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第2章 姫

24話 アイシャと依頼①

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 次の日。

 俺はアイシャと一緒に城下町に来ていた。

「ねぇ」
「なんだ」
「どうしてこんなことになってるの?」
「俺が聞きたい」

 今日は別に休日という訳ではなく、普通に働かなければならない日だ。

 こうなった原因はとある依頼だった。

「依頼って……私とセレットで城下町に行って買い物をして来いって? なんで? それにこれくらいならどっちかでいいじゃない」
「まぁ、よくわからないが依頼なら仕方ない。これを持って来た者も内容までは聞かされて無かったからな。それに、断れる感じでなかったし」
「いいけどさ……。にしても街の調査の為に意味もなくぶらぶらするってどういうことよ? 私もっと研究がしたいんだけど……」

 と、彼女が言ったことで一つの可能性が思いつく。

「もしかして、アイシャを強引にでも休ませたかったんじゃないのか?」
「休ませる? どうして?」
「毎日遅くまで研究しているだろう? 流石に体の心配をされたんじゃないのか?」
「そんな、こっちは好きでやってるのに……」
「まぁまぁ。たまには息抜きも必要だ。色々と見て回ろう。ここに来た時も大通りを歩いただけだったからな」
「……そうね。たまにはいいのかも。一緒に回りましょうか」

 そう言ってアイシャは歩き出した。

「切り替え早いな」
「スイッチのオンオフは大事なのよ。それじゃあ何処に行こうかしら?」
「最初は依頼の品だけ確保しておかないか? 街を見ながら行こう。買い物が終わったら適当に歩くってことで」
「分かったわ。ただ、行く途中にいい魔道具屋があるらしいの。そこにもちょっとだけ行ってもいいかしら?」
「勿論だ。でもアイシャは装置の方が専門だと思っていたけど、違ったのか」
「勿論そうよ。でも、魔道具にも色々と参考にすべきところがあるのよ」
「そうなのか? 装置と魔道具ってあんまり似通ってないような印象があったんだけど……」
「基本はそうよ。装置は龍脈の龍力を使うもの。魔道具は自身が持っている魔力を使って動かす。これが基本になってる。でも、作る構造上、どこかしら似通ってる部分があるのよ。それで、時々見て、勉強にならないかなって調べてるわけ」
「そうだったのか。熱心だな」
「そりゃそうよ。だって楽しいんだもん」
「じゃあアイシャが心行くまでお供するよ」
「言ったわね? 沢山巡るわよ?」
「説明位はしてくれよ?」
「当然」

 そうして、最初の小さな魔道具店に入っていく。


 最初の魔道具店には1時間ほどいた。だけど、出てくる頃には俺は少しぐったりしていた。

「何だか……結構疲れたな」

 彼女は魔道具を見る時は真剣な目で見続けていて、俺は声をかけれなかった。

 小さな魔道具店であるのに、1時間もじっくり見て回ったのだ。疲れるというものであろう。

「そう? まだまだ回らなきゃいけないところもあるんだから。しっかりしてよね!」
「そ、そうだな。まずは依頼の品を手に入れよう」

 このまま行くと貴族街の魔道具店を見るだけで終わってしまう。こんな簡単な依頼もこなせないのはまずい。

「そう言えばそうね。場所はどこだったかしら?」
「確か庶民街だな」

 このカイン帝国の帝都カイガノスは帝城を中心に貴族街、職人街、庶民街、貧民街といった様に広がっていく。

 といってもきっちりと区画で別れているのは貴族街と職人街までで、それ以外は何となく別れている。といった程度でしかなかったが。

 それでも、貴族街と職人街は警備の兵士が常駐していて、監視の目を光らせていた。

 ただ、俺達は城に勤める為、証を見せれば問題なく出入り出来る。

「来た時も思ったけど、じっくり見てみるとすごいわね」
「だな。庶民街でもここまで大きいのは流石だ」

 目の前には大通りが広がり、その両脇には高さ10mにもなる建物が連なっている。

 その建物からは家族が出たり、大きな荷物を抱えた人が出入りしていた。人種も様々でエルフやドワーフ、獣人なんかも普通に歩いている。

「あれは……。なんだ?」
「集合住宅ね。ここ皇都カイガノスでは人が集まり過ぎて住む場所が無いから、ああやって家を上に積むのよ」
「そんな技術があるのか?」
「あるんでしょうね。そんな家ばっかりだから」
「なるほど」
「さ、行きましょう」

 アイシャはそう言ってサッサと先に進む。

「あんまり建物には興味は無いのか?」
「そうねぇ。普通かしら? それよりも早く魔道具が見たいって言うことの方が大きいのよ!」
「そうだったな。サッサと依頼を済ませて、ゆっくりと魔道具をみよう」
「流石セレット、話が分かるわ」

 そんなことを話しながら目的地に着いた。

「すいませーん。依頼で来たんですが!」
「はーい。ちょっと待っててね!」

 店の中からは中年女性の返事が返ってきて、俺とアイシャは店の中で待つ。

 店は正面が誰でも入ってこれる様に開いていて、中には果物や鉱石、衣服など見境なく置いてあった。

「ここは何屋なんだ?」
「さぁ……。統一性はないように思うけど……」
「家は何でも屋だよ」
「わ!」

 アイシャが驚いていた。

 ここの店主はそうやって驚かせるのが好きなのだろうか。

「何でも屋?」
「おや、驚かないのはすごいね。何でも屋はその名の通り何でも屋、色んな品物を扱うのさ。これが依頼された品だよ。多少のことがあっても壊れないけど、あんまり無理に扱うんじゃないよ?」
「分かった。助かる」
「良いってこと。それと、そっちのお嬢さんはアンタのこれかい?」

 そう言って彼女は小指を立ててくる。

「どういう意味だ?」
「そっか……最近の若い子はそういうのが通じないんだね」

 そう言って店主の人は落ち込んでいる。

「その、すまん」
「いいんだよ。仕方ないさね。さ、邪魔をするのも悪いしサッサとお行き。仲は悪くないんだろう?」
「ああ。助かった」

 店主は軽く手を振って別れを告げてくる。

 そして、店の中の品物を見ているアイシャに声をかけた。

「アイシャ、依頼の品は貰ったから戻ろう」
「ん? 分かったわ」
「集中して見てたが何か面白いものでもあったか?」
「そうね……。あんまり見ないものだったから。つい気になってね」
「そうか、取りあえず外に行こう」
「うん」

 俺達は外に出る。
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