上 下
50 / 67
第3章 動乱

50話 4騎士

しおりを挟む
 グレゴール・グラディウス侯爵との一件の後。何事もなく帝都カイガノス近辺に帰還することが出来た。

 最初の襲撃等本当にあったのか? と思わせるほどの平穏さだった。

「それにしても広い畑だな……」
「この近辺は帝都の龍脈の影響下ですからね。豊かさは帝都の龍脈衆のお陰です」

 帝都まで後1日と行った所で、広大な畑を見ながら呟いた一言に、オリーブが教えてくれる。

「ここまで来るとはすごいな」
「ええ、その代わり帝都の龍脈はその数も多く、危険も多いのですけど」
「それでもこれだけの面積があればかなりの人を養えるんじゃ?」
「カイン帝国を支える場所ですからね」

 そんな事を話ながら帝都を目指していると、前方が騒がしくなる。

「どうしたんだ?」
「セレットさんはここにいてください。私が行ってきます」
「分かった」

 俺はロネの馬車の近くで待機する。すると、前方からスレイプニルに騎乗した男が近づいてきた。

 そいつはどことなく皇帝の面影を感じさせる雰囲気を持った男で、軍服に身を包んでいる。オリーブは声を荒げてその男を止めようとしているが、その男は一切気にせずにこちらに近づいてくる。服は豪華なのに、腰には無骨な長剣をつけていたのが印象的かもしれない。

「オルドア様! これ以上はいけません!」
「はっはっは! 気にするな! 挨拶に来ただけだ! どれ、可愛い小さな妹にも挨拶しておこう」
「ですから今は警護中なので城に戻ってからに……」
「気にするな!」
「我々がするのです!」

 そんな事を言いながら近づいてくるが、オルドアという男はどこかで見たような……気がする。

 俺が思い出そうとしていると、彼は俺の側に来ていて、正面から見つめていた。

「え?」
「貴様が龍騎士セレットだな?」
「は、はい。私がセレットです」
「ふむ……」

 彼は言いながら俺の体を見回している。逆らえないような雰囲気を出していて、言葉を発することが出来ない。

 これが王者の圧力と思わせるような感じだ。

「あ」
「む?」
「いえ、何でもないです」

 俺は何とか取り繕い、思い出す。

 彼の名前はオルドア・ヴァルミュント・カイン。カイン帝国の第一皇子だ。確か皇帝の隣かその隣に座っていたはず。

 しかし、その彼が一体何の用だろうか。

 彼は暫く俺を見た後、一つ頷く。

「うむ。余と手合わせをしようではないか!」
「ええ!? オルドア様とですか!?」
「そうだ。ウテナに勝った貴様なら逃げることもしないだろう。ほれ、サッサとやるとしよう」

 彼はスレイプニルから降りて、少し離れた所で止まる。

「何をしている? 早くやるぞ」
「え……でも……」

 俺は助けを求めてロネの馬車を見る。すると、既に把握していたのかロネが馬車から降りてくるところだった。

「お兄様。今の彼は護衛をしている最中ですので困ります」
「問題ない。余の部下を連れて来た」
「それでもです。セレットが腕試しの為に仕事を投げだした。そんな評判をつけるのは良くないことはご存じでしょう?」
「余は気にしない。それに、ここにいる奴らが黙っておけば済む話だ。さぁ!」

 オルドア様はそう言って俺にかかってこいというように挑戦的な瞳をしている。

 しかし、ロネに言われた通りに行くわけにはいかないだろう。

「はっはっはっはっは! オルドア様。流石においたが過ぎますぞ?」

 困っていた所に現れたのは白髪をオールバックにして、右目に眼帯をつけた40位の騎士だった。真っ黒な鎧で身を覆っていて、数え切れないほどの傷跡が残されている。その気迫は体中に叩きつけてくるものがあり、かなりの実力者であることを伺わせた。

 彼は背中には大剣を背負っているだけでなく、腰にも剣を持っていた。

「じい。しかしこれほどの男が目の前にいるのだ。戦わずには居られまい?」
「例えそうでも節度というものがあるのです。それに、もしここでオルドア様が怪我でもなされたらと考えれば彼も気が気ではないでしょう」
「余は気にしないぞ?」
「オルドア様が気にされなくても相手が気にするのですよ」
「むぅ。厄介な立場だな」
「それが上に立つ者の宿命ですからな。仕方ありますまい」

 良かった。誰だか知らないが助かった。そう思ったが、考えは甘かったのかもしれない。

「代わりにこのおいぼれが戦うとしましょう」

 眼帯の騎士はそう言って物凄い圧力を叩きつけてくる。

 俺は思わぬ殺気に剣に手が伸びた。

「お待ちください!」

 割って入ってくれたのはロネだった。

「ジャグレッド様。流石にあなたほどの方と模擬戦は許されません。どうかご自重ください」
「これはこれはロネスティリア姫様。ご挨拶遅れて申し訳ありませぬ。しかし、ここでオルドア様が戦うよりはおいぼれが戦った方がマシでしょう。そうでもせねばオルドア様が納得致しますない?」

 ロネがオルドアを説得出来るのか? と試すように言ってくるが、ロネは冷静だった。

「4騎士の称号は重い。その事をご理解していないジャグレッド様ではないですわよね? それが勝手に私闘など、許されるはずがないではありませんか」

 ロネの言葉に、ふっとジャグレッドが笑い更に言葉を言う。

「確かに、老いぼれは4騎士の称号を頂いてはいますが、彼は龍騎士、4騎士ではありません。違いますか?」
「そうですが、龍騎士は4騎士に値するとされるほどの称号。軽々しく戦っていいものではありません」
「されているだけで実際に禁止されている訳ではありません。その証拠にウテナ殿とセレット殿でいつもやっておられるではありませんか。何、おいぼれもそれと似たような物。少しだけやっていただければ満足です」
「それは……」

 ロネが言葉に詰まっている。流石にそこまで調べられているとは思わなかったのかもしれない。

「姫様。戦いますよ」
「セレット!?」
「ほう、話が早くて助かる」

 どうせこれ以上言葉を交わしてもどこかで戦いを仕掛けられるのかもしれない。なら、ここでやってしまった方が良いだろう。

「それでは、こちらへ」

 4騎士のジャグレッドは広めの場所に向かって進んでいく。

 その背を、俺達が追いかける。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

種から始める生産チート~なんでも実る世界樹を手に入れたけど、ホントに何でも実ったんですが!?(旧題:世界樹の王)

十一屋 翠
ファンタジー
とある冒険で大怪我を負った冒険者セイルは、パーティ引退を強制されてしまう。 そんな彼に残されたのは、ダンジョンで見つけたたった一つの木の実だけ。 だがこれこそが、ありとあらゆるものを生み出す世界樹の種だったのだ。 世界樹から現れた幼き聖霊はセイルを自らの主と認めると、この世のあらゆるものを実らせ、彼に様々な恩恵を与えるのだった。 お腹が空けばお肉を実らせ、生活の為にと家具を生み、更に敵が襲ってきたら大量の仲間まで!? これは世界樹に愛された男が、文字通り全てを手に入れる幸せな物語。 この作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

記憶喪失の逃亡貴族、ゴールド級パーティを追放されたんだが、ジョブの魔獣使いが進化したので新たな仲間と成り上がる

グリゴリ
ファンタジー
7歳の時に行われた洗礼の儀で魔物使いと言う不遇のジョブを授かった主人公は、実家の辺境伯家を追い出され頼る当ても無くさまよい歩いた。そして、辺境の村に辿り着いた主人公は、その村で15歳まで生活し村で一緒に育った4人の幼馴染と共に冒険者になる。だが、何時まで経っても従魔を得ることが出来ない主人公は、荷物持ち兼雑用係として幼馴染とパーティーを組んでいたが、ある日、パーティーのリーダーから、「俺達ゴールド級パーティーにお前はもう必要ない」と言われて、パーティーから追放されてしまう。自暴自棄に成った主人公は、やけを起こし、非常に危険なアダマンタイト級ダンジョンへと足を踏み入れる。そこで、主人公は、自分の人生を大きく変える出会いをする。そして、新たな仲間たちと成り上がっていく。 *カクヨムでも連載しています。*2022年8月25日ホットランキング2位になりました。お読みいただきありがとうございます。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」  ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。  理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。  追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。  そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。    一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。  宮廷魔術師団長は知らなかった。  クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。  そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。  「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。  これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。 ーーーーーー ーーー ※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝! ※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。 見つけた際はご報告いただけますと幸いです……

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

パーティーを追放された装備製作者、実は世界最強 〜ソロになったので、自分で作った最強装備で無双する〜

Tamaki Yoshigae
ファンタジー
ロイルはSランク冒険者パーティーの一員で、付与術師としてメンバーの武器の調整を担当していた。 だがある日、彼は「お前の付与などなくても俺たちは最強だ」と言われ、パーティーをクビになる。 仕方なく彼は、辺境で人生を再スタートすることにした。 素人が扱っても規格外の威力が出る武器を作れる彼は、今まで戦闘経験ゼロながらも瞬く間に成り上がる。 一方、自分たちの実力を過信するあまりチートな付与術師を失ったパーティーは、かつての猛威を振るえなくなっていた。

処理中です...