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1章
第1話 優雅な没落
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本日は10話投稿します!
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「クレア、これから私たちフィレイア男爵家は没落します。あなたは優雅に没落するのよ」
「はい。お母さ……没落ですの!?」
15歳になる前日の夜。
わたくしはお母様から衝撃的な告白を受けました。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
それから没落するという衝撃に頭の中を新しい自分が駆け巡る。
日本とか社畜とか安全基準とか聞いたこともない言葉や記憶。
それがなんなのか理解しようとしていると、気づいた時には王都の城壁の外にいたのです。
「それじゃあクレア。私たちは東の国に行きます。あなたはバレないように西の領地、カレドニアという街を目指しなさい。あそこならあなたも受け入れてもらえるでしょう。ティエラ、マーレ。クレアのこと、頼みましたよ」
「お任せろ。俺がクレアを守る」
「僕もそこそこに守るよ~」
「お願いします」
そう言ってお母様はわたくしのお友達である、狼型の魔物であるティエレと、クマ型の魔物であるマーレに頭を下げる。
彼女はそれからわたくしを強く抱きしめてくれた。
「クレア。ごめんなさい。私たちの力が足りないばっかりに……でも、あなたならきっと生きていけるわ。ティエラ達の力を借りてしっかりね」
「え……えぇ、分かりました」
「愛しています。それではいつかまた優雅に会えることを願っているわ」
それから父とも同じような別れをして、彼らは夜の闇に消えていった。
「どうしてわたくしは一緒ではないのかしら……」
両親は馬車等を使って移動していたのだけれど、わたくしはバッグ一つ。
中にはかなりの量の金貨や着替えなどが入っている。
しかし、きっと両親には何か理由があるのだろう。
「ま、没落したのなら仕方ありません。優雅にカレドニアを目指しましょう!」
「流石クレアだ。すぐに切り替えられるのだな!」
「さっきの今ですぐに納得できるのはすごいよね」
わたくしは気持ちを切り替えて、答えてくれたティエラとマーレの方を向く。
ティエラは2メートルはあろうかという体躯に白銀の毛並み、足先と尻尾の先端が茶色い狼。
森で出会ってなぜかそのまま一緒にいることになったとっても仲良しのお友達。
マーレの方は、全身真っ黒だけれど、お腹に水色のミカヅキ模様が入ったクマだ。
立ち上がると3mはある巨体で、とっても力持ち、彼とはティエラと森で遊んでいる時に出会い、そのまま一緒にいることになったお友達。
「あれ? シエロはどこに?」
わたくしの疑問に、ティエラが答えてくれる。
「野暮用だそうだ。ちゃんと帰ってくるから心配しなくていい」
「そうなのですね。わかりましたわ」
「それよりもこれからどうする?」
「どうするとは? カレドニアに行くのでは?」
わたくしの言葉に、ティエラは首を横に振った。
「王都に返り咲いてもいいと思う」
「え? 没落したのでは?」
「庶民からでも、頑張ればいけないことはない。その……薄紫の綺麗な長髪や、お嬢様が着ているその深緑のドレスは着れないが」
「それは……わたくしではないと思いますが……」
両親からは常に優雅に生きるべし。
そう言われて育ったのだ。
今更、今のわたくしを変えることなど出来るはずもない。
この優雅な長髪も、優雅なドレスもわたくしであるのだ。
そう思っているわたくしに、マーレがさらに口を開く。
「それに、かなり……どころか、死ぬ気で働かないといけないからね。素直にカレドニアに行くのがいいんじゃないのかな」
「死ぬ気で……」
「うん。それこそ日付が変わるくらいまで毎日ずっと」
「日付……毎日……」
彼の言葉に、頭の中で何かが叫ぶ。
そして、没落したことでショックを受け、わたくしはさきほどまで思い浮んでいた記憶を思いだした。
「わたくし……こんな知識ありましたかしら?」
「どうかしたか?」
「どうしたの?」
「いえ……日本……や地球……という言葉を知っていらっしゃいますか?」
わたくしの言葉に2人は顔を見合わせて頷き、マーレが答えてくれる。
「僕達は知ってるよ。異世界の名前だよね」
「そうなんですの!?」
「そうだよ。時折そっちから人が来るらしいけど、思い出すタイプは聞いたことがないかも」
そう言われても、どうしたらいいのかわからない。
でも、ティエラにとっては行幸だったらしい。
「その知識を使えばクレアは簡単に上にいけるぞ! ちょっと頑張って働くだけで、すぐに公爵にだってなれる! クレアはやっぱり王都でこそ咲くべきだ!」
「ティエラ。決まったことを掘り返すのは止めな」
マーレがティエラをたしなめているけれど、わたくしは違ったことに意識を持って行かれていた。
「頑張って……働く……?」
ティエラの言葉でわたくしの頭の中に恐ろしい記憶が駆け巡る。
「面接詐欺……初日から残業……教育? 見て覚えろ……パワハラ……サビ残……退職代行? 実家凸……う、頭が」
「クレア!?」
「クレア?」
2人が心配してくれるけれど、わたくしの記憶が絶対に王都に戻るべきではないと叫ぶ。
それと同時に、代わりの言葉も見つけてくれた。
「すみません2人とも。わたくし、やはり王都には戻りませんわ」
「そっか……」
「理由くらいは聞いてもいい?」
「ええ、わたくし、王都でハードに働くなんてまっぴらごめんですの。FIREして田舎に行ってスローライフがしたいのですわ」
「王都を火の海にしてから田舎に? 確かにそうした方が逃げやすいけど……」
「本当に火を放つわけではありませんわ。ただ、異世界だとそういう言葉になるらしいんですの!」
マーレは納得して頷く。
「なるほど、本当に異世界の記憶を……それでティエラが来たのかな。ま、それはいいか。それよりカレドニアに行こう」
「そうですわね。夜逃げみたいで優雅と言えるのか怪しいですが、すぐに行きましょう」
「だね。見張りの兵士に見つかったら面倒だし」
「ええ、ティエラもそれでいいかしら?」
「……まぁクレアがそう言うなら」
「ええ、わたくしは王都で育ったとはいえ、優雅に暮らすのはここでなければいけない理由はありませんから。わたくしはあくまで優雅に生きる貴族令嬢でしてよ!」
わたくしは高らかにそう言うと、マーレから補足が入る。
「没落したっていう言葉が入るけどね」
「それもよし!」
「いいの!?」
「ええ! いいのですわ! 没落した優雅な貴族令嬢! そうなっても優雅に振舞えることが大事なのです!」
貴族であるなしは関係ない!
わたくしがわたくしであることが大事なのですわ!
そう、わたくしは優雅にスローライフを送るのです!
「流石俺達のクレアだ。しびれる憧れる」
「ティエラはクレアを甘やかすのは止めた方がいいと思うけど……」
それから、わたくし達は夜の街道をカレドニアに向かって進むのですわ。
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「クレア、これから私たちフィレイア男爵家は没落します。あなたは優雅に没落するのよ」
「はい。お母さ……没落ですの!?」
15歳になる前日の夜。
わたくしはお母様から衝撃的な告白を受けました。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
それから没落するという衝撃に頭の中を新しい自分が駆け巡る。
日本とか社畜とか安全基準とか聞いたこともない言葉や記憶。
それがなんなのか理解しようとしていると、気づいた時には王都の城壁の外にいたのです。
「それじゃあクレア。私たちは東の国に行きます。あなたはバレないように西の領地、カレドニアという街を目指しなさい。あそこならあなたも受け入れてもらえるでしょう。ティエラ、マーレ。クレアのこと、頼みましたよ」
「お任せろ。俺がクレアを守る」
「僕もそこそこに守るよ~」
「お願いします」
そう言ってお母様はわたくしのお友達である、狼型の魔物であるティエレと、クマ型の魔物であるマーレに頭を下げる。
彼女はそれからわたくしを強く抱きしめてくれた。
「クレア。ごめんなさい。私たちの力が足りないばっかりに……でも、あなたならきっと生きていけるわ。ティエラ達の力を借りてしっかりね」
「え……えぇ、分かりました」
「愛しています。それではいつかまた優雅に会えることを願っているわ」
それから父とも同じような別れをして、彼らは夜の闇に消えていった。
「どうしてわたくしは一緒ではないのかしら……」
両親は馬車等を使って移動していたのだけれど、わたくしはバッグ一つ。
中にはかなりの量の金貨や着替えなどが入っている。
しかし、きっと両親には何か理由があるのだろう。
「ま、没落したのなら仕方ありません。優雅にカレドニアを目指しましょう!」
「流石クレアだ。すぐに切り替えられるのだな!」
「さっきの今ですぐに納得できるのはすごいよね」
わたくしは気持ちを切り替えて、答えてくれたティエラとマーレの方を向く。
ティエラは2メートルはあろうかという体躯に白銀の毛並み、足先と尻尾の先端が茶色い狼。
森で出会ってなぜかそのまま一緒にいることになったとっても仲良しのお友達。
マーレの方は、全身真っ黒だけれど、お腹に水色のミカヅキ模様が入ったクマだ。
立ち上がると3mはある巨体で、とっても力持ち、彼とはティエラと森で遊んでいる時に出会い、そのまま一緒にいることになったお友達。
「あれ? シエロはどこに?」
わたくしの疑問に、ティエラが答えてくれる。
「野暮用だそうだ。ちゃんと帰ってくるから心配しなくていい」
「そうなのですね。わかりましたわ」
「それよりもこれからどうする?」
「どうするとは? カレドニアに行くのでは?」
わたくしの言葉に、ティエラは首を横に振った。
「王都に返り咲いてもいいと思う」
「え? 没落したのでは?」
「庶民からでも、頑張ればいけないことはない。その……薄紫の綺麗な長髪や、お嬢様が着ているその深緑のドレスは着れないが」
「それは……わたくしではないと思いますが……」
両親からは常に優雅に生きるべし。
そう言われて育ったのだ。
今更、今のわたくしを変えることなど出来るはずもない。
この優雅な長髪も、優雅なドレスもわたくしであるのだ。
そう思っているわたくしに、マーレがさらに口を開く。
「それに、かなり……どころか、死ぬ気で働かないといけないからね。素直にカレドニアに行くのがいいんじゃないのかな」
「死ぬ気で……」
「うん。それこそ日付が変わるくらいまで毎日ずっと」
「日付……毎日……」
彼の言葉に、頭の中で何かが叫ぶ。
そして、没落したことでショックを受け、わたくしはさきほどまで思い浮んでいた記憶を思いだした。
「わたくし……こんな知識ありましたかしら?」
「どうかしたか?」
「どうしたの?」
「いえ……日本……や地球……という言葉を知っていらっしゃいますか?」
わたくしの言葉に2人は顔を見合わせて頷き、マーレが答えてくれる。
「僕達は知ってるよ。異世界の名前だよね」
「そうなんですの!?」
「そうだよ。時折そっちから人が来るらしいけど、思い出すタイプは聞いたことがないかも」
そう言われても、どうしたらいいのかわからない。
でも、ティエラにとっては行幸だったらしい。
「その知識を使えばクレアは簡単に上にいけるぞ! ちょっと頑張って働くだけで、すぐに公爵にだってなれる! クレアはやっぱり王都でこそ咲くべきだ!」
「ティエラ。決まったことを掘り返すのは止めな」
マーレがティエラをたしなめているけれど、わたくしは違ったことに意識を持って行かれていた。
「頑張って……働く……?」
ティエラの言葉でわたくしの頭の中に恐ろしい記憶が駆け巡る。
「面接詐欺……初日から残業……教育? 見て覚えろ……パワハラ……サビ残……退職代行? 実家凸……う、頭が」
「クレア!?」
「クレア?」
2人が心配してくれるけれど、わたくしの記憶が絶対に王都に戻るべきではないと叫ぶ。
それと同時に、代わりの言葉も見つけてくれた。
「すみません2人とも。わたくし、やはり王都には戻りませんわ」
「そっか……」
「理由くらいは聞いてもいい?」
「ええ、わたくし、王都でハードに働くなんてまっぴらごめんですの。FIREして田舎に行ってスローライフがしたいのですわ」
「王都を火の海にしてから田舎に? 確かにそうした方が逃げやすいけど……」
「本当に火を放つわけではありませんわ。ただ、異世界だとそういう言葉になるらしいんですの!」
マーレは納得して頷く。
「なるほど、本当に異世界の記憶を……それでティエラが来たのかな。ま、それはいいか。それよりカレドニアに行こう」
「そうですわね。夜逃げみたいで優雅と言えるのか怪しいですが、すぐに行きましょう」
「だね。見張りの兵士に見つかったら面倒だし」
「ええ、ティエラもそれでいいかしら?」
「……まぁクレアがそう言うなら」
「ええ、わたくしは王都で育ったとはいえ、優雅に暮らすのはここでなければいけない理由はありませんから。わたくしはあくまで優雅に生きる貴族令嬢でしてよ!」
わたくしは高らかにそう言うと、マーレから補足が入る。
「没落したっていう言葉が入るけどね」
「それもよし!」
「いいの!?」
「ええ! いいのですわ! 没落した優雅な貴族令嬢! そうなっても優雅に振舞えることが大事なのです!」
貴族であるなしは関係ない!
わたくしがわたくしであることが大事なのですわ!
そう、わたくしは優雅にスローライフを送るのです!
「流石俺達のクレアだ。しびれる憧れる」
「ティエラはクレアを甘やかすのは止めた方がいいと思うけど……」
それから、わたくし達は夜の街道をカレドニアに向かって進むのですわ。
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