上 下
4 / 137
1章

4話 洞窟にいこう

しおりを挟む
 俺はリュミエールと一緒に街へ向かっていた。
 ドラゴンを引いているけれど、下りの山道なのでかなり楽だ。

 これでは最強になるために鍛えているのに負荷にならないのが少し残念だ。

「そう言えばリュミエール」
「何ですか?」
「その服は何とかならないのか? 流石にそのまま連れていくと俺がロリコンだと疑われそうなんだが」
「ちょっとどういう事ですか! 私はこれでも成人しています!」
「しかしその背丈せたけはな……。服装で何とかごまかせないか?」
「服や……装備は奴隷商の所にあるので取りには……」

 彼女はそう言って視線をチラリとドラゴンに向ける。

「ドラゴンが欲しいのか?」
「違います! ドラゴンを引っ張ったまま奴隷商の所に行くことは出来ないでしょう? かと言って放置して置いたら、他の魔物に食べられてしまうかもしれませんし……」
「なるほど、そんなことを心配していたのか」
「心配します! ドラゴンをそんな丸々売ったらいくらになるか……」

 彼女の瞳は金になっている。
 思ったよりも世俗的なエルフなのかもしれない。

 ただ、彼女の心配は無用だ。

「『収納』」

 俺は収納魔法を発動し、ドラゴンを丸々全て魔法の中に取り込む。

「え……ドラゴンは……どこに?」

 彼女の瞳の金が? マークになった。

「片付けた」
「片付けた……? どうやってですか?」
「もちろん『収納』魔法でだ。俺は魔剣士だと言っただろう」
「いやいや! 言いましたけど! 言いましたけど! 『収納』魔法って賢者とかが長年の修行の果てに覚えられる魔法じゃないんですか!? それも、自身の体位しかサイズはないと聞きましたけど!?」
「俺は最強だからな。その程度は問題ない」
「そんな……便利グッズみたいな……」
「それよりも奴隷商の所に行くのだろう? リュミエールの装備も全て取り返そう」
「! でもいいんですか?」
「何がだ?」
「その……最強への寄り道になってしまうんじゃないのかな……と」

 彼女は不安そうに俺の顔を見つめている。
 幼い少女にこんな顔をさせるのは最強のすることではない。

「奴隷商の所にも強い奴がいるかもしれん。それと戦えるのであれば寄り道ではない」
「そう……ですか。そんな風に言ってくださるんですね。ふふ、ありがとうございます。シュタルさん」

 彼女は何か分かった様な顔で笑っているが、どうしたのだろうか。
 でも、彼女が笑顔になるのは、悪い気はしない。

「それで、どっちの方だ?」
「あ、こっちです!」


 リュミエールについて歩くこと2時間。
 俺達は山の中腹にある洞窟どうくつの前にいた。

「ここが……」
「はい。そうです。見張りもいると思いますし、不意をついて……」
「おい奴隷商共! 最強の魔剣士であるシュタル様が来たぞ! さっさと出て来い!」
「あ? なんだてめぇ!」
「出て来い! 敵襲だ!」
「あいつは逃がしたエルフじゃねぇか! 自分から捕まりに来るとはな!」

 見張りの奴隷商達は中に声をかける。
 すると、洞窟の中からは20人を越える人が出て来た。

「リュミエール。後どれくらいいる?」

 彼女の方を振り返ると、彼女はよよよと落ちこんでいた。

「どうした。リュミエール」
「なんで……なんでわざわざ声をかけるんですか……普通は夜まで待って奇襲するのが正しいんじゃないですか」
「そんなことしたら俺が最強だと示せないだろう」
「奴隷商にまでやらなくてもいいんですよ……」
「まぁいい。俺から離れるなよ」
「え?」
「俺が守ってやるから、むしろ離れたら危ない」
「え? きゃっ!」

 俺は彼女にそう言いつつ、彼女を左腕で肩に抱える。

「え……これは……荷物?」
「それが安全だ。おっと、舌をむから口を開くなよ」

 俺は開いている右手で剣を引き抜き、奴らに向っていく。

 奴らは数で押すつもりだからか、もしくは陽動ようどうの可能性を警戒してかじっと待っている。

「てめぇ! どこのもんだ!」
「別に言う必要はないだろう」
「あ? なんで……ごっ」

 俺は口を開いた奴と、その周囲の奴らの首を切り飛ばす。

「もう知る必要はないからな。俺の最強の名も、あの世までは持っていけまい?」
「ひ、ひぃ!」

 5人ほど一瞬で切り飛ばしたからか、奴隷商の奴らがおびえて後ずさる。

 俺はそいつらが2歩目を踏み出す前に、全員の首を切り飛ばした。

「へ……」
「悪は切られる為にある。そうは思わないか?」
「す……すごいですね……」

 肩の上に乗っているリュミエールがそう言って来る。

「そうか? これくらいは出来て当然だ。最強だからな」
「でも……わざわざここに呼び出さなくても……」
「何、中にはお前以外の奴隷もいるのだろう? なら、こうやって外に引きずり出してからやった方が人質にはされにくい。何があって気付かれるか分からないからな」
「シュタルさん……」
「ま、普通に隠密おんみつで殺す方が安全なんだけど」
「ですよね!? ちょっと納得仕掛けましたけど、普通に考えたらそうですよね!?」
「安心しろ。俺は最強。つまり、敵に気付かれたとしても、人質に取られたとしても、全員を助け出せる。それが最強である俺だ」
「ほ、本当に……?」
「ああ、見ていろ。すぐにお前の装備も取り返してやる」

 俺は彼女を肩に担いだまま、洞窟の中に足を踏み込んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

深刻な女神パワー不足によりチートスキルを貰えず転移した俺だが、そのおかげで敵からマークされなかった

ぐうのすけ
ファンタジー
日本の社会人として暮らす|大倉潤《おおくらじゅん》は女神に英雄【ジュン】として18才に若返り異世界に召喚される。 ジュンがチートスキルを持たず、他の転移者はチートスキルを保持している為、転移してすぐにジュンはパーティーを追放された。 ジュンは最弱ジョブの投資家でロクなスキルが無いと絶望するが【経験値投資】スキルは規格外の力を持っていた。 この力でレベルを上げつつ助けたみんなに感謝され、更に超絶美少女が俺の眷属になっていく。 一方俺を追放した勇者パーティーは横暴な態度で味方に嫌われ、素行の悪さから幸運値が下がり、敵にマークされる事で衰退していく。 女神から英雄の役目は世界を救う事で、どんな手を使っても構わないし人格は問わないと聞くが、ジュンは気づく。 あのゆるふわ女神の世界管理に問題があるんじゃね? あの女神の完璧な美貌と笑顔に騙されていたが、あいつの性格はゆるふわJKだ! あいつの管理を変えないと世界が滅びる! ゲームのように普通の動きをしたら駄目だ! ジュンは世界を救う為【深刻な女神力不足】の改善を進める。 念のためR15にしてます。 カクヨムにも先行投稿中

防御魔法しか使えない聖女はいらないと勇者パーティーを追放されました~そんな私は優しい人と出会って今は幸せです

土偶の友
ファンタジー
聖女のクロエは歴代最強クラスの防御魔法を使うことが出来た。しかし、その代償として彼女は聖女なのに回復魔法が一切使えない。 「お前、聖女なのに回復魔法使えないってホント?」「付与術師の私でも回復魔法使えるのに、聖女の貴方が使えないってどういうこと?」勇者パーティーではそのことを言われ続け、使えない聖女として扱われる。  そんな彼女には荷物持ち、夜の見張り番、料理当番。そういった雑用全てを押し付けられてきた。彼女の身も心もボロボロになっていく。  それでも懸命に人類の為にとこなしていた彼女だが、ついには役立たずはいらないからと危険な森で1人、勇者パーティーを追放される。 1人彷徨っていたところを真紅の髪の冒険者に助けてもらう。彼は聖女の使う防御魔法を褒めてくれて、命の恩人だとまで言ってくれる。 勇者パーティーから追放された聖女の幸せな旅が始まり、聖女を追放した勇者パーティーは様々な不都合が起きていき、機能しなくなっていく。料理が出来るものはいない。見張りは長時間になり体力の消耗が激しくなる。そして、敵の攻撃が強くなったような気がする。 しかし、そんなことは知ったことかと聖女は身分を隠して自分のやりたいことをやって人々に感謝される。それでも結局彼女は聖女と呼ばれて、周りと幸せになっていく聖女の物語。 小説家になろう様でも投稿しています。あらすじを少し変更しました。 2020.12.25HOTランキングに載ることが出来ました! 最初から読んでくださった方も、新しく読みに来てくださった方も本当にありがとうございます。

器用貧乏の意味を異世界人は知らないようで、家を追い出されちゃいました。

武雅
ファンタジー
この世界では8歳になると教会で女神からギフトを授かる。 人口約1000人程の田舎の村、そこでそこそこ裕福な家の3男として生まれたファインは8歳の誕生に教会でギフトを授かるも、授かったギフトは【器用貧乏】 前例の無いギフトに困惑する司祭や両親は貧乏と言う言葉が入っていることから、将来貧乏になったり、周りも貧乏にすると思い込み成人とみなされる15歳になったら家を、村を出て行くようファインに伝える。 そんな時、前世では本間勝彦と名乗り、上司と飲み入った帰り、駅の階段で足を滑らし転げ落ちて死亡した記憶がよみがえる。 そして15歳まであと7年、異世界で生きていくために冒険者となると決め、修行を続けやがて冒険者になる為村を出る。 様々な人と出会い、冒険し、転生した世界を器用貧乏なのに器用貧乏にならない様生きていく。 村を出て冒険者となったその先は…。 ※しばらくの間(2021年6月末頃まで)毎日投稿いたします。 よろしくお願いいたします。

人の才能が見えるようになりました。~いい才能は幸運な俺が育てる~

犬型大
ファンタジー
突如として変わった世界。 塔やゲートが現れて強いものが偉くてお金も稼げる世の中になった。 弱いことは才能がないことであるとみなされて、弱いことは役立たずであるとののしられる。 けれども違ったのだ。 この世の中、強い奴ほど才能がなかった。 これからの時代は本当に才能があるやつが強くなる。 見抜いて、育てる。 育てて、恩を売って、いい暮らしをする。 誰もが知らない才能を見抜け。 そしてこの世界を生き残れ。 なろう、カクヨムその他サイトでも掲載。 更新不定期

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

処理中です...