上 下
117 / 137
5章

116話 予選

しおりを挟む

 俺は今、大きなコロッセウムの中央の舞台の上にいた。
 大きさとしては50m四方くらいか。
 石で出来た少し盛り上がった舞台だ。
 周囲には力自慢と思わせるような、自信に満ちた表情の魔族がこれでもかといる。

 そして、若い女の実況が声を大きくするマイクという魔道具で会場全体に声を届けた。

『さぁああああああ!!! 始まりました! 魔王四天王選抜武闘大会! 今回開かれる内容は予選になります! ただの予選なのにこんなにも多くの人がみてくださっています!』

 実況が言う方を見ると、観客席には多くの人が座って戦いを今か今かと待っていた。
 予選であるのに、7,8割は埋まっているだろう。

 ちなみに、アストリアとリュミエールもその中にいる。
 アストリアは元気に手を振っていて、リュミエールはどうせ勝つを分かっているのか、何か編み物をしていた。

『さて、それでは一応武闘大会の説明をさせて頂きます! といってもルールは簡単! まずは中央にいる50人! その人達には戦っていただきます! そして、最後まで立っていた人が決勝トーナメントに参加する権利を得られるのです!』
「なるほどな」

 ようはこの周囲にいる敵を全員ぶっ飛ばせばいい。
 分かりやすくて楽でいいな。

『さて! それでは観客の皆さまもお待ちでしょう! すぐに始めて頂きます! 準備が出来ていない人はいませんね!? それでは、レディ……ファイト!』

 なぜか実況が開始の合図を送った。
 そして、周囲の者達が近くの者に切りかかる。

「おらぁ! ぶっ飛べ!」
「軽いんだよぉ!」

 俺は自分に向かってくる相手を楽しみに待つが、誰一人俺に向かってこない。

「なぜだ……」

 俺は迎え撃つ気満々なのだが、こない。
 のんびりとしている間に、数は半数にまでなってしまった。

「何でだ……」

 俺はどうしようか悩み、でも、それで減ってくれるのなら簡単でいい。
 ただ待つことにした。

 それから俺を含めて5人になると、俺以外の4人は顔を見合わせて俺を囲む。

「ほう? これはどういうことだ?」
「お前だろ? 少し前にありえない強さを誇っていたやつっていうのは」

 4人の中で大きな戦斧を持った男がそう言って来る。
 俺はそいつに答えた。

「少し前の話は俺かどうかは知らないが、俺は最強だぞ? ありえないどころか果てしない強さを誇っているのは当然だろう」
「だと思ったよ……。だから誰もお前を狙わなかったんだ」
「ではなぜ今になって?」
「決まっているだろう。流石に最後の1人になってからでは絶対に勝てん。だが、これだけ……ある程度の意思疎通が出来れば……4人でかかれば勝てるかもしれない」
「なるほどな。戦った後で怪我もしているのに、それから俺に向かってくるとはな」
「それでも! それでも、俺達には勝たなければならない理由がある! どこの馬の骨ともわからない貴様を四天王に入れるつもりはない!」
「……まぁいい。好きにしろ。貴様らの想いは……行動で示して見せろ。かかってこい」

 俺はそう言って奴らに先手を譲る。

「く! どれだけ余裕なんだ! お前達! 行くぞ!」
「おお!」
「ぶっ殺す!」
「余裕を奪ってやるわ!」

 4人がそれぞれの方向から俺に攻撃を仕掛けてくる。
 戦斧で、剣で、槍で、魔法で。
 4人が4人とも俺を倒すために向かってくる。

「いいじゃないか……」

 そうやって、勝てないと思うような相手にも向かっていく。
 心意気は買わせてもらう。
 だが、負けてやるつもりは決してない。

「想いはいいが……弱いな」

 俺は足を動かさずにその場で対処をする。
 まずは槍、リーチが長いので先端を掴んで彼から奪い取った。

「は?」

 俺はそのまま槍を舞台、場外に投げ捨てる。

 次は戦斧、振り下ろされる軌道をそっと変えて俺に当たらない位置に振り下ろさせる。
 当然、威力も無くなるように、彼にひざに一撃を入れておいた。

「ぐぁ!?」

 その次は剣だ。
 彼は問題ない、右手で剣を掴みとる。

「え?」

 最後は魔法、俺は拳で風圧を作り、彼女の魔法を打ち消した。

「そんな……」

 俺は同時に攻められた攻撃を全ていなす。

「さて、次はどうする? まだやるか?」
「ま、負けるかぁ!」
「その心意気はいいが……強さが足りん」

 俺はそう言って飛びかかってくる槍使いを場外に投げ飛ばす。

 そして、近くにいた剣士も丁度いい。
 剣をそのまま引き寄せ、同様に投げ飛ばした。

「あ……あぁ……」

 魔法使いの彼女は腰を抜かしていて、もう戦意はなさそうだ。
 ということは、あと一人。

「後はお前だけだな?」
「お前は……なぜ……そんなにも……強い?」
「俺は最強だからな。最強が弱いなんていうことはないに決まっているだろう?」
「魔王軍に入って何をするつもりだ」
「お前に言う必要はない。力の無い者に、知る権利すら与えられないと知れ」

 俺がそう言うと、彼は俺から距離を取って答える。

「……なら。俺の……命を懸けてやらせてもらおう。【生命変換ライフチェンジ】!!!」
「ほう」

 彼は次の一撃に全てを賭けると言ったのは本当のようで、スキルから察しても分かる。

 だから、俺はそれを正面から受けようと思った。

「こい。俺は最強だ」
「ふっ。後悔するなよ。があああああああ!!!!!!」

 奴は全身が倍になったように膨張ぼうちょうし、俺に戦斧を振り下ろしてくる。
 その速度は3倍、いや、4倍までは跳ね上がっているかもしれない。
 だが、

「俺には届かない」

 俺は彼の戦斧を掴み、彼の一撃を止める。

「そ、そんな……」
「諦めろ。俺達の間には……それほどに決定的な違いがある」
「く……そ……」

 俺はそいつの腹に拳を入れて、場外に吹き飛ばした。

「……」
「……」
「……」

 しばらく沈黙が会場を支配し、実況がそれを打ち破る。

『決まったぁああああああ!!! 魔王軍親衛隊隊長! ネビルを打ち破ったのはまさかの辺境の村、ダルツから来たシュタルだあああああああ!!!! 優勝候補筆頭とも言われていたネビルを破るとは! 信じられません! 大番狂わせもすごい!』
「なんだ。そんなにも強い奴だったのか」

 俺は、特にそれ以上思う事もなく、舞台を後にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達より強いジョブを手に入れて無双する!

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚。 ネット小説やファンタジー小説が好きな少年、洲河 慱(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りに雑談をしていると突然魔法陣が現れて光に包まれて… 幼馴染達と一緒に救世主召喚でテルシア王国に召喚され、幼馴染達は【勇者】【賢者】【剣聖】【聖女】という素晴らしいジョブを手に入れたけど、僕はそれ以上のジョブと多彩なスキルを手に入れた。 王宮からは、過去の勇者パーティと同じジョブを持つ幼馴染達が世界を救うのが掟と言われた。 なら僕は、夢にまで見たこの異世界で好きに生きる事を選び、幼馴染達とは別に行動する事に決めた。 自分のジョブとスキルを駆使して無双する、魔物と魔法が存在する異世界ファンタジー。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つ物なのかな?」で、慱が本来の力を手に入れた場合のもう1つのパラレルストーリー。 11月14日にHOT男性向け1位になりました。 応援、ありがとうございます!

不治の病で部屋から出たことがない僕は、回復術師を極めて自由に生きる

土偶の友
ファンタジー
【12月16日発売決定!】   生まれてから一度も部屋の外に出た記憶のないバルトラン男爵家、次男のエミリオ。  彼の体は不治の病に侵されていて、一流の回復術師でも治すのは無理だと言った。  ベッドに寝ながら外で元気に走り回る兄や妹の姿を見つめては、自分もそうできたらと想像する毎日。  ある時、彼は母に読んでもらった英雄譚で英雄が自分自身に回復魔法を使った事を知る。  しかし、それは英雄だから出来ることであり、普通の人には出来ないと母は言う。  それでもエミリオは諦めなかった。  英雄が出来たのなら、自分も出来るかも知れない。このままベッドの上で過ごし続けるだけであれば、難しい魔法の習得をやってやると彼は心に誓う。  ただベッドの上であらゆることを想像し続けてきた彼にとって、想像が現実になる魔法は楽しい事だった。  普通の者が思い通りにならず、諦める中でエミリオはただひたすらに魔法の練習をやり続ける。  やがて彼の想像力は圧倒的な力を持つ回復術師への道を進んでいく。 ※タイトルを少し変えました。

エロフに転生したので異世界を旅するVTuberとして天下を目指します

一色孝太郎
ファンタジー
 女神見習いのミスによって三十を目前にして命を落とした茂手内猛夫は、エルフそっくりの外見を持つ淫魔族の一種エロフの女性リリスとして転生させられてしまった。リリスはエロフとして能力をフル活用して異世界で無双しつつも、年の離れた中高生の弟妹に仕送りをするため、異世界系VTuberとしてデビューを果たした。だが弟妹は世間体を気にした金にがめつい親戚に引き取られていた。果たしてリリスの仕送りは弟妹にきちんと届くのか? そしてリリスは異世界でどんな景色を見るのだろうか? ※本作品にはTS要素、百合要素が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※本作品は他サイトでも同時掲載しております。

18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした

田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。 しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。 そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。 そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。 なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。 あらすじを読んでいただきありがとうございます。 併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。 より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!

流れ者のソウタ

緋野 真人
ファンタジー
神々が99番目に創ったとされる世界――ツクモ。 "和"な文化と思想、感性が浸透したその異世界には、脈々と語り継がれている、一つの伝承があった。 『――世、乱れる時、光の刀持ちて、現れる者、有り。 その者、人々は刀聖と呼び、刀聖、振るう刀は、乱れを鎮め、邪を滅し、この地を照らす、道しるべを示さん――』 ――その、伝承の一節にある、光の刀を持つ旅の青年、ソウタ。 彼が、ひょんなコトから関わったある出来事は、世界を乱す、大戦乱への発端となる事件だった。 ※『小説家になろう』さんにて、2016年に発表した作品を再構成したモノであり、カクヨムさんでも転載連載中。 ――尚、作者構想上ですら、未だ完結には至っていない大長編となっておりますので、もしも感想を頂けるのでしたら、完結を待ってではなく、章単位や話単位で下さります様、お願い申し上げます。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

お人好し底辺テイマーがSSSランク聖獣たちともふもふ無双する

大福金
ファンタジー
次世代ファンタジーカップ【ユニークキャラクター賞】受賞作 《あらすじ》 この世界では12歳になると、自分に合ったジョブが決まる。これは神からのギフトとされこの時に人生が決まる。 皆、華やかなジョブを希望するが何に成るかは神次第なのだ。 そんな中俺はジョブを決める12歳の洗礼式で【魔物使い】テイマーになった。 花形のジョブではないが動物は好きだし俺は魔物使いと言うジョブを気にいっていた。 ジョブが決まれば12歳から修行にでる。15歳になるとこのジョブでお金を稼ぐ事もできるし。冒険者登録をして世界を旅しながらお金を稼ぐ事もできる。 この時俺はまだ見ぬ未来に期待していた。 だが俺は……一年たっても二年たっても一匹もテイム出来なかった。 犬や猫、底辺魔物のスライムやゴブリンでさえテイム出来ない。 俺のジョブは本当に魔物使いなのか疑うほどに。 こんな俺でも同郷のデュークが冒険者パーティー【深緑の牙】に仲間に入れてくれた。 俺はメンバーの為に必死に頑張った。 なのに……あんな形で俺を追放なんて‼︎ そんな無能な俺が後に…… SSSランクのフェンリルをテイム(使役)し無双する 主人公ティーゴの活躍とは裏腹に 深緑の牙はどんどん転落して行く…… 基本ほのぼのです。可愛いもふもふフェンリルを愛でます。 たまに人の為にもふもふ無双します。 ざまぁ後は可愛いもふもふ達とのんびり旅をして行きます。 もふもふ仲間はどんどん増えて行きます。可愛いもふもふ仲間達をティーゴはドンドン無自覚にタラシこんでいきます。

処理中です...