上 下
17 / 60
1章

第17話 ロックゴリラの肉

しおりを挟む
 ざわざわざわざわ。

「なんでしょう……街に入ってからやたら視線を感じますが……」
「みんながクレアの素晴らしさに気づいたのだろう。やっと気づくとはしょうがない奴らだ」
「そうでしょうか……?」

 わたくしたちは、狩ったロックゴリラの肉をどうするかルーシーさんに相談するために街に来ていた。

 わたくし一人でも持つことはできたけれど、ティエラが身体から生やした串に刺して持ってくれている。
 持っているとは言えないかもしれないけど……。

「ごめん下さいですわ~」

 わたくしたちが手工業ギルドに入ると、ざわわ、と建物の中がざわつく。

 わたくしはそういうことには気にせず、ルーシーさんを見つけた。
 幸いなことに、誰も並んでいなかったのですぐにお話ができた。

「クレアさん……? その……大きな肉の塊は……?」
「これはロックゴリラのお肉ですわ。建物を作るのに必要だったので、少々狩ったのです」
「す、すごいですね……Dランクはある魔物なんですが……」
「ティエラがすごいのですわ」

 わたくしはティエラの頭をよしよし撫でると、ティエラは嬉しそうに手にもっと撫でろと返してくる。

「な、なるほど、それで、そのお肉をどうしてこちらへ?」
「いえ、魔物のお肉は流石に建材にはできないので、どうしようかなとわからず相談に乗って欲しかったのです」
「なるほど……それに関しては、3種類……いえ、4種類ほど選択肢がございます」
「教えてくださいますか?」
「もちろんです」

 ルーシーさんは笑顔で続きを話してくれた。

「まずは冒険者ギルドにその素材を売る。ということになります」
「この素材を?」
「ええ、ロックゴリラの肉はそれなりの肉として売られています。見たところ汚れやどうにもならない傷もないようですので、一番高く買い取ってくれるでしょう」
「なるほど」
「それに、冒険者ギルドで依頼を受けてもっと狩るようにしたら、ランクも上がっていきます」

 それは正直勘弁していただきたい所です。
 冒険者ランクがあがるようなことはしたくないので。
 王都に連れ戻されるのは困る。

「2つ目を伺っても?」
「はい。その場合は、この手工業ギルドに売って頂く、という選択肢です」
「ここでも買い取って下さるんですか?」
「もちろんです。ただ、冒険者ギルドほどお支払いできませんし、ランクが上がるようなことも正直できないです。何かあった際に相談に乗る等できる限りのことはいたしますが、国家を跨ぐ大組織である冒険者ギルドほど手工業ギルドは大きくないので、その点はご理解いただきたいです」
「なるほどですわ」

 ちゃんとこうやってメリットデメリットを話して下さるのはとても嬉しい。

「では3つ目ですが、クレア様ご自身で他のギルドや店に売りに行く選択肢です」
「自分で……ですの?」
「はい。その際はクレア様ご自身で販売の値段交渉を行っていただくほかなく、高く売れるかはクレア様も力量次第になってきます」
「それで4つ目は?」

 わたくしの言葉に、ルーシーさんはニコリと笑って答えてくれる。

「それはクレア様ご自身で食べることです」
「自分で……」
「はい。ロックゴリラの肉は結構美味しいので、適当に焼いて塩を振るだけでも満足できますよ。いっそのこと、店に売ったり持ち込んだりして、調理してもらうということもできます」
「なるほど!」
「私が考えられるのは以上になります」

 ルーシーさんがそう言って下さるので、少しだけ考えてから答える。

「では、1つを残してそれ以外はこちらで売りたいと思いますわ」
「よろしいのですか? 私としては冒険者ギルドがやはりおススメですが……」
「構いませんわ! ルーシーさんにはとてもお世話になっていますから」

 と言いつつ、冒険者ギルドのランクをあげたくない。
 それが本音ではあるけれど、ルーシーさんにお世話になったので、そのお返しもしたい気持ちも当然ある。

「かしこまりました。では、裏へお越しください」
「わかりましたわ」

 わたくしはティエラと共に、ルーシーさんについていく。

 ついて行った先は倉庫で、中には解体するための小中大特大といったサイズの台が置かれていた。

「ここで確認をしてからになります。それでもよろしいですか?」
「問題ありません」
「明日には終わります」
「かしこまりましたわ」

 ティエラが串を操作してロックゴリラの肉を中くらいの机の上に置いていく。

「それでは確かに受け取りました。では、こちらをお持ちください」

 ルーシーさんに渡された木札には数字が書いてあった。

「それは中に魔力が込められていて、照会を行います。お忘れしないようにお願いします」
「はいですわ」
「クレアさん、できるか分かりませんが、出来る限りは値段をあげたいと思いますので、お待ちください」
「ありがとうございます」
「それと、難しいかもしれないのですが、一つ、よろしいですか?」
「なんですの?」
「マジックバックを持つことをおススメします」

 そう言われて、わたくしは首をかしげる。

「なんですの? それは?」
「中の空間が拡張されているカバンです。ロックゴリラのような素材を持ってくる場合、そういったものに入れておいた方が余計なことに巻き込まれずに済みますから」
「なるほど、確かに虫がついたりしたらお肉としてまずいですわね……」
「そういうことではないのですが……」
「そうなんですの? でも、ご丁寧にありがとうございますわ」
「いえ、それでは、ありがとうございます」
「こちらこそ、それでは、ごきげんよう」
「ええ」

 ということで、わたくしは手工業ギルドを後にした。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~

白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」 マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。 そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。 だが、この世には例外というものがある。 ストロング家の次女であるアールマティだ。 実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。 そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】 戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。 「仰せのままに」 父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。 「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」 脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。 アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃 ストロング領は大飢饉となっていた。 農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。 主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。 短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。

精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ
ファンタジー
 2020.9.6.完結いたしました。  2020.9.28. 追補を入れました。  2021.4. 2. 追補を追加しました。  人が精霊と袂を分かった世界。  魔力なしの忌子として瘴気の森に捨てられた幼子は、精霊が好む姿かたちをしていた。  幼子は、ターニャという名を精霊から貰い、精霊の森で精霊に愛されて育った。  ある日、ターニャは人間ある以上は、人間の世界を知るべきだと、育ての親である大精霊に言われる。  人の世の常識を知らないターニャの行動は、周囲の人々を困惑させる。  そして、魔力の強い者が人々を支配すると言う世界で、ターニャは既存の価値観を意識せずにぶち壊していく。  オーソドックスなファンタジーを心がけようと思います。読んでいただけたら嬉しいです。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜

神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。 聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。 イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。 いわゆる地味子だ。 彼女の能力も地味だった。 使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。 唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。 そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。 ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。 しかし、彼女は目立たない実力者だった。 素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。 司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。 難しい相談でも難なくこなす知識と教養。 全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。 彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。 彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。 地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。 全部で5万字。 カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。 HOTランキング女性向け1位。 日間ファンタジーランキング1位。 日間完結ランキング1位。 応援してくれた、みなさんのおかげです。 ありがとうございます。とても嬉しいです!

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。

下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。 ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。 小説家になろう様でも投稿しています。

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

処理中です...