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7章 スウォーティーの村

131話 はちみつレモンケーキ

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 わたしはミエーレさんが作ったはちみつレモンケーキを口に入れると、しっとりした触感にほのかな甘酸っぱい味が口の中いっぱいに広がる。

「美味しいですよ! これ!」
「はい! とっても美味しいです!」

 パウンドケーキにはちみつって言ったらレモンくらいしか思い浮かばなかったので、適当に言ったらミエーレさんが上手いこと作ってくれた。
 彼の笑顔もとても素敵で、甘いものは世界が違っていようが笑顔にさせることは共通なのだ。

 アドバイスを求められた時はマジでどうしようと思ったけれど、なんとかなって良かった。

 彼が昇進? か、新しい物を作ることができて、その力になれて良かった。

「これでミエーレさんの問題も解決ですね!」
「ええ……ありがとうございます。この御恩は忘れません。パティシエが必要になった時は、ぜひとも私をお呼びください。王都位でしたらいくらでも行きますので」
「いえいえ、ミエーレさんの美味しいお菓子を食べられただけで満足ですよ!」
「……ありがとうございます」

 彼は結構自信家だったように見えたけれど、すっとわたしに頭を下げてくる。

「頭をあげてください!」
「いえ……本当にありがとうございます。これで、上司も認めてくれるでしょう」
「それでは戻りませんか? 今日はもう大分遅いので」
「すみません。こんな時間まで連れていてしまって」
「ミエーレさんが作るお菓子作りはとっても洗練されていて、かっこよかったので楽しかったですよ!」

 お菓子作りの動き1つ1つのキレが違うと言ったらいいだろうか。
 動く時は動き、止まる時は止まる。

 一種の芸術作品のようにも感じていたくらいだ。

「ありがとうございます。このお菓子……持ってかれますか?」
「いいんですか?」
「はい。私はまた何度でも作れるので、待たせてしまっている方々に食べさせてあげてください」
「ありがとうございます!」
「では、戻りましょう」
「はい!」

 わたしは貰ったはちみつレモンケーキを切り分けてもらい、紙で包んでポーチの中という体のアイテムボックスにいれる。
 そして厨房から出ると、ウィンがじっとわたしの方をみていた。
 その上でヴァイスとルビーは気持ちよさそうに眠っている。

「ただいま、ウィン」
『おかえり、何かされなかったか? 無事だったか?』

 ウィンから念話が返ってくるので、わたしも念話で返す。

『大丈夫だったよ。怪我一つしてないから。それよりも、新しく作ったお菓子貰ったから、部屋に行って食べよう?』
『そうだな』

 ということで、わたし達は宿に……と思ったのだけれど、パステールは宿もやっているらしく、泊めて貰えることになった。

「先生、寝る前にこちらをどうぞ」

 わたしは切って貰っていたケーキを渡す。

「いいのかい?」
「はい! 先生に案内してもらいましたから!」
「ありがとう。明日はもっとこの村を案内してあげるからね。楽しみにしていて」
「ありがとうございます!」

 ということで、わたし達は別れて部屋に入る。

「豪華だね……」

 部屋の中は貴族が泊まるような広くきれいな部屋で、装飾品の全てが煌びやかに見えるほどだ。
 ベッドは当然天蓋付きで、ソファもローテーブルを挟んで2台置かれているし、天井には小ぶりなシャンデリアがぶら下がっている。

「落ちて来ないかな……」

 ちょっと別の事を心配してしまうと、ウィンから反応が返ってくる。

「落ちる前に落してしまうか?」
「それは流石にダメでしょ」
「なら魔法で包んでおくか?」
「ううん。適当に言っただけだから」

 ということで、わたし達は……どうしようか。

「ヴァイス達を起こすのもかわいそうかな」
「どうだろうな。サクヤ達が作っていたケーキの匂いを嗅がせたら飛び起きるのではないか?」
「あはは、そんな……そんなことないよね?」
「どうだかな」

 ウィンの冗談だとは思いつつも、ちょっと気になったのでやってみる。

「ウビャ……ウビャ?」
「起きた……」

 ヴァイスは食欲優先ということだろうか。
 それからルビーにもやったけれど、じっと眠ったままだったので、そのままにしておく。
 軽く揺すっても起きないくらい深い眠りだったからだ。

「……食べようと思ったけど、ルビーも一緒の時の方にしてもいいかな?」

 ルビーだけ仲間外れにしてしまうのは気が引けたので、2体にそう提案する。

「ふ、サクヤは優しいな。俺もそれでいい」
「ウビャゥ!」

 ウィンもヴァイスも頷いてくれたので、ケーキはしまってのんびりとする。
 あとは皆で揃って寝るだけだ。
 高級なベットの上にウィンが丸まり、その上にわたし達はいつものように寝た。


 そして翌日。

「キュキュイ―!」
「起きたらすごく元気だね」

 ルビーは人一倍寝ていたからか、今は元気よく部屋の中を走っている。

 朝ごはん代わりに食べて貰ったはちみつレモンケーキもとても満足していて、見ていて本当に可愛かった。

「さて、それじゃあ先生のところに行って、村の案内をしてもらおう!」

 ということで、先生のいる部屋に向かったのだけれど、そこにはすでに来客がいた。

「先生。それではよろしくお願いします」
「ああ、ぼくもすぐに行くから、ここは任せておいてくれ」
「はい。よろしくお願いします」

 来客の人は上下長袖の作業着を着ていて、わたしに目をやることなく慌てて走り去っていく。

「先生。おはようございます」
「うん。おはよう。ウィン様もヴァイス様もルビー君も」

 先生は柔らかく返してくれる。

「あの、今の方は……?」
「ああ、それについてなんだがサクヤ君。今日の案内は申し訳ないができなくなってしまった。だから代わりに……」
「先生? 何があったんですか?」
「……それが、森の魔物達の様子がおかしいらしい」
「森の?」
「そう。この村の特産品としてはちみつを生み出してくれる。ハニーキラービー達のことだ。このままでは……倒さないといけないかもしれない」

 先生はそう言って、険しい顔を浮かべていた。
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