不治の病で部屋から出たことがない僕は、回復術師を極めて自由に生きる

土偶の友

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4章

59話 三つ巴

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「レイア嬢……。何をやっているのか。お聞きしても?」

 レイアとの模擬戦の間に入ってくれたのは師匠だった。
 しかもその手には魔法で作られた剣を握っている。

「師匠!」

 僕は助かった嬉しさのあまり喜びの声をあげてしまう。

「何って決まっている。模擬戦もぎせんだよ。簡単だろう?」
「エミリオにそんな体力はない。むしろ危険しかないやめろ」

 流石師匠! 僕が思っていたことをしっかりと言ってくれるなんて!

「何を言っている、ジェラルド卿。貴方もエミリオの力を使ってやりたいんだろう?」
「レイア嬢。今はエミリオの体力を向上させるのが先決です。確かにおれだって考えていた魔法理論や新しい魔法をエミリオに試させて実験したい」

 師匠?

 師匠の言葉はまだ続く。

「しかし、それはまだ早いんだ。今の彼はおれでは治せない病にかかっている。まずは彼自身を治療して、それから好き勝手実験に付き合って……ごほん。おれの研究に付き合ってもらう様にするのだ」

 あれ? おかしいな? 言い直したのに意味合いが変わっていない気がする。
 師匠って呼んでいいのだろうか。

「あの、師匠?」
「どうした我が弟子よ。健康になったら喜んでくおれの研究を手伝ってくれる。だよな?」
「ど、どうでしょうか……」

 今の話を聞く前だったら素直に うん と言っていた気がする自分が怖い。

 そう思っていると、レイアが助けて? くれる。

「貴方もそう考えているのだろう? アタシも似たような感じだよ。限界まで絞り出しながら強くしてあげようってことだよ!」
「意味が分からないし、それはダメだ。彼の病は前例がない。体に負担をかけすぎるとどうなるかわからない。まずは治療する事が先決なのだ。それが終わったら煮るなり焼くなり好きにしたらいい」

 それって一般人に使う言葉だっけ……。

 僕の心の声は余所よそに、師匠は更に続ける。

「もし……これ以上言うことを聞かないのであれば……」

 師匠はそう言って剣を構える。

「ジェラルド! いいねぇ! アタシも実はずっとやりたかったんだ!」
「え?」

 僕はレイアの方を見る。

 その時に彼女はもう僕ではなく師匠の方に目が釘付けだった。

「そうか……仕方ない。小娘に世界の広さを教えてやるとしよう」
「そうでなくてはな! アタシはこの時の為に生まれて来た!」
「……」

 どうしよう。
 2人がもう別の世界に入ってしまった。

 僕が止める?
 でも、さっきのレイアの動きを僕が止められる気がしない。

 こんな時にサシャがいてくれたら……。

 そう思った時に、少し離れた所で声が聞こえる。

「ちょっと待ったー!」
「「「!?」」」

 僕達はそちらの方を見ると、サシャが高速で走って来るところだった。

 彼女はそのまま僕達の側に走り込んで丁度いい位置で止まる。

 師匠とレイアとサシャは、僕を3人で囲むような配置だ。
 出来れば僕が居ない所でやって欲しい。

「サシャ! この2人と止めて!」
「お任せください! 森に魔物の調査に行った帰りにこんなことになっているなんて! この屋敷の平和は私が守ります!」
「ほう……貴様も戦うというのか」
「アタシは歓迎だよ。強かろうが弱かろうが関係ない。最後まで立っていたやつが強い事の証明だからね!」
「あの……せめて僕は出してもらえませんか?」
「エミリオ様。魔法を使って耐えてください!」
「そうだ。そこを動かなければダメージはない」
「1ミリでも動いたら細切れになるから注意しな」
「そんな!」

 1ミリも動くなっていうのは無理だと思うんだ!

 でも、死にたくはない。
 なのでとりあえず魔法を全力で張ることにした。

「氷よ、板と成り我が意に従え『氷板操作アイスボードコントロール』」

 魔法で氷の板を5枚作り、周囲を囲むようにして配置する。

「!」

 次の瞬間。
 3人が同時に動いた。

 ギャリィン!

「な、なになに」

 周囲では凄い音がしつつ、影が高速で動き続ける。
 あまりの速度に僕は目で追えない。

 ただ、僕の周りで戦いをしているということだけは分かる。

 僕の張っている氷の板が炎で焼かれ、土の塊が砕け散り、ナイフが刺さっているからだ。

「魔法使わなかったら絶対に死んでたよ……」

 そう確信出来る程には凄い光景だった。
 でも、皆はある程度手加減しているのか、僕の氷の板が壊れる様子はない。

 僕は参考になることはないかと皆の動きを見続けた。

「すごいなぁ……こんな人たちがいたら、スタンピードとかもきっと問題なさそう」

 スタンピードとはまれに起きる魔物の異常発生の事だ。
 その原因は詳しく分かっていないものの、強い特殊個体が現れた時に起きる説や、何らかの事情によって増えた魔物が新天地を求めてやって来るとした説。
 などがささやかれている。

 まぁ、どれが真実かは分からないけれど。

 そんな激しい戦闘を1分は続けていただろうか。
 何か……言葉に出来ない恐怖対象が近付いてくる様な気配を感じる。

「な……なに……」

 僕は恐怖を感じながらその気配の方を見る。
 それは屋敷の方からぶつけられていた。

 他の3人も動きを止めてそちらを見る。

 そこにいたのは……。

「貴方達、私達の屋敷で何をやっているのか……理解していて?」

 母さんだ。
 ただその姿は、最近ロベルト兄さんに怒っていた時の姿と一緒だった。

「私も……こう毎度毎度屋敷を荒らされたら我慢の限界もあるのですよ?」

 ヴィーの時で1回、コンラートの時で2回、そして今回で3回。
 確かに今年に入って凄い頻繁ひんぱんにこの屋敷が戦場になっている。
 4回目があってもおかしくはないかもしれない。

 そんな母さんの姿に真っ先に謝ったのはサシャだった。

「申し訳ありません! 奥様!」

 すぐに謝ったサシャは流石だと思う。

「でもでも! 私はこの屋敷を守りたかったんです! 2人が争うって言うから……」

 ただすぐに責任を他の2人に押し付けていた。

 まぁ……立場が弱いし仕方ないとは思うけど。

「おれも戦う気はない。すまなかった」

 これだけ戦っておいて……と思う。

 僕の周りでは炎がしばを焼き、石のつぶてが土を掘り返していた。

 唯一、サシャがそんな派手にはやらなかったということくらいだろうか。

「アタシはもっとやってもいいぞ? 何なら3対1でも……いや、何でもない。すまなかった夫人」

 まだまだ戦いたいといった雰囲気を出していたレイアは母さんににらまれて大人しくなる。

 母さんはそんな僕達を見た後に、サシャに視線を向けた。

 その瞬間サシャの体が跳ねたような気がする。

「まずはサシャ!」
「ひゃ、ひゃい!」
「直ぐに部屋に来て」
「へ……く、首ですか……?」

 サシャが絶望した様な表情を浮かべている。

 母さんは首を振って否定した。

「森に行って来たんでしょう? その報告よ」
「ああ! それでしたら森の奥には狩人の方々に頼んでいまして」
「それを部屋でやりなさい。そう言ってるのよ」
「はい……」
「それからレイア殿」
「……なんだろうか」
「この周囲の地形、直して置いてね」
「アタシを誰だと「直しておいてね?」
「……分かった」

 母さんの有無を言わせない迫力に負けたのか、レイアは頷いていた。

「さ、行くわよ」

 母さんはそう言って屋敷の中に帰って行く。
 あれ、師匠にはいいんだろうか。

「エミリオ。おれ達も中に行くぞ」
「え? そうなんですか?」

 それから師匠について師匠の部屋に入る。

「エミリオ。少し……覚えて欲しい魔法がある」
「!?」

 僕はその言葉を聞いた時に体に電気が走った。

 先ほど師匠はなんと言っていた?
 僕に……一体どんな実験をさせるのか、好きにするという言葉を言われてはいい気持ちにはならず頷きにくい。

「そ、それは……また今度ではダメでしょうか? ほら、今は……自分の体を治す事が先決ですし……」
「それもあるが、この魔法を使えれば多くの人が救えるんだ。だから……な?」
「な? と言われましても……」

 色々と思いだしてしまって少し戸惑う。
 でも、このままではいけない。

「師匠、まずは……その。どんな魔法か話していただけませんか?」
「ああ、それは……」

 師匠の口から語られた魔法は、確かに出来たら凄い魔法だった。
 正直、疑っていた自分が恥ずかしくなるくらいだ。

 ただ、問題もある。

「本当に……そんな魔法が使えるんでしょうか……?」
「分からん。だが、試してみる価値はある。それに、直ぐに使えるようになれ。という訳でもない。これから色々と勉強をしていき、知識や経験を積み重ね、ゆくゆくは使えるようになって欲しい……そういうものだ。おれの為にも……先輩の為にも」
「先輩?」
「ああ、いや。気にするな。それで、暇が出来たらその魔法を使う想像をしてみてくれ」
「分かりました。確かに出来たら凄いですからね」
「ああ、頼む」

 そう言う師匠は、とても……寂しげな表情をしていた。
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