上 下
82 / 137
4章

82話 ダンジョン内で迷子?

しおりを挟む

 目の前にいる少年は、水色の髪をショートにしている。
 その瞳は疑惑ぎわくの目を俺に向けていた。

 俺はそんな彼に話かける。

「お前。なぜこんな場所にいる? 子供が来ていい場所じゃない。というか、子供が来れる場所じゃないだろう?」
「……気にしないで。ボクはやることがあるから」
「やること?」
「いいから」
「放っておけるか。近くにパーティメンバーはいるか? 反応は……ないと思うが……。せめて目的くらい話せ」
「……ボクは上に戻るだけだよ。気にしないで。それでいいでしょう?」
「1人で戻るつもりか? しかもその装備で?」
「……いいから。ボクはボクでやることがあるんだ! 急いで上に戻らないといけないの!」
「そうか。では俺達と一緒にくるか?」
「……でも、お前達を信じられない」
「無駄だ」
「む、無駄?」
「俺が本気でお前を殺すか……何かするつもりなら、強引にやっている」
「そ、そんな! ボクは……ボクはゆぅ……強いんだぞ! お前なんかに負ける訳ない!」

 そう言う彼は瞳に炎を宿していて、強くありたい。
 その想いが本気で伝わってきた。

「なるほど。その目はとてもいい目だな。だが、現実として、お前は俺には勝てない。助けてやる。だからついてこい」
「……じゃあ。僕の攻撃を受けきってみせて」
「いいぞ。いつでも来い」

 俺が彼の提案を受けると、彼は拳を握り込み俺の腹に打ち込んできた。
 別に避けることも、掴むことも、受け流すことすら出来たけれど、わざと受ける。

 ポス。

「え……」
「どうした? それで終わりか?」
「ま、まだまだ!」

 彼はそう言って何度も連打をしてくるけれど、俺はのんびりとしながら受けた。

 ポスポスポスポスポス

「う、嘘……」
「もういいか?」
「そんな訳ない! 何か秘密があるんだろう! 攻撃が弱いとか! きっとあるはずだ!」
「なるほど。ではこれでどうだ?」

 俺は拳を握り込み、それを振りかぶって叩きつける。

 バギン!

「え……」

 俺は拳をダンジョンの壁に叩き込み、壁をぶち抜いた。

「そんな……ダンジョンの壁って……壊せないんじゃ……」
「俺レベルになると壊せる。俺は最強だからな」
「そんな……ことって……」
「これで満足か?」
「う、うん……分かった。一緒に……ボクも一緒に連れていって」
「ああ、リュミエール。少し場所を開けてやれ」

 俺はリュミエールに言うと、彼女は嬉しそうに場所を開けた。

「はい。こちらへどうぞ!」
「うん。エルフ……? どうして彼と? もしかして……脅されている?」
「そんなことないですよ! 私は彼に護衛を頼んでいるんです」
「護衛……? 何の為に?」

 首を傾げる彼に、リュミエールが答える。

「私、光の巫女なんです」
「なんだって!?」

 今までで一番大きなリアクションかもしれない。

「き、君が光の巫女!?」
「はい。やっぱりこの街だと反応は大きいんですね」
「……そ、それでなんの護衛なの?」
「私は勇者様に会いたくて、そのための護衛をお願いしているんです」
「勇者の!? そうか。それなら実はボクが……」

 俺はそこでちゃんと勇者に会う目的を話す。

「俺が勇者をぼこしたいんだ。それでそのための護衛をするんだ」
「ゆぅ……ちょっと待って? えっと、シュタル……でいいかな?」
「いいぞ」
「その……どうして勇者と戦いたいの?」
「勇者は人類最強の存在なんだろう? なら、最強の俺としても戦ってみたくてな」
「そ、そうなんだ……ハハハ」
「それで、何を言おうとしたんだ?」
「!? な、なんでもないです! うん。いいから早く上に戻ろう! ね! 早くさ!」
「そうか。それでは行くか」

 俺達は急いで更に下を目指す。
 守る者が増えたが、1人くらいは問題ないだろう。

 編み物をしていたリュミエールは話し相手が出来て嬉しいのか嬉々として話しかけている。

「それで、お名前は何ですか?」
「ボ、ボクは……ボクは……ア……アス……アスタ! アスタって言うんだ!」
「アスタさん……ですね。上に行くまでですけど、よろしくお願いします」
「う、うん。よろしくね」

 そんな事を話しながら、俺は階段を降りる。

 それから30階層を過ぎた頃に、アスタが恐ろしい顔をして聞いて来た。

「ね、ねぇ。どうして下に向かっているの? 上に行くんじゃないの?」

 俺はしっかりと答えてやる。

「俺達の目的は勇者だからな。勇者は今このダンジョンに潜っている。それで会うまで下に潜って行こうと思っているのだ」
「そ、そんな……」

 彼は絶望した様な表情を浮かべていて、口をパクパクさせている。

「どうした? 腹でも減ったか?」
「い、いや……そんなことじゃ……でも待って!? 勇者は最高階層に挑戦しているんだよ!? 戻ってくれないの!?」
「戻る必要がない。俺は最強だ」
「そんな! 今は下に……下に洒落にならないのがいるんだ!」
「洒落にならないの……?」
「そう。あれは……」

 アスタが何かを言おうとした時に、老人の声が聞こえる。

「ほっほっほっほっほ。まさか自分から来てくれるとはのう……アストリアよ」
「おで、連れていく」

 俺達が視線を向けると、そこには腰の曲がった老人の魔族と、筋骨隆々の鉄仮面を被った魔族が俺達の前に立ちはだかっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

家族に無能と追放された冒険者、実は街に出たら【万能チート】すぎた、理由は家族がチート集団だったから

ハーーナ殿下
ファンタジー
 冒険者を夢見る少年ハリトは、幼い時から『無能』と言われながら厳しい家族に鍛えられてきた。無能な自分は、このままではダメになってしまう。一人前の冒険者なるために、思い切って家出。辺境の都市国家に向かう。  だが少年は自覚していなかった。家族は【天才魔道具士】の父、【聖女】の母、【剣聖】の姉、【大魔導士】の兄、【元勇者】の祖父、【元魔王】の祖母で、自分が彼らの万能の才能を受け継いでいたことを。  これは自分が無能だと勘違いしていた少年が、滅亡寸前の小国を冒険者として助け、今までの努力が実り、市民や冒険者仲間、騎士、大商人や貴族、王女たちに認められ、大活躍していく逆転劇である。

S級スキル【竜化】持ちの俺、トカゲと間違われて実家を追放されるが、覚醒し竜王に見初められる。今さら戻れと言われてももう遅い

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
ファンタジー
 主人公ライルはブリケード王国の第一王子である。  しかし、ある日―― 「ライル。お前を我がブリケード王家から追放する!」  父であるバリオス・ブリケード国王から、そう宣言されてしまう。 「お、俺のスキルが真の力を発揮すれば、きっとこの国の役に立てます」  ライルは必死にそうすがりつく。 「はっ! ライルが本当に授かったスキルは、【トカゲ化】か何かだろ? いくら隠したいからって、【竜化】だなんて嘘をつくなんてよ」  弟である第二王子のガルドから、そう突き放されてしまう。  失意のまま辺境に逃げたライルは、かつて親しくしていた少女ルーシーに匿われる。 「苦労したんだな。とりあえずは、この村でゆっくりしてくれよ」  ライルの辺境での慎ましくも幸せな生活が始まる。  だが、それを脅かす者たちが近づきつつあった……。

エロフに転生したので異世界を旅するVTuberとして天下を目指します

一色孝太郎
ファンタジー
 女神見習いのミスによって三十を目前にして命を落とした茂手内猛夫は、エルフそっくりの外見を持つ淫魔族の一種エロフの女性リリスとして転生させられてしまった。リリスはエロフとして能力をフル活用して異世界で無双しつつも、年の離れた中高生の弟妹に仕送りをするため、異世界系VTuberとしてデビューを果たした。だが弟妹は世間体を気にした金にがめつい親戚に引き取られていた。果たしてリリスの仕送りは弟妹にきちんと届くのか? そしてリリスは異世界でどんな景色を見るのだろうか? ※本作品にはTS要素、百合要素が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※本作品は他サイトでも同時掲載しております。

処理中です...