73 / 137
3章
73話 与える物
しおりを挟む俺は手に持っている短剣を領主の目に入れる位まで近くに持って行く。
「さて、お前も国王と仲がいいんだったな? それでは、これから一緒にあいつの所に行こうか。そのついでに何があったか報告もした方が丁度いいとは思わないか?」
「あ……あわ……あわわわわわ」
「どうしたんだ? 国王と仲がいいのだろう? すぐに行こうではないか」
「…………す、すいませんでしたー!!!」
領主はそう叫びながら、1人で走って屋敷から出て行く。
「……」
俺達はその背を誰も呼び止めることも、追いかける事もしなかった。
俺はメディに話しかける。
「全く。騒々しい奴だ。それでメディ。これからあいつに何か言われそうになったら俺の名前を出してもいいぞ」
「え……でもそれは……」
「それに隊長。どうせ領主の所を辞めるのなら、メディの元で働いたらどうだ?」
「しかし……よろしいのですか?」
隊長は尋ねようにしてメディアを見る。
「え、ええ……私達としても戦力は欲しいけれど……。そんな給料は払えないわよ?」
「ほら、くれてやる」
俺は『収納』からリュミエールを捕らえていた奴隷商から奪った財宝を少し取り出す。
「え……何これ? っていうかどこから……?」
「気にするな。それよりもこれがあった方がいいのだろう? 好きに使え」
「いいのですか!?」
「ああ、俺はもう……余るほど持っているからな」
リュミエールが目を金マークに変えている。
自分も欲しいと言っているのだろうか。
でも、それはダメだ。
この街にはしっかりと復興をしてもらわないといけない。
そうであれば、やはりこの程度は与えても問題ない。
「でも……」
「リュミエール。次に俺達が行く場所はどこだ?」
「ラビリスです」
ラビリスとは、勇者がいるというダンジョンを内包している街の名前だ。
かなりの腕自慢が集まり、その戦力は王都をしのぐと言われている。
「そこにダンジョンがあるだろう? そこで金稼ぎなんて幾らでも出来る。だから気にするな」
「……分かりました。いえ、そうですよね。困っている人がいるなら手を差し伸べる。それをすることは必要ですよね」
「そうだ。という訳で受け取ってくれ。どうせ金があっても使う事はほとんどないからな」
俺がそう言うと、メディは信じられないと言う様な目を俺に向けてくる。
「ありえません! 私達が助けてもらって、こちらが支払うべきなのに……」
「気にするなと言っただろう。では……そうだな。俺の名前を広めろ」
「名前を……広める?」
「そうだ。この俺、シュタルが世界最強であることを広めろ。それで俺は気にしない」
「そんな……そんなの……何もないのと一緒です……」
メディは少し悲しそうに言っているけれど、そこに隊長が助け舟を出す。
「メディ様。それでシュタル様の銅像を立てましょう。そしてその足元に刻むのです。『最強のシュタル、ここに眠る』……と」
「勝手に殺すな。というか銅像を立てるな」
「いえ! 分かりました! シュタル様の名を広めるのはもちろん、銅像を出来る限り大きな物を立てるようにして行きますね!」
「え? いや……」
「そうと決まれば今日は祝日にしましょう! 領主のあの感じであれば問題はないでしょう! 多少強引にでも頷かせてみせます! シュタル様の名前を使ってでも!」
「いや……そこまでは……」
「さっき使って下さいと言ってたじゃありませんか」
「だが……」
「ということで、早速やっていきます! この財宝を少し換金して今日中にでも祭りを開催しましょう! それがいいです!」
「あ……ああ。もう……いいか」
俺は色々と諦めて、その日の祭りまでのんびりとすることにした。
その日の夜。
俺達は急遽開催されることになった祭りに参加する。
「中々すごいですね。最初に来た時はこんなことになるとは思っていませんでした」
「そうだな。だが、祭りといってもその場所によっては色々と違うのだな」
「ですね」
俺とリュミエールは2人で祭りを楽しんでいた。
2人で並んで綺麗になった街並みを歩く。
今ではこの街は笑顔が溢れている。
他にも、来たばかりの時には居なかった子供達も両親に連れられていたりするのだ。
これを見ているだけでも俺としては助けることが出来て良かった。
そんな事を考えていると、リュミエールが話しかけてくる。
「この光景も全部……シュタルさんのお陰ですよ」
「リュミエール。それは違うぞ。今回の件。お前の協力が無かったら出来なかった事だと思う。それほどに、お前の魔法陣の話はとても……助かった」
「それは……そうでしょうか?」
「そうだ。もし俺があのままだったら、守り神を持ち上げて山奥で手足を切り飛ばしたりして魔法陣がない部分を見つけて蘇生を繰り返すことしか出来なかった」
「それはそれで出来たんですね……」
「ただ、そんな事をしたら、守り神と言えど精神が壊れていたかもしれない」
「……そうでしょうか」
「ああ、だからお前が居てくれて助かったんだ」
「……はい! ありがとうございます!」
俺はリュミエールを見て笑い合う。
それから、楽しい夜を過ごした。
1
お気に入りに追加
390
あなたにおすすめの小説
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
俺だけステータスが見える件~ゴミスキル【開く】持ちの俺はダンジョンに捨てられたが、【開く】はステータスオープンできるチートスキルでした~
平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人はクラスメイトたちと異世界へ召喚されてしまう。
異世界より召喚された者は神からスキルを授かるが、直人のスキルは『物を開け閉めする』だけのゴミスキルだと判明し、ダンジョンに廃棄されることになった。
途方にくれる直人は偶然、このゴミスキルの真の力に気づく。それは自分や他者のステータスを数値化して表示できるというものだった。
しかもそれだけでなくステータスを再分配することで無限に強くなることが可能で、更にはスキルまで再分配できる能力だと判明する。
その力を使い、ダンジョンから脱出した直人は、自分をバカにした連中を徹底的に蹂躙していくのであった。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~
未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。
待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。
シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。
アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。
死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。
最強魔獣使いとなった俺、全ての魔獣の能力を使えるようになる〜最強魔獣使いになったんで元ギルドを潰してやろうと思います〜
東雲ハヤブサ
ファンタジー
俺は、一緒に育ってきた親友と同じギルドに所属していた。
しかしある日、親友が俺が達成したクエストを自分が達成したと偽り、全ての報酬を奪われてしまう。
それが原因で俺はギルド長を激怒させてしまい、
「無能は邪魔」
と言われて言い放たれてしまい、ギルドを追放させられた。
行く場所もなく、途方に暮れていると一匹の犬が近づいてきた。
そいつと暫く戯れた後、カロスと名付け行動を共にすることにした。
お金を稼ぐ為、俺は簡単な採取クエストを受注し、森の中でクエストを遂行していた。
だが、不運にも魔獣に遭遇してしまう。
無数の魔獣に囲まれ、俺は死を覚悟した。
その時だった。
地面を揺らし、俺の体の芯まで響いてくる何かの咆哮。
そして、その方向にいたのはーー。
これは、俺が弱者から魔獣使いとして成長していく物語である。
※小説家になろう、カクヨミで掲載しています
現在連載中の別小説、『最強聖剣使いが魔王と手を組むのはダメですか?〜俺は魔王と手を組んで、お前らがしたことを後悔させてやるからな〜』もよろしくお願いします。
いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!
町島航太
ファンタジー
ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。
ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。
不治の病で部屋から出たことがない僕は、回復術師を極めて自由に生きる
土偶の友
ファンタジー
【12月16日発売決定!】
生まれてから一度も部屋の外に出た記憶のないバルトラン男爵家、次男のエミリオ。
彼の体は不治の病に侵されていて、一流の回復術師でも治すのは無理だと言った。
ベッドに寝ながら外で元気に走り回る兄や妹の姿を見つめては、自分もそうできたらと想像する毎日。
ある時、彼は母に読んでもらった英雄譚で英雄が自分自身に回復魔法を使った事を知る。
しかし、それは英雄だから出来ることであり、普通の人には出来ないと母は言う。
それでもエミリオは諦めなかった。
英雄が出来たのなら、自分も出来るかも知れない。このままベッドの上で過ごし続けるだけであれば、難しい魔法の習得をやってやると彼は心に誓う。
ただベッドの上であらゆることを想像し続けてきた彼にとって、想像が現実になる魔法は楽しい事だった。
普通の者が思い通りにならず、諦める中でエミリオはただひたすらに魔法の練習をやり続ける。
やがて彼の想像力は圧倒的な力を持つ回復術師への道を進んでいく。
※タイトルを少し変えました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる