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20話 レティシアの耳
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警戒しながらパステルと収穫祭を見て回り、1時間ほどしてから元の部屋に戻る。
「中々楽しいね」
「初めて……収穫祭を誰かと歩きました」
「そうなの?」
「ええ、去年はずっと生徒会室で書類整理をしていましたから」
「そんなに?」
「去年は生徒会室で泊まりっぱなしでした。今はどうなっているのか怖くて聞けません」
「それは……やばいだろうね」
パステルの顔が引き攣っているけれど、それはそうだろう。
というか、どうしてあの生徒会メンバーで開けたのか不思議ではある。
まぁ、金に物を言わせて開くだけはやらせたのかもしれないけれど。
「場所はこっちだっけ?」
「はい。そこを曲がって直ぐです」
私たちは部屋に到着し、ノックをする。
コンコン
「入れ」
中からヴァルターの返事がした。
「失礼します」
パステルに続いて私も入ると、中には出て来た時のメンバーと、さっきとは違ったドレスに化粧をしたレティシアがいた。
彼女はヴァルターの膝の上に乗り、真っ青で煌めくドレスをひらめかせていた。
それだけでなく、両手でヴァルターの無表情な顔を触れ見つめている。
「ヴァルター様? お邪魔でしたかな?」
パステルが茶化すように言うと、ヴァルターは少しだけ眉を寄せて言う。
「邪魔だったら部屋に入るように言わないと思うが?」
「ですよね。レティシア様。一体我が主に何をなさっておられるのですか?」
「これはパステル様。ヴァルター様に私の美しさを見て頂こうとしていただけですよ」
レティシアはそれの何がいけないの? と悪びれもせずにパステルに返した。
「ヴァルター様は迷惑そうにされていますが」
「そんなことありません。ですよね? ヴァルター様?」
「先ほどから退いて欲しいと言っていると思ったが?」
「恥ずかしがらなくてもいいのですよ。ヴァルター様はわたくしに相応しい方なんですから」
「先ほどから同じことになって話が通じん。どうなっている」
「ヴァルター様がかっこよすぎるのがいけないんじゃないですか」
「好きでこんな見た目をしている訳じゃない」
「誰だって好きで見た目を決めた訳ではないですよ」
パステルはヴァルターにそんな軽口を叩きながら、彼に近付いていく。
そして、レティシアに顔を寄せて話す。
「レティシア様。ヴァルター様は色々と疲れておいでです。ですので、少しお休みさせて頂けませんか?」
「わたくしが癒やして差し上げる。そう言っているのですよ?」
彼女は体をヴァルターにもたれ掛からせるように近付ける。
パステルはそれを見て、レティシアを説得する。
「レティシア様。貴方はご自身の美貌を分かっておられない」
「?」
「貴方は誰もが息を飲むほどの美貌をお持ちなのです。ですから、一緒にいられるだけで緊張してしまうのですよ。だから、少しわが主に休憩する時間を頂きたいのです」
「それは……」
「それに、舞台に上がるまで時間はあるでしょう? また後でお会いすることも出来ると思うのですが?」
パステルに言われて、レティシアは暫く考えているようだった。
そして、彼女が何をしてもヴァルターの顔が変わらなかったのを知っているからか、出直してくるようだ。
「それではヴァルター様。また後程」
「ああ、舞台でな」
「後程」
レティシアはそう言ってさっさと部屋から出て行った。
彼女が暫く経ってから、ヴァルターが口を開く。
「次は何色のドレスを着て来るのだろうな」
「そんなに変えているのか?」
「お前達がいない間に2着は着ていたぞ。何度やめろ、邪魔をするな。そう言っても聞かない。あいつに耳はついていないのか?」
ヴァルターはそう言って私を見ていた。
私は仕方なく答える。
「自分に都合のいい言葉以外聞えないとても便利な耳をお持ちのようです」
「なるほど。さぞ、彼女の世界は素晴らしい世界なんだろう」
「そのように思われます」
「カスミ」
「はい」
レティシアのことを話していると思ったら、ヴァルターが急に真剣な顔で私を見つめてくる。
「俺はここを出る。どこか静かで……ゆったりと書類仕事を出来る安全な場所はないか?」
「え? 出る……ですか?」
「ああ、最初はここが安全かと思ったが……。どうやら違ったらしい。だから一刻も早く出たい」
正直ここを出るのは良くないと思うけれど、確かに、ああやってレティシアが毎回来たのでは仕事も手につかないはずだ。
しかし、
「ここを出ることの方が危険かと思いますが? レティシア様も危害を加えて来るような事はないでしょうし……」
「別に収穫祭を楽しもうとは思わない。ただ、隣の部屋だったり、そこら辺の使ってない部屋はないかと思ってな」
「それは……分かりかねます」
いざという時の脱出場所は用意したはずであるけれど、安全な部屋など確認していない。
「では適当な部屋でいい。行くぞ」
ヴァルターはそう言って近くにある書類を掴み、立ち上がった。
私は止めてくれるようにパステルに視線を送る。
だが、彼は首を振るだけで聞いてはくれなかった。
「パステルとカスミだけでいい。他はここを守っていろ。休憩に行っても構わん」
「はっ!」
正直不用心ではあるけれど、そこまでしてレティシアに会いたくないものなのか。
私は不思議に思いつつも彼の後について行く。
部屋を出て、適当に歩いた所で彼は振り返る。
「カスミ、狭くてもいい。だから静かな場所はないか」
「静かな場所ですか……」
私は一応思い返すように振り返る。
どこかあっただろうかと。
暫く考えてそういえばと思い出した。
「でしたらここから近くの物置が静かかと思います。普段は使われない物を置いておく場所ですので、そこなら安全かと」
「よし。そこにしよう」
「では」
「カスミが先導してくれ」
「畏まりました」
「中々楽しいね」
「初めて……収穫祭を誰かと歩きました」
「そうなの?」
「ええ、去年はずっと生徒会室で書類整理をしていましたから」
「そんなに?」
「去年は生徒会室で泊まりっぱなしでした。今はどうなっているのか怖くて聞けません」
「それは……やばいだろうね」
パステルの顔が引き攣っているけれど、それはそうだろう。
というか、どうしてあの生徒会メンバーで開けたのか不思議ではある。
まぁ、金に物を言わせて開くだけはやらせたのかもしれないけれど。
「場所はこっちだっけ?」
「はい。そこを曲がって直ぐです」
私たちは部屋に到着し、ノックをする。
コンコン
「入れ」
中からヴァルターの返事がした。
「失礼します」
パステルに続いて私も入ると、中には出て来た時のメンバーと、さっきとは違ったドレスに化粧をしたレティシアがいた。
彼女はヴァルターの膝の上に乗り、真っ青で煌めくドレスをひらめかせていた。
それだけでなく、両手でヴァルターの無表情な顔を触れ見つめている。
「ヴァルター様? お邪魔でしたかな?」
パステルが茶化すように言うと、ヴァルターは少しだけ眉を寄せて言う。
「邪魔だったら部屋に入るように言わないと思うが?」
「ですよね。レティシア様。一体我が主に何をなさっておられるのですか?」
「これはパステル様。ヴァルター様に私の美しさを見て頂こうとしていただけですよ」
レティシアはそれの何がいけないの? と悪びれもせずにパステルに返した。
「ヴァルター様は迷惑そうにされていますが」
「そんなことありません。ですよね? ヴァルター様?」
「先ほどから退いて欲しいと言っていると思ったが?」
「恥ずかしがらなくてもいいのですよ。ヴァルター様はわたくしに相応しい方なんですから」
「先ほどから同じことになって話が通じん。どうなっている」
「ヴァルター様がかっこよすぎるのがいけないんじゃないですか」
「好きでこんな見た目をしている訳じゃない」
「誰だって好きで見た目を決めた訳ではないですよ」
パステルはヴァルターにそんな軽口を叩きながら、彼に近付いていく。
そして、レティシアに顔を寄せて話す。
「レティシア様。ヴァルター様は色々と疲れておいでです。ですので、少しお休みさせて頂けませんか?」
「わたくしが癒やして差し上げる。そう言っているのですよ?」
彼女は体をヴァルターにもたれ掛からせるように近付ける。
パステルはそれを見て、レティシアを説得する。
「レティシア様。貴方はご自身の美貌を分かっておられない」
「?」
「貴方は誰もが息を飲むほどの美貌をお持ちなのです。ですから、一緒にいられるだけで緊張してしまうのですよ。だから、少しわが主に休憩する時間を頂きたいのです」
「それは……」
「それに、舞台に上がるまで時間はあるでしょう? また後でお会いすることも出来ると思うのですが?」
パステルに言われて、レティシアは暫く考えているようだった。
そして、彼女が何をしてもヴァルターの顔が変わらなかったのを知っているからか、出直してくるようだ。
「それではヴァルター様。また後程」
「ああ、舞台でな」
「後程」
レティシアはそう言ってさっさと部屋から出て行った。
彼女が暫く経ってから、ヴァルターが口を開く。
「次は何色のドレスを着て来るのだろうな」
「そんなに変えているのか?」
「お前達がいない間に2着は着ていたぞ。何度やめろ、邪魔をするな。そう言っても聞かない。あいつに耳はついていないのか?」
ヴァルターはそう言って私を見ていた。
私は仕方なく答える。
「自分に都合のいい言葉以外聞えないとても便利な耳をお持ちのようです」
「なるほど。さぞ、彼女の世界は素晴らしい世界なんだろう」
「そのように思われます」
「カスミ」
「はい」
レティシアのことを話していると思ったら、ヴァルターが急に真剣な顔で私を見つめてくる。
「俺はここを出る。どこか静かで……ゆったりと書類仕事を出来る安全な場所はないか?」
「え? 出る……ですか?」
「ああ、最初はここが安全かと思ったが……。どうやら違ったらしい。だから一刻も早く出たい」
正直ここを出るのは良くないと思うけれど、確かに、ああやってレティシアが毎回来たのでは仕事も手につかないはずだ。
しかし、
「ここを出ることの方が危険かと思いますが? レティシア様も危害を加えて来るような事はないでしょうし……」
「別に収穫祭を楽しもうとは思わない。ただ、隣の部屋だったり、そこら辺の使ってない部屋はないかと思ってな」
「それは……分かりかねます」
いざという時の脱出場所は用意したはずであるけれど、安全な部屋など確認していない。
「では適当な部屋でいい。行くぞ」
ヴァルターはそう言って近くにある書類を掴み、立ち上がった。
私は止めてくれるようにパステルに視線を送る。
だが、彼は首を振るだけで聞いてはくれなかった。
「パステルとカスミだけでいい。他はここを守っていろ。休憩に行っても構わん」
「はっ!」
正直不用心ではあるけれど、そこまでしてレティシアに会いたくないものなのか。
私は不思議に思いつつも彼の後について行く。
部屋を出て、適当に歩いた所で彼は振り返る。
「カスミ、狭くてもいい。だから静かな場所はないか」
「静かな場所ですか……」
私は一応思い返すように振り返る。
どこかあっただろうかと。
暫く考えてそういえばと思い出した。
「でしたらここから近くの物置が静かかと思います。普段は使われない物を置いておく場所ですので、そこなら安全かと」
「よし。そこにしよう」
「では」
「カスミが先導してくれ」
「畏まりました」
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