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2章
20話 ベルセルの町
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「これは……なんだ?」
俺は目の前に広がる光景が信じられなかった。
町の入り口は立派な石材で守られた堅牢な門。
その奥には綺麗な街並みが広がっている。
ただし、その門を守っている者は槍を杖にして震えている老人だった。
反対側に立っている者もいたけれど、見たところ年端もいかない少年だ。
俺は疑問に思い、老人に近付いて行く。
「おい。ちょっといいか」
「! こ、これは……遂に来て下さった! 来て下さったぞ!」
老人はそれだけ言うと門の中に走って行く。
門の守りはどうするんだ……と思ったが、仕方ないのでもう一人に聞く。
「少し聞いて良いか?」
「ぼ、僕は……悪い門番じゃないよ」
「知っている。なぜお前が門番をやっている? ここの門番は代々強い者がなる決まりだろう?」
「そうだけど……居なくなっちゃったんだ」
「居なくなった?」
俺の後ろで聞いていた他の者達も声が重なる。
それほどに衝撃的な話だ。
「だが少年。少し居なくなった程度でお前が門番をするのは違うのではないのか?」
「どうして?」
「他にも木こりや石切り職人はいるだろう?」
「いないよ」
「は?」
「居なくなったって言ったでしょ。文字通り、本当に皆いなくなっちゃったんだよ」
「いなくって……どの範囲で?」
「10代~40代の男は皆。だから、お兄さん達が来たのが信じられなくてさっきの人は走っていったんだ」
「そういう事だったのか……」
彼の話を聞いて納得していると、老人が見た目の合わぬ俊足で駆けてくる。
「お待たせしました! こちらへどうぞ!」
老人とは思えない程の元気さで俺達を案内してくれる。
俺達はとりあえずと頷くと、彼の後に続く。
「これは……本当の様だな……」
先ほどの少年の言う通り、街の中には10代から40代くらいの男は一切見かけなかった。
しかも残っている者達の顔色もかなり暗い。
セントロの街よりも酷い具合だ。
「ここです! 残っている町長が話してくださいます!」
「ああ、とりあえず失礼する」
中に入ると、そこには60代くらいの老人がイスに腰掛けていた。
部屋の中はそれなりに豪華で、栄えているのが分かるくらいだ。
「ようこそおいで下さいました。何もない所ですが……ごゆっくりしてくだされ」
「そんな挨拶はいい。それよりも何があった? 働き盛りの男がいなくなったと聞いたが……」
俺がそう言うと、その老人はゆっくりと頷く。
「ええ……何があったのかお話します」
彼が言うにはこうだった。
数週間前に町全体を甘い香りが包んだ。
何か魔物の仕業かと考えて、その香りが強い方に討伐隊を派遣した。
けれど、一向に帰って来ない。
それを何度か繰り返したけれど、誰一人として帰って来なかった。
なので救援を求めるために王都に兵を出す。
けれど、誰も帰って来なかった。
ベルセルの街に人を送っても同様で、しかも夜な夜な男がフラフラと森の中、それも討伐隊が消えていった森の中に入っていく。
止めようとしても、止めようとした者はいつの間にか眠りに落ちていて止められないらしい。
そして、八方塞がりになっているところに俺達が来たという訳だ。
「なるほど。事情は分かった」
「ありがとうございます。出来ればセントロに戻って、救援を要請して頂けると……」
「俺が解決してやろう」
「え? ですが……」
「安心しろ。俺は最強だ」
「いや……しかし……そんな少人数で……」
「ん?」
少人数? そう言われて俺は首をかしげる。
そこで、隣にいる者達の事を思い出す。
「彼らはただの商人とその護衛だ。俺とはいかない」
「いかない!? そんな!? たった1人で行くなんて自殺しに行くようなものです!」
「問題ない。俺は最強だ」
「しかし……しかしそれは……」
老人はイスから立ち上がり、つばを飛ばしながら話す。
俺は当然の様にそのつばを全て避け、彼に言葉を返した。
「安心してまっていろ。俺に出来ない事は誰にも出来ない。リュミエール。言ってやれ」
「あ、ああ。はい。安心してください。私は光の巫女。彼の言っている事は正しいです」
「ひ、光の巫女……様? ということは……勇者様で在られるのですか?」
「違う。俺は勇者をぼこしに行くだけだ」
「ということは……魔王?」
「いや? 場合によっては魔王もボコす」
「そんな方がいるなど……」
信じられないと町長は話すが、らちが開かないのでさっさと行くことにした。
「ふむ。リュミエール。さっさと行くぞ。話している間に取り返して来よう」
「はい。分かりました」
「そうだ。町長」
「な、何でしょう」
「先ほど捕まえた山賊は引き渡してもいいか?」
「え? 山賊? この町で……ですか?」
「ああ、ここに来る途中で襲ってきたから全員捕まえた」
「そんなバカな……」
「それで、どこにおいておけばいい?」
「あ、こちらへ……」
そう言われて案内された牢獄に、俺は山賊たちを放り込んでいく。
「よし。これくらいか。リュミエール行くぞ」
「はい!」
「と、商人。俺は行く。礼は後で取りに行くとしよう」
「は、はい。出来る限りのものを用意してお待ちしています」
「期待しておこう」
こうして、俺達は男たちが消えたと言われている森に向かうことになった。
俺は目の前に広がる光景が信じられなかった。
町の入り口は立派な石材で守られた堅牢な門。
その奥には綺麗な街並みが広がっている。
ただし、その門を守っている者は槍を杖にして震えている老人だった。
反対側に立っている者もいたけれど、見たところ年端もいかない少年だ。
俺は疑問に思い、老人に近付いて行く。
「おい。ちょっといいか」
「! こ、これは……遂に来て下さった! 来て下さったぞ!」
老人はそれだけ言うと門の中に走って行く。
門の守りはどうするんだ……と思ったが、仕方ないのでもう一人に聞く。
「少し聞いて良いか?」
「ぼ、僕は……悪い門番じゃないよ」
「知っている。なぜお前が門番をやっている? ここの門番は代々強い者がなる決まりだろう?」
「そうだけど……居なくなっちゃったんだ」
「居なくなった?」
俺の後ろで聞いていた他の者達も声が重なる。
それほどに衝撃的な話だ。
「だが少年。少し居なくなった程度でお前が門番をするのは違うのではないのか?」
「どうして?」
「他にも木こりや石切り職人はいるだろう?」
「いないよ」
「は?」
「居なくなったって言ったでしょ。文字通り、本当に皆いなくなっちゃったんだよ」
「いなくって……どの範囲で?」
「10代~40代の男は皆。だから、お兄さん達が来たのが信じられなくてさっきの人は走っていったんだ」
「そういう事だったのか……」
彼の話を聞いて納得していると、老人が見た目の合わぬ俊足で駆けてくる。
「お待たせしました! こちらへどうぞ!」
老人とは思えない程の元気さで俺達を案内してくれる。
俺達はとりあえずと頷くと、彼の後に続く。
「これは……本当の様だな……」
先ほどの少年の言う通り、街の中には10代から40代くらいの男は一切見かけなかった。
しかも残っている者達の顔色もかなり暗い。
セントロの街よりも酷い具合だ。
「ここです! 残っている町長が話してくださいます!」
「ああ、とりあえず失礼する」
中に入ると、そこには60代くらいの老人がイスに腰掛けていた。
部屋の中はそれなりに豪華で、栄えているのが分かるくらいだ。
「ようこそおいで下さいました。何もない所ですが……ごゆっくりしてくだされ」
「そんな挨拶はいい。それよりも何があった? 働き盛りの男がいなくなったと聞いたが……」
俺がそう言うと、その老人はゆっくりと頷く。
「ええ……何があったのかお話します」
彼が言うにはこうだった。
数週間前に町全体を甘い香りが包んだ。
何か魔物の仕業かと考えて、その香りが強い方に討伐隊を派遣した。
けれど、一向に帰って来ない。
それを何度か繰り返したけれど、誰一人として帰って来なかった。
なので救援を求めるために王都に兵を出す。
けれど、誰も帰って来なかった。
ベルセルの街に人を送っても同様で、しかも夜な夜な男がフラフラと森の中、それも討伐隊が消えていった森の中に入っていく。
止めようとしても、止めようとした者はいつの間にか眠りに落ちていて止められないらしい。
そして、八方塞がりになっているところに俺達が来たという訳だ。
「なるほど。事情は分かった」
「ありがとうございます。出来ればセントロに戻って、救援を要請して頂けると……」
「俺が解決してやろう」
「え? ですが……」
「安心しろ。俺は最強だ」
「いや……しかし……そんな少人数で……」
「ん?」
少人数? そう言われて俺は首をかしげる。
そこで、隣にいる者達の事を思い出す。
「彼らはただの商人とその護衛だ。俺とはいかない」
「いかない!? そんな!? たった1人で行くなんて自殺しに行くようなものです!」
「問題ない。俺は最強だ」
「しかし……しかしそれは……」
老人はイスから立ち上がり、つばを飛ばしながら話す。
俺は当然の様にそのつばを全て避け、彼に言葉を返した。
「安心してまっていろ。俺に出来ない事は誰にも出来ない。リュミエール。言ってやれ」
「あ、ああ。はい。安心してください。私は光の巫女。彼の言っている事は正しいです」
「ひ、光の巫女……様? ということは……勇者様で在られるのですか?」
「違う。俺は勇者をぼこしに行くだけだ」
「ということは……魔王?」
「いや? 場合によっては魔王もボコす」
「そんな方がいるなど……」
信じられないと町長は話すが、らちが開かないのでさっさと行くことにした。
「ふむ。リュミエール。さっさと行くぞ。話している間に取り返して来よう」
「はい。分かりました」
「そうだ。町長」
「な、何でしょう」
「先ほど捕まえた山賊は引き渡してもいいか?」
「え? 山賊? この町で……ですか?」
「ああ、ここに来る途中で襲ってきたから全員捕まえた」
「そんなバカな……」
「それで、どこにおいておけばいい?」
「あ、こちらへ……」
そう言われて案内された牢獄に、俺は山賊たちを放り込んでいく。
「よし。これくらいか。リュミエール行くぞ」
「はい!」
「と、商人。俺は行く。礼は後で取りに行くとしよう」
「は、はい。出来る限りのものを用意してお待ちしています」
「期待しておこう」
こうして、俺達は男たちが消えたと言われている森に向かうことになった。
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