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第三章 時を埋める季節

3-54 お見送り

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「まあ、全員なるべく死なないように頑張れ。
 あ、こいつももう少し分けておこう。

 こっちは補充が効くから遠慮なく持っていけ」

 そして、エリクサーと各種ポーションを全員に渡していった。

 魔法使いには、これまた魔力回復薬をこれでもかというほどバッグ単位で渡しておいた。

 こいつはマーリン師から手に入れた超特級品の奴で、例によって簡単には手に入る品ではないのだが、俺は二つ返事でいただけたりする。

 コネっていうのは誠にいいもんだ。
 こういう物は、地球のサラリーマン時代から凄く大事にしてきたものなのだ。

「できたら、もし大物とやりあうような機会があったら、どれくらいやりあえたか教えてくれ。

 まああんまり無理をすると、またエリクサーの御世話になる破目になって命懸けで敗走しなくちゃいけない事になりかねないから、歯が立たないと思ったら諦めて逃げておいてくれ」

「うーん、これだけ貴重なアイテムを大量に貰っておいて言いにくいんだけど、あまり強力な魔物とやりあうのは気が進まないわねえ。

 もう本当に怖いよ。
 君、よくあんなのと戦えるよね」

 そいつには関しては俺もまったく同感だ。

 まさか、ここまであいつらとやりあう羽目になるなんて、あの村にだけいた時代には思いもしなかった。

 何しろ、あいつらの方から村にまで攻めてくるわ、俺の遊び場を次々と襲撃してくるわで、こっちとしても戦わざるを得ないのだ。

 何故か魔人・魔獣のコレクションがどんどん増えていく。

 しかもそいつらも万倍化するから、もはや俺自身が第二魔王軍と言われても、おかしくないほどの数がいる。

 メンバー全員が元魔王軍の大幹部なんだしな。

 最終的には魔王以外の魔王軍すべてを、うちの軍勢が数だけで圧倒できるのではないのだろうか。

 もっとも魔王だけは絶対に侮れねえ。

 俺と似たような能力を持っているとか言ったって、長く生きている分は向こうの方が俺なんかよりも数枚上手のはずだ。

「いや、最初は向こうから来ちまったし、眷属ができたら指揮しているだけの事も多いしな。

 あと強い防御系のスキル持ちなのも大きい。
 さすがに生身じゃ戦えない。

 だが、それも絶対じゃないから危険は冒せない。
 今回の探索でそれがよくわかったのは有意義な事さ。

 それに佳人ちゃんみたいな力を持った敵と出会ったら、迂闊に攻撃を食らうといくら俺でもヤバイ」

 絶対防御という名のスキルのくせに絶対じゃないなんて詐欺だ。

 だがこれがあって助かっているのは確かなのだ。

 使用者を強力に保護する高性能パッケージ・スキルの飛空と合わせたとはいえ、大気圏突入にさえ楽々耐えた代物なのだから。

 あれが出来なかったら間に合わなくて泉達も全滅していたかもしれない。

 時間が経っていたら勇者達の体を構成していた物質が拡散してしまって、おそらくエリクサーも意味をなさなかっただろう。

 そんな事にならなくて本当によかった。

 そうでなかったら、斎藤さんと佳人ちゃんが出会ってわかりあえる、今回のようなイベントだって起きなかっただろうから。

 そして、翌朝には皆で宗篤姉妹を街の端まで見送りに行った。

 忙しいギルマス(また机にミスリルで繋がれている)に代わり、サブマスのジョナサンがわざわざ見送りに来てくれた。

 また、うちのSランクどももついてきてくれていた。
 もう彼女達もビトーのSランク冒険者という仲間なのだからな。

「お前達姉妹、何か問題があればビトーまで戻って来い。

 どこの王国とて、このご時世に我ら冒険者ギルドにはへたに文句は付けられん。

 特にうちの王国はギルマスであるドレイクの大将に大変な負い目があるからな。

 それにはぐれ勇者など、うちのような辺境のギルドはいつでも大歓迎だぞ」

 パウルはいかにもリーダー然とした感じで頼もしく笑い、他の連中もそれに準じている。

 パウルは、おそらく次のギルマスに目されているのだろう。

 だからギルマス代理のような仕事を普通に任されるのだ。

 確かにこいつは、いつでもギルマスを務められる器の人間だろう。

「すみません、私達のように普段いない人間の見送りのために冒険者ギルドから御足労いただきまして。

 そして身分証になる冒険者証、ありがたく使わせていただきます」

「いいの、いいの。どうせ、そこのハズレ勇者君だって普段はここにいないのだし」

「ああもう、ジョナサンったら、今回は俺達も大枚稼いできたじゃないですか。

 そいつは言いっこなしだよ、サブマス」

「はっはっは。何よりも所属メンバーに勇者が三人もいるというだけで我々辺境のギルドとしましては、気分が違う物なのですよ。

 しかも、こんな可愛らしいお嬢さん方だとは、実に華やかでよろしい。じゃあ体に気を付けていってらっしゃい」

 そのように新たに所属した組織の副長様から、まるで愛娘を旅行に送り出すお父さんのように優しく言われて、佳人ちゃんは凄く嬉しそうだった。

 心の父誕生か。

「じゃあ、二人とも気を付けて行っておいで。
 無理はするんじゃないぞ。

 無理をしないといけない時は、そこのハズレ勇者を遠慮なく呼ぶのだ。

 そいつなら殺しても死にはせんよ。
 わっはっは」

 豪快に笑う国護師匠も気分晴れやかといった感じだ。
 ずっと彼の心を曇らせていた暗雲の一つは永遠に去ったのだ。

「ひでえな、師匠。言う事が、うちの会社の低血圧課長とまったく同じじゃねえか」

「ふふ、懐かしいな、麦野さんの会社の皆さん」

 采女ちゃんは懐かしい、かつて日本にて自分を可愛がってくれた彼らの顔を思い浮かべているようだった。

 思わず俺も思い出してしまって、懐かしくてなんとも言えない気持ちになった。

「じゃあ、行ってきます、皆さん」

「おう、向こうに着いたら一回様子を教えてくれ。独裁者の国らしいから、くれぐれも油断しないようにな」

「うん、わかった」
 そして佳人ちゃんもお別れの言葉を、あの人に。

「ありがとう、皆さん。
 斎藤さん、さようなら。いってきます」

「ああ、いっておいで。気をつけてね」

 そして、そのような姉のような気遣いに送られて、姉妹は晴れやかに飛び立った。

 見送る俺達の顔も、本日の雲一つない蒼天に負けず明るい。

 鉱石のお蔭か、彼女達が蒼穹を切り裂く速度は、やはりいつもよりも速い気がする。

 スキルだけに、そういう事には気分もあるのかもしれないから、彼女達を気持ちよく送り出してやれて本当によかった。

「さて、我々もお暇するか。
 あまり王都を開けていても、またあの将軍が煩いぞ。

 一穂、例の飛行馬車を出してくれ」

「了解!」

 こうして、あの二人の心の蟠りは消え、少数といえどもまた王都の勇者達と心を通わせられる事になった。

 しかし、あのゴミ将軍野郎はいつか必ず俺が締める!
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