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第三章 時を埋める季節
3-28 静かなるゴール
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「なんだか、不気味だな」
「ああ、なんともいえん、この静けさがな」
リーダーとサブリーダーがそのような会話をしているのを尻目に、ザムザ101はマルータ号を静かに、そして快適に飛ばしていた。
今は通常のザムザ・ナンバーズは護衛任務についているため、運転業務は三桁ナンバーズに委託してある。
昨日とは打って変わって、ダンジョン三日目の本日は快進撃であった。まあ、進撃していてもゴールに近づいているとは限らないのだが。
今日の罠は、進んでいると見せかけて、その実は元来た方向へと心理的な要因で誘導されているとかでも全然おかしくない状況だ。
まあそれを言ったらお終いなので、広いのもあって俺達一行は、本日マルータ号を出して進んでいたのだ。
「いや、ノームもどういうつもりなのかねえ。見ろよ、どこまでいっても広いままで、このマルータ号から降りなくて済むんだぜ。絶対に何かある」
「いやだって、私は約定を結んだ王家の王女なんですのよ、大精霊ノームにもやっとそれがわかっていただけたのではないかと」
「アホ!」
俺は短く、安易な考えを口にし出したナナの台詞をぶった切った。
こいつもだいぶ心が弱ってきているとみえる。俺なんかは、「ようやく仕事が始まる頃合いかな、ここからが勝負だぜ」と心身共にアップを開始しているモードなんだが。
なんていうのかな、資料作成で徹夜明けに身支度を整えて地下鉄に乗り、ようやくクライアントの待つプレゼン会場入りしたっていう、あの感じなのだ。
「そうよ、お姫様。今までの奴の狼藉を忘れたのですか?
あの手の者が人とは違う存在だという事を忘れてはいけないわ」
「そうそう、はっきり言ってあまり関わり合いになりたくない代物なんだからな」
「俺も前にその手の奴と関わって酷い目にあったぞ。すべてこの筋肉で乗り切ったがなあ」
さすがはSランクだ、乗り切れちゃうところが凄いというか、フランコは今回もそれで乗り切っている気がする。
どちらかというと、この出鱈目なダンジョンでパーティの指揮を執っているパウロの方が疲れた顔をしているくらいだ。Sランクの筋肉冒険者、やっぱりすげえ。
「このマルータ号の中に俺達がいれば、そうそう何事もなく先に進めてしまえるんだぜ。それで終わりなんてはずがあるわけがない」
「それは確かにそうなのだがな、おいザムザ1。何か感じているか」
そのパウルの問いにザムザは意外な答えをもたらした。
「もうすぐ旅は終わる」
「は?」
そいつの主たる俺も一瞬間抜けな声を出してしまった。
だが次の瞬間、前方に信じられないような表示が現れた。
『GOAL』
唐突に現れたその看板のように天井から掲げられたギラギラ光る下品な感じの金色の文字で描かれた表示と、前方の通路から見える明るい出口の光。
「ん? 出口の光だと。あ、待て、ザムザ101。外に出るな!」
だが時すでに遅し。俺達は『ダンジョンの外』に出てしまった。
もともと飛行能力を持っているマルータ号はそのまま優雅に空中を飛行し、後方に三連山をいただく風景の他に、眼下に広がる湖跡も眺められたのだが、それらは間違いなく見覚えの有るダンジョン外に広がる地形だった。
「振り出しに……戻った?」
「おい、外へ出ちまったのか。そいつばかりは洒落にならねえぞ」
「あー、このハズレ勇者ったら何をしてるんですのー、早く戻りなさいな!」
「どこへ?」
「どこへって、あなた」
ザムザ101はすでにマルーク号が出てきた三連山斜面にあったはずの開口部を捜索していたが、もちろん見つかるはずもなく、マルーク号はピタリと空中へと制止した。
「主よ、我々はそこの場所から外へと導きだされたが、今は御覧の通り出口は塞がれている」
「ここで間違いないかい」
「我の感覚には絶対に間違いない」
「だろうなあ」
今まで、散々ザムザのこの手の能力については聞かされてきたので、今更疑いようもない。
「だってよ、リーダー」
「そうか」
「うーむ、どうするかね」
フランコも唸ってしまった。
何せ、ここのダンジョンは入り組んでいるのだが、ほぼ一本道しか通らせてもらえない。
まあダミーの道へ入り込んだ可能性は捨てきれないが、ナナはもう半泣きだったし俺も頭を抱えてしまったが、仕方がないので可愛いガイドさんに訊いてみた。
「エレ、俺達は何を間違えた」
皆も、俺とエレのやり取りに耳を傾けるしかできなかった。
「いや、何も間違えてなんかいないさ。ただ、途中から道の方が外に向けて繋がっただけでさ」
「なにい、それはどういう事だ」
「ここは大精霊ノームの居城でもあるのだから、王の機嫌は損ねちゃ駄目だね。
だって、せっかくのダンジョンなのに歩いて冒険しなくて、こんな物に乗っていくなんてさ。その風情の無さにノームが拗ねちゃったんじゃないの?
道がずっと広くなっていたのは君達の冒険者としての心根を試す罠なのだろうさ。結果は当然の事ながら不合格だね」
「うわあ、そんな事までは知らないぜ~。頼むよ、エレ。なんとかならないか」
「じゃあ、カズホ。交渉はしてあげるから、大人しくチョコの山を出しな」
「へーい」
俺がマルータ号の真ん中にまたチョコの山を築いたので、皆が驚いていた。
「おい、カズホ。どうなっている、お前の精霊は何と言ったんだ」
「こういう物でズルをしちゃあ駄目なんだってさ。風情がないからって、ノームの機嫌を損ねたらしい。このダンジョンにルールなどはない。強いて言うのであれば……」
「「「この俺ノーム様がルールブック!?」」」
「まあ、わかりやすく言えばそんなところかな」
そして、俺達はまたチョコの山がもりもりと減っていくのを見ながら、茫然とエレとここの精霊達の交渉が終わるのを待っていた。
「ああ、なんともいえん、この静けさがな」
リーダーとサブリーダーがそのような会話をしているのを尻目に、ザムザ101はマルータ号を静かに、そして快適に飛ばしていた。
今は通常のザムザ・ナンバーズは護衛任務についているため、運転業務は三桁ナンバーズに委託してある。
昨日とは打って変わって、ダンジョン三日目の本日は快進撃であった。まあ、進撃していてもゴールに近づいているとは限らないのだが。
今日の罠は、進んでいると見せかけて、その実は元来た方向へと心理的な要因で誘導されているとかでも全然おかしくない状況だ。
まあそれを言ったらお終いなので、広いのもあって俺達一行は、本日マルータ号を出して進んでいたのだ。
「いや、ノームもどういうつもりなのかねえ。見ろよ、どこまでいっても広いままで、このマルータ号から降りなくて済むんだぜ。絶対に何かある」
「いやだって、私は約定を結んだ王家の王女なんですのよ、大精霊ノームにもやっとそれがわかっていただけたのではないかと」
「アホ!」
俺は短く、安易な考えを口にし出したナナの台詞をぶった切った。
こいつもだいぶ心が弱ってきているとみえる。俺なんかは、「ようやく仕事が始まる頃合いかな、ここからが勝負だぜ」と心身共にアップを開始しているモードなんだが。
なんていうのかな、資料作成で徹夜明けに身支度を整えて地下鉄に乗り、ようやくクライアントの待つプレゼン会場入りしたっていう、あの感じなのだ。
「そうよ、お姫様。今までの奴の狼藉を忘れたのですか?
あの手の者が人とは違う存在だという事を忘れてはいけないわ」
「そうそう、はっきり言ってあまり関わり合いになりたくない代物なんだからな」
「俺も前にその手の奴と関わって酷い目にあったぞ。すべてこの筋肉で乗り切ったがなあ」
さすがはSランクだ、乗り切れちゃうところが凄いというか、フランコは今回もそれで乗り切っている気がする。
どちらかというと、この出鱈目なダンジョンでパーティの指揮を執っているパウロの方が疲れた顔をしているくらいだ。Sランクの筋肉冒険者、やっぱりすげえ。
「このマルータ号の中に俺達がいれば、そうそう何事もなく先に進めてしまえるんだぜ。それで終わりなんてはずがあるわけがない」
「それは確かにそうなのだがな、おいザムザ1。何か感じているか」
そのパウルの問いにザムザは意外な答えをもたらした。
「もうすぐ旅は終わる」
「は?」
そいつの主たる俺も一瞬間抜けな声を出してしまった。
だが次の瞬間、前方に信じられないような表示が現れた。
『GOAL』
唐突に現れたその看板のように天井から掲げられたギラギラ光る下品な感じの金色の文字で描かれた表示と、前方の通路から見える明るい出口の光。
「ん? 出口の光だと。あ、待て、ザムザ101。外に出るな!」
だが時すでに遅し。俺達は『ダンジョンの外』に出てしまった。
もともと飛行能力を持っているマルータ号はそのまま優雅に空中を飛行し、後方に三連山をいただく風景の他に、眼下に広がる湖跡も眺められたのだが、それらは間違いなく見覚えの有るダンジョン外に広がる地形だった。
「振り出しに……戻った?」
「おい、外へ出ちまったのか。そいつばかりは洒落にならねえぞ」
「あー、このハズレ勇者ったら何をしてるんですのー、早く戻りなさいな!」
「どこへ?」
「どこへって、あなた」
ザムザ101はすでにマルーク号が出てきた三連山斜面にあったはずの開口部を捜索していたが、もちろん見つかるはずもなく、マルーク号はピタリと空中へと制止した。
「主よ、我々はそこの場所から外へと導きだされたが、今は御覧の通り出口は塞がれている」
「ここで間違いないかい」
「我の感覚には絶対に間違いない」
「だろうなあ」
今まで、散々ザムザのこの手の能力については聞かされてきたので、今更疑いようもない。
「だってよ、リーダー」
「そうか」
「うーむ、どうするかね」
フランコも唸ってしまった。
何せ、ここのダンジョンは入り組んでいるのだが、ほぼ一本道しか通らせてもらえない。
まあダミーの道へ入り込んだ可能性は捨てきれないが、ナナはもう半泣きだったし俺も頭を抱えてしまったが、仕方がないので可愛いガイドさんに訊いてみた。
「エレ、俺達は何を間違えた」
皆も、俺とエレのやり取りに耳を傾けるしかできなかった。
「いや、何も間違えてなんかいないさ。ただ、途中から道の方が外に向けて繋がっただけでさ」
「なにい、それはどういう事だ」
「ここは大精霊ノームの居城でもあるのだから、王の機嫌は損ねちゃ駄目だね。
だって、せっかくのダンジョンなのに歩いて冒険しなくて、こんな物に乗っていくなんてさ。その風情の無さにノームが拗ねちゃったんじゃないの?
道がずっと広くなっていたのは君達の冒険者としての心根を試す罠なのだろうさ。結果は当然の事ながら不合格だね」
「うわあ、そんな事までは知らないぜ~。頼むよ、エレ。なんとかならないか」
「じゃあ、カズホ。交渉はしてあげるから、大人しくチョコの山を出しな」
「へーい」
俺がマルータ号の真ん中にまたチョコの山を築いたので、皆が驚いていた。
「おい、カズホ。どうなっている、お前の精霊は何と言ったんだ」
「こういう物でズルをしちゃあ駄目なんだってさ。風情がないからって、ノームの機嫌を損ねたらしい。このダンジョンにルールなどはない。強いて言うのであれば……」
「「「この俺ノーム様がルールブック!?」」」
「まあ、わかりやすく言えばそんなところかな」
そして、俺達はまたチョコの山がもりもりと減っていくのを見ながら、茫然とエレとここの精霊達の交渉が終わるのを待っていた。
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