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5章 王都へ

87話 青龍とは

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 青龍はゆるりと体を起こし、じっとわたしを見つめる。

 わたしは青龍に向かって口を開く。

「あ、起きたんだね。体は大丈夫? 回復魔法使おうか?」
「……」
「どうしたの? やっぱりどこか痛む?」
「……」
「お腹空いてるのかな? それなら何か食べる? 色々とあるから好みを言ってくれたら出すよ?」
「……」
「……」

 何も言葉が返ってこない!
 え? え? おかしくない?
 青龍って聖獣だよね?
 っていうか、しゃべれるよね? 怒っている時しゃべっていたもんね?
 もしかして今も怒っている? 怒り過ぎて言葉が出ない……とか?

 わたしは不安になって青龍を鑑定する。

《名前》 未設定
《種族》 青龍
《年齢》 7344才
《レベル》 832
《状態》 衰弱 
《体力》 3041
《魔力》 2068
《力》 5776
《器用さ》 4914
《素早さ》 6233
《スキル》 木魔法 育成 龍爪 龍牙 見極め 龍鱗 魔力操作 魔力吸収 ??? ????
《称号》 木漏れ日の蛇 水も滴る蛇 

 うん、特に怒っている様子はない。
 だとしたらなんなんだろう。

 そう思っていると、ウィンが口を開く。

「相変わらずの無口よな。これでは何も話が進まんぞ」
「無口!? それで今までしゃべらなかったの!?」
「そうだぞ。しかもこやつはかなりのんびりやでな。木と共に成長するのをゆっくり見るのが好き……という変わり者だ」
「木と共にって……大分ゆっくりなんじゃ……」

 何十年単位でのんびりするっていうこと?
 でも、ウィンとの年齢差は結構あるけれど、レベル差はあんまりない。
 そう考えると納得がいくかもしれない。

 そんな事を思っていると、青龍がゆったりと口を開く。

「木や草花を育てるのはいい。手を入れ、必要であれば魔力水や神水も使う。聖獣として何かするより意義がある」
「おお……」

 中々すごいこと言ってない?
 魔力水とか神水とかよくわからないけど、聖獣ということ自体どうでもいいのか……。
 と思ったけれど、ヴァイスもただ遊んでいるだけだし、別に聖獣としての役目とか特にないのだろうか。

 ウィンが苦笑しながら彼の話を補足する。

「このように、こやつは聖獣としての意識もあまり無くてな。ただのんびりしたい。と思っているのだろう。捕まったのも大方ここでならゆっくり休めるとか言われて騙されたのではないか?」

 ウィンは仕方のないやつだと言いながら食事を続ける。

 え……え? 結構すごいことがあって捕まったりしたのかと思っていたんだけれど……。

「それ……本当なの?」
「……(コクリ)」

 青龍はゆっくりと頷いた。

「そ、そう……でも……ごめんなさい」

 わたしはそう言って彼に頭を下げる。

「……なぜ?」
「え……だって……人間のしたことだから……。わたしにも怒っているかと思って……」
「怒っていない」
「そう……なの?」
「主は我を助けてくれた。感謝する」

 そう言って、今度は青龍が頭を下げた。

「そんな、頭をあげてください!」

 わたしが言うと、ウィンも加勢してくれる。

「そうだぞ。サクヤが上げろと言っているんだ。わざわざうつむくな青龍よ」
「フェンリル」
「今はウィンと名乗っている。その名で呼べ」
「……名を……授かったのか?」
「そうだ。なにか問題があるのか?」
「あの孤高の聖獣が……な。終わりをもたらす獣の名は捨てたか?」

 え? 今その話するの?
 でもちょっとなんだろう、とっても気になる。
 っていうのか、ウィンのステータスを今一度確認しよう。

《名前》 ウィン
《種族》 フェンリル
《年齢》 5034才
《レベル》 791
《状態》 健康 従魔(主:サクヤ)
《体力》 9432
《魔力》 7565
《力》 7945
《器用さ》 1909
《素早さ》 9596
《スキル》 風魔法 獣爪 獣牙 直感 魔力操作 魔力吸収 ??? ????
《称号》 救世獣 終わりをもたらす獣 悪を滅ぼす獣

 この称号の部分がちょっと気になっていたんだよね。
 なんかすごい感じのものが並んでいるからさ。

 ウィンはちょっと恥ずかしそうに青龍をにらみつけた。

「別にいいだろうがそれは。それよりも、貴様はこれからどうするのだ? また気ままに木と共にいるのか? それとも……人に復讐でもするか」
「っ!」

 やっぱり……あんな事があった後だもんね。
 わたしには怒っていなくても、人という種族に対して怒ってもおかしくないだろう。

 でも、青龍は首を振った。

「別に考えていない。我は元々人に期待していない。助けるつもりもない。我を捕らえた者達はすでに死に、管理をしていた者は……捕らえられたのだろう?」
「そのようだな。この国の王子達が今必死に働いているぞ」
「……なればいい」
「ならどうする」
「しばらく観察しようと思う」
「何を?」
「そこの娘を」

 青龍がそう言ってわたしに視線を向ける。

 じっとその目でわたしに向けられ、わたしはしばし言葉を失った後にポロリとこぼす。

「……唐突ぅ……わたし?」
「そうだ。問題があるか?」
「え……問題は……別にないといえばないけど……。何か特別なこととかしてないよ?」
「それでもいい。主がどの様に成長をしていくのか、のんびり見ているとしよう」
「のんびりって……どうやって?」
「こうやって〈木の人形〉」

 青龍はそう言って魔法を唱えると、さっきよりも小さく木彫りの人形に変わる。
 大きさも高さ10センチくらいの小さなもので、とぐろを巻くようにしているので以外とどっしりしている。

「それ……見えているの?」
「見えている。それにしゃべれもする。という訳で我を連れていけ」
「えぇ……」

 いきなり過ぎてついていけない。
 これわたしの話をしているんだよね?
 それで木彫りの人形になったからそれを持っていけ……ということか。
 なんで?

「あの……どうしてわたしの側に?」
「我がそうしたいと思ったからだ。ダメか?」

 元の体に戻って爬虫類なのに悲しそうにみえる顔を浮かべる。

「別にいいけど……いいよね?」
「構わんだろう。そやつは基本しゃべらんし、本当にただのんびりと観察するのが好きなだけなのだ。正直、いてもいなくても変わらん」
「ええ……聖獣って1体ですごい力になるって聞いたけど……」
「サクヤ、人間が1とする。そして俺達成長した聖獣を1億とする。その1億が2億になろうが、3億になろうが大して変わるまい?」
「なるほど」

 すごく分かりやすく説明してくれた。

「だが青龍」
「なんだ」
「もしもの時はサクヤを助けよ。それだけは誓ってもらう」
「誓おう。元より我を助けてくれた者。それくらいは我もしよう」
「ならばいい」

 ということで、青龍はわたし達と一緒に来ることになった。
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