はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希

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第四章 大精霊を求めて

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 そして浜の方へ出たら、なんと木を組み合わせて作った建ち並ぶ干し台に、それはもう思わず大漁旗を立てたいほどの量の大量の昆布が、見渡す限り並々と干されていた。

「うお、あれだけ探してなかった宝物が、こんなにたくさん無造作に干されている!」

「いやあ、これは壮観ですなあ。
 見た感じではそう悪い物じゃないようですよ。
 うん、結構上物だね」

 おじさんも眩しそうな顔で腰に手を当てて、それらの恵みを眺めていた。

「あれえ、あに様はこれが欲しいのけ?」

 まだ五歳くらいだろうか、浜で親のお手伝いをしていたらしい女の子が昆布を手にしながら近寄ってきて声をかけてきた。

 こんなところにやってくる余所者は珍しいのだろうか。

 なんていうか、海水浴に向いたような白砂のビーチって言う感じではなく、いかにも「魚獲りに向いた浜です」って感じのところだからな。

 小さな手漕ぎに近いような帆船のボートが幾艘か置いてあった。

 春先には、おチビ達を連れて潮干狩りに来てもいいかもしれない。

 でも蛤を売っていたから、この浜の貝などの漁業権について確認した方がいいだろう。
 勇者たる者が堂々と砂浜で密漁はマズイ。

「あ、ああ。
 お店じゃあなくて、ここでも売ってくれるのかなあ」

 なんで、こんないい物をあの市場には置いていないのだろうか。

「ええよー、お母ちゃあん。
 バイレ、売ってほしか人がおるけん」

 バイレか。ここではコンブとは呼ばれていないようだった。

 辺鄙過ぎて今までの勇者も買いに来なかったのかね。

 少し離れていた場所で作業していたらしい、まだ若そうな感じの母親が「よっこらしょ」とババ臭い掛け声を上げて立ち上がった。

 背中には赤ん坊を背負い、傍には二歳くらいのチビちゃんがいて、円らな瞳でこっちをじーっと見ていた。

 さすが辺境、典型的な子沢山の風景だな。

「おやまあ、あらあらあら、その黒髪黒目は。
 もしかしたら、あんたがたは勇者さんだかね。

 そんなお方々が、こげな海の草が欲しいのですけ?
 こんな物、貧乏者のしがない食い物ですけんど」

 それで金持ちが買い付けに来るような市場には置いていないのか。

 他にもまだそういう物がありそうだ。
 また、あちこちをチェックしないとなあ。

「あ、ええまあ。
 俺達、それが大好きなんですよ」

 あまり今までこの世界で聞かないくらい、えらく訛ってらっしゃったので、ちょっと反応が遅れてしまった。

 なんか、どこの方言だかわからないような言葉だ。

 もしかしたら耳から入った言葉が、スキルで脳内変換されているのかもしれないな。

 そういや、ここは隣国では最西の辺境地区だもの、訛っていてもそうおかしくはないよね。

 うちの村は不思議と訛っていないのだが。
 伝説の地の住人であるという矜持なんかがあるものなのだろうか。

 それにしても、この豊かな海の幸の福音がいただける漁港が無かったら、この村も絶対に焼き締めパン村コースだったよなあ。

「ちゃんと干して作った奴でないと本来は出せんのですけどが、出荷したばかりで量があまりねえすけ、そいでもいがったかね。

 まだ他のとこからも注文がはいっとりゃあすけ」

「ああ、その辺はまあ大丈夫です」

 無茶苦茶に食材に拘る人が二人もいるし、量ならば俺の場合はなんとかなるのだから。

 俺だって、まったくの無からはどうしようもない。

 だが、他の奥様方も集まってきてくれて、結局かなりの量を売ってもらえた。

 万倍化で増やしたっていいのだが、何かこう味が薄まるような気がして。

 出汁にしたり巻いたりして使う昆布ならまだいいのだが、形なんかも判で押したような物だとまるで合成食を食っているような気がするので、本当は海の幸なんかは万倍化したくないのだ。

 一応はこれも増やしておく事にはするが。

 最初の物が沢山あったせいで形もより取り見取りなので、とても複製品とは思えないようななかなかいい感じになった。

 子供達が集まってきていたので、勇者からの福音として、お菓子などを配っておいた。

 念願だった昆布が見つかったお祝いも兼ねて。

 ついでにこの地の精霊もやってきたので奴らにも配給は忘れない。
 また数千個の加護が増えたなあ。

「やりましたな、麦野君。
 これで正月の御節料理が豪勢になります。

 私は蒲鉾作りに精を出すとしますか。
 もちろん、でんぷんなどの繋ぎなどが入っていないプリップリの奴ですよ」

 ついでに、この方にもまた加護がついていたのだが、まったく気がついていないようだった。

 この人も師匠と一緒で元から精霊の加護はついていたな。
 なんとなく、そういうタイプなのはわかるのだけど。

 おじ様方という方は子供と違い、自分の周りにメルヘンな物がついて回っていても、そう気にならない物なのだろうか。

「これでまた出汁が更に豊かになります。
 蛤も、お吸い物にクラムチャウダーと、あれこれと使えますよね」

 元からキノコ出汁はあったのだが、今師匠と姐御が椎茸栽培に挑戦しているらしい。
 意地でも日本の品種と同じ椎茸を作りたいとのことだ。

 よくやるよ、あの人達も。
 まあ俺としては非常にありがたいの一言なのだが。

 そういやアメリカで食べた椎茸は凄く大味でまずかったなあ。

 筍なんかもあったので、人参やフォミオにスキルと冷蔵冷凍系の魔導具を使って作らせておいた高野豆腐なんかと合わせて和食の煮物も用意できる。
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