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第三章 時を埋める季節

3-24 お宝の正体

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 そしてノームのダンジョン探索の二日目。すでに準備しておいた朝御飯を皆に振る舞って、今日の行程について確認した。

 朝はサラダと、ベーコンのスープ、焼いたハムにパンといった簡便なもので、後はフルーツが付く。今回はショウが見つけてくれた小さめのリンゴだ。これで来年のお祭りはリンゴ飴が提供できる。

「パウル、今日は少し早めに切り上げようよ。昨日はきつかった。これが初ダンジョンになる俺やナナは、あんたらと同じペースじゃついていけないよ。ただでさえ、ここは普通のダンジョンじゃないんだろう?」

「いやしかし、このキャンピング・エア馬車というものは実に快適だ。よく寝たので疲れも残っていないしな、今日は結構いけるんじゃないのか」

「フランコ、昨日はあんたが一番きつかったはずなんだが。やっぱりあんたって、本物の体力馬鹿なんだな」

 だが、カップに入れたスープを飲みながらパウルが笑って俺達のやり取りを手で遮った。

「まあ、カズホ。お前の言う事にも一理あるが、このミッションが期間限定のものだという事は忘れるな。

 今回どこまで行けるのかもわからんし、王国も今回到達できなかった場合に、追加予算をとって探索の続きをするのかどうか。そういう情報もまったくない状態だしな」

「へえ。なあ、お姫様よ、そのあたりはどうなんだ」
 俺は再び、ナナを追求してみた。

 この前ははぐらされたが、探索の方針にまで影響が出る事になったのだから、今日は大人しく吐いて貰おうか。

 俺達の注目を一心に浴びて、ついにナナは観念したように実情について喋り出した。

「う、それについては多分これ一回きりよ。予算の観点から何回も探索はできないの。王都の冒険者ギルドにもできない仕事という話だし、Sランクの精鋭冒険者を雇うとなると、どうしてもこれくらいの高額指名依頼になってしまうわ。

 元々、辿り着けるかどうかもわからない探索なのだし、中にはもうこれだけ放りっぱなしにしておいたので、宝物庫自体が使い物にならないのではないかとまで言う人までいるんだから」

 だが、そこで一呼吸おいた彼女も厳しめの表情で話を続けた。

「でもその物自体は、うちの王国もどうしても欲しいものなの。それは、かつて王国が大精霊に預けた、身に着けた者のスキルの効果を何倍にもしてくれる不思議な力を持つ鉱石なの。

 私もそれがどういう物かよくわからないのだけど、とにかく貴重なもので、今回の勇者に持たせれば王国軍は理論上数倍の力を発揮できるわ。

 貴重品だからサイズはそう大きくはないと思うの。よしんばハズレ勇者の収納に入らなかったとしても、そこの怪力さんか、眷属の魔人が持って帰ってくれれば済むと思うの。問題はそれが果たして見つかるかどうかねー」

「ヒュウ、そいつはすげえや」
 是非とも、そいつは俺も欲しい!

 そのような必殺のアイテムは絶対に万倍化してみせるぜ。そうすれば、もしかして、もしかすると。

「よし、パウル。絶対にそいつは見つけようぜ。そうとなったら、今日も全力で探索だーっ」
「なんだ、急に張り切りだしたな」

「まあ、あたしは反対しないわよ。できれば、ちゃんと後金までいただいて、バーゲンが始まる前に帰りたいし!」

 お、実利一本仲間のシャーリーも張り切ってくれているようだ。頼もしいな、このような訳のわからないようなダンジョンの中では、彼女のような経験豊富な冒険者の力だけが頼りなのだから。

「まあ、俺は賛成だな。どれだけあれば片付くのか、まったく目途の無い仕事なんだ。とりあえずは、前回到達したという地下三十階までは全力で行ってみたい」

 フランコは体力もあり余っているし、サブリーダーとして一応仕事の目途をつけたい考えのようだった。だが、俺は昨日からずっと気になっていた事を訊いてみた。

「ところでさあ、ここの現在地がはっきりとわかる人」
「というと?」

「だって、昨日あれだけ登ってきたじゃんか。俺達って確か地下一階にいたんだよな。なんかおかしくないか?

 それに三十階とか言っているけど、はっきりした階層なんてなかったじゃないか。ここまで何がどうなっているのかさっぱりわからんのだが」

「そうだな、昔の記録では比較的普通のダンジョンのような感じだと思ったのだが、今回は特別対応になっているのかもしれんな」

 俺も収納で土を収納するなどして地下へ潜る、モグラの勇者でもあるからわかるのだが、ああいうのって土台や天井の方を動かしていくと、よくわからなくなる。

 ほら、床屋さんのあのくるくると回っているシンボルマークが上下片方から消えてまるでもう片方から出てくるみたいな感じとか、車で駐車している時に隣の車が予期しない時に急に発進されると、まるで自分が全力でバックしているかのように体感する事があるみたいに凄まじく感覚が狂うのだ。

 すると、歩哨の任務についていたザムザ1が近寄ってきて、このような事をぬけぬけと言ってきたのだ。

「主よ、それは確かにそうなのだが、ここはちゃんと高い場所にあるぞ。我の感覚がそう言っているので間違いない。我は高低や前後左右の間隔を間違える事など決してない。

 大地を走る雷の流れや鉄に影響するような、あの不思議な流れなどもわかる。ここは間違いなく、昨日主たちが汗した分だけ上に上った土地にある」

 それを聞いて、俺達は顔を見合わせた。こいつは本当にその手の探索の能力が高いな。

「それじゃあ納得なんてできないぞ。だって、あの潜りだした地点の付近には、そんな高い場所なんてどこにもなかったじゃないか。じゃあ、ここは一体どこなんだよ」

「そうよ、あのあたりでは高い場所と言ったら目印の三連山くらいのもので。えっ、まさか」
 シャーリーも驚愕したようだ。自分の思いついた考えが彼女の常識を超えていたのだろう。

「いかにも、そなたの言う通り、ここは地精霊が拡張した三連山内部に伸びたダンジョンだ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。それじゃあ、おかしいぜ。俺達は上へ上へと登っていったんだ。だが、実際には真横にあった山の方へ向かってしまっていた事になるぞ!?」

「その通りだ」
 はっきりすっぱりと言い切ったザムザ1。

「あ、まさか」
 シャーリーは優秀な冒険者だ。両親と一緒に各種のダンジョンへ幼い頃から挑んでいたのだ。若くても、ビトーの面子よりダンジョンに関する知識は豊富なのかもしれない。

「私達は『横に上っていた』のね。そうなんでしょう?」

「ご明察だ、歳若き獅子の冒険者よ。主らは、縦に上っているつもりで、実は横に上っていたのだ。そして、山の中を湾曲しながら、また縦に数百メートルも登って行ったのであろう。

 それすらも主らには真っ直ぐ登っているようにしか思えぬのだが、我の知覚は胡麻化せぬ。ここは三連山で一番高い真ん中の山の頂上に近い位置ではないか。

 それなりに天井を砕いていったら、ダンジョンの外に出られるかもしれないが、そうなるとおそらく、もう中に入れてくれないので今までの行程は最初からやり直しだから意味もない。

 ここは大人しく、ダンジョンの正規順路を下るがよかろう」

「がちょーん」
 ちょっと古い表現だけど、これが今の俺の心境を現わすにはピッタリの言葉じゃないかね。

「お前、知っていたなら教えてくれよな」
「特に主より聞かれなかったものでな」

「あ、そう」
 ただ今絶賛、部下とのコミュニケーションの大切さを切実に感じていた俺だった。

「今度から、お前がその方向感覚で何かを感じたら是非教えてくれ」
「ならば、そのように取り計らおう」

 やれやれ、こいつも素で能力は高いんだが、フォミオみたいに気は利かないんだよなあ。
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