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1章

第56話 キッチンの設計

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「ただいま戻りましたわー」

 空は真っ暗になっていて、家の灯りはついていた。

 家の中に入ると、テーブルの上にはごちそうが並べられていて、ララとフィーネが席についていた。

「おかえり」
「おかえりなさい」
「……ただいまですわ!」

 仕事の都合などでいつも自分が家にいた。
 なので、最後に家に帰るということはなかった。
 でも、こうやって……『おかえり』と言ってもらえる嬉しさを感じる。

「ご飯食べよう」
「そうよ。冷めちゃうでしょ?」
「ええ、もち「食べる―!」

 わたくしはゆったりと進もうとしたら、マーレに抱き抱えられてイスに置かれた。

 マーレはそれからすぐに自分の席につき、ティエラもそっと自分の隣に座る。
 ただ、ティエラはちょっと距離が近い。

「お待たせしました。それでは食べましょうか」
「ええ、食べましょう!」
「腕によりをかけたから味わって」

 ということで、わたくしたちは食事を開始した。

 ララが腕によりをかけたと言った通り、今日の食事はいつも以上に凝っていた。
 いつもの料理も美味しいのだけれど、今日の料理は美味しい上に見た目もいい。
 それに、少し複雑な味わいがあった。

「今日のはいつものよりも色々な味がしますわ」
「ほんとね。シンプルな味付けだけじゃなくって、その奥に深みもあるように感じる」
「今日はクレアがゆっくり帰ってきた。作る時間があったからやっただけ」
「そうなんですのね」
「いつものでも十分美味しいわよ」
「うん。新しいキッチンがあったらもっとできる」

 そう言うララの目は期待に満ちた目だ。
 
「安心してくださいまし。ララの頼んだ物もフィーネの頼んだ物もとって来ましたわ。ご飯を食べたら一緒に設計をいたしましょう」
「! 今すぐでもいい! 欲しいもの……全部ぶち込みたい!」

 ララが身を乗り出してくるのだけれど、フィーネがその背を引っ張る。

「ララ、ご飯を食べてからって言ってるでしょ」
「むぅ……でも新しいキッチン欲しい」
「キッチンは逃げないから。ほら、アーンでもしてあげようか?」
「……」
「アーン」
「(パク)……美味しい」
「普通に食べるのね……」

 フィーネが出したスプーンをララはパクリと食べる。
 自分が作ったご飯を美味しそうに食べた。

「ララの作った料理は美味しいですからね」
「もっといっぱい作りたい」
「ええ、後でいっぱい話しましょう」
「うん!」

 と、可愛らしい笑顔で頷き、席についてご飯をパクパクと食べ始める。

 ご飯を食べ終えた後は、早速設計の開始だ。
 以前は2人が求める素材をゲットできるか分からなかったので、大まかな感じでしか決めていなかった。
 でも、今は必要な素材をほとんど集めることができた。
 なので、2人の求める設計を詳細に詰めていくことができる。

「じゃ、先にあたしからね」
「……」
「ララ、後であなたが望むまでやりますから、先にフィーネとやらせてくださいな」
「……分かった」

 ララは自分がやりたかったのに……。
 という目を向けてきていたが、きっと前回と同じで朝までかかってしまう気がした。
 なので、先にフィーネとの方を先にやることにしたのだ。

「って言っても、前回話した通りの内容でできるのよね?」
「ええ、その通りですわ。せっかくなら少し面白い要素を付け足したいとも思っていますけれど」
「付け足す……?」
「ええ、きっと喜んでもらえると思いますわ」
「そう、なら楽しみにしておくわね」

 フィーネはニヤリと笑って席を立ち上がる。

「それに、ララが早くしろって目で言ってきてるし、あたしは前にお願いしたので問題ないわ」
「わかりましたわ。ではそのようにいたしますわね」
「ええ、よろしく。そういえば欲しいドレスはある? 普通の服でもいいけど」
「あ、そうですわね。せっかくなので、水耐性があるドレスが欲しいですわ」

 アクアピュアウッドを採る時や。海底洞窟を採掘する時もあったらいいなと思ったのだ。

 フィーネは頷いて手を振った。

「なるほど、作っておく」
「よろしくお願いいたしますわ」

 というやり取りをしたあと、フィーネは部屋に帰っていく。

「さて……」
「キッチン」
「え、ええ。分かっています」
「大きいシンクに最高火力のコンロ、毒霧でも吐きだす換気扇。それに無限に入る収納。ああ、食材が悪くならない時間停止機能付きの食料庫も欲しい。当然、カウンターも広くして欲しい」
「分かっていますわ」
「それからそれから、大きさも結構こだわりがあって」

 ララはわたくしと一緒にキッチンについてこれでもかと話す。

 ただ、当然全部出来る訳ではない。

「シンクは広くして欲しい。それに、このお願いした素材でやれると嬉しい」
「でも、お風呂を作る時に見つけたこのアクアピュアウッドもかなり使い勝手がいいと思うのです。これなら耐水性もありますし、自浄作用もあるので使い勝手はいいと思います」
「そうなの? でも、ちょっと乱暴に扱うかもしれないけど、問題ない?」
「お風呂に使っているので、大丈夫だと思います。ダメだったらその都度作り直しましょう。それでいかがですか?」
「……いいの? 大変だと思うけど」

 ララが申し訳なさそうに聞いてくるけれど、わたくしは笑顔で返す。

「いつも美味しい料理を作ってくださっているので、これくらいいくらでもやりますわ。なので気にしないでくださいな」
「……うん。もっと美味しい料理いっぱい作る」
「ええ、それでは、ちゃんとララが満足いくまでキッチンの設計を詰めて行きましょうか」
「うん!」

 ララとの話し合いが終わったのは、なんとか空が白む前だった。
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