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第四章 大精霊を求めて

4-41 プロフェッショナル登場

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「おーい、なんとかあれこれと魚を持って帰ったけど、見てもらえるかな」

 宝珠で連絡して皆に集合をかけて、城の台所で魚を検分する俺達。

 もちろん、素材の魚は万倍化してきたのだが。
 そして、それらを見た師匠と姐御が大喜びした。

「でかした、一穂。
 ちゃんと鰹が入っているじゃないか。
 たくさん寄越せ。

 さあ、鰹節作成にかかるぞ。
 一穂、フォミオを呼んできて手伝わせろ」

 あ、師匠も本当は鰹節を一人で作れる自信がなかったんだな。
 俺はさっそく宝珠でフォミオを呼びだし、ザムザを迎えにやった。

 鰹節削りなら、もうとっくに作らせてあるのだが。

 しかも魔道具の奴と、腕次第で繊細にふわりっと仕上げられそうな手で削る懐かしい大工さんが使う鉋みたいな奴と両方を用意してある。

 もし餅が作れたら、鰹節が出来次第、雑煮用になんとかして花かつおを作りたいと思って作らせておいたものだ。

 あと、そのうちに『きしめん』を作らないといかんので。

 これは、きしめん自体の材料が無いわけではないので名古屋人としてはマストで作らない訳にはいかない。

 ある意味名古屋人にとってはでソウルフードの一つでもある。

 日本三大うどん候補の一角に名があげられるくらいの、日本中の誰でも名を知る珍品うどんなのだ。

 通常、亀類であるはずのスッポンを亀の一種と数えないように、きしめんもまた、うどんの一種とは数えずに『うどん亜種』として別の料理として数えられる。

 まだ花かつが無いので、きしめんだけ作っても仕方がないから用意してなかったのだ。

 名古屋においては、花かつおの乗っていないきしめんなんかは、絶対にきしめんとしてカウントされないほどだ。

 普通のうどんはあるし、我が家ではすでに味噌煮込みうどんが人気メニューになりつつあるのだ。

 そして、きしめんといえば天麩羅きしめんだ。
 そして、今日海老も仕入れてきたので、姐御が海老天を作成可能だ。

 後は師匠が鰹節を作ってくれさえすれば、具や出汁が充実して味噌煮込みうどんもまた華やかになる。

 蒲鉾も作らせないとなあ。
 他に乾麺を作って売りに出すのも悪くない。

 麺汁もガラス瓶に入れるか、いっそフォミオに粉末スープを作らせるのも悪くない。

 すでにラーメンスープでその構想はあるのだ。

 フリーズドライの技術を持っている勇者がいるので、それと合わせてインスタントラーメンやカップ麺を作ろうと思って!

「あらこっちの魚は、ハマチねえ。
 お正月料理に最高よ。
 おお、ブリもちゃんとあるじゃない」

 気が付かなかった。
 なんとなく、そういう形なのかなとは思っていたのだが。

「お局様、ケチな事を言わないで、今からハマチをお刺身にして食べようよー」

 料理はしないで、いつも食べるだけのお調子者の姶良ちゃんがしきりに強請っている。

「小娘ども、お局って言うなっ。
 でもそれも悪くないわね」

「あ、お刺身たまりもフォミオが作ったぜ。
 出汁醤油はまだだけど。

 一応、減塩のもある。
 普通の減塩醤油や味噌もあるよ」

 一応、こいつは一番歳のいった師匠なんかに気を使った品のつもりだったのだが。

「馬鹿者、そんなマズイ物がいるか。
 俺は健康には自信があってな、毎年の健康診断も常に全ての項目が評価Aだ。
 風邪など生まれてこのかた一度も引いた事がないしな」

「あんた、どれだけ鉄人なんだよ」

「よし、あの人を呼ぼう」

「誰!?」
「いいから、いいから」

 そして連れてこられた方は、何かこう白衣のような物を着たおじさんだった。

「ああ、こんにちは、麦野君。
 いつぞやの荒城では、あんな場所で見捨ててしまって済まなかったね。

 君の活躍は聞いていますよ。
 いやあ、若いもんはいい、若いもんは」

 なんか、凄く爺むさい事を言っておられる方がいる。

「はは、何を言っておられるか。
 魚海さんは俺と同じ歳じゃないか。
 人生まだまだ半ばよ」

 うーん、師匠と比べられてもな。
 そちらのおじさまの方が歳相応っていう感じなのだがな。

 こういう事を言っているところをみると、この人も師匠と一緒に飲みながら、取り残されてしまっていた俺の心配をしてくれていた方の一人なのだろう。

 俺は思わず胸が熱くなってしまった。
 そして、それを彼に差し出した。

「いえいえ、お気遣いなく。
 そういう気持ちだけでもうれしいですよ。

 あの、これ良かったらお近づきの印にどうぞ。
 麦穂印の味噌醤油たまりです。

 刺身たまりに、それらの各減塩バージョンもあります。

 あと、油揚げに豆腐、ワカメなんかもあります。

 こちらは生湯葉と乾燥タイプ、生麩にお吸い物に入れる麩なんかもありますよ。
 あと御飯もアルファ米ですけど」

 それを見ておじさんは顔を綻ばせた。

「いやあ、麦野君はまだ若いのに人に気を使える人だね。
 それに比べて、あのやさぐれた若者達と来た日には。

 あれこれと城下でも狼藉が過ぎるので、王も大層心を痛めておられる」

「うーん、そうでしたか。
 なんなら連中は俺が締めておきましょうか?」

「ああいやいや、まあそう事は荒立てずに。
 彼らも、もう少し歳がいったら落ち着くのじゃないですかね」

 おじさんは未熟な若者を長い目で見てあげる方針のようだ。
 まあ別にいいんだけど。

 俺はなんとなくビトーのサブマス、ジョナサンおじさんを思い出してしまった。

 俺も今ではあの人の事を心の父と呼んでいる。
 今度行く時は勇者御飯の御馳走セットを持っていこうかな。

 またそのうちにあそこでの仕事が入るのだろうし。

「一穂、この魚海勝吾うおみしょうごさんはね、魚市場で働いていて、もうかれこれ二十年も務められている方だから魚は目利きなのよ~。

 その前は自らが漁師だったし。
 ご実家は古くから続く漁師町の漁師だったしね」

「なんと!」
 プロフェッショナルの中のプロフェッショナルのご登場だ。

 略して魚勝さんだね。
 まるで魚屋さんのような名前からして期待できるぜ~。

 いや、魚屋さん(卸)だったんだよなあ。

「じゃあ、さっそくハマチでも捌くとしようか。
 鰹もいいね。

 鮮度の高い身の透き通ったスルメイカもあるんだね、こいつはイカソーメンにしようか。
 これだけ新鮮だと身の甘みが堪えられないだろうねえ」

「じゃあ、先にブリもお願いしますわ。
 正月用に照り焼きにしていこうかと思いまして」

 姐御もエプロンをして、張り切って料理の支度を始めた。

「じゃあ、赤だしっぽい味噌と豆腐にワカメで味噌汁作りますね」

「あ、私は生姜すります」
「あたし、お皿並べるわー」

 女子高生達も、久しぶりに美味しい刺身が食えるとあって、お手伝いに余念がないようだった。

 お城の料理人も何事かと寄って来たが、海の魚を生食すると聞いてびっくりした。

「ここは内陸国ゆえ、なかなか海の魚を料理する機会はないのですが、魚ってよく当たるんですよね」

「ああ、川や湖にいる奴は気をつけないと。

 海の方は種類によってはアレですし、似たような魚でも住んでいるところにもよりますしね。

 まあ滅多な事はないはずですが、ここは異世界ですからなあ」

 だが、生憎な事に俺達勇者は収納を使えば、ヤバイ物は魚から選り分けられるのだ。

 俺なんかそういう事は得意中の得意なのだ。
 俺が出した魚でマズイ物が入っている物は一つとてない。

 貝毒さえも完全に除去してあるのだからな。

 まあ王城の料理人が見知らぬ料理を恐れるのも当然だろう。
 この世界で王族におかしなものなど食べさせた日には命がないかもしれない。

 ましてや、貴重な勇者にも食べさせる物だからね。

 おっかなびっくりに差し出された透き通った生臭さなどとは無縁のイカソーメンをフォークですくい取り、刺し身たまりで食べた、まだ三十代前半くらいの料理長は目を見開いた。

「こいつは美味い。
 なるほど、これなら勇者様が好んで食べるはずだな」

「勇者陽彩もこういう物なら食が進むだろうな。
 師匠、あいつってアレルギーは?」

「アレルギーについては本人に確認済みだし、一通りの食い物は腕の皮膚でアレルギー反応テストも試したが特になかったぞ」

「そこまでしているのか、お母さんは本当に大変だな」

「誰がお母さんだ」
「いやー、ハマチが美味いなあ」

「あ、ハズレ君のくせに一人だけ先に食べていてズルイー、あたしも」
「いただきまーす」

 今日の勇者達の御飯は海鮮三昧と決まったようだった。
 俺はカイザに電話してこちらに泊まる事にした。

 なんと、今晩はフォミオがこちらへ来ているので、新妻ルーテシア嬢の手料理が振る舞われるらしい。

 しまった。
 公爵家のお姫様が作る辺境で初めての新妻の手料理、そいつは是非俺も食べてみたかったな~。
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