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8章 王都ファラミシア2

148話 初めての孤独

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「はぁ……ここ……魔法が使えないのか……」

 なんでなんだろう……。
 ということを考えても仕方ない。
 というか、ヴァイス達との従魔の繋がりも感じることができない。

 いつもだったら集中したらこっちの方にいるな、ということが分かるのに、今はその繋がりを感じることができない。

 最初はショックで何も考えられなかった。

 でも、数時間もしたら、みんなに会いたいという気持ちが湧いて出てくる。
 だからこうしているよりも出ることを考えないと。
 ではどうやったら脱出できるのか、ということになるんだけれど、怪しいと思うのは天井に書かれている文字だ。

 もちろん、壁とか床とかの中に何か仕込まれている可能性はあるけれど、それでも、天井の文字を読むことができたら何か……変わるかもしれない。
 考えなしに消しても……と思ったけれど、それをしたことで警戒されたり、拘束されることは避けたい。
 それに、今すぐに天井まで届く道具がある訳でもないので、もしかしたら消さなくてもいいかもしれないし、勉強にかこつけて道具をここに持って貰えるようになるかもしれない。

「それにしても……1人ってこんなに静かだったんだな……」

 今までこっちの世界に来てから、ずっとヴァイス達といた。
 だからか、こうやって1人でいる時間が少し……怖い。

 パン!

 わたしは気合を入れるために頬を叩いて、活を入れる。

「よし……あの! モルドさん! すいません!」

 わたしがモルドさんを呼んで数秒。

「失礼します」

 2秒とかからずに部屋に入ってきた。

 ということは、彼は部屋の前にいて監視もされていると考えるのは妥当だろう。
 でも、その前に、

「(鑑定)」

 わたしは彼をじっと見つめる。

《名前》 モルド
《種族》 人間
《年齢》 16才
《レベル》 50
《状態》 健康 洗脳
《体力》 902
《魔力 36
《力》 488
《器用さ》 431
《素早さ》 505
《スキル》 格闘術 
《称号》 奴隷

 つっよ。
 なに? この世界の人ってこれ……やっぱりこれが普通だったりするのかな。
 みんな強いんだけど……。

 いや、でも、それよりも大事な部分は状態のところだ。
 洗脳状態になっている。
 彼もなんとかして助けてあげたい。
 そう思うけれど、今は自分のことで手一杯だ。

 わたしは……できることが大してある訳じゃない。
 でも……今はできることをするべきだ。

「あの……少し聞いてもいいですか?」
「なんでしょうか?」
「モルドさんは、文字を読むことが出来ますか?」
「はい。基礎教養として習っています」
「なら、それをわたしに教えて欲しいんですが、いいでしょうか?」

 ダメだと言われたら考え直しをしないといけない。
 けど、彼はそんなことは言わなかった。

「かしこまりました。それでは教材を取ってきますね」
「はい。ありがとうございます」

 ということで、文字を教えてもらえることになった。


 それから少しして、モルドさんが薄汚れた黒板と、薄いボロボロの本を持ってきた。
 彼はそれを差し出してくるので、わたしは受け取る。

「あの……これ……なんか付いていません?」
「それはわたくしの血です」
「怖いですよ!?」

 ホラーを求めている訳ではないんですが!?

 そう思っていると、モルドさんは不思議そうに首を傾げる。

「文字を覚えなければ指導でしたから。あの時はわたくしもよく叫んでいましたが……若かったものです」
「……」

 いや、指導で叫ぶってそれ……どう考えてもやばいことをされている。

 わたしは何か彼にできるという訳ではない。
 それに、わたしは……。

「大したお話ではありません。文字の勉強をしますよ」
「……」
「サクヤ様?」
「……はい。やります」

 わたしは今自分にできることを考えて、文字の勉強を必死でやった。

 それから朝から晩? でいいのだろうか?
 1日中ずっと文字の勉強をしていたら、簡単な文字は読めるようになっていた。

「こんな風に読めるんですね」
「はい。サクヤ様はとても素晴らしいです。わたくしはここまで読める様になるまで3か月はかかったと記憶しています」
「え? そ、そうなんですか? モルドさんの教え方がとってもいいからだと思います!」

 前世で日本語はちゃんと読み書き出来たから……ね。
 それに、若返って脳が色々と吸収しやすくなっているということもあるかもしれない。

 でも、モルドさんは首を横に振って言う。

「いいえ、サクヤ様が素晴らしいのです。頭の回りもいいですし、飲み込みも早いですよ」
「あ、ありがとうございます」
「こちらこそありがとうございます。真剣にお話を聞いていただけて、よい時間を過ごせたと思っています」
「そんな……」

 わたしが頼んだのに、お礼を言われるようなことなんて……。
 でも、そう淡々と言ってくれるモルドさん。
 そこには洗脳されている様な雰囲気は一切なく、とても優しい。
 顔は相変わらずの無表情だけれど。

 そう思っていると、彼は思い出したかのように頭を深々と下げる。

「大変申し訳ありません」
「え? なんのお話ですか?」
「高貴なサクヤ様を、奴隷のわたくし等と比較してしまい申し訳ありません。どのような処罰も受けますので、お許しを」
「処罰なんて……そんなことしませんよ」

 自分と比較されたくらいでそんな……。

 でも、モルドさんは表情を変えないまま首をかしげる。

「そうなのですか? 奴隷への教育は貴族様の義務だと伺っていますが……」
「……わたしは貴族ではありません。それに、モルドさんとわたしは対等な人間です」

 モルドさんの考えに、わたしは思わずそう言ってしまう。

 彼はしばし黙った後、すっと頭を下げた。

「失礼いたしました。そのように考えられる方もいらっしゃるのですね。覚えておくようにいたします」
「いえ……」
「それでは、そろそろ夜分になりますので、食事を運んで来ます。それを食べたらお休み下さい」

 モルドさんはそう言って部屋から出て行く。

 文字を教えてくれている最中は優しい雰囲気を出していたのに、最後には出会った時のような人形に戻っていた。

「それに……天井の文字も全然分かんない」

 ここから出るために……わたしは頑張らないと。
 待っていて……みんな、絶対に……わたしはここから出てみせるから。
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