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6章 王都ファラミシア

106話 国王と側近

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 サクヤ達が去った部屋で、ファラリス王国国王は近くに潜んでいる者に話しかける。
 
「それで、どうだった? 爺や」
「ふぉっふぉ、何がですかな?」
「そんなまどろっこしい事を言うな。サクヤは一体どうだったのだ? 魔力を測っていたのだろう?」
 
 国王は焦ったように聞き、聞かれた相手は潜んでいた暗闇から出てくる。
 彼は紫色のローブをまとい、腰が曲がった老人だった。
 髪や髭は白く、好々爺といった風貌ふうぼうをしている。
 魔法使いであるのか、その手には大きな木の杖が握られていた。
 ……ただ、体力はないのか、その杖を支えにして国王に近付く。
 
「測っておりましたとも、その結果……普通の幼子と変わらない量ですな。可愛い孫娘のようです」
「お前のではない」
「ふぉっふぉ、それはそうですが、優しい目をしていたではありませんか」
「大事なことはそこではない。聖獣を連れている……それも3体もだぞ? 本当にそんな事がありえるのか?」
 
 国王は王冠をずらし、頭をかきながら彼に聞く。
 
 老人はゆっくりと頷いた。
 
「ええ、彼女が抱えていた白虎、そしてフェンリル。どちらも本物でしょうなぁ。白虎の方は小さい故魔力量は小さいので、もしかしたら違う可能性があるやもしれません。上にいた青龍は分かりませんが、聖獣がそんなことで嘘をつくとも思えません」
「嘘ではない……ということは……」
「後ろにいたフェンリルは本物です。わしよりも多い魔力など初めて見ましたぞ」
「それほどに多いのか?」
「ええ、しかも体のスペックもわしより圧倒的に上でしょうな。わしに気付きながらもサクヤに危害を加えないなら無視する判断力もある。よほどあの娘を大事に思っているのでしょう」
「ああ……そうだろうよ。だから引き離しは無理だな。聖獣を抱え込めれば……と思ったが……歯牙しがにもかけられなかったわ」
 
 国王は肩をすくめてため息をつく。
 
 老人は笑いながら答える。
 
「ふぉっふぉ、聖獣は我々とは別の尺度で動いておりますからな。当然と言えば当然。それに、引き離すなどと言わない方がいいのでは? 聖獣達にもしも聞かれたら大変なことになりますぞ」
「ここはお前の守りがあるから問題ないのではないのか? 賢者メルキオールよ」
「ふぉっふぉ、わしとしてもそうありたいとは思うのですがな。聖獣ほど高位の存在を相手にするとなればその名も勝てるか分かりますまい」
「それほどか」
 
 国王がそう言うと、老人は凛とした雰囲気を醸し出して答える。
 
「ええ、まず無理でしょう。まぁ、戦う必要もありませんがのう」
 
 凛とした雰囲気は一瞬で消え、彼の周りに緩い空気が漂う。
 
「まぁ……な」
「それに、もし……聖獣に手を出した……なんてことになれば、あの国が黙っていますまい」
「ハクタク神国……か」
「ええ、国のトップは聖獣である白澤はくたくが決め、そして選ばれた者は皆優秀で国力を高めた国ですからな。戦争になれば負ける見込みが高い」
「白澤をトップに据えているからこそ聖獣への思いも国民皆が強い。そしてトップは全員が優秀とはもうあの国だけでいいんじゃないかと言う気持ちになるがな……」
 
 国王は自分の価値を疑いたくなるのを必死に止め、賢者と話し合う。
 
「そう思いたくもなりますが、あの国が起きて今の領土になってから、他国への領土侵攻はありません。聖獣を丁重に扱っていればいい国ですぞ」
「サクヤがこの国の庇護下に入ってくれれば……よかったのだが……」
「それはダメだとクロノ殿とリオン殿からも強く言われていたではありませんか。強制したらフェンリルの牙が向くかもしれないと。そんなことになったらハクタク神国などの話ではありませんぞ」
「わかっている。わかっているが……どうしたらいいんだ。ただでさえあのバカ共は他国と通じ合っているのに、ケンリスの領主がやっていたことを……うおおお」
 
 国王はあまりの状況に頭を抱えてのたうち回る。
 
 賢者はそれを見て、まるで他人事のように笑った。
 
「ふぉっふぉ。貴族達も自分のことしか考えませんからな。しかし……わしの感ですが、よいですかな?」
「なんだ……儂が赤子の頃からの付き合いだ。今更怒るようなことはない」
「では失礼して、あのサクヤには……何もしなくてはいいのではないですかな」
「何も……しなくていい?」
 
 国王はのたうち回るのをやめ、賢者をじっと見つめる。
 
「あの子は聖獣、それも2体に認められた者。なら、放っておいてもいいのではないですかな。クロノ殿とリオン殿も気にかけているようでしたし、こちらから手を出さなくてもよいのでは」
「だが……貴族達が手を出し、そのために他の者達まで被害を被ってしまうかもしれないではないか」
「貴族達が手を出せば、聖獣様方が黙っていないでしょう。ですが、他の者達までは巻き込みますまい。そして、後処理をこちらでやればよい」
「儂もそうだとは思いたいのだがな……。そんな楽観論にすがれるほど王という立場は軽くないのだ……」
 
 国王はそう言って近くにあったイスに背を預ける。
 
「ですが不要な事を考えないことも必要なのですぞ」
「……だといいのだがな」
「サクヤにはクロノ殿達がついていて、彼らはちゃんと育っています。サクヤの側についている限りは問題ないでしょう。我々は心配せずとも、ケンリスの問題だけをちゃんと公正に処理するべきしょうな」
「……はぁ。分かった。そうする。サクヤについてはクロノ達に任せる」
 
 国王はそう言って立ち上がり、目に強い光を持つ。
 
 賢者はそれを嬉しそうに見ていた。
 
「では、そちらの問題は解決したので、こちらの問題を片付けて行きましょうか」
 
 ドササ、と国王の前に書類の山が作り上げられた。
 
「やっぱり……サクヤの案内は儂がするという事ではダメかな……」
「案内しても、帰ってきてからこれらはやってもらいますぞ」
「……はぁ」
 
 国王はそれから黙々と書類仕事を始めた。
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