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6章
134話 プルモー
しおりを挟む***サシャ視点***
私はロベルト様に付き合わされて、子供たちの面倒を見ていた。
エミリオ様の治療を邪魔する……つもりはないが前の事を考えたらあんまりやるべきではない。
ただ何より、ロベルト様が陛下に対してなにかしないかの方が不安に感じてしまっていた。
今まで一緒にいたんだから大丈夫だろう。
そう思うこともできたけれど……。
「あはは! つるつるー!」
等と無邪気に国王陛下の頭を触る子供たちが不安だった気持ちも正直かなりある。
流石に国王陛下も身分を隠して来ているのに、そんなことはしないと思っているのだけれど……。
「こらこら。わしの頭をあまり触るでない。断頭台に行くことになるぞ?」
「だんとうだいってなにー?」
……前言撤回。
このまま放っておいたら、まずいかもしれない。
「……」
しかし、そんな時に、不穏な声が孤児院の奥で聞こえる。
少しの間私は考えると、その間にある人が飛び出した。
「サシャ! 俺は少し行くところができた! ここは任せたぞ!」
「え!? ロベルト様!? どこへ!?」
私も行かなければいけないのに!
ロベルト様はそんなこと関係ないとばかりに孤児院に向かって走りさってしまう。
「ちょっとトイレだ! 時間がかかるかもしれない! 後は任せた!」
「嘘……」
国王陛下を1人にしてどこかに行くことなんてできない。
私は……どうしたらいいのだろうか。
******
ディオンさんは手に持っていたナイフをプルモーに突き立てた。
「キィィィィィ!!!」
「ぐふっ」
プルモーは青い色をしたタコの様な魔物だ。
大きさは頭だけで2mはあるだろうか。
体も入れたら果てしなく大きいのかもしれない。
先ほどまでは大人しくディオンさんの側にいたけれど、今は触手3本をディオンさんに絡めている。
そしてそのままゆっくりと締め付けながら、ディオンさんにマーキュリーを注いでいた。
「あ……が……」
ディオンさんの肌がゆっくりと黒く変色している。
「ディオンさん!」
僕が彼に呼びかけると、彼は笑って口を開く。
「く……はは、孤児院にこいつを隠し……院長を使って利益を得ていましたが、バレてしまっては……。もう……しょうがありません。わたくしはこれまでの様ですからね」
ディオンさんはプルモーに抵抗する積もりは全くないようで、力なく笑っている。
この状況……どうやって助けたらいいんだろう。
僕の魔法でできるのは……。
目を閉じて魔法を詠唱し発動させる。
「氷雪の剣と成りて敵を抉れ、その血を持って我が誉とする『氷雪剣生成』」
僕の手に魔法を作りだして、それを変形させてディオンさんを救出しようとする。
「いけ!」
僕の魔法が形を変え、5本の氷の刃となってディオンさんを掴んでいるプルモーの触手に襲い掛かる。
「……」
しかし、僕の攻撃はプルモーに見切られてしまう。
僕の攻撃の先にディオンさんを移動させて、攻撃できなくなる。
僕の攻撃の速度だと、奴に対応されるのだ。
「これじゃあ……」
このままだとディオンさんが……。
ならどうする?
近づいて倒せばいい?
だけど、僕の体力ではプルモーに掴まれてディオンさんのようになるだけ……。
「でも、このままでいい訳ない」
僕はゆっくりにでも、歩いてディオンの元に向かう。
「エミリオ殿……来ないで……下さい。……あなたまで……死にます……よ」
「でも、僕はあなたを助けたい」
「なん……で……」
「僕がそう思うからです!」
「なんて……理由……」
彼が孤児院を使っていた?
そんなはずがない。
それだったら責任を全部他の人になすりつけて逃げることもできたはずだ。
だけど、そんなことはしていない。
本当のところは分からないから、その理由を……僕は聞くべきだと思ったのだ。
そして、次の瞬間にそれは飛び込んできた。
「エミリオ!」
「ロベルト兄さん!?」
どうして? なんで? どうやって? 思うことは一杯ある。
でも、きっとそんな細かい事を聞いている場合じゃない。
やることは一つ。
「助けて兄さん!」
「任せろ! なにをしたらいい!」
「ディオンさんを助けて!」
「分かった!」
兄さんはそう言って、僕とすれ違いながらプルモーに向かって走る。
「食らえ!」
そして兄さんは腰から剣を引き抜こうとして……。
何も持たずに振りぬいた。
「……兄さん?」
「くっ! 孤児院に剣なんてもって来ないだろう!? でも武器が無しじゃ……」
ロベルト兄さんはそう言って慌てて戻ってくる。
プルモーが近付いた兄さんにもその触手を伸ばして来たからだ。
兄さんは悔しそうにプルモーをにらみ、それから僕の方をチラリと見る。
「! エミリオ! それを貸してくれ!」
「え? これ? はい!」
僕は自分の手に持っている氷の剣を兄さんに差し出す。
僕が持っているよりも、兄さんが持っている方がいい。
「よし! これでぶったぎって……って冷たい! めっちゃ冷たいんだが!?」
「あ、ごめん。でもそれ、使用者本人じゃないと……」
「く……まぁいい。俺ならこれくらい使いこなしてやるよ! 行くぞ!」
ロベルト兄さんは震える手で剣を持ち、プルモーに向かっていく。
「はあああああああ!!!」
流石兄さん。
彼の走る速さは僕と比べることもできない位に速い。
「食らえ!」
「……」
ブン!
「あれ?」
しかし、プルモーの触手の動きも速く、兄さんの剣を簡単にかわす。
それどころか、反撃で触手を兄さんに振りかぶった。
「うおおお!?」
「兄さん!」
兄さんは何とかプルモーの攻撃をかわし、少し離れる。
「危なかった……。子供たちとのかけっこがなかったらどうなっていたか……」
流石兄さん。
もしかしたら、その為にかけっこをたくさんやっていたのだろうか。
「クソ! 当たれ! 避けるな!」
兄さんはプルモーの攻撃をかわしながら、なんとか剣を振り回している。
でも、プルモーの動きもなかなか速く、状況は拮抗していた。
「っち……いいところを見せたいのに……どうしたら……」
僕は苦戦している兄さんに何ができないかを考える。
僕の魔法ではあまり速度はないし、戦闘経験もほとんどない。
今魔法を発動させても、兄さんに当たってしまうかもしれないのだ。
「僕にできること……そうか!」
僕は目を閉じて、兄さんに向かって魔力をこれでもかと注ぎ込んで魔法を放つ。
「其の体は頑強なり、其の心は奮い立つ。幾億の者よ立ち上がれ『体力増強』」
僕の魔法は他の人とは違う。
体力を向上させるだけの『体力増強』の魔法も、魔力をたくさん注げば性能があげられるかもしれない。
これで兄さんを援護する。
それが僕のできることだと思う。
「うお!? なんこれ!? 緑色に光っている!? っていうのか、力が湧き上がってくる! これなら! てやぁ!」
兄さんの速度が倍以上に速くなり、ディオンさんを捕らえていた触手の一本を切り飛ばす。
「キィィィィ!!!」
プルモーは触手を悶えさせ、手に持っていたディオンさんを投げ捨てる。
「ディオンさん!」
「エミリオ! ディオンさんを見ておけ! 俺は1人でこいつを倒す!」
「お願い! 兄さん!」
僕はディオンさんの方に行き、体を抱き起こす。
「うぅ……」
「ディオンさん!」
「わたくし……より……彼を……」
「! はい!」
僕はそう言ってくるディオンさんの言葉を聞き、兄さんの方を見る。
そして、兄さんにかけた魔法に集中した。
「行くぞタコ野郎!」
兄さんはそう言って剣を構えてプルモーに突撃していく。
「キィィィィ!!!」
プルモーも怒りのためか、正面から兄さんを迎え撃つ。
「食らえ!」
兄さんが剣を振りかぶり、プルモーに振り下ろす。
プルモーはその攻撃を読んでいたのか、触手を切らせつつも他の触手で兄さんの体を狙う。
「その囮はジェシカで学んだよ!」
兄さんはそう言って地面に叩きつけた剣を支えにして、一回転をした。
「すごい……」
そして、そのままがら空きになっているプルモーの頭に向かって剣を振り下ろした。
ザシュ!
「キィィィ……」
頭に剣を突き立てられたプルモーは力なく水上に浮かび上がった。
「やった……流石兄さん!」
「ああ、エミリオ……俺は……俺はやったぞ!」
兄さんは僕の方を見て喜んだ表情を見せた後に、チラリと入り口を見て固まる。
「……」
「兄さん?」
僕も釣られてそちらの方を見ると、そこには入り口で頭を抱えるサシャと、呆然と口を開き、兄さんを一心に見つめる国王陛下がいた。
「ロベルト……お前……」
それから、国王の言葉は……驚くような言葉だった。
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