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3章

73話 与える物

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 俺は手に持っている短剣を領主の目に入れる位まで近くに持って行く。

「さて、お前も国王と仲がいいんだったな? それでは、これから一緒にあいつの所に行こうか。そのついでに何があったか報告もした方が丁度いいとは思わないか?」
「あ……あわ……あわわわわわ」
「どうしたんだ? 国王と仲がいいのだろう? すぐに行こうではないか」
「…………す、すいませんでしたー!!!」

 領主はそう叫びながら、1人で走って屋敷から出て行く。

「……」

 俺達はその背を誰も呼び止めることも、追いかける事もしなかった。

 俺はメディに話しかける。

「全く。騒々しい奴だ。それでメディ。これからあいつに何か言われそうになったら俺の名前を出してもいいぞ」
「え……でもそれは……」
「それに隊長。どうせ領主の所を辞めるのなら、メディの元で働いたらどうだ?」
「しかし……よろしいのですか?」

 隊長は尋ねようにしてメディアを見る。

「え、ええ……私達としても戦力は欲しいけれど……。そんな給料は払えないわよ?」
「ほら、くれてやる」

 俺は『収納』からリュミエールを捕らえていた奴隷商から奪った財宝を少し取り出す。

「え……何これ? っていうかどこから……?」
「気にするな。それよりもこれがあった方がいいのだろう? 好きに使え」
「いいのですか!?」
「ああ、俺はもう……余るほど持っているからな」

 リュミエールが目を金マークに変えている。
 自分も欲しいと言っているのだろうか。

 でも、それはダメだ。
 この街にはしっかりと復興をしてもらわないといけない。
 そうであれば、やはりこの程度は与えても問題ない。

「でも……」
「リュミエール。次に俺達が行く場所はどこだ?」
「ラビリスです」

 ラビリスとは、勇者がいるというダンジョンを内包ないほうしている街の名前だ。
 かなりの腕自慢が集まり、その戦力は王都をしのぐと言われている。

「そこにダンジョンがあるだろう? そこで金稼ぎなんて幾らでも出来る。だから気にするな」
「……分かりました。いえ、そうですよね。困っている人がいるなら手を差し伸べる。それをすることは必要ですよね」
「そうだ。という訳で受け取ってくれ。どうせ金があっても使う事はほとんどないからな」

 俺がそう言うと、メディは信じられないと言う様な目を俺に向けてくる。

「ありえません! 私達が助けてもらって、こちらが支払うべきなのに……」
「気にするなと言っただろう。では……そうだな。俺の名前を広めろ」
「名前を……広める?」
「そうだ。この俺、シュタルが世界最強であることを広めろ。それで俺は気にしない」
「そんな……そんなの……何もないのと一緒です……」

 メディは少し悲しそうに言っているけれど、そこに隊長が助け舟を出す。

「メディ様。それでシュタル様の銅像を立てましょう。そしてその足元に刻むのです。『最強のシュタル、ここに眠る』……と」
「勝手に殺すな。というか銅像を立てるな」
「いえ! 分かりました! シュタル様の名を広めるのはもちろん、銅像を出来る限り大きな物を立てるようにして行きますね!」
「え? いや……」
「そうと決まれば今日は祝日にしましょう! 領主のあの感じであれば問題はないでしょう! 多少強引にでも頷かせてみせます! シュタル様の名前を使ってでも!」
「いや……そこまでは……」
「さっき使って下さいと言ってたじゃありませんか」
「だが……」
「ということで、早速やっていきます! この財宝を少し換金して今日中にでも祭りを開催かいさいしましょう! それがいいです!」
「あ……ああ。もう……いいか」

 俺は色々と諦めて、その日の祭りまでのんびりとすることにした。




 その日の夜。

 俺達は急遽きゅうきょ開催されることになった祭りに参加する。

「中々すごいですね。最初に来た時はこんなことになるとは思っていませんでした」
「そうだな。だが、祭りといってもその場所によっては色々と違うのだな」
「ですね」

 俺とリュミエールは2人で祭りを楽しんでいた。
 2人で並んで綺麗になった街並みを歩く。

 今ではこの街は笑顔があふれている。
 他にも、来たばかりの時には居なかった子供達も両親に連れられていたりするのだ。

 これを見ているだけでも俺としては助けることが出来て良かった。

 そんな事を考えていると、リュミエールが話しかけてくる。

「この光景も全部……シュタルさんのお陰ですよ」
「リュミエール。それは違うぞ。今回の件。お前の協力が無かったら出来なかった事だと思う。それほどに、お前の魔法陣の話はとても……助かった」
「それは……そうでしょうか?」
「そうだ。もし俺があのままだったら、守り神を持ち上げて山奥で手足を切り飛ばしたりして魔法陣がない部分を見つけて蘇生を繰り返すことしか出来なかった」
「それはそれで出来たんですね……」
「ただ、そんな事をしたら、守り神と言えど精神が壊れていたかもしれない」
「……そうでしょうか」
「ああ、だからお前が居てくれて助かったんだ」
「……はい! ありがとうございます!」

 俺はリュミエールを見て笑い合う。
 それから、楽しい夜を過ごした。
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