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1章

第24話 依頼内容

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 わたくしは走り去っていった彼女の方に足を向けるけれど、足が止まる。

「ティエラ……何をしていますの?」

 彼がわたくしのドレスのすそを噛んでいた。

 彼はドレスから口を離し、ゆっくりと言う。

「今はこっちの契約者が先だ」
「でも……」
「匂いは覚えた。仕事を進めてからにするべきだ」
「……わかりました」

 ティエラはそういうところに厳しいので、素直に従うことにする。

「失礼します」

 わたくしがそう言って『森妖精の羽衣』に入ると、中の人たちは慌ただしく掃除をしていた。

 その中の1人がわたしに気づくと、声をかけてくる。

「ごめんね。今日はトラブルがあって休みなんだ。また今度にしてくれる?」

 彼女はカラフルな服を着た中々独特な感じのエルフだった。
 手にはデッキブラシを持ち、顔はちょっと疲れている。

「いえ、実は倉庫の新築? の依頼で来たのですが……」
「え、もう来てくれたの!? それはラッキー! おばば! ちょっとぉ!」

 彼女はそう言って奥に走って行く。
 わたくしはその場で待つことにした。

 その間に店を見ていると、前に来た時よりもありえないくらい狭くなっていた。
 理由としては、所狭しと服や布が置かれているのだ。
 なんで……と思ったけれど、倉庫が壊れてその服などをこっちに避難させているのかもしれない。

 それから数分後、奥に誰かを呼びにいった方が戻ってくる。

「待たせちゃってごめんね。でも話はついたから! こっち来て!」
「あの、毛は落とさない様にお願いするので、外にいる従魔……友人も一緒でもよろしいでしょうか?」
「あーそうだね。今日はいいよ」
「ありがとうございますわ」

 ということで、ティエラを呼びに行き、一緒に店の奥、前に行った所とは違う所に進む。

「おばば、入るわよ!」

 そう言って彼女は扉を開け、わたくしに入るようにせっついてくる。

「失礼しますわ」
「失礼する」
「よく来たね」

 部屋の中にはシンプルで、来客用の机やソファ、後は仕事用の机とイスがあるくらいだった。
 部屋は結構狭く、全て木で作られている。

「座っとくれ」

 そう言ってくるのは、おばばと呼ばれていた通りかなりの高齢のエルフだった。
 背中が曲がり、机には杖も置かれている。

 わたくしはそんな彼女に向けて礼をする。

「はじめまして、わたくし、クレア……クレアと申しますわ。よろしくお願いいたします」
「クレア・クレアさんかい?」
「いえ、単純にクレアです」

 普通に家名を言いそうになってしまった。

 彼女は気にせずに話を続ける。

「そうかい。あたしはマーガレットだよ。それで依頼の話をするんだ。座っとくれ」
「はい。ありがとうございます」

 わたくしはソファに座り、ティエラはわたくしの後ろに座る。

「それで倉庫の新築の件だけれど、レンガ造りでしっかりとしたのを作って欲しいんだ。大きさは紙に書いてある通り前と同じくらいで。それで、できるだけ雨漏りをしないように作って欲しい」
「……なるほど」

 エルフって木で作るのが伝統と聞いていたんだけれど、違っていたのだろうか。

「それで、費用とかもそこに書いてあるもので頼みたい。先日の大雨で倉庫が壊れちまってねぇ。服や布がかなり濡れて仕事にもなりゃしないんだ。急ぎで頼めるかい?」
「そう……ですわね。一度……案内していただいてもよろしいですか?」
「いいよ。と、それじゃあこっちだ」

 マーガレットさんはそう言って立ち上がり、杖をそのままにして歩き出す。

「あの……杖はいらないのですか?」
「いらないよ。そこまでおいぼれちゃいない」
「……」

 じゃあなんで……と思ったけれど、それは後でいいだろう。

 彼女に案内されるままに以前行った倉庫に行く。
 すると、そこは結構酷い状態だった。

 小さな体育館くらいの広さがあった建物は、1階部分ですら雨漏りがしていた。
 最上階の3階に行くと、そこでは天井に3か所も壊れている部分がある。

「これは……まずいですわね」
「ああ、先日の雨でとうとう壊れてしまってねぇ。まぁ、今は服や布を避難させている最中だから、数日くらい後から取り掛かって欲しい。出来るかい?」
「あの……この木材たちはわたくしたちで壊すということでしょうか?」
「ああ、処分費用も入っているからね」
「かしこまりました。では、色々とご希望などももう一度伺ってもよろしいでしょうか?」
「もちろんだよ」

 それから、わたくしはマーガレットさんから要望などを聞く。
 内容としては、基本的に前と同じように広く頑丈で、なによりも雨漏りをしないで欲しい。
 ということだった。
 なので、一度こちらで考えや設計をまとめてくると告げて店から出た。


「なるほど……では……ティエラ。追いかけて下さいますか?」
「ああ、クレアなら仕事をちゃんとやってくれると思っていた。こっちだ」

 ティエラが進む方にわたくしもついてく。
 10分ほど歩き、人気が少なくなって来た所で、ベンチに座っている少女を見つける。

 彼女はベンチの上で両足を抱え込むようにして座っていて、顔をみることはできない。
 でも、どう見ても思い悩んでいることは確かだった。

 わたくしはゆっくりと進んで彼女の隣に腰を下ろし、声をかける。

「少しよろしいでしょうか」
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