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第三章 時を埋める季節

3-52 同じベッドの中の貉(仲良く二日酔い中)

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「あいたたた、頭が痛いよお。死ぬう」

「こら、そこの小娘、お願いだから大きな声を出さないで。

 頭に響くからあ。ぐふう。

 一体どれだけぶりだったかなあ、ここまでやっちゃうのは」

 激しい二日酔いで呻き続ける二人、斎藤友香と宗篤佳人は同じベッドに放り込まれていた。

 いつでも使えるように洗面器をベッド脇の台に置いた、二日酔い患者には素敵過ぎる環境で呻き続ける二人の傍で看病していた宗篤采女は、エリクサーの小瓶を二本の指で挟んでぶらぶらさせながら訊いていた。

「要る? 虹色のよく効く奴」

「要らんわあ、そんな死者蘇生薬は。

 ぐっわああ、思いだした。
 あのムシケラに無様に焼き殺された時の事を。

 ああああ」

「うう、参考までにどんな気持ちだった?

 この先の戦いの中で、そのうちに御世話になるかもしれないんだし」

「う! 何て言ったらいいのかな。

 こんな風に、『畜生殺せえ』みたいな気分でプルプルと震えながら復活する感じなのかなあ。

 セーフティな場所で復活できないと、またすぐ殺されそうな恐怖と戦いながら、体が言う事をきくようになるまで頑張るの。

 それはもう最悪な気分よ。
 この前はマジでそのパターンだった。

 戦場のど真ん中で死体すら蒸発していた状態からの復活だったもんなあ。

 あたしなんか、目の前にあのでかい虫がそそり立っていた超最悪なポジションで再生が始まったのよ。

 あれは勘弁してほしいわ、もう」

「うわあ、今聞くんじゃなかった。
 お姉ちゃん、あたしもそいつはパスの方向で!

 なんで姉妹なのにお姉ちゃんだけ平気なの、あたしらよりも前から飲んでたよね!」

「うーん、年季?
 きっと飲み方が上手いんじゃないのかな。

 あたしはホラ、テキーラをビールジョッキで一気飲みなんて馬鹿な真似はしないしね~」

「ぐうう、今お酒の話をするのはやめてえ。
 もう一生お酒なんか飲まないわあ」

「畜生、殺せー」

 そして采女ちゃんは、わざと顎に手をやって神妙な顔つきで言ってみた。

「そうね、いっそ一旦殺して蘇生させた方が、もしかしたら回復も早いのかしらね。

 ねえ、ちょっと試してみる?」

「鬼ー!」
「あんたって人は、我が姉ながら……ううっ、うええ、吐きそう」

「ほれほれ我慢しなくていいから」と洗面器を差し出した姉を、口元を押さえつつ自由なもう片方の腕で必死に追い払う妹。

 采女ちゃんは続けて反対側の二日酔い患者の方も少し弄っていた。

 どうやら同じベッドに放り込んだ作戦が功を奏したようだ、と若干邪悪な物を含んだ感じの満面の笑みを浮かべる姉。

 そして、部屋の外から少しドアを開けて様子を見ていた俺達だったのだが、チョイチョイと手招きしながら近寄って来た宗篤采女とドア付近で小声の会話をした。

「どう、あの二人は」

「うんまあ、多分もう大丈夫なんじゃないかな。
 青山さん、本当にありがとう。

 一穂さんやその他の人達も大変御世話様でした。

 これで、うちの子も斎藤さんも、ずっとわだかまっていた思いが晴れたと思います」

「ああいや、もうこの際だしねえ。
 でもみんなで一穂の事ディスりまくりだったんで笑ったわあ。

 なんだかんだ言って、こいつが一番反則だもの。
 この一穂が王都にいないっていう段階でもうね。

 文句を言いたくなる人がいるのもわかるわあ。
 でも、あの時は王様が置いてくって言って誰も助けなかったからね。

 一穂もよく発狂して魔王化しなかったもんだわ」

「確かにねえ。

 しかし辺境の村に住んでいて、ビトーの街の冒険者で、八百キロ先の王都の彼女と遠恋中なんだもんね」

「まあ通信はできるし、呼べば文字通り飛んで来てくれるし、こっちからも飛んでいけるし」

「いいよね、お互いに飛空スキルがあって」
「たまたまなんだけどねえ」

「あたしも飛空スキルはあるけど、お尋ね者だから恋愛どころじゃないわ。
 早く日本に帰って恋人でも作らなくっちゃ」

「そうね。
 帰還路の探索、頑張ってね。

 あたしらはすぐ王様に呼ばれちゃうから、手伝いたいけど、さすがにどうしようもないわ。

 一穂は何かにつけ動けるんじゃないかと思うけど、あいつがいないとまた魔王軍の幹部とか攻めてきた時が怖いしね」

「あはは、とりあえず次の手掛かりを見つけたから、そっちを捜しに行くわ」

「うん、頼んだわよ~」

 それからまだ青い顔をしつつも、斎藤さんは晴れやかな顔で隣にいる同病の住人に向かって話し出した。

「あたしね、あなたの事ずっと気がかりだったの。
 あの時、あなた達が出て行く前に話したかった。

 謝りたかったんだ。

 でもあなた達は出て行っちゃったし、会えない内に王都の魔獣に殺されて。

 復活してから思ったのよ。
 ああ、あの時あなたに謝れないうちに死んでしまったら、絶対に心残りだったろうなって」

「斎藤さん……」

「国護のおっさんに相談したらさ、そういう自分の気持ちがはっきりわかっただけでもいいって。

 今度会ったら謝ればいいじゃないかって言ってくれて、気持ちが少し楽になったわ。

 でもこうして実際に会うと、なかなか言い出せなくてね。

 いや、采女ちゃんには本当に参ったなあ、あははは」

「ううん、いろいろ言ってくれてありがとう。

 でもやっぱり日本に帰りたいから帰り道を捜しに行くわ。

 そして、ついでがあったら魔人なんかも片付けておく。

 戦うわ、あたしも。
 きっと一穂さんも一緒に戦ってくれると思うし。

 帰り道を見つけたら、みんなを呼びに行くね。

 一緒に帰ろうよ、だから絶対に死んじゃ駄目だよ」

「ああ、死んだって生き返らせられてまた戦う羽目になる世界だもんなあ。

 まあ戦う相手が人間じゃないだけ気が楽ってもんよ」

「そうだね。さすがに人間相手は無理かなあ」

 こうして、二人の勇者は仲直りが出来たのであった。

 二日酔いまで仲良く共有しながら。
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