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2章

19話 山賊

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「へっへっへ。その見た目……エルフか? 可愛いなぁ。今晩一緒に寝ようか。大事にしてやるからよぅ」
「お頭、1人占めはずるいっすよ」
「あん? てめぇらは他の女で我慢してろ」
「もう……お頭はロリコンなんすから……」

 山賊たちの数は30人くらいか。
 しかし理由が分からない。
 ここらへんはどう考えてもベルセルの領域だ。

「シュタルさん。山賊っていないって聞いたんですけど……」
「どうやらベルセルの町で何か起きているらしいな。王都に行く前に一度確認するぞ」
「分かりました。それで……彼らは……」
「そうだな。本来だったら2つにして終わりだが、ベルセルの町も近い。囚人はいい労働力になるだろうし、生かして連れていくか」

 俺がのんびりとそう話すと、商人が声をひそめて話しかけてくる。

「シュタルさん。待ってください」
「どうした?」
「今我々は囲まれています。あいつらが話している間にもきっと逃げ道はふさがれているでしょう」
「そうだな」

 商人の言う通り、山賊たちが俺達の注意を引き付けている間に、全方位から囲むようにして動いている。
 きっと、本当だったら囲んでから一気に襲うつもりだったに違いない。

 俺が助けてしまったから焦ったのだろう。

 商人は更に続ける。

「それで、今のうちに家内と子供を連れて逃げてはくれませんか? 我々が何とか気を引きますので」
「断る」
「なのでその隙に……なんと?」
「断る。そう言ったんだ」

 俺は商人に面と向かって話す。

「な……なぜ?」
「決まっている。俺が最強だからだ」
「そ、それでは急いで彼らを倒して……」
「断る」
「な! なぜ……でしょうか? 正面から戦って倒してくださればそれで良いのでは?」
「決まっている。奴らの包囲網が完成するのを待っている」
「なんですと!?」
「やっぱりそうなりますよね……」

 商人は驚きで目が飛び出そうになっていて、リュミエールは分かっているからか苦笑いだ。

「安心しろ。お前達は勝手に逃げ出そうとしない限り俺が全員守ってやる」
「へぇ……誰が誰を守るって?」

 山賊の頭が近付いて聞いてくる。
 彼の手にはククリ刀が握られていて、いつでも戦える準備は万端のようだ。

「俺が、ここにいるみなを」
「はぁ? この数の差を分かって言ってんのか? てめぇ、頭がおかしいのか?」
「貴様程度の人間には理解出来ん程度でしかない。後300年後に出直して来たら会話程度は出来るかもしれんな」
「てめぇ……舐めてると殺すぞ」
「口だけは達者たっしゃだな? 包囲も完成したのだろう? さっさと来るといい。俺はいつでも待っている」
「気付いてるとはな……まぁいい。その余裕ぶっこいた面をぶっ壊してやるよ! やれ!」

 ヒュンヒュンヒュン

 周囲にいる山賊達から矢が放たれる。
 タイミングはずれていて練度は大して高くない。
 まぁ、山賊なら仕方ないだろう。

「まずは……どうやるか」

 少し考えた後に、俺は矢を全て手で掴むことにする。

「これとこれとこれ。あ、こっちからもか」

 速度も遅く、タイミングも違うので簡単だった。

「質が悪いな……しかし、山賊に矢の質を求めるのはこくか」
「は……て、てめぇ……今……何をした?」
「矢を手でつかんで集めただけだが?」
「いや……そ、そんなこと……出来るわけねぇだろうが」
「出来るからこうやってあるんだろう?」

 俺は持っていた矢を地面に落として踏みつぶす。

 バキッ

 その瞬間目の前の山賊はビクリと体を震わせる。

「さて、これ以上力を見せる必要があるか?」
「て、てめぇら! 全員でやっちまえ!」
「お、おう!」

 山賊達がわざわざ森の中から出てくる。
 あちらから出て来てくれるのありがたい。
 20秒くらいは短縮出来るだろうから。

 俺は目の前のお頭である山賊以外の顎を打ち抜き、意識を刈り取っていく。

「はへ」
「こぱ」
「めぽ」

 ドサドサドサドサ

「は……? は!!!???」

 目の前の山賊の目には一瞬で全員の気が失われた様に見えただろう。

「な、何をしやがった!」
「全員のアゴを打ち抜いただけだ」
「ま、魔法じゃねぇ……のか?」
「当然だ。そちらでもいいが……。結果は変わらん」
「く……し、死ねぇ! あぼ……」

 俺は最後の1人も意識を刈り取る。
 やはり所詮しょせんは山賊。
 最強であることを示すまでもない。

「へ……。い、今のは……」

 商人が呆けた顔をして、周囲を見て何度も確認している。

「問題はなかっただろう? と、全員連れていかないとな。『水牢魔法アクアジュエル』」

 俺は全員を水の牢獄ろうごくに閉じ込める。
 ちゃんと顔だけは出して息は出来るようにしてだ。

 もしも暴れたらアゴを打ち抜けばいい。

「え……あの……本当に……最強?」
「当然だ。そうでなかったら一体なんだと言うんだ」
「あ……いえ。すいません。違いますね。ありがとうございます。貴方が居なかったら我々はどうなっていたか……」

 そう言って商人は頭を下げてくる。

 俺は彼に向かって手を振り、気にするなと示す。

「いいから町に行くぞ。町の異変を調べないといけないかもしれない」
「……シュタル様がそう仰られるのであれば。皆の者! 準備を急げ!」
「はい!」

 彼らはすぐに出発の準備を整えて、再び進み始める。

 進み始めてすぐに、リュミエールが近付いて来た。

「シュタルさん」
「どうした? リュミエール」
「いえ……その……ありがとうございます。いつも助けて頂いて……」
「お前の事はいつも守る。そう言っただろう」
「そう言っても、助けてもらったのにそれが当たり前。という風に思いたくはないんです。だから、シュタルさんが助けてくれたのなら、私は何度でも言いますよ。シュタルさん」
「……そうか。では先の分も言っておくといい。これから何回助けるのか分からないからな」
「ふふ、その時にちゃんと言わせてもらいますよ」
「そうか」

 そう言ってくれるリュミエールの言葉は、何だか嬉しく感じた。

 進み始めて3時間。
 俺達は、ベルセルの町に到着した。

「これは……なんだ?」
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