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第四章 大精霊を求めて
4-39 思わぬ場所で思わぬお話
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どうやら、ここの土地の問題でカイザがそう困るような事はなさそうなので一安心といったところなのだが、ここに来て俺はある事に気がついた。
『国境超え』
ブンケー王国なんかは考えもしないで国境を越えてきちまったが、ここは勝手に越えちまってよかったものかどうか。
一応は冒険者ギルドという一種の会社のような組織に所属しているので、やたらと越えてしまって後で問題になっても困る。
俺は空を飛び、わざと見えるように青空をバックにしてそれでいて、見にくくないようにそう高くは飛ばないようにした。
低く飛び過ぎても、戦闘機などの低空進入と一緒で視認してもらい辛い。
国境警備の人(こんな辺境にいてくれるとしたらの話だが)ないしは、なにがしかの役人の目に留まるようにだ。
俺は笑顔で手を振りながら、ゆっくりと近づいていった。
「止まれ。そこの飛んでいる男、止まれ」
簡易な革の鎧というか、制服に限りなく近い格好で長さは長いが重量的には軽そうな槍を構え、何故かナポレオンの時代のような形の革帽子を被った男達の集団がいて、その先頭にいた彼らの大将と思われる白くなった口髭の人物が誰何してきた。
「やあ、こんにちは。
ここに国境警備の方はいますか」
「ああいや、そのような者はここにおらん。
我々トナーリー辺境伯家の者が兼ねておる。
まあこのような辺境の土地なのでな。
時にお主は、もしやヨーケイナ王国の勇者の方であろうか。
魔人ではないのだな」
俺は面食らった。
今までに魔人かと言われた事などはそうそうないので。
一度カイザに勘違いされたくらいかな。
俺は彼の隣に降り立って尋ねてみた。
「今までにそのような事を言われた事はないのですが、黒髪黒目の魔人がいますので?」
「ああいや、そういう訳ではないのだろうが、なにかこう空を飛んでやってきたのでな」
「勇者の中には魔人同様に飛空の能力を持っている者が私の他に二人もいますが」
「あ、ああ。そうであったか。
それは失礼した」
正確には勇者の中に飛空能力を持った人間など、本来その二人しかいないのだが。
しかも一人は脱走中で王都にはいない。
そして、黒髪黒目なのは『魔王』その人もなのだがな。
そういう事を言うと、俺の場合は「もしや魔王であったか」とか言われちゃいそうなので黙って貝になっているが。
何しろ、俺の場合は元魔人の眷属なんかを大量に引き連れているから、いつかそう言われるんじゃないのかとヒヤヒヤしている。
その時は、SSSランクの冒険者証の出番なのだが。
「して、勇者殿。
このような隔世の地に何か御用だったかな」
「ああ、用はあったんだけど、入国手続きなんかが必要だったかなと思って」
だが彼は少し恰幅のいい体を揺すり、口髭をも震わせた。
「はっはっは。
空から来られたのでは、国境警備もへったくれもありませんな。
基本的に勇者様に対しては、王国連合、つまり人間が所属する全ての国家では特に国境で止めだてはされませぬよ。
ご自由にお通りくださいませ」
「へえ、そうだったのか」
だが、彼も少し顔を曇らせて、眉を顰めて意味ありげにこう付け足した。
「ですが、あのパルポット共和国へ行く時があればお気をつけなさい。
この周辺で、あの国だけは勇者に敬意を表さないでしょうから」
「パルポット共和国?」
聞いた事がない名だな。
俺が首を傾げていたので、彼は苦笑して説明してくれる。
「ヨーケイナ王国から西方面に二つ向こうへ行った国です。
王政といっても元老院のような議会により物事が決まっていくのが殆どであり、絶対専制国家という物は滅多にない。
そういう物は維持するのが難しいので。
だが、あの国は違う。
王政を打倒し、そのように名乗り、共和国などと名乗っているが実態は専制君主の治める独裁国家です。
黒髪黒目である勇者の子孫の指導者を持つ国で、それゆえ勇者の権威を恐れませんから」
「あっちゃあ、あれの事だったかあ」
大丈夫だったかな、宗篤君達は。
へたするとヨーケイナに恩を売ろうと思って、何か魔導的な手段で捕獲されていたりして。
「あの国は秘密警察とかそういう物が発達していて、外国人が入国すると非常に厳しい監視が付き自由には出歩けません。
勇者様が他の国みたいに勝手に入ると、へたをすれば魔道士や軍の精鋭部隊に攻撃されかねません。
勇者といえども人の身なれば気をつけた方がいいのでしょうなあ。
また自国民は外へは出られませんし、国内の移動も厳しく制限されております。
また思想の管理も非常に厳しいのです」
「そいつはまた酷い話だ」
ヤベエ。
その国の場所はわかっているのだから、もっと下調査しておいた方がよかったな。
そこまでヤバイのだったら、俺も一緒に行くべきだったか。
あの子達だけを行かせるんじゃなかった。
ギルマス達も、もう少し話しておいてくれたらよかったんだが、まあ冒険者証は持っているからなあ。
Sランク冒険者は、通常貴族のように特別扱いされる。
ましてやSSSランクともなると、まさに別格なのだ。
とはいえ、そこまでの問題国家だと心配になるなあ。
まあそうやすやすとやられてしまう事はないのだろうが。
師匠やギルマスにも相談してみるか。
とりあえずの要件を済ませたら、まずカイザに相談してみるかね。
『国境超え』
ブンケー王国なんかは考えもしないで国境を越えてきちまったが、ここは勝手に越えちまってよかったものかどうか。
一応は冒険者ギルドという一種の会社のような組織に所属しているので、やたらと越えてしまって後で問題になっても困る。
俺は空を飛び、わざと見えるように青空をバックにしてそれでいて、見にくくないようにそう高くは飛ばないようにした。
低く飛び過ぎても、戦闘機などの低空進入と一緒で視認してもらい辛い。
国境警備の人(こんな辺境にいてくれるとしたらの話だが)ないしは、なにがしかの役人の目に留まるようにだ。
俺は笑顔で手を振りながら、ゆっくりと近づいていった。
「止まれ。そこの飛んでいる男、止まれ」
簡易な革の鎧というか、制服に限りなく近い格好で長さは長いが重量的には軽そうな槍を構え、何故かナポレオンの時代のような形の革帽子を被った男達の集団がいて、その先頭にいた彼らの大将と思われる白くなった口髭の人物が誰何してきた。
「やあ、こんにちは。
ここに国境警備の方はいますか」
「ああいや、そのような者はここにおらん。
我々トナーリー辺境伯家の者が兼ねておる。
まあこのような辺境の土地なのでな。
時にお主は、もしやヨーケイナ王国の勇者の方であろうか。
魔人ではないのだな」
俺は面食らった。
今までに魔人かと言われた事などはそうそうないので。
一度カイザに勘違いされたくらいかな。
俺は彼の隣に降り立って尋ねてみた。
「今までにそのような事を言われた事はないのですが、黒髪黒目の魔人がいますので?」
「ああいや、そういう訳ではないのだろうが、なにかこう空を飛んでやってきたのでな」
「勇者の中には魔人同様に飛空の能力を持っている者が私の他に二人もいますが」
「あ、ああ。そうであったか。
それは失礼した」
正確には勇者の中に飛空能力を持った人間など、本来その二人しかいないのだが。
しかも一人は脱走中で王都にはいない。
そして、黒髪黒目なのは『魔王』その人もなのだがな。
そういう事を言うと、俺の場合は「もしや魔王であったか」とか言われちゃいそうなので黙って貝になっているが。
何しろ、俺の場合は元魔人の眷属なんかを大量に引き連れているから、いつかそう言われるんじゃないのかとヒヤヒヤしている。
その時は、SSSランクの冒険者証の出番なのだが。
「して、勇者殿。
このような隔世の地に何か御用だったかな」
「ああ、用はあったんだけど、入国手続きなんかが必要だったかなと思って」
だが彼は少し恰幅のいい体を揺すり、口髭をも震わせた。
「はっはっは。
空から来られたのでは、国境警備もへったくれもありませんな。
基本的に勇者様に対しては、王国連合、つまり人間が所属する全ての国家では特に国境で止めだてはされませぬよ。
ご自由にお通りくださいませ」
「へえ、そうだったのか」
だが、彼も少し顔を曇らせて、眉を顰めて意味ありげにこう付け足した。
「ですが、あのパルポット共和国へ行く時があればお気をつけなさい。
この周辺で、あの国だけは勇者に敬意を表さないでしょうから」
「パルポット共和国?」
聞いた事がない名だな。
俺が首を傾げていたので、彼は苦笑して説明してくれる。
「ヨーケイナ王国から西方面に二つ向こうへ行った国です。
王政といっても元老院のような議会により物事が決まっていくのが殆どであり、絶対専制国家という物は滅多にない。
そういう物は維持するのが難しいので。
だが、あの国は違う。
王政を打倒し、そのように名乗り、共和国などと名乗っているが実態は専制君主の治める独裁国家です。
黒髪黒目である勇者の子孫の指導者を持つ国で、それゆえ勇者の権威を恐れませんから」
「あっちゃあ、あれの事だったかあ」
大丈夫だったかな、宗篤君達は。
へたするとヨーケイナに恩を売ろうと思って、何か魔導的な手段で捕獲されていたりして。
「あの国は秘密警察とかそういう物が発達していて、外国人が入国すると非常に厳しい監視が付き自由には出歩けません。
勇者様が他の国みたいに勝手に入ると、へたをすれば魔道士や軍の精鋭部隊に攻撃されかねません。
勇者といえども人の身なれば気をつけた方がいいのでしょうなあ。
また自国民は外へは出られませんし、国内の移動も厳しく制限されております。
また思想の管理も非常に厳しいのです」
「そいつはまた酷い話だ」
ヤベエ。
その国の場所はわかっているのだから、もっと下調査しておいた方がよかったな。
そこまでヤバイのだったら、俺も一緒に行くべきだったか。
あの子達だけを行かせるんじゃなかった。
ギルマス達も、もう少し話しておいてくれたらよかったんだが、まあ冒険者証は持っているからなあ。
Sランク冒険者は、通常貴族のように特別扱いされる。
ましてやSSSランクともなると、まさに別格なのだ。
とはいえ、そこまでの問題国家だと心配になるなあ。
まあそうやすやすとやられてしまう事はないのだろうが。
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