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2章

36話 ラジェル公爵

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 俺はラジェル公爵の屋敷で探索をしていた。
 と言っても重要な所には常に人がいるので入る事は出来ない。

 流石の俺も人の記憶を消すことは出来ないのだ。
 見られてしまい、それを気絶させる事はできるけれど、そんな事を続けていたらどう考えても警戒されてしまう。
 面倒ではあるが、こうやって毎晩確実に情報を集めていくという事が必要になってくる。
 最強への道は険しいのだ。

「誰だ貴様は!」
「!?」

 ラジェル公爵の声が俺の耳に届く。

 俺はまさかバレたのかと思い、腰の剣手をかけて周囲の警戒をする。
 けれど、その声は自分にではなく、違った相手に声をかけられていたようだ。

「……」
「敵だ! 急いで来い!」
「無駄だ」

 俺は不審に思い、ラジェル公爵の方に向かう。

 すると、そこにはラジェル公爵を取り囲むように、黒ずくめの男たちが短剣を公爵に突きつけていた。

 ラジェル公爵はさっきから人を呼んでいるが、決して人が来る気配はない。

「くっ……貴様らやはり魔族の……」
「!?」

 俺はその言葉に驚きを隠せなかった。
 ミリアム達と組んでいる。
 そう思っていたラジェル公爵は実は敵対していた?

 もしそうであるならば、助けるべきか……。

「死ね」

 俺が少し迷っている間に、黒ずくめの男達はラジェル公爵に向かって切り込んでいく。
 迷っている時間はない。
 今すぐに助けに行くべきか。

 ……よし、助けよう。
 俺は直感で助けるべき、という事が頭に浮かんだ。
 なので、助ける。
 後から話を聞くことにしよう。

 俺は瞬時に移動し、ラジェル公爵の前に立つ。

「何者だ貴様!」
「殺せ」

 ラジェル公爵は俺を問いただすが、敵は関係ないとばかりに殺しに来る。
 流石だ。
 これぞ仕事人の行なうべき行動だろう。

「死ぬのは貴様らだ」

 俺は剣を抜き放つと同時に敵の首を全て切り飛ばす。

「!」

 敵は驚きに目を見張っているけれど、所詮は暗殺者。
 正面から敵を倒すことが出来ず、裏から殺しに来る者。

 こうしてただの戦いに持ち込んでしまえば勝敗は決したも同然だ。

「お、お前は……」

 ラジェル公爵が豪華な部屋の片隅かたすみで、壁に背をつけながら俺から逃げようとする。
 カイゼル髭はとても立派で、黒髪を全てオールバックにしている様もピシリとしていて仕事が出来る事を感じさせた。
 普段は多くの者を相手に指示を出しているのだろう。
 そんな男が、今は俺に恐怖を抱いていた。

「一つ聞く」
「な、なんだ」
「貴様はミリアムとどの様な関係だ」
「! ミリアム……」
「どちらだ。返答次第では……」

 チャキ

 俺は剣を見せつける。

 すると、彼は目に炎を燃え上がらせて、口を開いた。

「ワシは王国の臣下だぞ! ミリアム等……ミリアム等どう考えても敵ではないか! それなのに奴に味方する者の多いこと……。あの愚か者共はミリアムに騙されているのだ!」
「ほう……ではミリアムに敵対すると?」
「っ! そうだ! ワシは王国に忠誠を誓う者! たとえ死のうがその意思は変わらぬ!」
「……ではこいつらは?」
「知らん。大方、ミリアムに組する貴族共が差し向けたのだろう。しかし……ここまで入り込んでいるとは裏切者の可能性も考えねばな……」
「ふむ。では更に聞く。貴族の勢力図で魔族側には誰が加担している?」
「何? なぜ貴様にそんな事を」
「こうして助けてやったのだ。言った所で損はあるまい」
「いや、まずは貴様は誰だ」
「俺か? 俺はシュタル。最強の魔剣士だ」
「最強の……魔剣士? はっ。言うだけなら好きに出来るからな。別にいいだろう。それで、そんな最強の魔剣士とやらはワシになんの用だ? 先の質問も本質を突いた物ではあるまい?」

 この肝の座り方は流石公爵といった所か。

 俺は彼に話す。

「決まっている。貴様がミリアムの仲間。という情報があった」
「そんな訳無いだろう!? 誰だそんな事を言った奴は!?」
「冒険者ギルドのギルドマスターだな」
「あの小娘か! 腹芸が得意でも無いのにギルドマスターになりおって……それもこんな大切な事を間違える等……」
「なるほど、ではギルドマスターが間違っている。そう言いたいのか?」
「当然だ!」
「兵士を集めていた。という事も聞いたぞ?」
「魔族が王都にかなりの数入ってきているからだ!」
「分かった。では今から行くぞ」
「は? 行くとはどこへ?」
「この状況でギルドマスターの所以外にどこに行く」

 俺は何を言っているのだ? という視線を彼に送る。

「いや……そんな……。ワシは今暗殺されかけたのだぞ? それで更に外に出ると? 死ねというのか?」
「俺が守ってやる。それに、ミリアムの話を考えていくと時間がないかもしれない。急ぐぞ」
「……分かった。ここで待っていても死にかけたんだ。付き合ってやろう」
「よし。ではまずは……」

 俺は剣を持ち、最前列にいた奴らを蘇生そせいさせる。

「お前!? 蘇生まで出来るのか!?」
「当然だ。最強だからな」
「最強って蘇生まで出来ることを含むのか!?」
「当然だ」
「ワシとお前では当然という言葉に大きな誤解があるように思うんだが!?」
「気にするな」

 俺は蘇生させる。

 そして、奴らが何が起きたのか分からずに周囲を見ている所に、腹に一撃を入れて行き気絶させる。

「な、なぜそんなことを……」
「情報を抜き取るには知っている奴に聞くのが一番だ」
「なるほど。ではここでやるか?」
「冒険者ギルドにもあるだろう。だが、そこが信頼できない。というのであれば、貴様らの兵も少し連れてくるといい」
「分かった」

 それから兵士にある程度伝え、俺の『結界魔法シールド』の中でスヤスヤ眠っているリュミエールを回収して、ギルドマスターの所へ向かった。

「『探知魔法サーチ』」

 冒険者ギルドには彼女はいなかったので、彼女の反応がする家に向かう。

「ここだな」
「なぁ、ここは普通に個人の家ではないのか?」

 彼女は自宅らしき場所にいる。
 でも、今から行くのは仕方ない。
 この王都の一刻の猶予を争うのだ。

「行くぞ」
「貴様がいいのならいいが……」

 俺は扉をノックするが反応がない。
 なので、扉を壊して入っていく。

「おい。それは犯罪ではないのか?」
「しょうがないのだろう。王都の未来がかかっている」
「その言葉は犯罪の免罪符では無いのだぞ?」

 それから彼女の気配がする方に向かう。

 そして、肩からタオルを下げ、下には質素な白の熊ちゃんパンツを履いただけの彼女と出会った。

「きゃあああああああああ!!!???」
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