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第三章 時を埋める季節

3-36 大精霊の使者

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 そいつは確かにドラゴンだった。

 だがこいつは何か違和感がある。なんというか、あまり魔物っぽくない感じで、目には妙な知性というか人懐っこさのような物を感じる。

 あの魔物穴から出てきた魔物達のような異質さがまったくない。

 道中襲ってきた魔物達も、あの魔王に惹かれ魔王軍へ集結していこうとしていた連中のような狂おしさのようなものはなくて、作り物のハリボテというかロボットのようなリモコン感が感じられた。

 はっきり言って、こいつも格好だけ、ポーズだけの敵意だな。ならば訊いてみるか。

「お前は何者だ」
「訊いて答えるとでも思ったのか」

「お、喋れるんだな、お前」
「あ、しまった。ノームに、地が出るから喋るなって言われていたのに」

 なんか、えらいチョロゴン来た!

「それでお前が俺の御迎えなのか?」

「そうだ。ただし、この古代竜ボギー様を倒せたならな。そして、お前の眷属を使ってはならん。お前一人が戦え。勇者の力を見せてみよ」

「あ、そう」
 なんか陽気そうな名前の奴が来たもんだ。

 ボギーっていうのは確か悪戯者の精霊か、トロルの親戚みたいな奴じゃなかっただろうか。

 ノームめ、もうちょっと雰囲気って物を考えろよな。

 これがまた西洋ファンタジーの表紙にでも書かれていそうなドラゴン丸出しって感じの凶悪なスタイルなのだが、自分で吐いた大時代な台詞に思わず我慢しきれずに目が笑っていやがるし、確かに喋らせたら雰囲気台無しって感じの奴だ。

「ああ、お前ら。ちょっと下がっててくれ。すぐに済ますから。

 あ、ザムザども、全員を絶対防御で守れ。凄まじい衝撃波なんかで空気が揺らいで呼吸ができなくなるといけないから、飛空スキルのように気圧なんかも含めて全般的に調整してくれ」

「「「「主よ、承った」」」」

 そしてパウルも満足そうに笑顔で指示を出す。

「わかった。ここは一つ勇者様のお手並み拝見といくか。皆もこの場に待機で」

 そして、俺はそいつの方へ振り返って訊いてみた。

「念のために訊いておくが、お前は倒しても蘇る事はできるのか?」

「この大精霊の結界の中で倒されたならね。その前に本当にお前が私を倒せるのならという条件がつくが」

「そいつはよかった。エリクサーの効果で、果たしてお前みたいな奴を復活させられるのか自信がなくてな」

 それから、俺はそいつの方へ向き直り、ザムザ魔核の力で飛んで行った。

 そのままそいつをかすめるように通り過ぎて、パーティから場を離すために奴を引き連れてもう少し距離を取る。

 ここは広くて助かるな。まあ力試しというのなら、こんなものだろう。

 俺は自分もそいつからもう少し距離を取って拳銃を抜いた。

『俺の力』が見たいというのであれば、こっちの方がお好みだろう。

 もちろん安全装置はかかっていないすぐ撃てる、その拳銃を二丁両手に握った。

 そして、ザムザ・ブーストで撃ち込んだ。

 ちっぽけな弾だが、ザムザ魔核百連発を使用しているため、その威力は特殊鋼で作られた重戦車の全面装甲でも楽々一発で打ち砕けるはずだ。

 へたをすると昔の厚さ数十センチはあるような戦艦の装甲外板でも楽々大穴を開けて貫通するのではないか。

 まだ最大ブーストではないが、命中した奴の左右に長く広げた勇壮な羽根に大きな穴がいくつも開いたので、絶対防御のような力は持っていないようだ。

「やるなあ、ハズレ勇者さん。じゃあ、今度はこっちからお返しね」

 今度は火焔樹どころではなく、あの熱線砲のようなミールのブレスとは性質が違うが、火炎放射器のような感じに強烈過ぎる炎の舌がシューっという感じに俺に伸びてきた。

 ファンタジー映画の中でドラゴンが吹くような感じのアレだな。

 予想通り、やはり俺には楽々耐えられるものだった。
 いかにもドラゴン風のブレス攻撃だ。

 向こうも多分本気じゃあるまい。穴の開いたはずの奴の翅はとっくに再生している。

 こいつも大精霊の手下だけあって魔王軍の強力魔獣クラスの力は持っているんだな。
 ならば遠慮はいらんか。

 このノームのテリトリーでなら再生力も強くなっているんだろうから、むしろ本気過ぎる力を見せないと倒せないだろう。

 そしてザムザ魔核百連装の全力ブーストで二丁から一撃をくれた。

 奴はど真ん中でそれをあえて受け止め、どてっぱらに大穴を開けてみせた。あれで痛くないのか?

「ほお、やるもんだ。この結界の外なら倒されていたかもねー」

 そして奴は渾身のブレスを吐き、そして仕方がないのでザムザの防御を最大で受ける俺。

 もはやこれはプロレス、相手の技は必ず受けて全部受け切らないと駄目って奴なのかあ。

 次に俺が受けるターンは相当キツくなりそうだし、ここらで決めるとしますか。

 俺は銃を薬室まで弾丸で満タンにした銃に持ち替えた。

「じゃあな、また後で会おうぜ、チョロゴン。スキル本日一粒万倍日、射撃分全弾の威力を万倍化せよ」

 そして二丁の拳銃から発射された、出力最大に強化された百倍ザムザ・ブーストのかかった数十発の銃弾全ての威力を万倍化して、奴のど真ん中に叩き込んだ。

 俺の本気はスキルにそのまま反映されていく。

 もちろん、奴も逃げたりはしないので、どうやっても外しようのないただのでかい的だった。

 もはや白熱した光となって吸い込まれていった弾丸の軌跡は、眩しい幾重ものシュプールとなって奴に突入していき、野郎を粉々に砕いていった。

 風のブーストにより導かれて全弾命中し、着弾で激しく閃光と化し、そのまるで表面に無数に起こった地割れが内部から光を放っていくかのような感じに、奴は体全体がひび割れていったのだ。

 全てが吹き飛び、そして後には散らばった残骸だけが残された。

「さて、さっさと出て来いよ。
 そこまでやっても、ここでなら楽々復活できるんだろう?

 ノームのところまで、とっとと案内してもらおうか!」

 だが、しばし待っても一向に静寂は破られなかった。

「あれ?」

 一向に復活してこない使者のドラゴンに皆も業を煮やした。

「おい、カズホ。
 ちょっとやり過ぎたんじゃないのか。

 本当に死んで消えて無くなったんじゃないのか、そいつ」

「せっかくの御迎えを跡形もなくしてどうする」

「なんだ、それは。へたな大魔法なんかよりもよほど威力があるぞ」

「呆れたわねー。本当にあれだけぶち込む必要があったの?」

「えーと、そこのハズレ。この後どうするつもりなのですか」

 あれ、なんだか俺の評判が悪いぞ、あれだけの怪物を単独で撃破したというのに。

「え、そんな事を言われてもだな。
 あー、使者だけに死者になったでしょう? 

 えー、どうしようか。こいつは弱ったな。
 しかたがねえ、次の奴を呼ぶか。

 あるいは、もう今日の分のスキルは使っちまったからそれは明日にするか、どうせ次の御迎えも勝負をしないといけない奴なのに違いない」

 だが、困って空中で頭をかいていた俺に、エレは空中から微笑みを携えたまま示唆した。

「奴なら、まだそこにいるさ」

 言われて指差された場所に目をやったら、なんと戦闘の余波でグズグズになった地面に半ば埋もれてしまっていた巨大な魔核があった。

 かなり土を被っていたので気が付かなかったな。ミールの物よりも些か大きいので、こいつはミールよりも格上なのかな。

 色も白銀の輝きを放ち、時折は黄金の筋が煌いているそれは魔獣の魔核とは明らかに一線を画していた。

 いや、人間サイズの魔人なんかだと魔核は小さくても力は強いし、その辺はどうなのだろうか。

「おい、何をやっているんだ。早く復活してノームのところまで案内しろよ、このチョロゴンめ」

「ちょっと待って。今の攻撃はかなり強烈だったから、まだ体が痺れているんだ。こういう時は普通一発だろうが、何故あそこまで撃った!?」

「だって俺のスキル、一日一回しか使えないんだぜ。半端な攻撃をして、またお前が立ち上がってきたら面倒でしょうがないだろうに」

「やれやれ、これだからハズレ勇者という人種は。魔王にまでなった奴もいたしなあ」

「魔王を知っているのか?」
「ああ、会った事もあるが」

「どんな奴だった?」
「うん? まあ普通にいい奴だったよ」

 これは新証言が出ちまったなあ。

 というか、魔王に会ったという奴はこいつが初めてだし。
 これだから噂は信用できねえ。

 だが、今あいつは魔王軍を率いて人間と戦っているのだ。
 魔人の王をいきなり信用するほど俺も馬鹿じゃない。

 魔王に関しては、また違う情報を待つか。

「ねえ、そこのハズレ! 早く宝物庫に行きたいんだけど」

「カズホ、バーゲン~」

 もう女どもと来た日には。
 せっかく人が魔王について感慨深く思いに耽っていたというのに。

 あいつはハズレ勇者だったって話だからな。
 俺だって、魔王の事は気になるんだよ。
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