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成長の章

ゼイソンの魔法教室・エンチャント

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蓮也は5歳の頃、円也王によって孤児から王子になった。一見、それは幸せなように見えたが、王子としての生活は楽なものではなかった。

そのスケジュールは以下である。

6:00-7:00 起床・準備
7:00-9:00 剣術稽古
9:00-12:00 魔法稽古
12:00-13:00 食事・休憩
13:00-18:00 学問(用兵学・政治学・哲学など)
18:00-20:00 統合稽古
20:00-21:00 食事・休憩 
21:00-22:00 統合学問

孤児院で無気力だった蓮也だが、意外にもこれらの稽古鍛錬を怠らずに行っていた。
また、インテグリストのベルーフ(天職)を得たことと、教育係のゼイソンが優秀であったために、その才能を開花させつつあった。因みに、ゼイソンはこの時、ちょうど元帥職を退いており、ナディが元帥職となっている。

蓮也は孤児院の時はセシル以外とは殆ど話さなかったが、ゼイソンにはよく話した。相性もあっただろうが、ゼイソンの実力が並ではないことを子供ながらに蓮也は感じていたのであろう。円也王にもそうだが、そうした人間には、蓮也は関心を示した。



ゼイソン
「ベルーフがファイター系の場合、魔法の習得は簡単なエンチャントまでが限界です」
「ウィザード系は魔法はできまするが、物理攻撃は強くありません」
「しかし若君のベルーフであるインテグリストは、この多くを習得でき、更に統合し、その力を乗数倍できるとされているのです」
蓮也
「ふーん、要するに片っ端から習得していけばいいのだな、爺」
ゼイソン
「ま、そうなんですがじゃ・・・」
「魔法には地・水・火・風・空の五つのエレメントがあります」
「火と水は対立し、地と風は対立しております」
「対立関係の魔法は習得しにくいのです」
蓮也
「面倒くさいなぁ、なんで、そんなふうになってるんだ?」
ゼイソン
「神が自然界をそう作ったんでしょうなぁ」
蓮也
「わからないとすぐ神ってのが出てくるよなぁ」

蓮也はやや理屈っぽく子供らしくないところがあった。しかし、ゼイソンはそれでも蓮也と彼の才能に惚れ込んでいた。

ゼイソンが蓮也を外に連れ出し、五つのエレメントのエンチャントを蓮也に見せると、蓮也は目を輝かせてそれを見つめる。

ゼイソン
「エンチャント・アイス!」

ゼイソンの剣が氷結し、その剣で木に触れると、一瞬で木が氷結する。

ゼイソン
「エンチャント・アース!」

今度は土属性の魔法が剣に付与されると、剣はズッシリと重くなり、軽く地面に触れるだけで地面に穴が空く。

ゼイソン
「エンチャント・ウインド!」

次は風魔法が剣に付与される。その剣で木に触れると、スパッと木が真っ二つに切れる。

ゼイソン
「エンチャント・ファイア!」

間髪入れずに、火炎魔法が剣に付与され、先ほど切った木が地面に落ちる前に、剣が触れると、木が燃え上がり、一瞬で灰となった。

蓮也
「爺、凄いな!それはどうやるのだ!」

ゼイソンは蓮也の好奇心を誘うような指導法を暫し用いることがあった。
この子供は決して無気力ではなく、そのエネルギーを必要なところに温存しているだけである、と見抜いていた。

通常、エンチャントは大人のファイター型でも一つ習得するのがやっとであった。しかし、蓮也は子供であるにも関わらず、二つのエンチャントを習得した。もちろん、これはゼイソンの指導のレベルの高さもある。
ちなみに、このゼイソンのベルーフはウィザードナイトであり、このベルーフは、メイジ・プリースト・ファイターの三つのベルーフが最高レベルに達しないと与えられないベルーフである。通常の人間は、一つのベルーフを極める前に寿命が尽きるが、ゼイソンはそうした意味では天賦の才能を持った者が極限まで鍛錬した稀有の存在であった。

魔法には、メインとサブがある。簡単に説明すると、一番得意な魔法がメイン、その次に得意な魔法がサブである。

ゼイソンが見る限り、蓮也のメインは火属性であり、サブは風属性である。
ちなみに、対立関係の魔法はメイン・サブとはならない。例えば、火属性と対立するのは水属性であるため、この二つがメインとサブとは滅多にならないのである。
空魔法については、この地・水・火・風の魔法を統合しないと使いこなすことはできない。そのため、空魔法を使える者は殆どいない。
そのほか、雷魔法、毒魔法、暗黒魔法、光魔法などがある。
更に、太古の昔には星魔法という強力な魔法も存在したらしい。
ちなみに回復系・支援系は魔法ではなく、神聖法と言って、習得の仕方が違うのだが、ゼイソンはこの神聖法も使いこなすのである。

ゼイソン
(しかし、若はアジュナーチャクラがメインチャクラのようだが、その場合、氷結魔法が得意だと思われるのであるが、はて、なぜじゃろう)
(この若君は一見、無気力だが、奥底には熱いものを秘めておるのかのぅ)

魔法は意識・感覚・イメージを用いるため、性格も関係する。例えば、冷静さがある場合、氷結魔法が得意であり、自由奔放なら風魔法が得意な傾向がある。蓮也の場合、一見無気力な感じであるが、気性の激しい部分も持ち合わせていて、それが火属性のエネルギーとなっているのであろう。

ゼイソン
「剣は片手でこのように軽く持ちまする。そして、左手に意識を集中させまする。次に、火のイメージをし、最後に、そこに熱さを感じるようにします」

ゼイソンの左手に灼熱の炎が灯る。

ゼイソン
「剣を水平に構え、掌で剣を非接触でなぞります」

すると、剣が赤々とし、炎が燃え盛る。

蓮也
「おぉ、爺、それを俺にも教えてくれ!」

蓮也が興味を最初に示したのは、後年、メインとなる火属性である。

蓮也
「おぃ、爺、まず手に火がつかんぞ」
ゼイソン
「それは大人のファイターでもなかなかできませぬ。だから、今はできなくても大丈夫ですじゃ」
蓮也
「嫌だ、俺は今すぐやりたい!だから教えてくれ!」

蓮也のせがむのに負けてゼイソンは本気で説明する。なぜなら、蓮也の目が本気の目だからである。

ゼイソン
「胸の心火(しんか)にまず集中します」
蓮也
「こうか?」
ゼイソン
「もっとゆっくりと息を吐きます」
蓮也
「ふぅ~」
ゼイソン
「そして、その火を臍下丹田まで沈めていきます」
蓮也
「こんな感じか?」
ゼイソン
「もう少し上半身はリラックスしつつ、お腹は充実させてください」
蓮也
「おう、わかった」
ゼイソン
「そして、その丹田と腕を結ぶ経絡をつなげていきます」
蓮也
「うぉ、爺、手が熱いぞ!」
ゼイソン
「エネルギーがどこかで止まってしまうと大火傷してしまいますぞ」
「常にエネルギーが流れており、常にエネルギーを放出するのです」
蓮也
「魔法とは怖いものだな」
ゼイソン
「魔法は、相手を倒す強力な方法の一つですが、間違って使うと自身を滅ぼしますじゃ」

気づくと蓮也の手から炎が出ている。蓮也はそれを剣にエンチャントしようとする。

ゼイソン
「なんと!」
(若はもう火魔法の初段階をクリアしようとしている・・・なんたる才能、なんたるエネルギー)
蓮也
「爺、剣に火がつかんぞ」
ゼイソン
「剣の全てに魔法を付与しますので、集中力が要りまする。それと、魔法の持続時間は、魔力の強さに比例しますじゃ」
蓮也
「疲れた、今日はもう止める」

と言って、その場で居眠りをはじめた。ゼイソンは使用人を呼んで、蓮也を部屋に連れて寝かせるように指示したが、蓮也の身体は地面にめり込んでいるように重く、動かすことができなかった。インナーマッスルが異常に強く、高度なリラクセーションができていると、このような現象が起こる。これを見て、ゼイソンは戦士型としての才能も蓮也は持ち合わせていると感じ、これがインテグリストのベルーフを受ける者なのかと思った。




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