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第四章 大精霊を求めて

4-6 山車の利いた世界

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 泉が結構乗り気なので、引き続き山車製作にも力を注ぐ事になった。

 我が眷属達の努力と献身により、アルフェイム・アイクル家本宮の建物も見事なくらいに立派で見るからに頑丈そうな大型山荘風の佇まいを見せていたので、安心してこっちの作業にかかれる。

 今は王都から派遣されてきたプロの職人さん達が内装工事に励んでおり、新郎新婦の実家謹製の立派な据え付け設備や絨毯に壁材、調度の据え付けなどが進められている。

 これでなんとか、王都からお輿入りされる花嫁を迎え入れる準備は整いそうだ。

「ねえ、こいつのテーマは何にするー?」

「ああ、どうしようかなあ。あまり奇天烈なものにしてもなんだし」

 またカイザからお小言を食らうのも嫌だしなあ。

 そもそも、この神輿や山車なんかの日本的な文化自体が、この世界ではすでにアレで奇天烈なのだ。

 だがまあ、これらは勇者の国の風習で、故郷に帰る事のできない勇者の心を慰められる物であるため、対魔王戦には大変有効かつ不可欠な行事であるともいえるし、勇者召喚の地であるアルフェイムにとって、これほどピッタリな行事もないと言えなくもないのだ。

 いつの世も召喚勇者が常駐する王都にも是非伝えたい文化ではあるな。

 まあ山車だしだけに、この世界にとっては味噌汁の出汁みたいなもんだと思っておけばいいんじゃないのだろうか。

 味噌汁は良い出汁を使うと、やはり美味い。

 早く様々な海産物を手に入れたいのだが、他にもやる事が結構あるので、なかなか探索が進まない。

「じゃあさー、他のみんなも集めて王都で会議しようよ」

「それもいいかな」

 という訳で、俺と泉は王都までマッハ十三のアベック飛行で王都の空へと向かった。

 もうたかだか八百キロ先まで行くのに使うスキルじゃあなくなってきたな。

 俺なんか、宇宙服でも作って飛んだら月まで行けそうだ。

 この俺の持つ飛空のスキルは、風使いのザムザ譲りのスキルなのだが、それは単なる風の魔法ではなく純粋魔力の力により飛んだり、あるいはへたをすると重力場飛行をしたりしているのかもしれない。

 不思議な事に大気圏を抜けた宇宙空間でも使えたからな。
 いつか泉と一緒に行ってみたいもんだ。

 現地の月面に何かのスキルで日本の国旗でも描いてやるのも面白い。

 別にここの衛星二個が日本の領土だと宣言するわけではない。

 いつかまた後世に召喚されてきた勇者が空の月を見上げると、故郷日本の国旗が見える。

 それだけで彼らにとって少しは生きる希望も湧いてくるかもしれないじゃないか。

 あの初めて異世界へやってきてしまった心細さは身に沁みているのだ。

 それを描いたのが荒城に置き去りにされたハズレ勇者だと世界に伝えておけば、もうハズレ勇者だからといってむやみに城に置き去りにされる奴もいなくなるかもしれないしな。

 とりあえず山車に関しては国護師匠に相談してみたが、なんと彼は山車にえらく拘りがあったようだ。

「俺は子供の頃は高山に住んでいてなあ。
 あそこの祭りは山車が凄かった。
 一穂、山車は立派な二階建てで頼むぞ」

「高層建築ですか。
 なるべく頑張りましょう。

 まあ新領主を乗せて村で御披露目をするものですからねえ、立派な物の方がいいのかもしれないし」

 生憎な事にせっかくの新領主も村人から見れば御馴染み過ぎる顔で、人材的なフレッシュさには欠けるのだが。

 山車は少々大きくても、フォミオとゲンダスがいるので製作する時も実際に引く時もそう困る事はないのだ。

 だが意外なところから物言いが付いた。
 なんと、話を小耳に挟んだお局様の姐御からだ。

「一穂君。
 ここはやはり『長崎くんち』でよく使われるような船型で行くべきじゃないでしょうか。
 あれはド派手でいいわよ~」

「えー、ここには海もないのに?
 あそこは海沿いの土地だから船なんでしょうに」

「乗物という事で子供達が喜びますよ。
 あれは人が大勢乗れるタイプですから、少し大型にすれば非常に勇壮な物になりますしね」

 うーむ、俺のウイークポイントである子供をだしに使ってきたか、まあ山車だけに。

「いやいや高山祭りは凄いぞ。
 高山の街自体が江戸時代にタイムスリップしたようだと、よく記事などにも書かれているな。

 それに高山は日頃から外国人にも非常に人気が高いのが特徴の有名観光地なのだから」

「それを言うなら、長崎なんか最初から中国・ベトナム・ポルトガル・オランダと外国情緒に満ち溢れていますって」

「うむ、そういや出島なんかもあった土地だな。
 長崎カステラなんかは有名なのだし」

 だが何故かやってきて混ざる、斎藤さんも強気な意見だった。

「青森のねぶたも忘れないでよ。
 あれも大きな山車が使われるし、超メジャーな祭りじゃないの。
 外国からの観光客も多いわ。

 何しろ元々はあまりビジネスが盛んとは言い難い地域だから日頃はそこまで訪問する人がいない土地なので、客室数から考えると祭りの期間中はホテルなんかを取るのも大変になるくらいの超大盛況なんじゃないのかしら」

「御神輿なんかが盛んな祭りといえば、やっぱり東京神田じゃない?
 喧嘩神輿なんか勇壮でいいじゃないの。
 異世界にはぴったりよ」

「博多祇園山笠など」

「それを言うなら、本場の祇園を忘れちゃ駄目なんじゃあないかな。
 あれは綺麗よ~。

 煌びやか、雅とはまさにあの事。
 あれも凄く人でいっぱいだしねえ。

 ただでさえ国内外から人気の京都に、外国人も狙って観光に来るものだし」

 他の勇者も集まってきて段々と収拾がつかなくなってきたので、主催者として強引に決定する事にした。あまり時間がないんだからね。

「よし、ここは本来の勇者である陽彩選人、お前の意見を重視しようじゃないか」

 皆が騒ぐ中、ペットボトルの日本茶を飲みながら、いつもの如く地味にボーっと傍観しながら背景に溶け込んでいた陽彩選人が、いきなり自分に矛先が向いたので茶を吹いた。

「え、なんで僕が」

「そんな物は決まっているじゃないか。
 本来ならば、この世界へはお前一人が来る予定だったんだぞ。

 王国がもし勇者の心を慰めるために祭りを開いて山車を作るというなら、お前の意見を通すのに決まっているのだから」

 それはまったくの正論なのであったが、奴も困ったとみえて、しばし考えた後ににっこりと気弱そうな笑顔を見せて、このような提案をしてきた。

「じゃあ、たくさん乗れそうな長崎の船タイプと、勇壮な高山タイプでどうでしょう。

 祇園の物は見た事ありますが、あれはかなり細工が細かいのですぐ作れませんよ。

 ねぶたも結構独特ですしね。
 今年は外国人というか、王国人にも結構受けが良さそうな、高山や長崎タイプにしておいて、後の物は来年以降にやるという事でどうでしょう」

 ふ、こいつめ。
 師匠と姐御に気を回すとは成長したな、というか気の弱い奴なのでどちらかを敵に回す愚を避けたか。

 いつも特にこの二人には世話になっているみたいだからな。

 同じくお世話係の泉はどれに決まっても大いに楽しむ気満々なんだし、気のいい奴だから特に陽彩が気を回す必要はない人間なのだ。

「よおーし、勇者様の決定だあ。
 今年はそれで行くとするか。
 でもみんな、結構祭りに拘るね」

「そりゃあ、当り前よ。
 もう行きたくても行けない日本の有名祭りの数々。

 ならば、己達の力で実施すべし。
 祭りの食い物も力を入れるわよ」

 そういう事だったか、まあそれも悪くないよな。
 そして、いいタイミングで朗報があるのだ。
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