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第四章 大精霊を求めて

4-16 カイザ子爵お披露目結婚式

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 そして、式の当日がやってきた。

 本日はおチビさん達のためにフォミオとニールを呼んである。

 村のおチビさん達のうち、小さい子達が心配なのだ。
 つい興奮して走り回ってしまいそうだわ。

 一応、ショウ達三人がマンツーマンで四歳以下の子とペアを組んでくれているのだが。

 当事者の侯爵家には少々の事は目を瞑ってくれるように頼んである。

 アイクル家にとっても、突然の結婚式なのに領民の子供達が多数参列してくれるのは嬉しい限りなので快く了承してくれている。

 そして、あのカイザがアイクル家の侍女に支度を整えられながら鏡とにらめっこして、このようなものかなと自分の久々に正装した姿と向かい合っているのは何かこう笑える。

 まあこいつもこれからは領主として頑張らねばならないのだし、ここはルーテシア嬢のためにも気張れよ。

 愛娘のおチビさん達は、地球の西洋の結婚式などで子供達が着るような、白いふわっと広がるような感じの丈の短いおチビさんドレスだったが、なんというかこちらもハロウインでよく見かけるようなチビお姫様の格好に限りなく近い雰囲気だった。

 まあ可愛らしく整えられているので、お爺ちゃん御婆ちゃんに見せびらかしに行った際も微笑ましくされていたようだ。

 やがて式の時間になり、比較的わざと狭く作られている王城の中では広く作られている謁見の間のような場所へと移動した。

 真ん中に引かれた真紅の絨毯は、よく紋章などに使われる深紅のような色合いではなく真赤そのもので、派手なこの街なら王城でなくともありふれた物なのかもしれないが、この世界の情勢からは血を連想させるかのような紅さだった。

 本物の血の色はなんというか思うよりも人工物っぽい感じなのだ。
 水に溶かすと、まるで赤インクを溢したように作り物臭く感じるのだ。

 それはヘモグロビンのような化学的な作用を持つ物質がメインで色づけられているせいなのかもしれない。

 ここはそのような血塗られた戦の世界に身を置く覚悟のある者のみが踏み締める事を許された場なのだと示されているのだろうか。

 それほどの妙に生々しいあかさだった。

 俺はフォミオに仕立てさせた、日本の礼服を着込んでいた。
 泉もお揃いのパンツスタイルの黒い礼服だ。

 こういう格好も泉のような美女が着込むとまたよく映える。

 日本でならスカートタイプの方がいいのかもしれないが、ここでは勇者という事でこの方がいいようだ。

 今日は泉以外、王都の勇者の面々も基本的に参列していない。

 一応、勇者召喚の地である特別な領地の新領主就任の御披露目も兼ねているので、その王からの威光を示すため勇者陽彩だけは儀礼的に参加させられていて、王様と王妃様のお隣に所在投げに立っている。

 それはまあいいのだが、しかも彼の反対側には何故かあのビジョー王女が列せられていて、見事な膨れっ面をご披露している。

 傍目にはお姫様が澄ました顔をして立っているようにしか見えないが、あのダンジョン行を共にして性格も読めている俺には丸わかりの見事な拗ね具合だった。

 あの子も一国の姫なのだから弁える時は弁えているはずなのだ。

 あの自分を袖にした陽彩の隣にわざわざ立たされているのでなければ、ああはならないものをなあ。

 勇者陽彩にもそれはわかるとみえて、かなり日和っている感じなのが事情を知る者の笑いを誘う。

 こっちを見て「助けてー」とでも言いたそうな視線を投げかけてくるのだが、さすがにこの場ではどうしようもないので、列の反対側から泉と一緒に生暖かい笑顔のみを返して励ましておいた。

 王様、一体何を考えてるのかね。

 やっぱり、陽彩にビジョー王女をくっつけたいのか、あるいは陽彩に政治的な意味でおかしなちょっかいをかけてくる勢力に対するけん制という意味があるのかもしれない。

 何しろ、王様の話によれば中には魔王軍と通じている連中もいるそうだからな。

 まあ今日のところは頑張って一緒に並んでおいてくれ。

 そのような二人を見ながらも、王様は威厳を纏ったまま、まったく平常心であった。

 本当に王様っていうものは、たいしたタマだよなあ。

 本日は玉座には座らずに俺達とは反対側にある先頭、いわゆる参列の上座に立ち、長年の直属の部下たるカイザを待っている。

 おそらくは、彼の長年の労苦を労うためにあえてそうしているのであって、普段の行事ならば正面の玉座にて王妃と共に待つのではないだろうか。

 王様、相変わらず人間が出来ているな。

 そして反対側の先頭、つまり俺達の隣には新婦の実家である公爵家の面々がいて、おそらく王様がいる向こう側の列前方から数えて左右交互に序列が決まっているのだ。

 向こうはビジョー王女の隣にカイザの実家、アイクル家の親族が並んでいた。

 その反対側が俺と泉なのだから集団の序列でいえば他の貴族を飛び越えて四番目と破格の待遇で、今日の俺に対して王様はかなりの歓待ぶりを示してくれているのだといえる。

 そして俺達の特徴である黒髪黒目はそれに対する反論は許さない。
 たとえ魔王と近しいような裏切り者の大貴族であろうと。

 そして厳かなムードの漂う中で新郎新婦の二人が、王の御前で王国貴族の義務を現わすかのような『血のカーペット』の上を歩いてきている。

 カイザも寸前でなんとか整えられていた割には、見かけも決まっていて足取りも確かである。

 さすがは大貴族家の出身だけはある。

 もとより、今まさにカイザの横で腕を取っている公爵家御令嬢と正式に婚約していた男なのだから。

 そして俺達の前を通過し、王と王妃が進み出て二人を迎えた。

 政略結婚で迎えた王妃は何人かいるようなのだが、ここでは第一王妃が共にあるのだと師匠から聞いた。

 おそらくは一番有力な同盟国から迎えた姫なのだろう。

 王国連合を束ねるのは一筋縄ではいかないはずだから、そうやって血の系譜で支えているのに違いない。

 そういう国々から勇者陽彩に我が国の姫と結婚して婿にという向きもあるんだろうなあ。

 魔王を倒す前にあまり妙なゴリ押しすると、勇者陽彩だって逃げるからな。
 あの子は人一倍気が弱いんだから。

 
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