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7章 スウォーティーの村

128話 パステールでの扱い

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 わたし達はその店……パステールのお店に並ぶ。

「どんな味なのかな……楽しみだな……」

 口の中にどんな味が広がるのだろうか。
 考えているだけで楽しい気分になる。
 これが甘いものの力。

 1日歩いてきたからより美味しく感じているのもあるだろう。

 そんなことを考えて待っていると、若い女性の店員さんが列の全員に何を頼むのか聞いて回っている。
 彼女はわたし達の所に来て、先生に聞く。

「何をご注文されるかお決まりですか?」
「彼女に聞いてくれるかな?」
「かしこまりました。お嬢さん。何が食べたいか決まってるかな?」

 彼女は小さい子に対する優しい対応で、しかも視線をわたしに合わせるようにしゃがみ込んでくる。

 わたしは楽しみにしていたため、少しばかり大きな声で答えた。

「ファイナルスペシャルロールロールケーキが食べたいです!」
「……」
「……」

 しかし、彼女は少し困った顔をし、周囲の人達も苦笑いをしている。

 なんでだろう? そう思っていると、答えはお姉さんが教えてくれた。

「ごめんね……その品は今予約待ちで……1年以上待って貰わないと買えないの」
「あ……」

 1年以上……というか、その話は院長に聞いていたんだった。
 楽しみすぎて忘れていたや。

 でも、こんなこともあろうかと、院長から推薦状を貰っているのだ。

「これでなんとかなりませんか!」

 わたしはポーチから院長に貰った推薦状を取り出し、お姉さんに渡す。

 彼女はちょっと困った顔で受け取った後、それの裏面を見て動きがピシリと止まる。

「……」
「どうかしました?」
「ひゃい! も、申し訳ございません! しばしお待ち頂いてもよろしいでしょうか!?」
「え? えぇ、はい」
「失礼します!」

 彼女はそう言って全速力という感じで店の中に消えていった。

「なんだったんだろう……」
「さぁ……どうしたんだろうねぇ……」

 先生は知っているけれど、楽しんでいるようにも見える。
 でも、単純に笑顔なだけかもしれず、どうかは分からない。

『ウィン……なんなんだろう……』
『サクヤの素晴らしさに気付いたのだろう』
『最初は普通の扱いだったのに……』

 と、会話をしていると、彼女がすごくダンディーなおじ様を連れて来る。
 紳士服はパシッと決まっていて、すでに夜の時間なのに疲れた様子もない。

「お待たせしました。パステールの店主をしております」
「え……はい。それで……店主さんが……どうして?」
「詳しいお話をする為に、店内へお越し頂いてもよろしいでしょうか?」
「はぁ……」

 わたしは先生の方を見ると、彼は頷いてくれる。
 あ、でも、従魔を店に入れるのはまずいだろうからと、買っていくために並んでいたのだけれど、店内に入るのは……。

「あ、でも、この子達は……」

 窺うように店主を見ると、彼はダンディなスマイルで頷いてくれる。

「厨房でなければ問題ありません」
「わかりました」

 厨房は流石に行くことはないだろう。
 なので、皆で彼について行く。

 案内された部屋は金色を基準に白で統一された部屋で、広さも20畳は余裕である。
 中央には長いテーブルが置かれ、イスも大きく綺麗なものが10個以上も並んでいた。

 なんでこんな部屋に……と思っていながらわたし達が席につくと、店主がすぐに頭を下げてくる。

「大変申し訳ありません。本日のファイナルスペシャルロールロールケーキは売り切れてしまっていまして……」
「あ、そういう……」

 でもわざわざなんで謝るためだけに部屋に呼んだのだろうか?

 と思っていると、彼の口からとんでもない言葉が飛び出す。

「大変申し訳ありません。明日には確実にご用意いたしますが、本日来て頂いたサクヤ様のために、当店で今用意できる品をなんでもご用意いたします。当然お代は頂きません。それで納得していただけないでしょうか?」
「……」

 え……これ……えぇ……。

 買いたいものが売り切れていたから代わりに他の物無料で……えぇ……。

 どうしようと思って先生を見ると、流石に目を見張って驚いている。

 わたし達の返事を待っているのか、店主とその後ろにいたお姉さんは頭を下げたままだ。
 流石にそれは悪いと思うので、わたしは頭をあげるように言う。

「ちょ、ちょっと頭をあげてください。というか、別に今買えないなら明日また来ますから」
「いえ、そういう訳には参りません。どうか食していって頂けないでしょうか」
「……わ、わかりました」

 なんか頷かないと納得してくれなさそうだったので、頷く。

「ありがとうございます。お持ちしろ!」

 店主はすぐに頭をあげて、後ろに向かって言うと、ドヤドヤと5人のウェイターが入ってきて、次々にテーブルの上にお菓子をおいていく。
 正直2人と3体では絶対無理だろこれ……という量が置かれていて、正直戸惑う。

「売り切れのものでこれが欲しいという物がありましたらお申し付けください。すぐに用意いたしますので」
「い、いえ。これだけ出して頂ければ……」
「それともう一つ」
「まだあるんですか!?」

 これでも十分だと思っていたけれど、まだあるみたいで、わたしの驚きはまだまだ続きそうだ。
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