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第四章 大精霊を求めて

4-46 堂々入国

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 俺は飛空して、そこの国境の少し手前で降りた。

 いきなり領空侵犯すると、ここだけはマズイかもしれない。

 多分、賢い采女ちゃんの事だから身分証明書があるので俺と同じようにしたはずだ。

 そうしないと侵入者として治安機関に排撃される可能性があり、目的を達せられないまま逃げ帰る破目になるかもしれないからな。

 もしかすると、それがあの子達にとって敗因だったのかもしれんのだが。

 あの勇者の容姿、髪と目の色は何らかの方法で隠させた方がよかったか。

 だが顔立ちだけでも、多分勇者関係だとバレる。
 特にあの国の権力者は勇者の子孫らしいからなあ。

 俺も慎重に行動しよう。
 ここで暴れたりすると、彼女達に会えないばかりか、例の湖へも辿り着けない。

 そっと湖に近い上の方の国境から攻めてもよかったが、彼女達の事も気になるので、一応は彼女達が辿ったと思しき、こちら側からの経路から行く事にしたのだ。

「おお、おお。並んでる、並んでる。

 勇者なら通常はフリーパスなのだろうし、普通の国だと俺のような高ランクの冒険者はこういう関所なんかも特別待遇でほぼ自由に通れるらしいのだが、ここはどうなのだろうな」

 一体どのような人種がこのような特殊な国へ出入りしたがるものかと首を捻ったが、並んでいる人種を観察してみたところ、どうやらビジネス関係が多いようだ。

 中には一般国民のような感じの人もいるのだが、貧乏人というか貧相な感じの人がいないので、多分特殊な技術や技能を持った一種の特権階級なのだろう。

 この手の国で虐げられているような階層の人の服装は、おそらく地球同様に一目で見てとれるレベルだろう。

 地球でも独裁国家のようなところではそういうケースは多くあったし、同じくそのまま上級国民が外国へ出かけた機会に他国へ亡命するみたいなケースも少なくないのだろう。

 その場合、国に残された家族は有用な人士の国外逃亡を防ぐための人質というわけだ。

 俺は首を竦めて、しばらく人の流れを観察していたが、高級な服装をしている人が馬車で出入りする特別な入門口を見つけた。

 そちらへ歩いていくと、いきなり警備の衛士に槍の穂先を向けられて止められた。

「何用か。
 ここは身分の高い者の出入りする特別の門だ」

「へえ、こいつじゃ役不足なのかい」

 俺はSSSランクの冒険者証を呈示し、被っていた薄手のマントのフードを外して、目と髪の色でそいつに問うた。

「これは!」
 そして門の傍に待機していた隊長格と思しき人物が前に進み出た。

「ふむ、SSSランク、魔王軍相手に実績を上げただろう勇者か。
 失礼しました、お通りください。
 して、我が国へはどういった御用件で」

 これが日本の同盟国アメリカの表玄関ならば、日本のパスポートを差し出して「サイトシーイング(観光)」と片言英語でにっこり笑顔を添えれば、向こうも笑顔で愛想がいい簡単な英語を言ってくれて入国審査をあっさりと通してくれるところなのだが。

「観光で」
「ほう」

 にわかに入国管理官らしき人物の目が細まり、瞳の力も強まった。
 おっと、やっぱりアメリカ入国と一緒の対応じゃ何かまずかったのかしら。

 一応は魔王・魔物とは対決している人類側の王国連合の一員だからと思ったんだけどね。

 ここはビザがいらないだけマシだと思っていたのだが。
 ちなみにこの世界には、ビザ、入国査証なる制度自体が存在しない。

 酷いところだと、碌に国境すらないらしいし。
 そういや、ヨーケイナ王国にだって、兄弟国との間にはそういう区画もあったな。

 まあ厳しいところでは、こうやって激烈な入国制限が敷かれているだけなのだろう。

「北の方面に、実に風光明媚な美しい湖があると聞いて是非見てみたいと思ってね。
 勇者の国ではそういう場所が非常に貴ばれるのだ」

「ほう、そうでありましたか」
「ああ、それに実を言うと俺はこういう真似ができてね」

 俺は飛空の力で軽く飛んでみせた。
 彼の眉がピクリと瞬間動く。
 やっぱり、こういう能力は警戒される土地柄だったか。

「勇者権限で勝手に国の中に入らせてもらってもよかったんだがね。

 他国で俺達勇者がそうしても特に咎を受ける事はないらしいとの事だが、ここの国は事情が違うとあちこちで聞いたので、勇者に相応しく礼節を重んじたまでだが、よろしいかな」

 すると、向こうも警戒心を和らげてくれたようで、表情もさっきとはうって変わって柔らかいものになった。

 少なくとも表向きだけは。

「そうですか、それはまたお気遣いどうも。

 本来なら入国する外国人には監視を付けなければならないところなのですが、自由奔放な方が多い勇者様には無理やりに監視など付けるだけ無駄ですので、それはこの国でも付けない習わしになっていす。

 では勇者様、よい御旅行を」

「ありがとう」

 彼は笑顔で見送ってくれたが、俺はそんな物を信用などしておらず、彼同様にお定まりの笑顔を取り繕って円満にその場は別れた。

「ふっ、この国でそんな話を日本生まれの勇者たる者が鵜呑みにするとでも思うたか。

 このような国は地球にだっていくらでもあるんだよ。
 日本の近所にもいくつかあるしな。

 そんな物、三千年近くも同じ日本という国をやっていれば嫌でも国レベルで出くわすわい。

 お前らが何を考えているかくらい、こっちはとっくにお見通しだわ。
 ほうら、後からこっそりと何人もつけてきやがる。

 この独特の気配は、比較的この手の物には鈍感な俺にだって容易に感じ取れるぜ。
 こいつは、やはり彼女達にも何かあったとみていいようだな」

 エレも、ごそごそと俺の髪から這い出してきて、暢気な声で伝えてくれる。

「あいつら、妙にあんたを警戒していたわね。

 連中の思考を読んだ限りでは『勇者がやってきたら厳重に見張れ』と命令されていたみたいよ。

 下っ端だからそれ以上の事はわからないけど。
 なんていうか、あんたの知識からいったら秘密警察とか特殊諜報組織といった感じの部署の人間かしらね」

「それじゃあ、適当にあちこちをぶらつくかあ。
 エレ、奴らが何か慌ただしい動きをしたら教えてくれ。

 そこが手掛かりになるはずだ。
 手始めに冒険者ギルドを捜してみるか」

「そうね。
 あたしらから見たら、この国はあまり好きになれないな。

 精霊から見て、ここは観光に来るのなら不人気ナンバーワンの国じゃないのかな」

「はは、そいつは違いねえ」
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