81 / 111
7章 スウォーティーの村
131話 はちみつレモンケーキ
しおりを挟む
わたしはミエーレさんが作ったはちみつレモンケーキを口に入れると、しっとりした触感にほのかな甘酸っぱい味が口の中いっぱいに広がる。
「美味しいですよ! これ!」
「はい! とっても美味しいです!」
パウンドケーキにはちみつって言ったらレモンくらいしか思い浮かばなかったので、適当に言ったらミエーレさんが上手いこと作ってくれた。
彼の笑顔もとても素敵で、甘いものは世界が違っていようが笑顔にさせることは共通なのだ。
アドバイスを求められた時はマジでどうしようと思ったけれど、なんとかなって良かった。
彼が昇進? か、新しい物を作ることができて、その力になれて良かった。
「これでミエーレさんの問題も解決ですね!」
「ええ……ありがとうございます。この御恩は忘れません。パティシエが必要になった時は、ぜひとも私をお呼びください。王都位でしたらいくらでも行きますので」
「いえいえ、ミエーレさんの美味しいお菓子を食べられただけで満足ですよ!」
「……ありがとうございます」
彼は結構自信家だったように見えたけれど、すっとわたしに頭を下げてくる。
「頭をあげてください!」
「いえ……本当にありがとうございます。これで、上司も認めてくれるでしょう」
「それでは戻りませんか? 今日はもう大分遅いので」
「すみません。こんな時間まで連れていてしまって」
「ミエーレさんが作るお菓子作りはとっても洗練されていて、かっこよかったので楽しかったですよ!」
お菓子作りの動き1つ1つのキレが違うと言ったらいいだろうか。
動く時は動き、止まる時は止まる。
一種の芸術作品のようにも感じていたくらいだ。
「ありがとうございます。このお菓子……持ってかれますか?」
「いいんですか?」
「はい。私はまた何度でも作れるので、待たせてしまっている方々に食べさせてあげてください」
「ありがとうございます!」
「では、戻りましょう」
「はい!」
わたしは貰ったはちみつレモンケーキを切り分けてもらい、紙で包んでポーチの中という体のアイテムボックスにいれる。
そして厨房から出ると、ウィンがじっとわたしの方をみていた。
その上でヴァイスとルビーは気持ちよさそうに眠っている。
「ただいま、ウィン」
『おかえり、何かされなかったか? 無事だったか?』
ウィンから念話が返ってくるので、わたしも念話で返す。
『大丈夫だったよ。怪我一つしてないから。それよりも、新しく作ったお菓子貰ったから、部屋に行って食べよう?』
『そうだな』
ということで、わたし達は宿に……と思ったのだけれど、パステールは宿もやっているらしく、泊めて貰えることになった。
「先生、寝る前にこちらをどうぞ」
わたしは切って貰っていたケーキを渡す。
「いいのかい?」
「はい! 先生に案内してもらいましたから!」
「ありがとう。明日はもっとこの村を案内してあげるからね。楽しみにしていて」
「ありがとうございます!」
ということで、わたし達は別れて部屋に入る。
「豪華だね……」
部屋の中は貴族が泊まるような広くきれいな部屋で、装飾品の全てが煌びやかに見えるほどだ。
ベッドは当然天蓋付きで、ソファもローテーブルを挟んで2台置かれているし、天井には小ぶりなシャンデリアがぶら下がっている。
「落ちて来ないかな……」
ちょっと別の事を心配してしまうと、ウィンから反応が返ってくる。
「落ちる前に落してしまうか?」
「それは流石にダメでしょ」
「なら魔法で包んでおくか?」
「ううん。適当に言っただけだから」
ということで、わたし達は……どうしようか。
「ヴァイス達を起こすのもかわいそうかな」
「どうだろうな。サクヤ達が作っていたケーキの匂いを嗅がせたら飛び起きるのではないか?」
「あはは、そんな……そんなことないよね?」
「どうだかな」
ウィンの冗談だとは思いつつも、ちょっと気になったのでやってみる。
「ウビャ……ウビャ?」
「起きた……」
ヴァイスは食欲優先ということだろうか。
それからルビーにもやったけれど、じっと眠ったままだったので、そのままにしておく。
軽く揺すっても起きないくらい深い眠りだったからだ。
「……食べようと思ったけど、ルビーも一緒の時の方にしてもいいかな?」
ルビーだけ仲間外れにしてしまうのは気が引けたので、2体にそう提案する。
「ふ、サクヤは優しいな。俺もそれでいい」
「ウビャゥ!」
ウィンもヴァイスも頷いてくれたので、ケーキはしまってのんびりとする。
あとは皆で揃って寝るだけだ。
高級なベットの上にウィンが丸まり、その上にわたし達はいつものように寝た。
そして翌日。
「キュキュイ―!」
「起きたらすごく元気だね」
ルビーは人一倍寝ていたからか、今は元気よく部屋の中を走っている。
朝ごはん代わりに食べて貰ったはちみつレモンケーキもとても満足していて、見ていて本当に可愛かった。
「さて、それじゃあ先生のところに行って、村の案内をしてもらおう!」
ということで、先生のいる部屋に向かったのだけれど、そこにはすでに来客がいた。
「先生。それではよろしくお願いします」
「ああ、ぼくもすぐに行くから、ここは任せておいてくれ」
「はい。よろしくお願いします」
来客の人は上下長袖の作業着を着ていて、わたしに目をやることなく慌てて走り去っていく。
「先生。おはようございます」
「うん。おはよう。ウィン様もヴァイス様もルビー君も」
先生は柔らかく返してくれる。
「あの、今の方は……?」
「ああ、それについてなんだがサクヤ君。今日の案内は申し訳ないができなくなってしまった。だから代わりに……」
「先生? 何があったんですか?」
「……それが、森の魔物達の様子がおかしいらしい」
「森の?」
「そう。この村の特産品としてはちみつを生み出してくれる。ハニーキラービー達のことだ。このままでは……倒さないといけないかもしれない」
先生はそう言って、険しい顔を浮かべていた。
「美味しいですよ! これ!」
「はい! とっても美味しいです!」
パウンドケーキにはちみつって言ったらレモンくらいしか思い浮かばなかったので、適当に言ったらミエーレさんが上手いこと作ってくれた。
彼の笑顔もとても素敵で、甘いものは世界が違っていようが笑顔にさせることは共通なのだ。
アドバイスを求められた時はマジでどうしようと思ったけれど、なんとかなって良かった。
彼が昇進? か、新しい物を作ることができて、その力になれて良かった。
「これでミエーレさんの問題も解決ですね!」
「ええ……ありがとうございます。この御恩は忘れません。パティシエが必要になった時は、ぜひとも私をお呼びください。王都位でしたらいくらでも行きますので」
「いえいえ、ミエーレさんの美味しいお菓子を食べられただけで満足ですよ!」
「……ありがとうございます」
彼は結構自信家だったように見えたけれど、すっとわたしに頭を下げてくる。
「頭をあげてください!」
「いえ……本当にありがとうございます。これで、上司も認めてくれるでしょう」
「それでは戻りませんか? 今日はもう大分遅いので」
「すみません。こんな時間まで連れていてしまって」
「ミエーレさんが作るお菓子作りはとっても洗練されていて、かっこよかったので楽しかったですよ!」
お菓子作りの動き1つ1つのキレが違うと言ったらいいだろうか。
動く時は動き、止まる時は止まる。
一種の芸術作品のようにも感じていたくらいだ。
「ありがとうございます。このお菓子……持ってかれますか?」
「いいんですか?」
「はい。私はまた何度でも作れるので、待たせてしまっている方々に食べさせてあげてください」
「ありがとうございます!」
「では、戻りましょう」
「はい!」
わたしは貰ったはちみつレモンケーキを切り分けてもらい、紙で包んでポーチの中という体のアイテムボックスにいれる。
そして厨房から出ると、ウィンがじっとわたしの方をみていた。
その上でヴァイスとルビーは気持ちよさそうに眠っている。
「ただいま、ウィン」
『おかえり、何かされなかったか? 無事だったか?』
ウィンから念話が返ってくるので、わたしも念話で返す。
『大丈夫だったよ。怪我一つしてないから。それよりも、新しく作ったお菓子貰ったから、部屋に行って食べよう?』
『そうだな』
ということで、わたし達は宿に……と思ったのだけれど、パステールは宿もやっているらしく、泊めて貰えることになった。
「先生、寝る前にこちらをどうぞ」
わたしは切って貰っていたケーキを渡す。
「いいのかい?」
「はい! 先生に案内してもらいましたから!」
「ありがとう。明日はもっとこの村を案内してあげるからね。楽しみにしていて」
「ありがとうございます!」
ということで、わたし達は別れて部屋に入る。
「豪華だね……」
部屋の中は貴族が泊まるような広くきれいな部屋で、装飾品の全てが煌びやかに見えるほどだ。
ベッドは当然天蓋付きで、ソファもローテーブルを挟んで2台置かれているし、天井には小ぶりなシャンデリアがぶら下がっている。
「落ちて来ないかな……」
ちょっと別の事を心配してしまうと、ウィンから反応が返ってくる。
「落ちる前に落してしまうか?」
「それは流石にダメでしょ」
「なら魔法で包んでおくか?」
「ううん。適当に言っただけだから」
ということで、わたし達は……どうしようか。
「ヴァイス達を起こすのもかわいそうかな」
「どうだろうな。サクヤ達が作っていたケーキの匂いを嗅がせたら飛び起きるのではないか?」
「あはは、そんな……そんなことないよね?」
「どうだかな」
ウィンの冗談だとは思いつつも、ちょっと気になったのでやってみる。
「ウビャ……ウビャ?」
「起きた……」
ヴァイスは食欲優先ということだろうか。
それからルビーにもやったけれど、じっと眠ったままだったので、そのままにしておく。
軽く揺すっても起きないくらい深い眠りだったからだ。
「……食べようと思ったけど、ルビーも一緒の時の方にしてもいいかな?」
ルビーだけ仲間外れにしてしまうのは気が引けたので、2体にそう提案する。
「ふ、サクヤは優しいな。俺もそれでいい」
「ウビャゥ!」
ウィンもヴァイスも頷いてくれたので、ケーキはしまってのんびりとする。
あとは皆で揃って寝るだけだ。
高級なベットの上にウィンが丸まり、その上にわたし達はいつものように寝た。
そして翌日。
「キュキュイ―!」
「起きたらすごく元気だね」
ルビーは人一倍寝ていたからか、今は元気よく部屋の中を走っている。
朝ごはん代わりに食べて貰ったはちみつレモンケーキもとても満足していて、見ていて本当に可愛かった。
「さて、それじゃあ先生のところに行って、村の案内をしてもらおう!」
ということで、先生のいる部屋に向かったのだけれど、そこにはすでに来客がいた。
「先生。それではよろしくお願いします」
「ああ、ぼくもすぐに行くから、ここは任せておいてくれ」
「はい。よろしくお願いします」
来客の人は上下長袖の作業着を着ていて、わたしに目をやることなく慌てて走り去っていく。
「先生。おはようございます」
「うん。おはよう。ウィン様もヴァイス様もルビー君も」
先生は柔らかく返してくれる。
「あの、今の方は……?」
「ああ、それについてなんだがサクヤ君。今日の案内は申し訳ないができなくなってしまった。だから代わりに……」
「先生? 何があったんですか?」
「……それが、森の魔物達の様子がおかしいらしい」
「森の?」
「そう。この村の特産品としてはちみつを生み出してくれる。ハニーキラービー達のことだ。このままでは……倒さないといけないかもしれない」
先生はそう言って、険しい顔を浮かべていた。
657
お気に入りに追加
4,768
あなたにおすすめの小説
【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」
まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。
気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。
私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。
母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。
父を断罪できるチャンスは今しかない。
「お父様は悪くないの!
お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!
だからお父様はお母様に毒をもったの!
お願いお父様を捕まえないで!」
私は声の限りに叫んでいた。
心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。
※他サイトにも投稿しています。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※タイトル変更しました。
旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
義理の妹が妊娠し私の婚約は破棄されました。
五月ふう
恋愛
「お兄ちゃんの子供を妊娠しちゃったんだ。」義理の妹ウルノは、そう言ってにっこり笑った。それが私とザックが結婚してから、ほんとの一ヶ月後のことだった。「だから、お義姉さんには、いなくなって欲しいんだ。」
婚約者に忘れられていた私
稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」
「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」
私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。
エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。
ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。
私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。
あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?
まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?
誰?
あれ?
せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?
もうあなたなんてポイよポイッ。
※ゆる~い設定です。
※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。
※視点が一話一話変わる場面もあります。
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
大好きなお姉さまが悪役令嬢?!処刑回避のためにひきこもったら、隣国の王子に狙われているようです?
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
目の前で、王太子ジェラルドから婚約破棄を告げられたのは、姉のエレノアだった。
それを見た瞬間、セシリアには前世の記憶が流れ込んできて。
(このままでは、大好きなお姉さまは処刑されてしまう!)
その処刑回避のために、新しく与えられた領地フェルトンの街にひきこもる。
だけどこの街にはさとうきびがあって――。
セシリアが前世の知識を使って、大好きなお姉さまを処刑ルートから回避させる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。