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5章 王都へ

84話 霊珠

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 ドンドン。

「ん……」

 わたしはノックされた音で目を覚ます。

「誰……」

 わたしはなんとなしに、一人つぶやくとウィンが教えてくれた。

「クロノとリオンが来たようだな。なにか……魔力の籠ったものを持っているようだ」
「キュキュイ―――!!!」

 ウィンの言葉でエアホーンラビットがものすごく喜び、鳴き声をあげる。
 その喜びようで、わたしは何をもってこられたのかを察した。

「ふふ、ちょっと待っててね」

 わたしはウィンの上から起き上がり、扉のドアをあける。

 そこには、ほほがげっそりとした人っぽい2人がいた。

「きゃあ!?」

 わたしは魔物かと思って思わず後ずさる。

 すると、次の瞬間にはウィンに包まれていた。

「ウ、ウィン……」
「大丈夫か? こいつらは……クロノとリオン……でいいはずだな?」
「間違いないです……」
「ちょっと……色々とありまして……」

 2人がそう言うけれど、正直20連勤した人の様にかなり顔色が悪い。

 なので、わたしは話を聞くために部屋に入れようとする。

「ど、どうぞ。中で休んでください」

 ウィンが退いてくれた後にそう言うと、2人はそろって首を振る。

「おれ達はまだまだやらなければならない仕事がある。だから休んでいることはできないんだ」
「なのに来られたんですか……?」
「おれ達の手で渡してやりたいと思ってな。受け取ってくれ」

 そう言って、彼がマジックバッグから出したのは黒い珠だった。
 大きさはわたしが両手で抱えないといけないくらいの大きなものだ。

「これが霊珠ですか?」
「そうだ。魔力を集めて溜めておけるものだな。では、確かに渡したぞ」

 そう言って2人はわたし達に背を向けるので、慌てて止める。

「どこに行くんですか!?」
「宮殿だ。仕事の続きをやらねばならんからな」
「そんな……休んでください」
「ダメだ。おれ達はやらねばならないことがある。レイヴァールはおれ達がここに向かう代わりに、かなりの量の仕事をこなしてくれているのだ。一人にする訳にはいかない」
「そんな……」
「それに、サクヤの元気そうな顔が見れたんだ。それだけで元気いっぱいだ」

 クロノさんはそう無理やりにでも作ったような笑顔を浮かべる。

「でも……」
「兄さんの言う通りだよ。僕達がやらないといけないんだから」
「リオンさん……」
「サクヤちゃん。そんな心配そうな顔をしないで、確かに疲れることだけれど、冒険者として戦ってきたことと比べたらなんとかなるくらいなんだから」

 そう言ってリオンさんもげっそりとした感じだけれど、優しく笑ってくれる。

「それに、それをプロフェッサーの所に持っていかないといけないんでしょ? ご飯をちゃんと食べたら行っておいで」
「……はい」
「それじゃあまたね。宿は転移の日まで取ってあるから、気にしないで」

 そう言って2人は宿を出て行く。

「……」

 わたしも……何かできないだろうか。

「キュキュイ?」
「あ……そ、そうだよね。とりあえずプロフェッサーの所に行こうか」

 エアホーンラビットがいてもたってもいられないという感じなので、とりあえず宝珠をアイテムボックスにしまって外に出ようとして……。
 わたしは青龍が心配で、ベットの方に視線を向ける。

「……」
「青龍は大丈夫だ。おれの魔法で防御を固めてある。何かが来ても、奴なら自分で対処できるだろうがな」
「そうなの?」
「ああ、問題ない」
「わかった」

 わたし達は外に出る。

「あ……結構日が登ってる」
『昨日寝るのが遅かったからな。仕方ないだろう』
「それもそっか」

 ということで、わたし達はプロフェッサーの店についた。

「失礼しまーす」

 わたしはすでに開いていたお店に入る。
 プロフェッサーが出てくる前に、アイテムボックスから宝珠を出しておく。

 入って少しすると、プロフェッサーが出てきた。

「客か……と、サクヤか。どうかしたのか?」
「はい。宝珠が手に入ったので、例のブツを作ってほしくて持ってきました!」
「キュキュイ!」

 わたしとエアホーンラビットはテンションをあげてそう言う。
 そして、宝珠を彼に見せた。

「おお! もう取って来たのか!? しかもこれは……最高品質ではないか!?」

 彼もそう言ってテンションをあげている。

「本当ですか? それは良かったです! これで作れますか?」
「ああ、問題ない」
「やったあ!」
「キュイキュイ!」

 ありがとうレイヴァールさん、今度あった時にお礼を言っておかないと。
 これでエアホーンラビットを従魔にできる。

 エアホーンラビットも嬉しいのかウィンの上で楽し気に跳びまくっている。

 プロフェッサーはそれからわたしの方に手を差し伸べる。

「それではそのウサギをこちらへ」
「へ? どうしてですか?」
「これからその魔道具を作る必要があるが、その過程でその魔物の力と合わせる必要がある」
「……因みに……どれくらい作るのにかかるんでしょうか?」
「普通なら1週間」
「え」

 それはまずい。
 わたし達は5日後には王都に行かなければならないからだ。

 でも、そこは国一番の魔道具師。

「私なら4日もあればできるだろう」
「それなら……」
「ああ、4日で必ず作ってやる。という訳で渡すのだ」
「キュイ……」

 エアホーンラビットは売られていくかのような寂しさでわたしを見つめる。

「あの……わたしも一緒にいる訳には……」
「キュキュイ!?」

 本当!?
 と、目を輝かせるけれど、プロフェッサーはまゆをひそめる。

「4日間集中してやるのだぞ? 人は入れられない」
「そこをなんとか……」
「ならん。期限に間に合わなくなってもいいのか?」

 そう言われたら断れない。

「わかりました……」
「キュキュイ……」
「ウビャゥ……」

 エアホーンラビットと仲のいいヴァイスも悲しそうな声をあげる。

 そこに、プロフェッサーが口を開く。

「サクヤ」
「はい……」
「この前金貨を加工したのは誰だ?」
「え? ヴァイスですけど……」
「ならそのヴァイスも貸せ。魔道具を早く作るにはその方がいい」
「ウビャゥ!?」
「キュキュイ!?」

 ヴァイスはそんな、エアホーンラビットは本当!? と両極端の反応を見せる。


 それから行きたくないけど行かないと従魔になれないエアホーンラビットが泣く泣くプロフェッサーと行き、それを慰めるようにヴァイスもついていくことになった。

「それじゃあ……またね」
「ウビャゥ……」
「キュイ……」

 わたし達は2人と別れのあいさつをして店を出る。

「ヴァイス、エアホーンラビット……明日には見に来るからね」
「ウビャゥ!」
「キュイ!」

 その際に、プロフェッサーが絶望的な事を言ってきた。

「サクヤ。私はこれから集中して魔道具を作る。だから来ても店は開けない。わかったな?」
「え……わ、わかりました」
「ではな」

 そう言って彼は店を閉店していることにして、嬉しそうな顔から一転、鳩が豆鉄砲食らったように驚いているヴァイスとエアホーンラビットを抱いて店に入っていった。

 驚いている2体を可愛いと思ってしまったのは内緒にしておこう。

「……帰ろうか」
『そうだな』
「プロフェッサーなら大丈夫。すぐに……帰ってきてくれるよね」
『ああ、心配ない』

 わたし達はそう話して宿に戻る。
 その時に、とても気になる匂いがした。
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