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第四章 大精霊を求めて

4-10 晩秋は草刈りの季節

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 そこからまた箱の作成を任せ、今度は旧麦野城までの街道の整備に向かった。

「あっはっは。
 こりゃまた街道筋一面が見事なまでに草ぼうぼうだなあ。

 まあ無理もないさ、あれから半年くらいは経っているんだからな」

 俺達は六月に入ったばかりの頃、初夏の季節にここへやってきた。

 もう黄金穂波を刈入れる季節を通り越し、収穫祭も終えてかなりの月日が経つ。

 もう冬将軍の息吹が畑を撫でて、早朝などは白い霜の息で畑を染めていてもおかしくないような季節なのだ。

 何しろ、もう正月に食べる餅の心配をする人もいるくらいなのだから。

 そういや、手持ちの食材にワラビ餅ならあったよな。

 糯米でなくても、成分的には普通の米でもなんとか餅はつけた気はするのだが、アルファ米しかないのだし、あまりいい物は出来そうにないからやめておく。

 この世界ではジャガイモっぽいイモが存在するので、ショウとザムザに向かわせて種芋を入手し、この村でも試験的に栽培を始めている。

 ジャガイモはイモ餅にしたって悪くはないのだ。前にでんぷんを作った物はそう上手くない何かのイモだった。

 ジャガイモの栽培に熱心だったドイツの年間平均気温は確か九度くらいだったはず。

 イモなんか年中何回も植えていたような気もするし、寒い時期でもなんとか育つとは思うのだが、それを継続するには優秀な肥料が必要だ。

 栽培すればするほど土地は痩せる。

 肥料をやってもずっとジャガイモばかりを植えていれば連作障害で結局は痩せてしまうのだろうが、肥料をやらねばさらに痩せてしまうだろう。

 なんとか空中窒素固定法をこの世界の錬金術で確立できないかと、今マーリン師にお願いしてあるところだ。

 話を聞いた彼女は面白がってこう言った。

「そうかえ、このわしらの常日頃吸って吐く息が畑の肥料になるのだとな。
 ほんに勇者という奴らの言う事は面白いのう」

「ああ、ちいと方法が難儀なんだけどな」

 まあ難儀な事は餅屋さんに任せておいて、こっちは晩秋の草刈りと参りますか。

 何しろ、うちには異世界一の鎌の専門家がいるんだからな。

「じゃあ、ザムザ隊。
 草刈り開始!」

「任されよ、主。
 かのような雑兵など、我ら元魔王軍幹部の前ではおそるに足らぬ。
 さあ、各々方準備はよいか」

「「「「おーっ」」」」

 ザムザ1の掛け声により、全員が腕を鎌に換装した蟷螂頭のザムザ隊が街道筋全体に散らばって一斉に草刈りを開始した。

 いやあ、この連中と来た日には、人間ならたとえ兵士といえどもゲンナリする以外できないような全長八十キロにも及ぶ街道の草刈りをするのに、得物である鎌すら配る必要がないんだものなあ。

 しかも主のためとばかりに喜んでやってくれるのだ。
 さすがは魔王軍一の忠義物と呼ばれただけの事はある奴だった。

 俺も参加しようと思ったが、鎌のプロには絶対に敵わないから却って邪魔になりそうなんで、無粋は止めにしておいた。

 そして全行程八十キロにも及ぶ敵軍(雑草)が占拠していた街道を、我がハズレ勇者軍が見事に奪還を果たした。

 まるで、かの『アルフェイムの戦い』を再現したかのような有様だ。

「よしザムザ隊よ、引き続き、神殿までの道の整備を頼む。
 ゲンダス隊も道の表面を水で一旦溶かしてからしっかり固め、整えておいてくれ」

「承知」
「任されよ」

 このザムザとゲンダスは生前から親友盟友と呼ぶほど仲が良かったので、道路整備をしていても息がぴったりなので助かる。

 そこまで進めてから一旦村へ戻り、山車の方の進捗を確認する事にした。

「さあ、ここからが本番よー、フォミオ」
「はい、イズミ様」

 高山の方はもう下の箱は完成していて、王都の職人さん達が、俺が万倍化しておいたカイザの館の内装に使っていた上等な布や、派手過ぎたのでお蔵入りさせた真赤やド紫の厚地の立派な布で飾っていた。

 彼らは生まれてこの方、山車などという物を見た事が無い異世界の職人さんのはずなのだが、それはもういかにもそれっぽい感じに仕立て上げてくれている。

 プロの仕事って凄いな。
 俺とフォミオだけだったら、こんなに立派な物は絶対に出来なかった。

 主に俺のプロデュース力が不足しているのだが。
 泉の知識に加えて、王都の勇者連中が出してくれた案やスケッチなども大いに活用されている。

 するとふいに宝珠が鳴った。

 鳴るというのはおかしいのだが、そいつを持っていると波動でわかるというか。

 光もしないし音も振動も出さないのだが、はっきりとわかる。
 収納に入れてしまうと何も感じないので受信ができない。

 相手は国護師匠からだ。もう子機も最後の一個だったので彼に渡しておいたのだ。

 今みたいに泉がこっちへ来てしまっている時だと王都の人と連絡が取れないし、彼は信頼できて勇者部隊の中心となる人物で、王様とも自由に連絡が取れる立ち位置だから。

「おや、どうしました」
「いや、高山の山車の出来具合が気になってな」

「あっはっは、師匠も入れ込んでますねえ」

「おうよ、子供の頃に乗せてもらったあれが忘れられなくてな。
 あとラーメンの試作品の試食もしてもらいたい」

「え、もうラーメン作っちゃったんですか」

「いや、まだまだほんの基本的な物だがな。
 やはり本格醤油が手に入ったのは大きい。
 それ以外の部分はとっくにできておったのだ」

「な、なるほど!
 じゃあ迎えを寄越しますわ」
「頼んだぞ」

 どうやら本日のお昼御飯は懐かしい高山ラーメンになりそうな按排だ。

 あれは、うちの近所のスーパーでもフェアなんかでも値段高めの箱入り商品がよく売っていたんだよねえ。

 岐阜方面にあるメーカーからの通常品の安い品も、愛知県あたりではどこへ行っても常時置いてある馴染みの深いラーメンだし。

 そのあたりの品揃えは東京や大阪には負けないだろう。

 それは小規模メーカーが運賃を考えれば当然の事なのだから。

 だからこそ、高山ラーメンは名古屋の勇者の心を慰めるのにはぴったりのチョイスなのだ。
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