上 下
312 / 313
第四章 大精霊を求めて

4-82 冒険者ギルドのクリスマス

しおりを挟む
 俺達は婚約した夜のクリスマスイブを、愛しの婚約者の彼女と過ごし、一緒に遅めの朝食を作っていた。

 こういう作業も、俺達二人は阿吽の呼吸で自然体にこなしている。

 そして泉がサラダ用の菜っ葉を千切りながら言ってくる。

「今朝の食事は軽くにしておきましょうか。
 どうせ昼からパーティなんでしょう?」

 俺はパンやスープを温め、紅茶の準備をしつつ答えた。
 あとヨーグルトが欲しいので、これも発酵のスキル持ちのフォミオに頼んである。

「ああ、向こうはまた激しくドンチャン騒ぎになると思うぜ。
 あの子達、宗篤姉妹も来るだろうしな。

 SSSランクが勢ぞろいだぜ。
 いつもの勇者の面々も呼んであるんだ。
 今回は目玉となる魚海さんも呼んだしな」

 こうやっていると、まるでもう結婚したみたいな雰囲気だな。

 お互い、子供の世話なんかはもう手慣れたものなので、子供ができても、この異世界で充分に楽しくやっていけるだろう。

 焼き締めパン村に住むにしても家はどうするかね。
 結婚して子供部屋を作る事までは頭になかったのだ。

 まあ最初はうちの小屋でもいいけどね。
 ちゃんと万能選手の子守りまでこなす使用人付きなのだ!

 今度上手い事拡張できないか、あの男爵に訊いてみようかな。
 最悪は領主館に間借りする事も考えておこう。

 あるいは古いカイザの家なんかを借りても趣があって悪くないかもしれん。

 うちは貴族でもなんでもないから、あれでも十分に、いやむしろあの方が楽しいからな。

 なんというか、現地の異世界様式そのものというか。

「ああ、あれをやるのね。
 あたしも楽しみだわ」

「俺もあれには目が無いんだよ。
 こっちの仲間から、どんな反応が返ってくるかと思うと楽しみだなあ」

「どうかしらね、この世界の人には食べ慣れない食べ物だから」

「まあね、でも外国人にもそれなりに好評だぜ」

「まあ外国人でも食べ慣れている人にはいいかもしれないわね」

「まあ、納豆あたりに比べたらな」
「あははは、それはないわ」

「でも、カイザは納豆なんか平気で食っているし、ルーテシアやマーシャも大丈夫だ。

 アリシャなんか、もう納豆がないと生きていけない体らしいぜ。

 フォミオに習って自分でも納豆作りに励んでいるし、今度は自分の畑で大豆を育てるところから頑張るつもりらしい」

「あは、そいつはまた素敵なお話ね」

 そんなこんなで早めにビトーへと向かう事にした。王宮へ迎えに行くと、皆がもう中庭にほぼ集合していた。男衆は皆いるなっと。

「全員、集まったかなあ」
「あれ、姶良ちゃんがいない」

 可愛い真っ赤な衣装のミニスカサンタさんになっている、とりわけ彼女と仲のいい聖奈嬢が、周りをきょろきょろしながら見渡していたので、泉も苦笑していた。

「あの子、物凄く寝坊だからね。
 日本では毎日お母さんに何回も起こされていたらしいわよ。

 演習の時も遅刻していて、女兵士さんが部屋まで迎えに行っていたくらいだもの」

 そいつはまた、娘がいなくなったら気が抜けたような生活だろうな。
 ここは頑張って帰り道探しを手伝わないといけないかもなあ。

「何やってんの、あの子。
 まあ今日は軍事関連でも王宮行事でもない、俺の管轄で内輪でやるパーティだから別にいいんだけどなあ」

 すると、バタバタとパンを咥えて走ってきた、少し寝ぐせのついたミニスカサンタさんがやって来た。

 生憎な事に、ここでは角を曲がったところで運命の人と出会えるイベントは起きそうにないが。

 ここは中庭の真ん中で、ブラインドになっている角はないしな。

「もう遅いよー、姶良ちゃん」
「ごめーん。
 昨日、遅くまでマンガ描いてたから」

「なんだ、お前さん、マンガ家志望だったのか?」

「あー、趣味の奴ですう。
 男の人には関係ないの!」
「あっそう」

 こいつめ、まさかそっち系だったとは。
 まさか異世界で薄い本の布教でもするつもりなのか。
 まあ好きにすればいいさ。

「じゃあ、みんな揃ったなー」
「ああ、チェックした」

 一人や二人遅刻したくらいでは微塵も揺るがない引率者達。

 例によって、アメリアさんだけは一緒、と思いきや。

 見慣れない男性勇者が一人いた。
 勇者なのはわかるのだが、顔と名前がよく思いだせない。

 見覚えはあるのだが、優秀な営業の俺の記憶スキルにも忘れ去られるとは、かなりのステルススキル持ちらしい。

「あれ、あんたは」
「あー、どうも」

「どうも」
 俺は泉に「誰だっけ」という視線を送ったが、彼女は笑っている。

「ああ、うちの彼氏なんだけど、連れていっていいよね」
 そういうことを言っていたのは、なんと斎藤さんだった。

「ありゃあ、斎藤さんも勇者の彼氏を作っていたんですねー」
「うん、夕べ」

 速攻だな、おい。
 まあいかにも斎藤さんって感じの行動だな。

 そういや、こんな人もいたな。
 少し大人しい感じの人で、歳は二十代後半に入ったかどうかくらいか。

 目立たない感じだが、あのヤンキーどものような尊大な事はなく、抜け目ないというよりかは、気を使って慎重に立ち回っていたタイプのようだ。

 他人に気配りの出来るようなタイプだな。

 斎藤さんとのカップリングがアンマッチにしかみえないが、まあ逆に考えればこういう組み合わせの方がいいのかもしれん。

 あ、思いだした。
 迂闊な、俺はこの人の事を何故忘れていたのか。

「あんた、たしか……」
「え? 僕がどうかしましたか?」

「ああいや、なんでもないんだ」

 彼はきょとんとした顔で俺を見ていた。
 師匠や姐御は気付いているかもしれないな。

 いや、師匠は知っているはずだわ。
 だって、あの時。

 だから余計に師匠は俺の事を。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

外れスキル【転送】が最強だった件

名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。 意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。 失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。 そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

処理中です...