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2章

34話 レイラと食事

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 ローバーの騒動から数日。
 学園は落ち着きを取り戻していた。

 といっても学園では何か特別なことがあった訳ではないので、当然かもしれない。

「全く……こうやって一緒に食べるだけでえらい目にあったわ」
「ごめんね。レイラ」
「別に謝らなくていいわよ。あたしが好きでついていったんだし」

 僕は今、レイラと一緒に食堂で昼ご飯をとっていた。

 最初は護衛の子達ににらまれたけれど、レイラとアルセラが取りなしてくれて何とかなった。
 その護衛達は直ぐ近くで僕たちをじっと見ているので落ち着かない。

「それでもありがとう。レイラが居なかったら、僕は……学園を終わらせていたかもしれない」

 彼女が居なかったら今頃この学園は……。
 もしくは世界が終わっていた可能性すらあるのだ。

 もう2度とあの力を解放してはならない。

 でも、彼女はなんてことないように振舞う。

「気にしないで、ダンジョンで助けてもらったのは忘れていないから」
「でも……」
「いいって言ってるでしょ? それにほら。ご飯食べるんなら明るく食べましょ」
「そうだね。ありがとう。レイラは凄いよ」
「そう? 貴方も中々凄いと思うけど?」
「どうかな? あんまり何かやったっていうことは思わないけど……」

 そう言うと、レイラがじとっとした目で見つめてくる。

「貴方ね……。グレーデンが処罰された理由に貴方の力があるっていう噂が広まってるのよ? それに、危ないことにはなったけれど、あの〈選ばれし者ギフターズ〉の第5席次を捕まえる事も出来た。結構噂になってるの」
「本当……?」
「本当よ。耳を澄ませて周りの声を聞いてごらんなさい」

 彼女はそう言って食事を口に運び、口を開かない。
 その間に聞けと言うことか。

 僕は耳を澄まして周囲の声を聞く。

「あれが……あの学園長を差し向けさせてグレーデンを追放したっていう……?」
「そうみたい。しかも、ローバー先生と仲が良かったのも、彼を疑っていたからなんじゃないかって」
「すげぇじゃん! そんなことあんのか!?」
「あるらしいよ。しかも、そのローバーを倒したのも彼の力だって……」
「やば……。何でそんなのが生徒やってるんだ?」
「何でも、学園の皆を守ってくれているらしいよ?」
「ええー。聖人かよ……」

 僕はそこまで聞いて、耳を澄ませるのをやめてレイラを見る。

「ね?」
「ね? じゃないよ……。尾ひれがついてるとかじゃなくってもう別の物が出来てない?」
「そう? あの攻撃方法がイメージ悪いし、丁度いいでしょ」
「良くないよ。裏から学園長を操ってるとか……ローバーを疑っていたとか……。どうなってるのさ」

 流石に好意的に見過ぎている。
 見過ぎているというか、もはや妄想の世界だと言ってもいいかもしれない。

「いいじゃない減るもんじゃないし」
「だけど頼み事されたら困るんだけど……」
「大丈夫よ。あたしと一緒にいればそうそう近付いて来ないって」
「それは……ありがとうございます」

 彼女には感謝しかない。
 ダンジョンで出会った時から助けてもらってばかりだ。

「いいのよ。あ、それで相談なんだけど、授業ってもう決めた?」
「授業? 1年の時からのを基本的に取る気だけど……」

 一応、僕はもう最初から回復系統の授業というのを決めていたけれど、別に2年になってから変えることも出来る。
 変更期間はまだあるからだ。

「それ、あたしと一緒の授業取らない? 折角だしさ」
「何の授業取るとか決めてるの?」
「回復系統以外」
「僕はそっち結構とってるんだけど……」
「ならそれ以外は一緒にしましょうよ」
「うーん。それじゃあ今から一緒に何の授業を取るか相談しようか」
「いいわね。そうしましょう」

 それから僕たちは食事を終えて、何の授業を取るか雑談をしながら考える。

 僕は思いだしたかのように、彼女に話す。

「そう言えば、今度ここにAランク冒険者パーティが来るんだって」

 ちなみに、Aランク冒険者パーティの噂は直ぐに広まるから言っても問題ないと聞いた。

「Aランク? どこが来るの?」
「わかんない。王都から呼ぶって言ってたよ。前回グレーデンの護送で失敗したから、今度こそは……だってさ」
「ああ、なるほどね。王都……ってなると〈守護獣の兜ガーディアンヘルム〉かしら?」
「〈守護獣の兜ガーディアンヘルム〉?」
「ええ、王都所属のAランク冒険者パーティでしょ? 今はそれしかないんじゃない?」
「そうだったんだ。どんなパーティなの?」
「どんなんだったかしら……。獣人の剣士と……後2人は後衛でいた気がするけど……覚えてないわ」

 レイラがあっけらかんとして言い放つ。

「興味ないんだね」
「当然でしょ。別に王都の強いパーティとか知ってても……。そんな事より、まずはクトーの事よ」
「僕?」

 何かしただろうか?

「最近耳に挟んだんだけど、1年生で王女様が入って来たのって知ってる?」
「え……知らない」
「……噂にはとことんうといのね。それはいいわ。大事なのはその人に近付かないように、っていうことよ」

 レイラは真剣な目で見つめてくる。

 少し迫力があって怖い。

「どうして? 王女様なら、近付いておいた方がいいんじゃないの?」

 普通なら、貴族とかも大勢来るこの学園。
 貴族同士で繋がりを作るのがむしろ当然と言った所だろう。

「それが……中々複雑な事情なんだけれど……。王族なんだけれど、かなり難しい扱いを受けているんだって。だから、関わりを持つと、他の貴族からちょっかいをかけられかねない。だから絶対に近付いたらダメよ」
「わかったよ。約束する」
「それならいいわ」

 レイラのさっきまでの迫力はどこに行ってしまったのか、普通の顔に戻ってくる。

「それで、その人の名前って分かる? 見た目とか」

 近寄らないようにするなら聞いておかなければならない。

「ああ、肩口で切りそろえた金髪に、エメラルドの瞳。見た目は綺麗だから目を奪われちゃダメよ」
「大丈夫だよ」

 サナより綺麗な女性などいない。

「……そう。ちょっとむかついたけど。まぁいいわ。名前は、フェリス・リーナ・バロットゼニス。〈呪われた姫君〉。そう呼ばれている」
「呪われた……?」
「ええ、〈呪われた姫君〉に触れられると、触れられた者は10日と経たずに死んでしまう」
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