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4章
82話 ダンジョン内で迷子?
しおりを挟む目の前にいる少年は、水色の髪をショートにしている。
その瞳は疑惑の目を俺に向けていた。
俺はそんな彼に話かける。
「お前。なぜこんな場所にいる? 子供が来ていい場所じゃない。というか、子供が来れる場所じゃないだろう?」
「……気にしないで。ボクはやることがあるから」
「やること?」
「いいから」
「放っておけるか。近くにパーティメンバーはいるか? 反応は……ないと思うが……。せめて目的くらい話せ」
「……ボクは上に戻るだけだよ。気にしないで。それでいいでしょう?」
「1人で戻るつもりか? しかもその装備で?」
「……いいから。ボクはボクでやることがあるんだ! 急いで上に戻らないといけないの!」
「そうか。では俺達と一緒にくるか?」
「……でも、お前達を信じられない」
「無駄だ」
「む、無駄?」
「俺が本気でお前を殺すか……何かするつもりなら、強引にやっている」
「そ、そんな! ボクは……ボクはゆぅ……強いんだぞ! お前なんかに負ける訳ない!」
そう言う彼は瞳に炎を宿していて、強くありたい。
その想いが本気で伝わってきた。
「なるほど。その目はとてもいい目だな。だが、現実として、お前は俺には勝てない。助けてやる。だからついてこい」
「……じゃあ。僕の攻撃を受けきってみせて」
「いいぞ。いつでも来い」
俺が彼の提案を受けると、彼は拳を握り込み俺の腹に打ち込んできた。
別に避けることも、掴むことも、受け流すことすら出来たけれど、わざと受ける。
ポス。
「え……」
「どうした? それで終わりか?」
「ま、まだまだ!」
彼はそう言って何度も連打をしてくるけれど、俺はのんびりとしながら受けた。
ポスポスポスポスポス
「う、嘘……」
「もういいか?」
「そんな訳ない! 何か秘密があるんだろう! 攻撃が弱いとか! きっとあるはずだ!」
「なるほど。ではこれでどうだ?」
俺は拳を握り込み、それを振りかぶって叩きつける。
バギン!
「え……」
俺は拳をダンジョンの壁に叩き込み、壁をぶち抜いた。
「そんな……ダンジョンの壁って……壊せないんじゃ……」
「俺レベルになると壊せる。俺は最強だからな」
「そんな……ことって……」
「これで満足か?」
「う、うん……分かった。一緒に……ボクも一緒に連れていって」
「ああ、リュミエール。少し場所を開けてやれ」
俺はリュミエールに言うと、彼女は嬉しそうに場所を開けた。
「はい。こちらへどうぞ!」
「うん。エルフ……? どうして彼と? もしかして……脅されている?」
「そんなことないですよ! 私は彼に護衛を頼んでいるんです」
「護衛……? 何の為に?」
首を傾げる彼に、リュミエールが答える。
「私、光の巫女なんです」
「なんだって!?」
今までで一番大きなリアクションかもしれない。
「き、君が光の巫女!?」
「はい。やっぱりこの街だと反応は大きいんですね」
「……そ、それでなんの護衛なの?」
「私は勇者様に会いたくて、そのための護衛をお願いしているんです」
「勇者の!? そうか。それなら実はボクが……」
俺はそこでちゃんと勇者に会う目的を話す。
「俺が勇者をぼこしたいんだ。それでそのための護衛をするんだ」
「ゆぅ……ちょっと待って? えっと、シュタル……でいいかな?」
「いいぞ」
「その……どうして勇者と戦いたいの?」
「勇者は人類最強の存在なんだろう? なら、最強の俺としても戦ってみたくてな」
「そ、そうなんだ……ハハハ」
「それで、何を言おうとしたんだ?」
「!? な、なんでもないです! うん。いいから早く上に戻ろう! ね! 早くさ!」
「そうか。それでは行くか」
俺達は急いで更に下を目指す。
守る者が増えたが、1人くらいは問題ないだろう。
編み物をしていたリュミエールは話し相手が出来て嬉しいのか嬉々として話しかけている。
「それで、お名前は何ですか?」
「ボ、ボクは……ボクは……ア……アス……アスタ! アスタって言うんだ!」
「アスタさん……ですね。上に行くまでですけど、よろしくお願いします」
「う、うん。よろしくね」
そんな事を話しながら、俺は階段を降りる。
それから30階層を過ぎた頃に、アスタが恐ろしい顔をして聞いて来た。
「ね、ねぇ。どうして下に向かっているの? 上に行くんじゃないの?」
俺はしっかりと答えてやる。
「俺達の目的は勇者だからな。勇者は今このダンジョンに潜っている。それで会うまで下に潜って行こうと思っているのだ」
「そ、そんな……」
彼は絶望した様な表情を浮かべていて、口をパクパクさせている。
「どうした? 腹でも減ったか?」
「い、いや……そんなことじゃ……でも待って!? 勇者は最高階層に挑戦しているんだよ!? 戻ってくれないの!?」
「戻る必要がない。俺は最強だ」
「そんな! 今は下に……下に洒落にならないのがいるんだ!」
「洒落にならないの……?」
「そう。あれは……」
アスタが何かを言おうとした時に、老人の声が聞こえる。
「ほっほっほっほっほ。まさか自分から来てくれるとはのう……アストリアよ」
「おで、連れていく」
俺達が視線を向けると、そこには腰の曲がった老人の魔族と、筋骨隆々の鉄仮面を被った魔族が俺達の前に立ちはだかっていた。
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