はこのタイミングで仕掛けてくるのだ。先年のアイン将軍が倒れた時もそうであるが・・・、もしかしたら、こちらの情報が筒抜けになっているのではないだろうか・・・)

舞也のこの時の不安は、後々、重大な意味を帯びて来るのであった。

防衛将軍の先鋒に対しては、諸将から多くの挙手があったが、ここで挙手した意外な自分物がエルフリード・ベガであった。

というのは、通常の場合、白兵戦の防衛はディフェンダー系が行い、篭城の場合は魔法系が行うのが、この時代の用兵学の常識である。そのため、諸将からはベガに対して多くの反対意見が出された。

しかし、元帥・舞也はベガの並々ならぬ才能を既に見抜いており、今回の戦いで防衛将軍として抜擢したのである。一応、諸将を抑えるためにともしものために、舞也も後詰に控え、諸将の中の何人かは第一砦へ控えさせることで、反対意見をなんとか抑えることができた。また、ベガの副将として、ナディの副将であったマルマ将軍を舞也はつけた。これも諸将の意見を抑えるためであった。まだベガたちが「ロータジア三将星」とは呼ばれる以前のことであった。

アルトドール軍20000に対してベガは半数の10000で対峙し、残りの兵は舞也が率いた。
アルトドール軍は、相手の兵が自軍より少ないことを確認し、鶴翼の陣を敷いた。

マルマ@副将
「敵は鶴翼の陣を敷いておりまする」
「ここは魚鱗の陣を敷き、敵が川を半分渡ったところで、敵中央を攻め、敵の大将を狙うのがよろしいかと」
ベガ
「こちらも鶴翼の陣でいきます」
マルマ
「なんと!」
「・・・地形はこちらが有利ですが、敵よりも兵力は劣ります。敵の全軍にまともにぶつかってはいけませぬ」

マルマからの反対意見をベガは退け、ベガは鶴翼の陣を敷いた。
両翼にアルベルトとデネブの重装歩兵部隊、中央はベガの魔法部隊とアルタイルの弓騎兵部隊という配置である。





戦いが開始された。
アルトドール軍は数にものを言わせて一気に川を渡り、兵力の少ないロータジア軍を包囲殲滅する作戦のようである。そして、アルトドール軍が川の半分ほどを渡った。

マルマ
「今です、攻めましょう!」
ベガ
「もう少し敵を引きつけてからです」
マルマ
「それでは相手に川を渡り切られてしまいます!」

更にアルトドール軍は8割、川を程渡って来たが、まだベガは動かない。そして、再び、マルマの進言を退けた。
そして、アルトドール軍の両翼の一部が渡り、ロータジア軍の両翼であるデネブ軍とアルベルト軍が衝突した。

マルマ
「敵の両翼がほぼ渡り切ろうとし、両翼では既に戦闘が開始されました。敵の全軍が渡り切るのも時間の問題です。まだ相手は川の中で進軍スピードは遅いです。ですから、ここは一旦退いて舞也様の部隊と合流するか、第一砦まで撤退しましょう!」
ベガ
「いえ、ここから攻撃をしかけます」
マルマ
「なんですと!」
ベガ
「既に我が魔法部隊は魔力充填を完了しております」

ベガは魔法部隊に雷魔法(いかずちまほう)を指示し、ベガ自身もロッドから凄まじい音を立てて雷を放つ。そして、その雷魔法を放つ先は川であった。川に放たれた雷によって、川は広範囲に強い電流を帯び、一瞬でアルトドール軍の多くは感電し、気を失うもの、混乱する者、逃げ惑う者、多数である。

ベガ
「雷属性エンチャント!」

ベガの指示で、アルタイル部隊の弓に雷属性の魔法が付与される。

ベガ
「放て!」

ベガの指示で、アルタイル部隊からエンチャントされた矢が一斉に放たれる。
アルトドール軍は、感電によって多くの兵が麻痺し、多くの兵がその矢の的となった。
そして、感電の第二波が来たため、更に混乱した。
それを見たアルトドール軍の両翼も戦意を失い川へ引き戻され感電する。
そこへ、今度は更にベガは魔法攻撃で追い討ちをかける。

ベガ
「魔法部隊よ、氷結波、用意!」
「放て!」

川が氷結し、更にアルトドール兵は動けなくなる。

ベガ
「今だ、弓隊、氷結した敵を狙い放て!」

アルトドール軍は感電と氷結で動けなくなったところに、アルタイル軍の精密射撃を受けたため、その矢の殆どが命中し、死傷者が続出し、撤退する者、降伏する者多数であった。これを見た老将マルマは、既に自分たちの時代は終り、世代交代によって新しい戦いの時代に入ったのだと思った。そうした意味では、マルマは老害的な武将ではなかった。それどころか、老将マルマはベガのよき理解者の一人となって行った。そうしたこともあり、ひ弱なエルフ崩れとバカにしていた武官たちも、ベガを悪く言うものはいなくなっていったのである。

魔法についてであるが、通常は、地・水・火・風の四大魔法が基本である。雷魔法はそれよりもやや高度な魔法になるが、研究熱心なベガは日頃からこれを研究していた。それを知っていた舞也は、よく研究費を彼に工面した。そして、それにベガもよく答えた。こうして、ベガは大魔導師の道を歩み出すのであった。彼のこうした戦い方によって、魔法戦争の革命がもたらされた。そのため、魔法戦争史では、「ベガ以前、ベガ以降」と言われている。
また、ベガはデネブ、アルタイルへのエンチャント攻撃をよく用い、幾度となくアルタイル軍を撃破した。そのため、この三人はいつの間にか人々から「ロータジア三将星」と言われるようになった。
また、前衛にはアルベルトを用いることも多かったので、彼を含め、「ロータジア四天王」とも呼ばれた。
このベガの防衛戦は、魔法戦争革命でもあり、世代交代の戦いでもあり、ロータジア史に大きな1ページを刻むことになったのである。








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