上 下
85 / 100
3章

85話 ベネディラ

しおりを挟む
 とある盟主の話。

 そこは薄暗いけれどかなり大きな部屋。
 ただし、明かりは女性が持つ物しかなく、石作りの床しか分からない。

「さて、これから準備にかかります。よろしいですね?」
「勿論でございます。お帰りなさいませ。ギーシュ様」

 そう頭を下げるメアのメガネ越しの瞳は歓迎している。

「ただいま、メア。彼女が黒の神の【器】だよ」

 ギーシュは両手で抱えた少女をメアに見せるように話す。

 彼に抱えられている少女の名はサナ。
 クトーの妹である。
 彼女は今、時が止まったかのようにピクリともしていない。
 胸を見ても息をしているようには見えないのだ。

「彼女ですか。準備は既に行なっています。彼女・・も1週間もあれば降臨される事でしょう」
「うん。ありがとう。500年待った甲斐があったよ……。メア。君もここまで私について来てくれてありがとう。本当に……君が居なかったらと思うと恐ろしいよ」
滅相めっそうもございません。ギーシュ様に仕える事が我が喜び。貴方の為に命をも簡単に捨てましょう」
「メア……リャーチェが居なくなった今、昔からの大事な友人は君だけなんだ。だからそんな悲しい事は言わないでくれ」
「……そうですね。あのおしゃべりも……いざ居なくなると聞くと寂しい物です」
「うん。それでは準備を頼むよ。私は邪魔が入られないようにこの教会……いや、ベネディラ全域を止めてとめておくよ」
「そんなに力を使われて大丈夫ですか?」
「問題ないよ。これを突破出来るのは、私と同格・・しかいないからね。出来る限りの事はやっておきたいんだ」
「畏まりました」

 ギーシュは両手に抱えているサナをメアに渡し、元来た道を戻る。

「クリス……待っていて……。ここまで時間がかかってしまったけれど……必ず。君を助けるから」



「……」

 メアはギーシュが行ったのを確認して、サナを目的の箇所に運ぶ。

「ごめんなさいね。貴方にはなんの恨みもありません。ですが、我々の目的の為に、貴方の体を使わせて頂きます」

 メアはそう言って彼女を台座に載せる。
 台座には、女性らしき人の手に蛇が巻きついた様な姿で、周囲には炎の様な掘り込みがあった。

「しかし、安らかにお眠りください」

 メアはサナに対して少しだけ祈ると、何かの準備をし始めた。

******

 それから僕たちはべネディラに着くまでスキルの練習などをして過ごしていた。
休みの時にはオリヴィアさんと毎日模擬戦をやっていたのもかなり戦闘経験はあがったと思う。

 そして、遂に教会本部があるベネディラに到着した。

「ここがベネディラ……」

「ええ、教会本部にして、聖地。ここには毎年多くの参拝客が来るわ」

 そう話すのはレイラだ。
 彼女の口調はなんだか楽しそうで、ベネディラの話を色々とし始めてくれる。

「ベネディラは元々ただの田舎町だったんだけどね。ここで神の降臨があったということからここを聖地にしようと時の教皇が考えたのよ。それで、見て」

 僕はレイラに言われた通りに窓の外から先の景色を見る。

 そこには断崖絶壁に、寄り添う様に白磁の教会が建てられていた。
 本山とでも言うべき教会がもっとも大きな建物で、そこから手前に……扇状に拡がって来るほどに建物の高さは低くなっている。

「あそこの一番大きな建物。見える? あれが教皇とかその下の枢機卿が色々と取り決めを行なう場所。ディオス・エフィーメラ。因みに、神が降臨されたという場所もあそこよ」
「あそこが……」
「ええ、ただ、あそこに行くには面倒だけど手続きとかが少しはいるから、数日は街に滞在してもらうことになるわ」
「そんな。直ぐに入る事は出来ないの?」
「無理よ。あそこは許可証を持っていないと入れない。クトーのスキルを使って、もしも警戒されてしまったら面倒でしょう? あたしがちゃんと許可をとってくるから。その間は街で情報でも集めていて」
「……分かった」

 本当は今すぐにでも行きたい所だけれど、レイラの言うことももっともな為、僕たちは街で宿屋を探す。
 ただ、街に入った辺りで不思議なことに気が付く。

「ねぇ……これって……」
「ええ、どう考えてもおかしいわ」

 馬車の外に見える光景がどう考えても異変しか感じない。
 具体的に言うと、まるで動きが止められてしまったかのようにした人々しかいない。

 普通に歩いている人の動きも途中で止まっているし、これからこけるところ、というので止まっている人もいる。
 扉を開けている人もいれば、何か物を買おうと代金を渡そうとしている人もいるのだ。

 それら全ての人が時間が止められたかのように動いていない。
 少ししてから、何故か馬車の動きも止まってしまった。

「何が起きているんだ?」

 そう思っていると、急に扉が開けられる。

「レイラ様! 急ぎお逃げください! これは……」

 馬車に飛び込んで来たのはレイラの護衛の1人。
 彼女はそう叫びながら飛び込んできて、そのまま一切の動きを止めた。

「ファナ? どうしたの? ファナ!?」

 レイラがファナに近寄って肩を揺すろうとするけれど、まるで石になったかのように微動だにしない。

「これは……時が止められている?」
「! それならあたしのスキルで……」

 レイラが目を大きく開き、覚悟を決めたような瞳をする。
 けれど、それは流石に早過ぎる。

「待ってレイラ。それを使っている途中にレイラが止められたらどうしようもない。一度街から出よう」
「でも……」
「今はそんな事を言っている場合じゃないよ! アルセラも!」
「きゃっ!」

 僕はレイラの手を取り、急いで馬車から降りる。
 馬車の周囲を守っていた護衛の人達は皆時が止まってしまったかのように動きを止めていた。

 急いで街の外へ向かうと、僕たちよりも後ろにいた馬車からフェリスとオリヴィアも出て来た。

「何が起きているんですか!?」
「分からない! でも、ここは危険だ! 一旦街の外に!」
「畏まりましたわ!」

 そうして僕たちは走って街の外に出る。
 僕たちの他に無事だったのは、どこかに潜んでいたジェレだけだった。

「一体どうなってるんだ……」
「街全体がの時が止まっている……?」

 皆でどうしようか話合うけれど、答えが見つからない。
 どうしていいのか困っていると、頭の中で声が聞こえる。

『困っている様だな』
「クラーケン?」
『貴様。あの街を抜けたいのだろう?』
「方法が分かるの?」

 思ってもみない助力だった。
 彼が僕に力を貸してくれる様になった。
 けれど、助言してくれるとは思っていなかったのだ。

 その理由は至極単純だった。

『我の嫌いな奴の力を感じるからな。手助けをしてやろう』
「嫌いな奴……?」
忌々いまいましい犬ころだ。気にするな』
「犬ころって……。気にするよ」
『それよりも先に進みたいのではなかったのか』
「そうだけど……」
『なら気にするな。貴様、スキルで【異次元の交錯アナザーフィールド】は使えるな?』
「うん。一応使えるけど……」

 クラーケンに言われたスキルは、別次元とこちらの次元を交錯させるというもの。
 正直効果も分からないし、使っても何が起きたのか分からなかったので一度使って放っておいたスキルだ。

『それを使えば、問題なく進める』
「え? どうして」
『……』

 クラーケンはそのまま何も言わずに、黙りこくってしまった。
 説明したんだから後はやれ、とでも言わんばかりだ。

 ただ、クラーケンがくれた解決策。
 一度試して見るのも悪くない。

「皆、ちょっと話があるんだけど」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「専門職に劣るからいらない」とパーティから追放された万能勇者、教育係として新人と組んだらヤベェ奴らだった。俺を追放した連中は自滅してるもよう

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「近接は戦士に劣って、魔法は魔法使いに劣って、回復は回復術師に劣る勇者とか、居ても邪魔なだけだ」  パーティを組んでBランク冒険者になったアンリ。  彼は世界でも稀有なる才能である、全てのスキルを使う事が出来るユニークスキル「オールラウンダー」の持ち主である。  彼は「オールラウンダー」を持つ者だけがなれる、全てのスキルに適性を持つ「勇者」職についていた。  あらゆるスキルを使いこなしていた彼だが、専門職に劣っているという理由でパーティを追放されてしまう。  元パーティメンバーから装備を奪われ、「アイツはパーティの金を盗んだ」と悪評を流された事により、誰も彼を受け入れてくれなかった。  孤児であるアンリは帰る場所などなく、途方にくれているとギルド職員から新人の教官になる提案をされる。 「誰も組んでくれないなら、新人を育て上げてパーティを組んだ方が良いかもな」  アンリには夢があった。かつて災害で家族を失い、自らも死ぬ寸前の所を助けてくれた冒険者に礼を言うという夢。  しかし助けてくれた冒険者が居る場所は、Sランク冒険者しか踏み入ることが許されない危険な土地。夢を叶えるためにはSランクになる必要があった。  誰もパーティを組んでくれないのなら、多少遠回りになるが、育て上げた新人とパーティを組みSランクを目指そう。  そう思い提案を受け、新人とパーティを組み心機一転を図るアンリ。だが彼の元に来た新人は。  モンスターに追いかけ回されて泣き出すタンク。  拳に攻撃魔法を乗せて戦う殴りマジシャン。  ケガに対して、気合いで治せと無茶振りをする体育会系ヒーラー。  どいつもこいつも一癖も二癖もある問題児に頭を抱えるアンリだが、彼は持ち前の万能っぷりで次々と問題を解決し、仲間たちとSランクを目指してランクを上げていった。  彼が新人教育に頭を抱える一方で、彼を追放したパーティは段々とパーティ崩壊の道を辿ることになる。彼らは気付いていなかった、アンリが近接、遠距離、補助、“それ以外”の全てを1人でこなしてくれていた事に。 ※ 人間、エルフ、獣人等の複数ヒロインのハーレム物です。 ※ 小説家になろうさんでも投稿しております。面白いと感じたらそちらもブクマや評価をしていただけると励みになります。 ※ イラストはどろねみ先生に描いて頂きました。

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました

久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。 魔法が使えるようになった人類。 侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。 カクヨム公開中。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...