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プロローグ

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「入選、夏川優菜さん。」
「・・・はい。」
 私の名前が呼ばれる。私の描いた絵は入選だったらしい。壇上に上がり賞状を受け取ると同時に、まばらではあるが拍手が聞こえてくる。入選だって誰にでもできるわけではないのだから、本来なら喜ぶべきなんだろう。
 だけど私は素直に喜ぶことができない。私の次に賞状を受け取る親友がいるから。
「大賞、桜木愛華さん。」
「はい。」
 愛華が賞状を受け取りに壇上へ上がる。一歩、また一歩と歩みを進めるたびに長くさらりとした黒髪がふわりと風をはらんで揺れる。私のときとは違い、大きな拍手。ああ、何度この光景を見ただろう。
 私では手の届かない賞を、愛華はいつも取っていく。
私はこの瞬間が一番嫌いだった。なんだか負けた気がしてしまうから。
 そもそも愛華は顔も良くて何でもできる。まさに完璧な美少女だった。そんな彼女と親友になってしまった。小学生の頃の自分を心底恨んでいる。
周りはいつでも愛華と私を比較したし、私のほうが優位に立てることは一つもなかった。
 それでも私は愛華のことを嫌いになれずにいた。自分でも分からないが、ふとした瞬間、心の何処かで愛華のことを考えてしまう自分がいるからだ。自分でもこの気持ちが何なのか完全に理解しきった訳では無いが、これは恋と呼べるものかもしれないことに、高校に入学してから薄々気づいてはいた。これが異性に対してならまだしも、相手は愛華だ。もちろん誰にも言える訳がないし、愛華にだって打ち明けられない。今のこの関係が壊れてしまうかもしれないと思うと、伝える気になれなかった。
 だから私はずっと、すべての感情を愛華に左右されている。悔しさも敗北感も、楽しさも嬉しさも、恋愛感情でさえも。いつでもずっと隣に愛華がいるから。だからこそ私はずっと苦しい。分かっている。でも、それでも愛華に恋をしている私が悪いのだから。どうしようもないほど、私は愛華と一緒にいることに慣れてしまっていて、隣にいる愛華が好きで、憎くて仕方がないのだから。
 そんな事を考えている間に、授与式が終わり全校生徒が散りだした。私もその雑踏に飲まれ、体育館をあとにした。
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