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5章
101話 ユニコーンの特性
しおりを挟む臓器から飛び出して来たユニコーンは、僕を目指して突っ込んで来る。
「ヒヒィィィィィン!!!」
「守れ! 鋼鉄の守りを我が前に、揺るがぬ信念は敵を打ち砕く金属防壁」
師匠がいきなり詠唱を始めて、僕達の前に金属製の丸盾を作り出す。
ガギィン!
ユニコーンが盾に正面からぶつかり、怯んで後ろに下がる。
「ヒヒィィィィィン!!!」
「何をぼさっとしている! 戦え!」
師匠が誰よりも先に状況を把握している。
そして、その言葉に反射して他の2人も動き出す。
「火炎の剣と成りて敵を燃やせ、その血をもって我が誉とする『火炎剣生成』」
「「風嵐の剣と成りて敵を切り裂け、その血をもって我が誉とする『風嵐剣生成』」
フルカさんが火属性の燃え盛る剣を、ルゴーさんが風属性の見えない何かが渦巻いている剣を作り出す。
僕も作らないといけない。
でも、この魔法はまだ途中だ。
それを消す訳には……。
「エミリオは魔法を最後まで使いきれ! 目の前のだけでいい! それが終わり次第戦いに参加しろ! フルカ! ルゴー! 攻撃は任せたぞ!」
「角の生えた馬を燃やせばいいのでしょう! 任せなさい!」
「老体に戦えとは……年寄りの扱いを分かっておらん。じゃが、今日くらいは運動してもいいかもしれんのう!」
フルカさんとルゴーさんがユニコーンに向かって剣を振る。
しかし、その攻撃は奴には届かなかった。
シュン……。
ヒュン……。
「なんだと!?」
「何じゃと!?」
2人の攻撃は、奴に当たる前にまるで最初から無かったかの様に消え去っていく。
「ヒヒィィィィィン!!!」
「ぐあ!」
「ぐぅ!」
ユニコーンはそんな攻撃して来た2人に向かって体当たりを繰り出し、2人は吹き飛ばされる。
「フルカさん! ルゴーさん!」
「エミリオ! お前は集中していろ!」
「! すいません!」
僕はちゃんと集中し直して今やるべきことに集中する。
目を閉じている側で、激しい戦闘音がこれでもかと聞こえてくる。
そんな中、僕は治療するんだ。
僕の為に戦ってくれている3人の助力に入る為に、僕が出来る事は治療することなんだ。
それから数秒か、1分位かは分からない。
治療を終えて、目を開けると、すぐ目の前には師匠が剣と盾を構えて僕をユニコーンから守ってくれていた。
「師匠!?」
「終わったか!?」
「はい! でも、まだ奴が!」
「気をつけろ! 奴はユニコーンの持っている特性まで引き継いでいる!」
「特性ですか!?」
「そうだ! 奴らは魔力を吸収する特性を持っている! だから相当な威力で無ければ奴には届かん!」
ユニコーンにそんな効果が……と思ったけれど、僕が持っているマントは確かに魔法耐性が高いと聞いた。
きっとその魔力を吸収する力をマントも持っているのだろう。
「離れろ!」
「ヒヒィィィィィン!!!」
師匠は近くにいたやつの顔を足で蹴り上げ、奴から距離を取る。
「エミリオ! お前も戦闘に参加しろ!」
「はい!」
ここで使う魔法は一体何がいいだろうか。
「氷よ、板と成り我が意に従え『氷板操作』」
まずはいつもの魔法を4枚、僕は展開させる。
魔力を吸われてしまうと考えて、かなり頑丈に作った。
そして、周囲にいるフルカさんとルゴーさんの様子を見ると、2人ともユニコーンに攻撃をするタイミングを測っているようだ。
「師匠! 僕は何をすればいいですか!?」
「とりあえずは攻撃するな!」
「なぜですか!?」
「やつは魔力を吸収すると言っただろう! 中途半端な攻撃ではそれを奴自身の力に変えてしまう!」
「そんなことも出来るんですか!?」
「本来のユニコーンもその性質を持っている! だから本来は剣士や狩人等を連れて行くんだが……ここでは……」
「それは……」
絶望と同じ事じゃないだろうか。
剣士と言ったらレイアさんやラウルさんがすぐに思い浮ぶけれど、彼らと同じような剣士の力を持っているかと言うと……。
「それってどうやって勝てばいいんでしょうか?」
「分からん! 分からんがこれだけ集まって見過ごす等決して出来ん! だから何としても倒す手がかりをつかめ!」
「はい!」
とりあえずは何とか時間を稼いで糸口を掴もう。
そう思っていると、フルカさんが皆に知らせるように叫ぶ。
「そんなのは決まっている! 時間をかけずに高火力で殺し切る以外にない! 時間をかければかける程奴を有利にするんだからな! まずはあたしからやろう。劫火よ我が力となれ! あらゆる災厄を燃やし尽くし、供物として受け取るがいい! 『地獄の業火』」
「その魔法は!?」
フルカさんの周囲に青い炎が生まれ、それを彼女の周囲を取り囲む。
この魔法はマーティンさんが使っていた魔法だ。
それを彼女も使えるなんて……やはり1級回復術師というのは伊達ではない。
「さーて! 素材にならないユニコーンは燃やしても問題ないよねぇ!」
フルカさんは炎をまとったままユニコーンに踊りかかる。
「はぁ!」
「ヒヒィィィィィン!!!???」
彼女の炎はユニコーンの体を焼き、悲鳴を上げさせる。
「そのまま芯まで燃やし尽くしな!」
「ヒヒィィィィィン!!!」
ドガッ!!!
「ぐぅ!」
しかし、ユニコーンもやられているだけではない。
フルカさんに焼かれながらも彼女を蹴り返している。
フルカさんは吹き飛ばされながらも何とか体勢を立て直し、魔法を消した。
「すまん! 魔力を吸われて殺しきれ無かった!」
「いや! これでいい! 奴を休ませずに攻撃を続けろ!」
「では次はワシが行かせてもらおうかの」
ルゴーさんはそう言って手に持っている剣を持ったままユニコーンに突撃していく。
そして、彼は重々しい声で詠唱を始めた。
「「風嵐の剣と成りて敵を切り裂け、その血をもって我が誉とする『風嵐剣生成』」
「同じ魔法?」
ルゴーさんは同じ魔法を発動して、それを元々持っていたモノと1つに合わせる。
彼の剣はより鋭く、より風力が増した気がした。
「岩すら貫き通す一撃、受けてみよ」
ルゴーさんの一言と共に、彼の剣はユニコーンを貫いた。
「ヒヒィィィィィン!!!???」
奴は胴体のど真ん中を貫かれるが、それでもまだ倒れる様子はない。
それどころか、頭を振ってルゴーさんを吹き飛ばした。
「ちぃ! 流石に老体には辛いのう……」
吹き飛ばされながらもすぐに体勢を立て直している様は流石だ。
「ヒヒィィィィィン!!!!!」
「速くなった!?」
これがさっき師匠が言っていた事なんだろうか?
奴の速度も上がっているように見える。
「次はおれの番だな」
師匠はそう言って、手に持っていた剣と盾を消す。
そして、知らない魔法を詠唱する。
「引力の剣と成りて敵を引き潰せ、その血をもって我が誉とする『重力剣生成』」
師匠の手にはいつもの黄金の剣に、何か黒い渦の様な物が巻きついている。
師匠はそのままユニコーンに向かって突撃した。
「ヒヒィィィィィン!!!」
奴は師匠の雰囲気に気圧されたのか、逃げようとした。
これまで強化されたことを考えると、恐らく追いつけない。
そう思った。
けれど、実際は違ったのだ。
「逃げること等出来んぞ。この『重力剣生成』の前ではな」
師匠の言葉を肯定するかのように、奴は剣に引き付けられていく。
あの剣には敵を引き付ける効果でもあるのかもしれない。
そして、師匠は容易く奴の右前足を切り飛ばした。
「ヒヒィィィィィン!!!???」
「まだ終わらんぞ」
師匠はそう言って奴を切り付け続ける。
「ヒヒィィィィィン!!!」
「!?」
その時、ユニコーンから放たれた強烈な何かに師匠が吹き飛ばされる。
「くっ!」
「ブルルルルルルル!!!」
そして、そのまま師匠を最も危険な相手と見抜いたのか、師匠に向かって真っすぐに突撃していく。
「師匠!」
僕は氷の板を2枚、師匠に向けて放つ。
そして、師匠の盾になるように展開した。
これで少しは……。
「!」
しかし、僕の予想は覆され、奴は氷の板を飛び越えるようにして師匠に向かう。
「何だって!?」
「がふっ!」
師匠は追撃を受けて更に吹き飛ぶ。
「師匠!」
「エミリオ! こいつは普通の病とは違う! 意識を持って戦闘をしている! そのことを意識しろ!」
「はい!」
「ヒヒィィィィィン!!!」
師匠の言葉を聞いてる間も、奴は師匠に追撃をかけるべく向かう。
僕は、師匠に聞いた言葉を思い出して師匠を今度こそ守るために残っている2枚を師匠に向ける。
フルカさんもルゴーさんも師匠の方に向かってくれている。
けれど、すぐには届かない距離だ。
助けることは僕しか出来ない。
「行け!」
僕は師匠を守るようにして残りの2枚の氷の板を展開する。
しかし、奴は当然の様に再び飛び越えていく。
「そうするよね」
僕は当然そうなることを読んでいたので、氷の板を動かし、奴の進路を読んで正面に来るようにぶつける。
「ヒヒィィィィィン???」
ドガァ!
奴が氷の板に当たって怯む。
そして、その隙を僕は見逃さない。
先ほど奴に躱されていた氷の板も奴に向けて送り、そのまま氷の板で奴を挟みこんだ。
「ヒヒィィィィィン!!!」
「今の内に止めを刺して下さい!」
「分かった!」
「年寄り使いが荒いのう!」
「これで終わりだ!」
氷の板で囲まれている奴に、3人の剣がそれぞれ突き刺さった。
「ヒ……ヒヒィ……ン……」
奴は最期にそうか細く鳴くと、消え去った。
「倒し……た?」
「その様だな」
「は……はは。それじゃあ……僕は……僕は……。もう……この病を……治療した……。という事でしょうか?」
「早まるな」
「え……」
そう言う師匠の言葉は、僕にとってはとても重たい言葉だった。
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