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第四章 大精霊を求めて

4-80 御披露目

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 それから俺達はめかしこんで、会場として借り切っている、王城内にある広大な面積を誇るサロンへと向かった。

 ちょっとしたダンスパーティなども行える、いわば王族が公式ではないホームパーティを開く、あるいは小外交や身内の派閥での交流などにも用いられる場所だ。

 見かけの華やかさよりは、その裏にある不穏な空気を纏う事も多い胡乱な空間であったが、本日は勇者による貸し切りで、その他にゲストなどもいる。

 クリスマスパーティという華やかな異世界のイベントを、以前の勇者がやっていないのであれば王国で初めて開くだろう夜であるとともに、俺と泉の御披露目でもある。

 そして、それは俺達からアピールする必要はないはずだ。

「いっずみさん」
「あら姶良ちゃん、今晩は。
 メリークリスマス」

「ふふ、『マリッジ』クリスマス~。
 すごいー、これダイヤモンドじゃない?

 もしかしてハズレ君が作ったの?
 この世界でまだ見た事がないよ」

 さすがに目聡いな。
 多分、この子が一番に見つけると思ったよ。

「あー、結婚指輪ですかー?」

「婚約指輪よ。
 聖奈ちゃんも結婚する時には一穂に作ってもらってあげるわね」

「結婚指輪はプラチナや金より、耐薬品性はもとより強度でも遥かに勝る不滅のミスリル製にするつもりだ。

 あれなら希少価値という点でも隕石からしか発見されないと言われるプラチナを上回るんじゃないのか。

 この世界ではプラチナもまだ見た事がないんだ。
 これも地球から持ち込まれた物から作ったものさ。

 それに、いつも身に着けている結婚指輪を頑丈過ぎるオリハルコンなんかで作ると、後でサイズ直しが凄く大変だからな」

「そういう発想は、やっぱり男の人ですよね。
 もう夢がないんだから」

「はは、結婚指輪を金で作る風習は、おそらく生活が大変な時には売る事もできる資産としての意味合いもあったんじゃないのかな。

 ミスリルの指輪なら白金貨同等の価値がある。

 元々結婚指輪を贈るなんていう事は日本にはない風習だったしな。
 それだけ結婚するっていう事は生活、人生そのものだという事だよ」

「もう、男の人は本当に夢がないなあ。
 でもダイヤの指輪は素敵~」

「ダイヤって結婚指輪に使うんじゃなかったっけ。
 まあいいか。
 
 あれは普段使いするものだから、あんまりきらきらと光っていてもなんだから、金の指輪の人も多いよね」

「泉さん、おめでとうございますー」
 あのう法衣ちゃん、俺には?

「一穂さん、おめでとうございます。
 泉さんも」

「ありがとう、陽彩君」

「お、陽彩、ありがとう。
 お前も頑張って彼女を作れよ。
 そのうちに勇者様が魔法使いになっちまうよ」

「ああ、いや僕はまたそのうちに」
 ふ、お前にはまだまだポップコーン屋台で釜焚きの修行が必要なようだな。

「一穂、泉ちゃんおめでとう~」
「姐御、ありがとう」
「えへへー」

「本当なら、夜に二人っきりでいる時に贈ろうと思ったのだが、どうせならパーティ前にして、イブに御披露目というのもいいかなと思って。
 それに今日は」

「ええ、そうね」

 そして師匠も、本日は黒地の空にラメの星がちりばめられ銀の縁取りがなされた、派手な地球風のパーティドレスで着飾ったアメリアさんを伴ってやってきた。

 ご本人様は、一体どこのマフィアのボスだよという感慨を思わせる、こちらもまた派手なゴッドファーザースタイルで御登場だ。

 まあ、このお方の場合は勇者陽彩のゴッドマザー的な存在でもあるのだが。

 やべえ、師匠の貫禄があり過ぎて俺達の婚約御披露目が食われてしまいそうだ。

「おお、一穂。
 ついに決めたか」

「はい、せっかくのイブですからね。
 これくらいの余禄は見せないと」

「ほう、言うようになったな」

「まあこれくらいはねえ。
 あの荒城の泣きっ面から、よくここまで這い上がってこれたもんだと我ながら感心する昨今」

 そしてアメリアさんの視線が泉の指輪に釘付けなのを見て、師匠が俺に言った。

「一穂、よかったら俺にもダイヤの指輪を作ってくれ」
「え! 師匠に!?」

 チラっと横目を走らせると、泉も俺と同じような驚愕を顔に浮かべていた。

 思わず幻視する。
 真っ白なスーツで真っ白な極上のソファに座り、ハバナ産の超高級葉巻をくゆらせて、どっしりとした貫禄を見せる首領ドンの姿を。

 その白さは、もっとも血の色を映えさせる色、いつ死に花を咲かせても構わないという不退転の強い意志の表れ。

 そして、やおらに執務デスクの引出しからでかい拳銃を取り出して白い布で磨きながらニヤっと笑い、そこへ幹部姿のザムザが現れて、恭しく差し出された高級なクリスタルグラスにウイスキーを並々と注いだところで思わず吹き出してしまい、俺の妄想ムービーは終了した。

「こいつめ、何か勘違いしておるだろう。
 俺とアメリアの指輪を作れと言っておるのだ」

「あ、そっち?」
「そ、そうよね」

 師匠は溜息をついて言った。

「お前ら、本当に似た者同士よのう。
 ある意味で本当にベストカップルといえるな」

「うーん、それ褒めているのか貶しているのかどっち?」

「一応は、誉め言葉ととっておけ。
 俺もあっちの世界じゃ身を固める事もなかったが、今こうして異世界におると、もう潮時かなと思ってな。

 いい女にも巡り合えたのだし。
 アメリアは、今時の日本の女などよりも、よほど出来た女だ」

 アメリア嬢は師匠に褒められて、頬を染めて無言で彼の腕を取り、その端正な顔を師匠に預けて寄り添った。

 うん、言われてみれば確かになあ。

「さようでございましたか。
 それはおめでとうございます。
 して、どのようなタイプをご所望なので」

「うむ。試作品なんかはあるか」

「こちらに。
 もう商品として出してもいいような商談用のサンプルもありますよ。
 まあ出来合いの一般向けですけどね」

 そう言ってテーブルの上に出した物は、宝石コーナーなどにあるような赤い布が敷かれた平たい箱に並べられたダイヤモンド製品だった。

「おお、なかなか揃えたものだな。
 指輪にピアスにネックレス、そしてブローチにタイピンやカフスまであるか」

 そして、あっという間に女性勇者が殺到した。

「一穂さん、あたしこれほしい。
 クリスマスプレゼントで!」

 こういう時だけ一穂さんなのか、この姶良という女の子は。
 いや逞しいな、異世界で生きるならこのくらいでないとなあ。

「ああ、構わないよ。
 ピアスか。
 ああ、前から使っていたのか」

「うん、あの日はたまたま着けていなかったから、もう半分穴が塞がっちゃった」

「あのう、あたしこれ貰ってもいいですか」

 いつもは控えめの聖奈ちゃんが珍しく自分から言ってきた。
 ダイヤで象った可愛い猫のブローチだ。

 俺にはここまで上手に細工するのは無理なので、もちろんフォミオが作ってくれたものなのだ。
 どうやらこの子も猫が好きらしい。

「ああいいよ、いいよ。
 どうせ試作品みたいなものだから。

 まあこのままでも十分に商品として出せる品質だと思うが。
 もうダイヤモンド自体も、泉の指輪を作るために試作に試作を重ねたからな。

 あのブリリアントカット自体も俺が説明して、フォミオに自動車の試作をする時のモックアップモデルのように型を作らせて、そいつを収納してそれに合わせたイメージで原石を切り抜いたものなのだから。

 や異物や変色などがあるものは全て除いた。

 人工ダイヤと異なり、原石をマーグの力で作ったから天然ダイヤに近い組成になっているので、どうしてもそういう物とは無縁ではいられないんだ。

 いい物を作るのに苦労したぜ」

「そういう事をやらせたら、一穂が一番ねえ」

 姐御には小さなダイヤモンドをたっぷりと散りばめた、ふさふさ扇をプレゼントしてやったぜ。

 結構気に入ってくれたとみえて、広げて悦にいっている。
 今日も真っ赤な派で派手ドレスに、化粧も厚塗りだった。
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