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第四章 大精霊を求めて

4-22 祭りの最中なのですが、新イベント開催に向けて

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「ママー、お爺ちゃん、御婆ちゃん。
 マーシャ達がお祭りを案内してあげるよ」

「はは、ありがとう」
「いいわね、楽しそうで」

 孫たちが暮らす村が最果ての辺境という事で、かなり心配していたものらしいが、思いの他溢れる活気に彼らの顔も緩みっぱなしだ。

「あ、公爵様ご夫妻は我々がご案内します」

 そう言って案内役を買って出たのはショウだ。

 ついでに二人の弟子を王都の有力者に売り込みたいというわけだ。
 そっちの方は彼に任せた。

 何しろ、彼ならばこれらのイベントのためにあれこれと探し回ってくれた本人なので、実を言うと個々の話については俺よりも詳しいのだ。

 その物の異世界での由来や、この世界でそれらをどこでどう仕入れてきたものかなど話題には事欠かない。

 この俺について聞かれてもネタも豊富だしな。

「そうかい、頼んだよ。えーと、君は」

「私は勇者カズホ様の御用達商人でショウ、こちらは私の弟子でルイーズとサムスンです」

「こんにちは、公爵様。
 ルイーズです」
「私がサムスンです」

「そうか、君達よろしく頼むよ」

「はい、お任せください。
 異世界の祭りは楽しいですよ」

 そして、本日の目玉はあれだ。
 ラーメンの登場なのだ。

 何しろ、この季節は熱い汁物など堪えられないシーズンなのだ。

 このあたりの人って、案外と寒さに強いよな。
 褌とシャツに法被で平気な顔をしているし。

 普通、この時期で祭りなんてやらないものだが。

 日本だともうクリスマスイルミネーションが始まる頃じゃないか。
 あ、クリスマス!

 あれをやらんと話にならんな。

 日本ほど適当な国はない。
 クリスマスがキリスト教のお祭りだったと知るのと、サンタさんが実はお父さんだったと知るのと、どちらが早いだろうか。

 特にキリストや神を敬う気持ちなど微塵もないしな。

「あんたが生まれてくれたおかげで今年も年末にバカ騒ぎができて非常に嬉しいぜ、生まれてきてくれてありがとう、キリスト様!」

 まあ日本人の九十九パーセントがこの程度の認識なんだろうな。

 つまり、それは取りも直さず、勇者溢れるこの異世界でもクリスマスはマストでやられねばならないイベントだという事なのだ。

 キリストも生まれた事が無く、当然キリスト教も存在しないこの異世界なのだが、それはまったく関係ないのだ。

「よおし、やるぞお!」

「え、一穂。
 何いきなり大声あげてるの。
 まあ祭りなんだからいいんだけどさ」

「何を言っているんだ、クリスマスだよ、クリスマス。
 もう十二月なんだぜ」

「あ、そうだね!」

「今年は俺も彼女がいるんだからなあ。
 これをやらずにどうしろというのか」

「おー、そうよね」

 俺は彼女と一緒に過ごせるクリスマスに激しく思いを寄せた。

 頼むから魔王軍もクリスマスを楽しんでいてくれ。

 いっそ、魔王城にもクリスマスケーキを届けておくとか。
 今の魔王が日本にいた頃にはクリスマスの習慣はなかったのかもしれないが。

 クリスマスって戦前の日本の一般家庭にもあったものかね。

 今みたいに派手にクリスマスをやるようになったのは、太平洋戦争に負けて日本の何もかもが完全にアメリカの支配下に収まってからじゃないかと思うのだが。

 今日に見られるようなアメリカナイズされた社会は国の在り方で言えば、あの日本に限っては『負け犬の証』であるといえなくもない代物なのではないだろうか。

 昔の植民地時代の、支配国の風習や宗教を今も残す国々みたいなもので。

 彼らはもう独立して植民地の地位からは脱したが、日本だけは今も絶賛アメリカの経済植民地のような物として、まったくさえない状態だ。

 アメリカの許可がないと経済から軍事まで勝手に何をする事も許されないんだからな。

 そして商魂逞しく、世界に他にそうそうないくらい立派な仏教国のくせに、異教徒バテレンの祭りを派手にやっている。

 もっとも宗教的イベントとしての価値は完全にゼロなので特に問題はないのだが。

 まあ俺達国民にはなんの関係もないさ、今は異世界にいるのでもっと関係ない。

 元々俺も信仰心などという物には無縁だったので、あんなに困って放浪していた頃でさえ仏様にすら祈った事もないわ。

 そもそも仏教行事って、どうにも地味で若者の心は惹かれない物だしね。

「まあクリスマスをやるだけでキリスト教の布教は特にせんがな」

「えーと、それじゃあなんて説明するの?」
「日本のお祭りの一種?」
「うーん」

 だが俺の後ろに仁王立ちして、リンゴ飴を片手に持って振りかざし、このように叫んだ方がいた。

「やるわよ、クリスマス!
 絶対にホールケーキも作るわ」

「やらいでか! それで何が足りないのかな」

「そうねえ。
 まずあのホイップクリームね。
 なんていうか、粉から作れる奴が欲しいわ。

 あれはなかなか難しくてまだできていないの。
 ここはフォミオの出番なのかしらね。

 チョコクリームも作りたいわ。
 あと銀紙の方に入った板チョコか。

 あ、厚地のアルミホイル作れないかしら、あるいはそういう感じのアルミの薄い型みたいな奴。
 あとは色付きの蝋燭ね」

「ホイップクリームか。
 あれがあると、バナナさえあれば、あのお菓子が作れそうだな」

「ああ、あれ。
 名前忘れちゃったけど真ん中に豪快にバナナがどんっと入っている奴だよね」

「あとチョコレートサンデーやバナナパフェとか、プリンアラモードなんかも」

「いいわね。
 直営のスイーツパーラーでもやろうかしら」

 だがケーキには一つ大きな問題があるのだ。
 これは非常に大きな困難なのだ。
 姐御もこれには難しい顔をしていた。

「あと日本のクリスマスケーキに必須なあれが欲しいんだけど」

「あれねえ。
 ショウ達に捜させてはいるんだが」

「あれって?」

 話が見えていない泉が首を傾げている。
 なあに、お前も大好きなものさ。

「苺だよ、苺。
 野生のベリーみたいな物はあるんだけど、あの日本の奴みたいな物がない。

 ストロベリーそのものがなさそうなんだよなあ。

 どこかで似たような野生種を見つけてハウス栽培で改良を目指すのはありなんだけど、今年は間に合いそうもない」

 姐御は少し考えるようだったが、妥協案を見つけたようだった。

「じゃあ、チョコはあるんだからノエルケーキにしよう。

 本場のヨーロッパなんかはあれのはずだから、ここはそれを用意という事で。

 あれも高級なケーキだから勇者のみんなも充分満足してくれるんじゃないかな」

 こっちはクリスマスの話題で盛り上がっていたのだが、師匠は村の青年を指揮してラーメン屋台を切り盛りしている。

 隣にいる師匠付きの女性アメリアさんも、彼と一緒に楽しそうにラーメンを作っていた。
 二人とも生き生きとしているねえ。

 店先にはフォミオにも手伝わせて鍛冶屋に無理を言って作らせた、やや鉄板が厚めの一斗缶もどきが薪を燃やしていた。

 いや祭りの雰囲気を出したかったので、こういう物の方がいいかなと。

 かなり無理筋な、空き缶というよりも鉄函といった感じの代物なのだが、パッと見には何とか一斗缶っぽいようには見える。

 村の娘達も売り子として頑張っていた。売ると言ってもお祝いの祭りなので代金は全部俺の奢りなのだ。

 カイザや村の衆に日頃の感謝を込めて。
 これは俺にとっては感謝祭のようなものなのさ。

 さあ、ここからクリスマスに向けて進撃だ。

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