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第2章 姫

26話 ワルマー王国では

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 ワルマー王国。病魔の龍脈にて。

 セレットの代役として、近衛騎士団が龍と戦っていた。

「ぐああああああああ!!!」
「おい! 何をやっている! 引くな! 戦え! 死にたいのか!」
「逃がしてくれ! 俺達はこいつらの相手なんて考えなかった!」
「勝手を言うな! 他の国では近衛が龍討伐をすることもある! 黙ってサッサと狩れ!」
「だってだってアイツは元近衛騎士団で!」
「病魔に犯された奴はもう助からん! いいから殺せ!」

 近衛騎士団は今までその地位を使って下々の者達に面倒な事を全て任せていた。それどころか危険な仕事や、利益の出ないような仕事は全て任せ、自分たちは城で酒盛りや適当な女を半ば攫ってきて遊び、飽きたら捨てる。ゲスな行いを繰り返していた。

 そんな者達でも仲間意識はあるのか元同僚を斬るということが出来ないでいた。

「しかし!」
「逆らうなこのカス共が!」
「ぎゃああああああああ!!!」

 近衛騎士団の後ろに控えているダイードの兵士から、電撃が飛ぶ。

 近衛騎士の鎧は病魔の対策は施されているものの、電撃対策は全くされていない。それどころか鉄で出来ているため、よく電気を通す。

「な、何でこんなことを!」
「貴様らが仕事をしない、処刑されてもおかしくない者達だからにに決まっているだろうが! 散々国の財産を使いおって! そのくせ魔物退治もほとんどセレットに押し付けていたらしいな! 責任をとって貴様らが体で払え!」
「でも! セレットが良いって言うからやらせてやっていただけで! 俺達は悪くない!」
「そんな訳ないだろうが!」
「ぐあああああああああ!!!」

 怒った兵士は躊躇いなく電撃を飛ばす。

「さっさと倒さねばお前達が死ぬだけだ。わかったらサッサと倒せ!」

 彼はそう怒鳴るが近衛騎士は一度なってしまえば、儀礼用の軽くて見栄えのいい剣しか持たなくなっていた。

 それがいきなり龍を倒せと言われても難しい物がある。実際、かなりの数の近衛騎士がここ、病魔の龍脈で死んでいた。

「分かった! 分かったから電撃を飛ばさないでくれ!」
「サッサといけ! 貴様らは本当は首を落とされ、一族皆殺しにするところだったのだ! それをダイード殿下の優しさで助けてやっているにすぎん! だが、ここで働き、力を見せれば解放される可能性もあるだろう。わかったら戦え!」

 兵士はそう怒鳴って戦うように仕向ける。

 近衛騎士はその地位を利用し、様々な不正をし続けていた。ダイードが王宮に戻って調べていくうちに様々なことが出てきたのだ。

 本来は見せしめで処刑するところを、一応多少の力はあるのだから有効に使おうと龍脈の防衛に当たらせていた。手柄をあげれば罪を不問にする。そう話すと彼らは驚くように龍脈に殺到した。

 問題があったとすれば弱かったのだ。1体の龍を倒すのに毎回犠牲が出た。そんなことをもう何回も繰り返しているのに、彼らは未だに泣き言を叫ぶ。

「全く……大の大人がどれだけ泣き叫べばいいのだ。龍脈衆は泣き言等言わずに戦うというのに……」

 兵士は呟いても、聞く者は誰もいなかった。

******

 その頃、ダイードは己の執務室で仕事をしていた。

 やってもやっても新たな問題が出てきて、机の上に積まれている書類はその数を増やしていく。

 コンコン。

「入れ」
「失礼します」

 中に入ってくるのはカイン帝国に行っていた兵士だった。その兵士がダイードの近くに来ると苦い顔で報告する。

「申し訳ございません。連れ戻すことに失敗しました」
「ちゃんと条件は提示したのか?」
「はい。セレット殿に会うことが出来よう色々と手を回し、謁見の日の夜に接触しました。そして、聞いた限りの条件を話したのですが……」

 ダイードは話を聞いて持っていたペンを書類の上に投げ捨てる。背もたれにもたれ掛かり、天井を見た。

「まぁ、無理だろうな」
「分かっていらしたのですか?」
「当然。というよりも、あれだけの活躍をしていた男にあんな仕打ちをしていたのだ。まともな者なら戻ってこまいよ。第一信じられるか? 仕事をしていた者に罪をなすりつけ、追放した者達など。俺の頭はお花畑ではないからな。そんなことをいう連中の言葉など信じることは出来ん」
「であれば、あの条件は嘘だったのですか?」
「いや? 全て本当のことだ。もし帰ってくるのであればそれくらいの対応を考えたさ。少しお願いをしたかもしれんが」
「しかし、いかがいたしましょう。今は近衛騎士団を使い捨てて守っているんですよね? このままではいずれ限界が……」
「そのことだが、カイン帝国と何とか話を通じてセレットを期間限定でもいいからこちらに派遣をしてくれないかと交渉をする予定だ」

 ダイードは苦しそうな顔を浮かべて話す。

 しかし、兵士はもっと苦しそうな顔で言葉を引き継いだ。

「そのことについて更にご報告が。カイン帝国との関係が悪化した可能性があります」
「何? 何があった」
「それが……」

 兵士は玉座の間であったトリアスの凶行を話す。

「指示通りある程度は自由にさせていたのですが……」
「そうか……。ひもで体も口も縛り本当の見せしめだけに使うべきだったか……。まさかそこまで言うとは……」
「ひもを握っておきながら申し訳ありません」

 兵士が頭を下げる。

「だが、皇帝はその程度で怒るほど狭量ではない。ただの演技だろう」
「演技……ですか? かなりの迫力がありましたが……」
「貴様、カイン帝国の力を教えたはずだな? 皇帝ならばそれくらいは容易くこなす」
「見抜けませんでした……」
「あの国で権力を握り相当長い。俺でも手玉に取られることだろう」
「それほどですか」
「それほどだ。まぁ、帝国のことはいい。こちらから贈り物をして借りられないか検討しよう。他国に軍事力を任せるのはやりたくはないが、背に腹は代えられん」
「畏まりました」
「報告は以上か?」
「いえ、セレット殿の話では、龍脈衆の隊長のサバールという者が腕が立つと。ただし、サボり癖があるため鞭を打ってでも働かせればマシになるかも。そう言っていました」

 そう聞いたダイードは席から立ち上がって外に向かう。

「殿下?」
「そのサバールの所に向かうぞ、俺自ら頼むこととしよう」
「そんな! 殿下自身がやらずともいいのでは!?」

 兵士は驚いて言うが、ダイードはいだって真面目だ。

「お前、セレットの言うように本当に鞭を打って働くと思うのか? その結果セレットはどうなった? これはある意味試しているのだろう。そのサバールにどのようにするのか。それで多少分かるというもの」
「なるほど……」
「だから俺自らが行くのだ」
「畏まりました。愚かな事をするところでした」
「いい。行くぞ」

 そう言って彼らはサバールの元へ向かい、戦ってもらうようになる。そのおかげで多少はマシになったとかならないとか。

 因みにセレットが鞭を打って働かせればいいと言ったのは割と本心からで、サバールはそれくらいやらないと仕事をしなかったためである。
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